医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第3228号 2017年06月19日



第3228号 2017年6月19日


Medical Library 書評・新刊案内


子どものための精神医学

滝川 一廣 著

《評 者》青木 省三(川崎医大教授・精神科学)

常識を覆す「基本」の書

 「素手で読める」と「あとがき」にある。専門用語も厳選して用いてあり,難しい理論で説明を押し切ることもなく,平易な美しい日本語でつづられている。だが,読み始めると,「基(もと)や本(もと)から考えること,土台から考えを積むこと」(p.13)により,ふと気付くと,私たちの常識や当たり前がしばしば覆されている。

 私たちが観察する障害特徴と呼ばれるものは,当の子どもにはどのように体験されているものなのだろうか。滝川一廣先生は一貫して子どもの体験世界を理解しようとする。その中で,子どもたちの“病理現象”と呼ばれているもの,例えば,変化への恐れは“世界を少しでも安定した世界としてキープする”試みであり,無意味な常同行動は“味わい深い興味尽きない遊び”であり,“適応のための合理的な対処努力”でもあるととらえていく。

 極めて不安と緊張の高い世界で,周囲の人との関係という支えがないまま,過剰なナマの感覚刺激にさらされ,孤独に生きている子どもたち。それは,人々の中に生きているにもかかわらず,人と接点なく生きていることであり,とても孤独なものである。しかも,子どもは生まれてからずっと人と親密に交わる経験がないまま成長しているので,孤独として感じ取ることもできない。このような圧倒的な孤独を,私たちはどれほど感じ取ることができるのであろうか。

 そういう子どもへの支援について,滝川先生は考え進めていく。圧倒的な孤独の中ででも,子どもは微(かす)かかもしれないが,人を,そして人と関係を築くことを求めている。だが,人との関係を築く力が弱いぶんだけ,養育者や支援者の側からの関係づくりには配慮が求められるのである。養育者や支援者の急速な接近や熱い接近,すなわち“過刺激”は,子どもに混乱と恐怖を与える。だからといって,距離を置き,遠くに構え,接近しないでいると,孤独な世界は変わらない。

 「目の前の生身の相手の気配や雰囲気を,言葉(概念)以前の直覚的なもので敏感にキャッチする」(p.258)子どもに対して,滝川先生は,子どもを脅かさず,子どものサインに応えていくことを考える。「はたらきかけが,その子にとって刺激が強すぎて侵入的なものにならない配慮が不可欠で,その呼吸が勘どころになる」(p.247)という。支援は何か特殊なことではなく,基本は普通の子育てやかかわりと同じ世界の中にある。理解は深く根源的に,支援は丁寧で穏やかなものをと,考えるのである。

 例えば,「おもしろい子じゃないかという親和感も抱ければ,その親和感は子どもにおのずとキャッチされ,ふたりをつないでくれる」(p.257)という一文がある。グイグイ引っ張る熱血教師と比べて,「おもしろい子じゃないか」という教師は,一見地味ではある。だが,その教師のまなざしから,子どもたちは負荷のない,だが大切な暖かさを感じ取り,変わり始めるのである。発達障害の人たちには,このような熱くない,さっぱりとした暖かさが,しばしば支援の“勘どころ”となる。

 読んでいると,圧倒的な孤独の中で生きている子どもが浮かび上がり,子どものそばで,その孤独をヒリヒリと感じながら寄り添っている滝川先生が見えてきた。

 滝川先生は,いつの時かにご自身も,孤独な世界を微かに体験し,それを貴重な財産としてこころの中に大切に持っているのではないか。それが,子どもや人への理解と共感を深いものとし,地道で粘り強い支援に向かわせているのではないか。それだけでなく,支援者というものは,自身のうちにある孤独を大切にしながら,丁寧に人とのつながりを紡いでいく存在ではないかと感じた。そもそも,私も含めて,人が生きていくということはそういうことではないか,などと感じながら,本を読み終えた。

 発達や障害だけでなく,人間とは,そして生きることとは何かを考えさせる,本当に奥の深い本であった。

A5・頁464 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03037-3


こころの病を診るということ
私の伝えたい精神科診療の基本

青木 省三 著

《評 者》滝川 一廣(学習院大教授・臨床心理学)

患者の日常・生活に絶えず目を注ぐ精神科臨床の極意

 著者,青木省三先生の日々の診療の姿が目に浮かぶ本である。さまざまな知恵や工夫が語られているけれども,それを知識として覚えるよりも,その姿を思い浮かべながら,つまり,診療に陪席しているつもりで読んでいくとよい。陪席しているかのように読み進められる希有な診療の書である。

 症例が数多く出てきて,その多くが「症例→仮説→対応→ポイント」というかたちで語られている。「症例」を読んだところでいったん本を置いて,自分ならどんな仮説を持ちどう対応するだろうかと考えてから(できればメモしておいて)先を読むことをお勧めしたい。臨床家として力を伸ばすのに役立つし,著者青木先生の診療への理解も深まるだろう。陪席とは“見学”することではなく“参加”することである。これはそのように参加的に読むべき(それができる)本であり,著者の読者への願いもそこにあると思う。参加的に読めば,ここにあるのはマニュアル的なノウハウではなく,個々の患者や状況へのその都度の理解から生み出される配慮や工夫であることがよくわかる。

 本書の診療に特定の技法やプログラムは出てこない。治療理論が説かれるわけでもない。では無手勝流や行き当たりばったりかといえば,もちろん違う。診療の基底に流れているのものは何だろうか。ぴたっと言い当てる言葉がみつからなくもどかしいが,あえて“日常性”と呼んでみたい。

 「次の方,どうぞ」,患者を診察室に招じ入れて話を聴く。5分で済むことも,20分,30分のときもある。いつも真剣に耳を傾ける。話が終わって診察室を出る姿を見送りながら,その患者に思いをはせる。そうした毎日を5年,10年,15年と重ね,それはすっかり日常の営みとなって治療者のこころの底に根付いている。そうした日常の連なりと重なりから生み出されるある感覚や居ずまいのようなものが,青木先生の臨床を貫く一本のしなやかな筋金になっている。何らかの高度な(ある意味で“非日常的”な)専門技術の駆使によってプロフェッショナルたらんとするのも一つの方向だけれども,青木先生はそれとは別の方向に自身の臨床を鍛えてこられたと思う(もちろん,専門技術を持っておられないという意味ではない)。

 この“日常性”は,“生活性”と言い換えてもよいかもしれない。青木先生が絶えず目を注ぐのは,患者の「日常」,すなわち“生活”である。患者がどんな生活体験をしてきて,今どう生活しているのか? そこで何にぶつかっているのか? その生活を少しでもよきものとするにはどうしたら? その患者にとってよき生活とは? そして人間の“生活”とは一人で成り立つものではない。そこまで視野に入れた手助けとは? 暮らし向きのありよう(実生活)から日々の哀歓のありよう(精神生活)まで,患者の生活を深くまなざそうとする姿勢が臨床の基本線となっている。

 また,“常識性”という言い方もできるかもしれない。ひねりにひねった解釈も,入り組んだ晦渋(かいじゅう)な説明付けも,あっと驚くパラドックス的アプローチも出てこず,理解の仕方も働き掛けも,とても常識的なものである。“常識”とは“ありきたりの表面的理解”や“流布されわたった一般通念”を意味するのではなく,私たちの生活意識や日常感覚に照らして無理のない,確かな納得を持って共有できる理解(common sence)のことを指す。日常性と生活性とに裏打ちされた深い“常識性”が,患者の生活やこころをより広がりを持つもの,より自由なものへと開き得るのである。

A5・頁296 定価:本体3,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03020-5


公認心理師必携
精神医療・臨床心理の知識と技法

下山 晴彦,中嶋 義文 編
鈴木 伸一,花村 温子,滝沢 龍 編集協力

《評 者》井村 修(阪大教授・臨床心理学)

学生,精神科医,看護師も活用できる良書

 公認心理師法が2017年9月より施行される。心理職の国家資格がいよいよ誕生である。心理技術者の国家資格が検討され始め,約半世紀の紆余曲折を経て,ようやく実現した。日本の心理職もやっと国際水準に達したのだろうか。公認心理師法では,公認心理師の業務を以下のように規定している(公認心理師法第二条より)。

(1)心理に関する支援を要する者の心理状態の観察,その結果の分析
(2)心理に関する支援を要する者に対する,その心理に関する相談および助言,指導その他の援助
(3)心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談および助言,指導その他の援助
(4)心の健康に関する知識の普及を図るための教育および情報の提供

 そして,これらの業務を,医療・保健,教育,福祉,司法・行政,産業などさまざまな分野で実践することが期待されている。とりわけ国家資格が前提の医療・保健分野では,心理職の国家資格化が待ち望まれていた。したがって,本書『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』は,タイムリーな企画といえるだろう。

 本書の特徴は総勢122名からなる多彩な執筆陣にある。精神医学と認知行動療法が基盤になってはいるが,精神医学の研究者から臨床医,臨床心理学の研究者から心理臨床の実践家まで幅広い。

 また,第1部で「チーム医療と心理師の役割」,第2部で「精神医療の基本」,第3部で「精神医療システム」と医療に関するテーマが扱われ,第4部で「心理師の専門技能」,第5部で「問題別心理介入プロトコル」と,公認心理師としての業務と直結したテーマが扱われている。

 第1~3部の中で,これまで心理学系の大学・大学院で教えられてきたことは,第4章「精神症状のみかた」と,第5章「診断とその経過」であり,その他の章の内容はほとんど教わっていない。精神科の病院に就職した卒業生から,医療の現場に行って驚いたことは,感染症予防の手洗いを指導されたことだと聞いたことがあった。第1章にはその手洗いが図解されている。医学の常識が心理の教育では十分でなかったことがわかる。

 第7章の「薬物療法」の説明も有用である。処方用量例と副作用も示されているのでわかりやすい。ある程度の薬物療法の知識は,公認心理師がチーム医療を担うためには必要である。

 本書の最大の特徴は第5部である。第17章の「抑うつ障害」を例に挙げると,まず抑うつ障害の総論があり,理論と心理的アプローチが解説されている,次に心理的アプローチのプロトコルが示され,症例提示,心理的アプローチの実際,本症例のまとめとなっている。わずか数ページではあるが,うつ病の心理的アプローチのエッセンスが記載されている。統合失調症スペクトラム障害や心身症など,他の精神障害に関する章も同じような形式になっている。

 本書は,公認心理師を対象としたものではあるが,公認心理師をめざす大学生・大学院生も活用できる良書である。さらに,第4部と第5部は,精神医療において公認心理師が何ができるのかを示しており,精神科医や看護師に読んでいただければ,より質の高いチーム医療が可能となるだろう。

B5・頁360 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02799-1


精神科レジデントマニュアル

三村 將 編
前田 貴記,内田 裕之,藤澤 大介,中川 敦夫 編集協力

《評 者》堀口 淳(島根大教授・精神医学)

全科の医師の手元に置いてほしい傑作

 慶應義塾大学陣の大傑作である! 『精神科レジデントマニュアル』というタイトルだが,全科の医師の手元に置いてほしい。熟練の内科医や外科医などの診察室にも置いてほしい。なぜなら,からだを傷めている患者も,すべからく毎日の心痛と苦闘しているのだ。

 患者の「患」の字は,「心」の上に「串」が刺さっている。これがすなわち「患う」ことの語義である。この「串」を抜かねばならぬ。

 臨床医の日常診療は,訊いて,尋ねて,診て,見て,うなずいて,共に悲しんで,笑って,また啼いて,常に患者の「心」を傷めている「串」を探し当て,なんとかして何度も何度も,患者と「串」を見つけ合い,引っ張り出し,これが「串」だったのかなと見つめ合い,暗いトンネルから共に明かりを探し出し,膿を出し,光でこころを消毒して,明日を信じて頑張り合う,そんな日常,そんな診療であってほしい。

 第1章の「精神科診療の7つの心得」は「臨床全科の7つの心得」に通じる。精神科医に限局すれば,「③ポケットには聴診器と打腱器を」とは,よくぞ書いていただいた! 精神科医のハンマー離れはもうとっくにレッドカードのご時世,さてどうするものぞ,と嘆き,あっちこっちでぼやき,嘆いている私には,ナイスショットの一言。涙が出た。フロイトは神経学,神経病理学からスタートしたのだ。小難しい話ではない。神経学とは身体に触れることである。

 第2章は,当直医に必須な知恵をコンパクトにまとめてある。一般救急には,精神不安定な患者が山ほど集まってくる。外来,病棟別の対応原則のコツまで丁寧に記載されている。いい。

 第3章では異常脳波のまとめが特にいい。この手のまとめ方は初めて見た気がする。

 さて,第4章の診断編のうち,「面接の進め方」もいい。そう,すなわち次の治療編との連関の指摘は,ついつい忘れられがちであるからだ。すなわち予診など,「病気の洗い流し」といった患者との共同作業から,既に治療が始まっているのだ。予診,問診の段階から,患者や家族は医師を診ている。鑑別している。「頼れるか,本気になれるか,話せるか,この医師は」と。これも全科共通の話でもある。薬物療法は原則論中心である。一体この薬は抗うつ薬なのか,抗精神病薬なのかがわからない時代になってきた。そんななか,基本が学べる。

 第6章「主要症候,主訴」には精神要素ごとに,臨床現場にすぐに応用できるような配慮が記載され,好感が持てる。しばしば精神科以外の先生や若手の精神科医からでさえ,「この幻覚,幻聴は」などとの,混乱発言を聞く。このモヤモヤをなくしたい私は,すっきりできた。

 最終盤辺りには,現代のホットニュースたる自動車運転問題や女性精神医学なども網羅されている。その割には,本書は白衣のポケットサイズだし,軽い。紙面はオレンジ色の濃淡で,ケバくない。編者の三村將教授の性格か? これ,いける‼

B6変型・頁352 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03019-9

関連書
    関連書はありません