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第3227号 2017年6月12日


賢く使う画像検査

本来は適応のない画像検査,「念のため」の画像検査,オーダーしていませんか?本連載では,放射線科医の立場から,医学生・研修医にぜひ知ってもらいたい「画像検査の適切な利用方法」をレクチャーします。検査のメリット・デメリットのバランスを見極める“目”を養い,賢い選択をしましょう。

[第2回]小児領域

田波 穣(埼玉県立小児医療センター放射線科)
岡部 哲彦(横浜市立大学放射線科)
隈丸 加奈子(順天堂大学医学部放射線診断学講座)


前回からつづく

症例

 1歳3か月の児が母親と共に救急外来受診。コンクリートの階段3段目から,頭を下にして落ちたとのこと。前額部の血腫以外,外傷所見なし。明らかな神経学的異常所見なし。落下直後より激しく泣いていたが,現在は母親の膝の上でおとなしくおもちゃを眺めている。

CT検査の放射線被ばく

 CT検査は小児においても画像診断の標準モダリティになりつつあります。日本では2014年度の1年間に,15歳未満の小児に対して合計55万件のCT検査が行われています1)。装置やソフトウェアの進歩により低線量撮影が容易になってきましたが,CT検査は依然として小児の医療放射線被ばくの主要因です。

 小児の被ばくに関しては,①一部の放射線誘発性がんに対し,小児は成人よりも2~3倍脆弱である2),②平均余命が長く,小児期の放射線暴露に関連する発がんにより寿命に影響を与える可能性がある,③放射線誘発性がんは長い潜伏期を有する可能性を持ち,腫瘍の種類および被ばく線量によって変化する,という特徴があります。小児では特に適応の正当化と線量の最適化が重要です。前者は主に検査依頼側が,後者は主に撮影側(放射線科医や放射線技師)が検討しますが,いずれも主治医,放射線科医,放射線技師,そして児の家族がベネフィットとリスクを理解した上で議論することが大事です。

 CT検査の適応が正当化される(検査が必要な)場合であっても,例えば非造影と造影の併用,もしくは造影CTを複数回行うような多相撮影の「盲目的な」依頼は避けるべきです。多相撮影の被ばく線量は,複数回CT検査を行った場合と同じです。

 撮影側の留意点としては,小児は成人と同じ撮影条件を適応すると,体格が小さいことから臓器当たりの被ばく線量が著しく高くなること,撮影対象でない臓器の被ばく線量(女児の胸部CTにおける乳腺の被ばくなど)に配慮することなどが挙げられます。

 被ばく線量と画質はトレードオフの関係です。撮影側はパラメータを調整し,検査プロトコルを最適化する必要があります。線量を高くし過ぎないことは重要ですが,あまりに線量を低くし,診断困難となってしまっては本末転倒です。主治医,放射線科医,放射線技師の三者が診断のためにどの程度の画質が必要か検討していくことが求められます。

MRI検査での鎮静の危険性

 MRI検査では,激しい騒音が長時間継続します。その間安静を保つことができない小児患者に検査を行うためには,鎮静状態を維持しなければなりません。しかし,2010年の日本小児科学会医療安全委員会の報告によると,416施設中35%が鎮静に伴う合併症を経験しており,呼吸停止や心停止といった非常に重篤な合併症も,それぞれ73施設,3施設で見られています。

 MRI検査では,構造的に医師は患児から離れざるを得ず,検査中に患児を直接観察することは困難です。室内には磁性体の機器を持ち込むことができず,さまざまな診察器具や治療機器の使用が制限される状況では,患児の状態を適切に把握し,状態が悪化した場合に速やかに治療するのは難しいことです。

 日本小児科学会,日本小児麻酔学会,日本小児放射線学会による「MRI検査時の鎮静に関する共同提言」3)では,MRI検査の適応とリスクの説明と同意,緊急時のためのバックアップ体制の整備,鎮静前の経口摂取の制限,MRI検査中の患者の監視,MRI検査終了後のケアと覚醒の確認などの注意が記載されています。安全に検査を行うためにも,小児を受け持つ主治医,小児科医をめざす研修医や医学生には特に,ご一読いただきたいと思います。

胸部単純X線写真で検査時の児の状態が画像に与える影響

 胸部単純X線写真は新生児,乳児の画像診断において最初に行われることが多い画像検査です。新生児や乳児では,撮影条件が良好な場合のほうが少なく,診断に苦慮することがあります。胸部単純X線写真で臨床上問題となるものとして,呼気相撮影,体位や撮影時の位置決めの影響,患児の胸郭のねじれの影響,皮膚など体外のアーチファクトなどがあります。呼気相に撮影された写真では,肺野は全体的に透過度が減少します。心胸郭比も呼吸相により異なり,呼気相では心胸郭比が増大します(図1)。これらは心拡大や無気肺との鑑別で問題となる場合があります。新生児,乳児を担当する医師はこの点に留意し,胸部単純X線写真の依頼や読影の際は,必要に応じて放射線科医や放射線技師に児の状態や撮影目的を伝達することで,診断やその後のケアに生かせるのではないでしょうか。

図1 生後4日 女児 呼気相,吸気相による変化
同日に撮影された新生児の胸部単純X線写真。呼吸状態などに大きな差はなかったが,呼気相では,肺野は全体に透過度が減少し心胸郭比が増大する。

 このように,小児の画像検査には成人とは異なる特徴やリスクが存在します。検査を行うことによる患児のベネフィットとリスクのバランスを慎重に考慮し適応の判断を下す必要があります。

 特に神経学的な異常を伴わないような軽度の頭部外傷後にCT検査が必要かどうかは,PECARNと呼ばれる多施設共同研究から,図2のように提案されています。他にも,CHALICEルール5),CATCHルール6)なども感度の高い基準として評価されています。小児の頭部外傷後の頭部CTに関しては,撮影回数が多いことや,小児では頭部が相対的に大きく被ばく線量が多くなること,CT検査を受けた小児では脳腫瘍の発生率が増加するとの報告がある7)など理由により,検査適応が積極的に議論される領域の一つです。

図2 軽度の頭部外傷(GCS=14,15)に対するCT検査適用フローチャート(文献4より改変引用)(クリックで拡大)

症例への対応

 PECARNのルールに基づくと,この症例は「CT検査を推奨しない」となる可能性が高くなる。ただし,「母親の膝の上でおとなしくおもちゃを眺めている」状態は,ある児にとっては普通の状態であっても,別の児にとっては「普通の状態ではない」かもしれない。「普通の状態ではない」場合,PECARNのルールによると,親の希望や医師の経験も判断材料としてCT検査の適応を決めることになる。小児においては,家族からの十分な情報収集が検査適応の決定には不可欠。本症例では児の状態は普段通りと判断され頭部CTは施行されず,その後特に重篤な障害も出現しなかった。


小児領域
画像検査適応のポイント

●CT検査では被ばくの影響を要検討
●MRI検査では鎮静中に状態が悪化することへの備えを
●胸部単純X線写真は撮影条件が画像に大きな影響を与え得る

つづく

参考文献・URL
1)厚労省NDB第1回オープンデータ 第2部【データ編】E 画像診断.2016.
2)United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation. Effects of Ionizing Radiation:UNSCEAR 2006, Volume I;Scientific Annexes A
3)MRI検査時の鎮静に関する共同提言.日本小児科学会・日本小児麻酔学会・日本小児放射線学会.2013.
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20150129.pdf
4)Lancet. 2009[PMID:19758692]
5)Arch Dis Child. 2006[PMID:17056862]
6)CMAJ. 2010[PMID:20142371]
7)Lancet. 2012[PMID:22681860]

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