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第3235号 2017年8月7日


Medical Library 書評・新刊案内


標準的神経治療
しびれ感

日本神経治療学会 監修
福武 敏夫,安藤 哲朗,冨本 秀和 編

《評 者》山田 正仁(金沢大大学院教授・脳老化・神経病態学(神経内科学))

しびれ感を主軸に診断・治療の標準化を試みた画期的な一冊

 本書は日本神経治療学会が作成する標準的神経治療シリーズの中の一冊で,福武敏夫先生(亀田メディカルセンター),安藤哲朗先生(安城更生病院),冨本秀和先生(三重大大学院)の編集による。“しびれ感”といった日常診療で頻繁に遭遇する症状を主題にした診断や治療の標準化の試みはユニークである。本書では,“しびれ感”の病態機序や検査について述べた後,“しびれ感”を呈する神経疾患の概要とその治療について解説しており,知識の整理や診療の実践に役立つ。

 総論部分では,神経症候学や神経生理学のエキスパートが,“しびれ(感)”の概念,解剖・生理学,評価方法について語っており,大変興味深く参考になる。“しびれ”という日本語には感覚異常と運動麻痺の両者が含まれること,本書が対象とする“感覚異常としてのしびれ”(=“しびれ感”)においても具体的表現(訴え)にはさまざまなものがあり(“じんじん”“びりびり”など),それらの背景となる原因や病態生理も多様であることなどがわかりやすく解説されている。最もコモンな訴えの一つである“しびれ”についての問診や診察のコツが,基礎になる解剖や生理学を踏まえて理解される。“しびれ感”を訴える患者さんの神経診察時にみられるさまざまなサイン(徴候)について,診断上のエビデンスレベルが示されている点も画期的である。

 各論部分では,“しびれ感”の主要な原因疾患を取り上げている。脳梗塞・脳出血,頸椎症,腰部脊柱管狭窄症,多発性硬化症・視神経脊髄炎,Parkinson病,restless legs症候群(RLS),筋萎縮性側索硬化症,脊髄空洞症,糖尿病性神経障害,Guillain-Barr<00E9>症候群(GBS)・慢性炎症性多発ニューロパチー(CIDP),small fiber neuropathy,遺伝性ニューロパチー,アミロイドニューロパチー,腕神経叢障害,手根管症候群・外側大腿皮神経障害・足根管症候群などが含まれる。それぞれの疾患について,病態から臨床的特徴,診断,治療までまとめられ,可能な範囲で治療法のエビデンス・レベルや推奨度が示されており,診療の参考になる。

 本書のテーマである“しびれ感”を主軸に,疾患ごとにみられる症状を見直すと,患者さんが訴える“しびれ感”の意味するものに大きな違いがあることがあらためて浮き彫りになる。例えば,RLSの項で指摘されているように,RLSでみられる下肢の内部に存在する,動きのあるような異常感覚は,患者さんが“しびれる”と表現する場合でも,それは本来の“しびれ感”ではなく,患者さんは自分の感じる異常感覚を“しびれ感”に例えているだけである。

 また,総論部分で解説されているように“しびれ感”と“痛み”は本来,異なって分類されるべきものであるが,実際には“痛み”を伴う“しびれ感”であることが多く両者を区別することは困難で,両者が一体となった症状を訴える。さらに,本書の末尾には,“痒み”についての優れた解説がある。疾患や病態ごとにみると,“しびれ感”および類縁の症状の基盤となっている病態生理にはまだ不明な点が多く,今後,それらの解明がよりよい治療法につながることが期待される。

A5・頁144 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03018-2


ENGアトラス
めまい・平衡機能障害診断のために

小松崎 篤 著

《評 者》廣瀬 源二郎(浅ノ川総合病院脳神経センター長)

神経内科医に必須のENGアトラス

 めまい・平衡障害患者を取り扱う医師にとり,眼球運動異常を診断することは非常に重要である。今回,めまい・平衡障害分野の名医として広く知られている著者が,半世紀にわたる経験を基に自身で重要な眼振症例を注意深く記録として残されたものを広く公に発刊されたのが本書であり,まさに渾身の著作である。

 診察時に肉眼観察で眼球運動異常の有無をとらえて診断するのがわれわれ一般の臨床医である。その際重要な症例はビデオ記録として残すのが一般的である。それに加えてさらに他覚的定量的分析記録として角膜網膜電位差を応用した眼振図(ENG)を残し,後々に種々の定量的検討を加えることでめまい病態を把握することができるわけである。光学法や強膜サーチコイル法に劣るとはいえ,注意深くENGを記録することは患者側の負担も軽く臨床的には十分過ぎる眼振検査法である。

 アーチファクトのほとんどない700以上のENG記録が必ずカリブレーション(較正)とともに収められたこのアトラスは見事であり,めまい患者を取り扱う臨床医にとりその病態把握の際にひもとくべき必携の教科書となるアトラスといえよう。本書の前半ではENGの歴史,原理から始まり,利点・欠点にも触れ,いかに誰もが納得する記録を残すかが余すところなく書かれている。これに加え各疾患の典型的ENG記録が末梢性前庭疾患のみならず,中枢性疾患についても触れられており,簡単な症例の病歴・所見の記載とともに異常眼位の写真,MRI所見も示されている。また,脳幹障害,小脳障害のみならず大脳障害による眼球運動の異常症例は全て網羅されており,さらに眼科的疾患である先天性眼振についても詳細に記載されている,まさに百科事典的アトラスである。

 とかく神経内科医は,めまい患者を耳鼻科へ紹介することが多いが,真性めまいの半数近くは中枢性疾患をその病因とすることから積極的に眼球運動検査に精通する必要があり,いわゆる神経耳科学的素養として眼球運動異常のとらえ方をマスターすべきである。本書を精読することでめまい・平衡障害の診断力を高め,方向一定性末梢性眼振のみならず,注視眼振や垂直性中枢性眼振,Wallenberg症候群でみられる回旋性眼振,小脳結節病変による周期性方向交代性眼振などの中枢性眼振の病態を把握して神経診察を補填することが必要である。そのために神経内科医に必須な机上の参考書として常備したいアトラスであり,真剣に神経診察に精を出す神経内科医にぜひお薦めしたい。

A4・頁448 定価:本体8,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02131-9


日常診療に潜むクスリのリスク
臨床医のための薬物有害反応の知識

上田 剛士 著

《評 者》徳田 安春(群星沖縄臨床研修センター長)

薬の副作用のエビデンスリソース

 医療現場でクスリの副作用ケースが増えています。高齢化,マルチモビディティ,ポリファーマシー,新薬開発,ガイドラインによる推奨などが要因です。それでも,処方した医師には副作用を早期に発見し対処する責任があるといえます。そのためには処方する医師には「特別」な学習が必要です。なぜ特別かというと,悲しいかな,薬の副作用についての臨床的に役立つ実践的な知識は薬のパンフレットや添付文書を熟読しても習得できないからです。

 本書はそのような実践的な知識をコンパクトにまとめてエビデンスを提供してくれる新しいタイプのリソースです。著者は総合診療エビデンス界のプリンス,上田剛士先生(洛和会丸太町病院)。本書では,得意技である円グラフを駆使して,徹底的な科学的エビデンスを提供してくれています。

 まずは総論からスタート。いかに薬剤の副作用が多いかがわかります。その背景因子についてのエビデンスが記載されています。そして各論はコモンな薬剤の副作用について,薬剤と代表的な症候の両面からの切り口で紹介されています。図表も豊富であり,各章の最後には箇条書きでまとめが付いており,記憶にも残りやすいように工夫されています。

 自分が処方した薬で副作用を起こしたケースでつらい思いをした医師は多いと思います。本書を読んだ医師が実臨床でこれを活かすことにより,副作用ケースの早期発見と早期対応のレベルをアップし,日本の医療の質がさらによくなると確信します。

A5・頁164 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03016-8


《ジェネラリストBOOKS》
保護者が納得!
小児科外来 匠の伝え方

崎山 弘,長谷川 行洋 編

《評 者》内海 裕美(吉村小児科院長)

外来で繰り広げられるドラマから学び,あなたも脚本家に!

 あなたは何を伝えたいですか? どのような伝え方の技法を知っていますか? 相手にきちんと伝わっていますか?

 人間は,高度な脳機能を持つ動物です。複雑な社会を作り出し,文化的な背景も異なり,現代は今まで以上に多様性に満ちています。「相手に伝える」は「相手から伝えてもらう・相手を受け止める」と表裏一体の関係です。伝えることを整理する,伝える表現力を磨くのと同じぐらい,患者さんや保護者が欲していることを察すること,誤解を避けることも大事です。

 子どもたちの診療においても医師だけで,その子どもの病気を診断・治療するのはとうてい無理です。子どものケアをする保護者の方に病気を理解し,ケアを実践していただかなければ子どもの医療は成り立ちません。子どもが好きで(というより大人が苦手で小児科医に進んだ人も少なくないと思います)小児科医になったが,保護者対応は想定外という感想を持つことは珍しくありません。診療自体は全く問題がないのに,コミュニケーション不足のためにトラブルが起きてしまうことも少なくありません。

 この本は,日々研さんを積み重ねているベテランの小児科医が,保護者に伝えたいことを伝える際の表現をシェアしてくれる匠たちの心意気に溢れています。

 この本の執筆者の大半を私は存じ上げています。読んでいると,誰の執筆かわかるほど,外来でのやりとりや姿勢が鮮やかに描かれているものが多いです。まるで完結編のドラマを一本観ているような気がします。

 こんなにユーモアたっぷりに説明している! きちんと一人前に対応してもらっている子どもの笑顔が目に浮かぶ! こんなにうなずいて聞いてもらえたら患者さんはうれしいだろうな! カウンセリング技法を上手に取り入れて説明している! など,名場面がたくさん盛り込まれています。

 しかしながら,ドラマも脚本家が変わり,演じる俳優が変われば異なったドラマになるように,匠の技をそのまま暗記しても役には立たないでしょう。同じシーンでもその時々でシナリオを変化させながら相手に合わせていくのが,伝える醍醐味だと思います。ドラマのエンディングは,もちろん子どもと保護者の笑顔です。

 匠の技の後ろには,日々の研さんと,ご家族との長年のやりとりの積み重ねがあることにも思いをはせながら,自分の脚本を書き上げてみてはいかがでしょうか?

A5・頁228 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03009-0

関連書
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