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第3237号 2017年8月28日


Medical Library 書評・新刊案内


組織で生きる
管理と倫理のはざまで

勝原 裕美子 著

《評者》 松村 啓史(テルモ株式会社顧問)

一人の人間として,いかに倫理的に振る舞うか

 本書は,社会に生きる人間として守るべき「倫理」という秩序を,組織の「管理」の中でいかに貫くかを看護師,医療者,そして人間と,立場を変えた視点から深く掘り下げています。また,従前,あまり光が当たってこなかった現場での倫理的問題を現実に即して追究しています。取り上げられた数々の事例が頭と心に突き刺さり,的確な課題対応について考えさせてくれます。

 実際に倫理的問題に遭遇しても,安易に判断したり,周囲の空気や過去の事例にとらわれてしまったりして,もともと自分が持っている人間としての倫理観で考えられることが損なわれてしまうことが少なくありません。本書は,看護管理者たちへのインタビューを通して,さまざまな事例を引き出し,医療従事者のそれぞれの立場における倫理的価値観について考察を加えたかたちで構成されており,提示された「Question」などに答えながら読み進むうちに,自然と引き込まれている自分に気が付きます。図表も多く,内容が整理されて読みやすく,読者は読みながら考え,悩み,自己の倫理観を見直す機会とすることができます。

 著者は,看護管理者向けに「管理者の倫理的意思決定」という講義を長く続けてこられた研究者であり,実践者です。本書によって,病院という生死を扱う現場では,いかに適正な倫理を貫く姿勢を保つか,それを個人と組織双方の観点から学ぶことができます。また,職場風土によっては,個人の正義や良心,倫理観といったものにふたをされていく可能性があることを懸念し,“感受性の封印”があってはならないとして警告を発しています。

 さらに,看護管理者のアイデンティティを“個人”“看護師”“組織人”“管理者”の4つに分け,法律や権利,経営,患者ニーズなどの17項目の道徳的要求を持つ局面を解説しつつ,「管理と倫理のはざま」で起こる倫理的問題をどう整理していくかを読者と共に考えます。

 今日,倫理的問題は,病院組織だけでなく,一般企業でも大きな問題となっていますが,なかなか明るみに出ないことのほうが多いのが実情です。発生した小さな事例にふたをしてしまうことで,後々大問題に発展することは少なくありません。著者はインタビューで得た「隠してしまったことのほうが,してしまったことよりも罪が重い」(p.54)という言葉に光を当てています。これは至言であり,命にかかわる仕事に限ったことではありません。

 また,「職業的な専門知識や技術をもつことと,その人の倫理的判断が妥当であるかどうかは関係ない」(p.195)というクーゼの言葉を示し,組織図上の権限と,職種による権限の,二重権限構造という病院ならではの指示命令系統が生まれている実情を浮き彫りにしています。このような医師と他の職種の間で,しばしば起こる医療現場独特の意思決定による倫理的問題が生じないよう注意喚起をしています。

 リーダーが,管理者である前に一人の人間として倫理的に振る舞い,自らがロールモデルとなることを促す名著だと思います。組織に身を置く人なら,必ずと言っていいほど経験する“同じような”事例で,頭の整理をしてみてはどうでしょうか。

四六判・頁328 定価:本体2,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03013-7


シミュレーション教育の効果を高める
ファシリテーターSkills & Tips

内藤 知佐子,伊藤 和史 著

《評者》 阿部 幸恵(東医大教授・基礎看護学/同大病院シミュレーションセンター長)

指導者観を深める一冊

 評者が著者の内藤知佐子氏と出会ってから早10年が過ぎる。シミュレーション教育の指導に関していえば,同志のような存在だと感じている。そんな評者が本書を一読して感じたのは,シミュレーション教育だけでなく,あらゆるファシリテーションの場で指導者に役立つ一冊となっているということだ。

 それは,Prologue「学習者の主体性を引き出す指導者像」に凝縮されている。そこには,Skills & TipsといったHow toを学ぶのみにとどまるのではなく,指導者マインドという指導者としての「根っこ」をおのおのがしっかりと張る努力を怠らないこと,指導者は常に黒子であり,自身の教育観や看護観を「愛」をもって周囲に伝える努力をすることなど,本書をひもとく指導者らに真に伝えたい内藤氏のメッセージが込められている。本書は,どこからでも読み解くことができるが,ぜひ,このPrologueだけは最初に読むことを薦めたい。自身の指導者観を振り返り,深める内容となっている。

 次に本書には,シミュレーション教育の指導に必要となるSkills & Tipsがちりばめられているのだが,その全てが,内藤氏自身の経験に基づいているというところが素晴らしい。共にシミュレーション教育を行ってきた評者は,本書を内藤氏のポートフォリオ集と受け止めたい。

 目次を開くと,シミュレーション教育の準備,シミュレーション当日の各セッション(ブリーフィング,シミュレーション,デブリーフィング)で必要となるスキルを17に整理して提示してある。目次を見るだけで初学者は,シミュレーション教育の各セッションでどのようなスキルが必要なのかを理解することができる。また,経験ある指導者にとっては,自分のスキルを振り返り,さらなるスキルを身につけるためのチェックリストのようにも使える。さらに,巻末の「困った!場面別索引」と併せて使えば,指導者が指導で困ったときに,解決へのヒントが書かれているページをすぐに開くことができる。即効薬的書籍である。

 内藤氏の相手を忖度する細やかさを感じるのは,32のTipsである。自身の経験に基づいたSkillsを提示しただけでなく,読者がより実践できるようにと17のSkillsに関連させたコツ(Tips)を付け加えたところである。そして,もう一人の著者である伊藤和史氏の「Ito teacher’s Lecture」が読者の学問的ニーズに応えるエッセンスとなっている。きっと内藤氏自身の経験の中で「これって何?」と教育の専門用語を調べてきた経験から,読者のツボに効くLectureを取り入れることになったのだろう。49の「Ito teacher’s Lecture」のみを読み連ねても十分に知識欲が満たされるものとなっている。

 本書は,シミュレーション教育指導の入門書として,困ったときの指南書として,指導者を育成する際の参考書として,薦めたい一冊である。

A5・頁264 定価:本体2,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03014-4

関連書
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