医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第3222号 2017年05月08日



第3222号 2017年5月8日


【対談】

抗菌薬処方の基本軸を作る
薬剤耐性対策に「抗微生物薬適正使用の手引き」活用を

本康 宗信氏(本康医院院長)
大曲 貴夫氏(国立国際医療研究センター病院副院長・総合感染症科科長・国際感染症センターセンター長・国際診療部部長)


 日々の外来診療の場面において,抗菌薬処方の判断はどうすればよいか。薬剤耐性対策をめざし2016年4月に策定された「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」1)では,抗菌薬の適正処方は薬剤耐性対策を推進する上で最重要分野の一つとして位置付けられている。策定から1年。主に外来診療を行う医療者を対象に,急性気道感染症と急性下痢症の適正な診療を実施するための指針「抗微生物薬適正使用の手引き」2)(以下,手引き)が作成された。

 本紙では,厚労省「抗微生物薬適正使用(AMS)等に関する作業部会」の座長として手引き作成の中心的役割を担った大曲氏と,地域のプライマリ・ケアの現場で診療に当たる本康氏の対談を企画。手引き作成の狙いと活用の意義について,外来診療場面での実践例や工夫を交えながらお話しいただいた。


本康 手引きを早速読みました。抗菌薬の問題点が冒頭から次々に指摘されると,抗菌薬処方は「悪」であり,自分の診療が否定されたように感じてしまいます。でも,中身をよく読んでみると,そんなことはなくて,手引きを参考にすれば適切な診療が自信を持ってできるようになるんだというメッセージが伝わってきました。

大曲 ありがとうございます。手引きを作成するに至った背景は大きく2つあります。1つは日本における抗菌薬の使用状況がわかってきたこと,もう1つはどのような場面で抗菌薬が使われているかが見えてきたことです。

 1つ目の使用状況は,日本は欧米諸国に比べ使用総量は多くないものの,キノロン系や第3世代セファロスポリン系,マクロライド系といった新しい広域抗菌薬の全体に占める使用割合が3分の2と突出して高く,それも内服が多い1)。2つ目の使用場面は,驚くべきことに上気道炎の患者ほぼ全例に抗菌薬を処方する施設がある一方で,症例を選んで処方する施設もあり,両者の分布に差があることです3)

本康 これらを総合すると,どうやら外来診療に携わる医師の処方に課題がありそうだと推測できるわけですね。

大曲 ええ。中でも風邪症候群の診療が,抗菌薬処方の問題を抱えている可能性が高いと考えています。そこで,急性気道感染症を中心に抗菌薬の適正使用を促す目的で作成しました。

適正な処方を学び直す気構えを

本康 風邪症状の患者に対する安易な抗菌薬処方は,感染症医から見ると信じがたいものがあるかもしれません。でも,経口の第3世代セファロスポリン系薬などの使用頻度が高いと指摘されても,「何が悪いの?」とピンとこない方は多いようです。副作用は少ないし広範な細菌をカバーするからと。

大曲 診断の難しさや,検査ができない環境だけが問題なのではなく,風邪の診療自体を系統的に学ぶ機会がなかったことも要因にありそうですね。

本康 はい。抗菌の幅が広くても,吸収率が低いことや,子どもは低血糖症状を起こす可能性があることなど,マイナスの情報まで把握できていないのが実情です。

 上気道炎に抗菌薬を処方する開業医の先生方の意見を聞くと,大きく3つに集約されます。1つ目は,患者が肺炎にならないようにしたい。2つ目は,マイコプラズマの可能性がある。3つ目は,長年そうしてきた,だから私が診た患者に肺炎になった人はいない。よって,抗菌薬処方は「正解」だと言うのです。

大曲 なるほど……それは手ごわいですね。

本康 長年の習慣になっているのでしょう。研修医時代に身についてしまった不適切な処方スタイルを学び直す機会もないまま現在に至るというパターンが多いと想像します。

大曲 研修医を指導する立場にある私も,十分な診断学の知識,感染症診療の基本を研修医のうちからしっかり教えることの大切さを痛感しています。

本康 抗菌薬処方を不適正と言われると,内科開業医だけが間違っている印象を受けますが,内科以外の診療所や,病院の救急外来でも多く使用されている印象があります。作成された手引きを用い,適正な使用法をあらためて学び直すきっかけにしたいものです。

アンチバイオグラムを作りグラム染色も実施

大曲 アクションプランでは,抗菌薬の使用量を「3分の2に削減」という数値目標があります。外来診療の場面で抗菌薬を適切に使うためには,どのような糸口があると考えますか。

本康 まず,自分が何を考えどのくらいの抗菌薬を使っているかを把握することです。そうしないことには,「削減」と言われてもどこから手を付ければよいかわかりません。そこで私は,患者さんに抗菌薬を処方する際,患者背景,処方した抗菌薬の種類,処方理由,経過を全例まとめています。またグラム染色,培養を実施し,主要な細菌のアンチバイオグラムを作っています。きっかけは,2011~12年のマイコプラズマの流行でした。マクロライド耐性マイコプラズマが増加したことで,肺炎の小児がくるたびに「耐性」が頭をよぎり,果たしてマクロライドを処方してよいものか悩まされました。

大曲 この1~2年の間も患者が多く,先生方が気にされているのはよくわかります。

本康 出した抗菌薬の種類を,処方理由とともに記録すれば,後で「この方は処方してよかった」「これは出さなくてもよかったかな」と振り返ることができます。

大曲 そうした小さな積み重ねが,全体の抗菌薬の使用量を減らすことにつながりますね。

本康 それから,開業医も喀痰,尿,膿,便のグラム染色,咽頭痛なら溶連菌迅速検査を行うことが大事だと思います。胸が痛いとの訴えがあれば心電図を見ますよね。「忙しいから,心電図はやめておこうか」なんてことはあり得ません。グラム染色も慣れてしまえば心電図を見るのと同じくらいの時間でできるものです。グラム染色で原因微生物を知り,アンチバイオグラムを参考に抗菌薬を選択する診療のほうが,確実性があると思います。

大曲 研修医を教えていて残念なのは「忙しいからグラム染色はできない」という声が多いことです。研修医時代から診療のスタイルにグラム染色を根気強く組み込まなければなりません。

本康 病院と違い,開業医のほうがよっぽどフットワークがいいわけですから,開業医こそやるべきです。

患者の不安を受け止め,検査の実施へ導く

大曲 適正使用については,医師だけでなく国民への啓発も必要です。手引きには,患者さんにも病気や抗菌薬についてきちんと知ってほしいとの思いを込め,Q & Aを記載しました。

本康 私も患者さんから「この咳は○○という抗生剤を飲まないと治らないんだ」と言われることがあります。

大曲 どう説明しているのでしょう。

本康 「いいお薬ですよね。わかりました。ばい菌を調べる道具がありますから,まずは痰を見て,どんなばい菌がいるか調べてみましょう。もしいたらいいお薬を出しますね。いなければ,薬を飲まなくていいんです。こんないいことはないですよね」と。

大曲 先生,すごくお上手です。

本康 細菌がいなければ「よかったですね。全然いませんよ」と説明でき,多くの方に抗菌薬は不要であることを納得してもらえます。

大曲 まず,思いを受け止めることは大切ですね。

本康 そうなんです。患者さんも,抗菌薬を飲まないと治らないんじゃないかと不安を抱えて来ています。「抗菌薬の無節操な使用で耐性菌が増える」と言っても漠然としてしまいますから,言葉で押さえ込むより,細菌を調べてから説明するようにしています。痰を出してもらう際は,家に一度帰ってあらためて持参してもらってもいいと伝えています。

大曲 その点,開業医の先生方はフレキシブルに対応できますね。手引きには,「抗菌薬の延期処方(Delayed Antibiotics Prescription;DAP)」を盛り込みました。時間を空けて診たり,情報がそろってから再度来院してもらったりすることは,医師と患者双方にとってメリットがあります。意識的にDAPを実施すれば薬を使わなくて済む場合もある。DAPの記載は唐突感があるかもしれませんが,開業医ならではのフレキシビリティを生かしてもらうべく,加えました。

本康 患者さんの多くは,メディアからの情報に敏感です。今後は,メディアを通じて「抗菌薬は細菌に使うもの」「急性上気道炎には抗菌薬を使わなくても,自然に治るから心配ない」といった呼び掛けも必要でしょう。

風邪ではない兆候をいかに見つけてあげられるか

本康 手引きの「急性気道感染症の診断及び治療の手順」はクリアですね。受け入れられやすいと思います()。

 急性気道感染症の診断及び治療の手順(「抗微生物薬適正使用の手引き」より作成 クリックで拡大)

大曲 実臨床はもっと複雑だ,というご意見もあるでしょう。手引きではまず,診療の一般的な方法をシンプル示すことを重視しました。

本康 感冒は「鼻,喉,咳症状が同程度」という記載,これを知るだけで「あ,風邪だな」と判断でき,抗菌薬投与をせずに済みますね。現場では,確証を得られないまま風邪を診ている面もあります。フローチャートを交えた治療指針が示されたことで,日々の診断がもっと“気楽”になるはずです。

大曲 風邪の診療には方法があり,それがわかれば抗菌薬の不要な状況も見えてくる。ぜひ診療の基本となる「軸」にしてほしいです。一方で,見逃してはいけない状況が外来診療の場面には必ずあるのだということも手引きでは強調しています。

本康 「気楽になる」とはいえ,風邪症状は怖いものです。見逃してはいけないのが,バイタルサインの異常です。敗血症はもちろん,循環器内科医としては常に急性心筋炎も頭をよぎります。

大曲 心筋炎も最初は風邪症状ですものね。非常に具合の悪そうなぐったりした人で,しかも冷や汗をかいている。

本康 最初は,呼吸数と心拍数が速い程度の症状しか出ません。たとえ風邪を訴え来院した患者さんでも,「何か見逃していないか」「血培を取ろうか」とさまざまな状況を想定して診ています。

大曲 単に「風邪」と一括りに診断してしまうと,危険性の高い疾患を見落とすことになり,時には患者さんが不利益を被ることになってしまいます。

本康 風邪で来た患者を診るときの自分たちの役割は,風邪ではない兆候をいかに見つけてあげられるか。専門科によって診る視点は異なっても,共通して言えることです。

大曲 風邪の危険性も踏まえて読んでいただけると,慎重な診療ができ,安心な医療の提供に必ずやつながります。

「手引き」は啓発・教育の出発点

本康 今回,先生に直接お話を伺い,手引き作成の意図や行間に隠れた議論の過程が伝わりました。長年の診療スタイルを今すぐ変えるのは一朝一夕には難しいかもしれません。でも,こうして手引きが作成され,なおかつ先生方の教えを受けた医師が増えれば,抗菌薬の適正使用もだんだんと良い方向に進むはずです。

大曲 次のステップである,手引きの周知・啓発,そして教育は私たちの大事な仕事です。

本康 小冊子やパンフレットのように,手引きのポイントを抽出したものがあると手に取りやすいですね。

大曲 確かに,手引きは記述の背景を示すために,ページ数も多くなっています。簡便なものは必要でしょう。

本康 できれば,e-learningのように,出掛けなくても解説が聞ける環境を整えていただきたい。地域で勉強会を行うのも手ですが,やはり手引きの作成に携わった先生方のお話を聞くのは効果があると思います。

大曲 わかりました。一人でも多くの先生方に手引きを活用してもらえるよう,いつでもどこでも手軽に勉強できて,なおかつ負担を感じないものを考えたいと思います。

本康 もう一つ提案したいのは,地域病院のアンチバイオグラムの公表です。開業医の先生方は,自分たちの地域に多く見られる細菌と感受性がわかれば,安心すると思います。「あれ? この抗菌薬が一番推奨されているんだ」と。抗菌薬を扱う難しさはあっても,私のように市中感染症だけを相手にしている開業医にとっては,ローカルファクターがわかれば使用する抗菌薬もおのずと限られてきます。

大曲 地域の外来診療で使うことを念頭にした提示は,開業医の処方行動を変える可能性が大いにありそうですね。

本康 開業医からのレスポンスもあり,双方のコミュニケーションが生まれることで診療の質も向上するはずです。

大曲 今後,地域での感染対策を充実させる上で,貴重なヒントになります。2017年4月に当院に設置された「AMR臨床リファレンスセンター」では,大規模データベースの導入により病院間でネットワークを組み,データ集約・情報提供体制が整備されます。先生のご提案も参考にします。あわせて,感染症診療に必要なリソースや情報を,現場の医療者,あるいは一般の方も含めて提供していきますので,ぜひ活用していただきたいと思います。

(了)

参考文献
1)国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議.薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン.2016.
2)厚労省.抗微生物薬適正使用の手引き 第一版.2017.
3)Intern Med. 2009[PMID:19687581]


おおまがり・のりお氏
1997年佐賀医大医学部卒業後,聖路加国際病院内科レジデント,The University of Texas-Houston Medical School 感染症科Clinical fellow。2004年静岡県立静岡がんセンター感染症科医長,07年同部長,11年国立国際医療研究センター国際疾病センター副センター長,12年同院国際感染症センター長,15年国際診療部長を経て,17年4月より現職。厚労省「抗微生物薬適正使用(AMS)等に関する作業部会」では座長として「抗微生物薬適正使用の手引き」作成の中心的役割を担った。

もとやす・むねのぶ氏
1989年三重大医学部卒。同大第一内科入局後,同大病院,茅ヶ崎徳洲会総合病院,虎の門病院循環器センター,三重県立総合医療センターなどを経て,2006年より浜松市にある本康医院に勤務。07年より院長。内科一般の診療の他,循環器疾患を専門領域に地域のかかりつけ医として診療に当たる。日本内科学会総合内科専門医,日本循環器学会専門医。