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第3221号 2017年4月24日


Medical Library 書評・新刊案内


一歩先のCOPDケア
さあ始めよう,患者のための集学的アプローチ

河内 文雄,巽 浩一郎,長谷川 智子 編

《評 者》亀井 智子(聖路加国際大大学院教授・老年看護学)

時代の「一歩先」を追求する,患者ファーストが貫かれたチーム医療の実用書

 医療や看護の領域で,「一歩先」とはどのくらい先を示しているのだろうか――。評者は慢性呼吸不全患者の在宅ケアに長く取り組んできた者として,この標題から強いメッセージを感じながら,期待を持って本書のページを開いた。

 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は非可逆的・進行性の疾患で,“地上で溺れるような”症状を伴う。そのような患者の苦しみを目の前にしたとき,患者にそのライフヒストリーを取り入れた人生の意味付けを促進しながらスピリチュアルペインを緩和し,吸入薬剤の種類も患者に合ったものと,それに適切な使用方法を患者と共に見つけることや,栄養の摂取方法の見直しに至るまで,まさに多職種による集学的アプローチが不可欠となる。

 本書のユニークさとして,患者の“生活の場”を念頭に置き,家庭医(本書では「町医者」),呼吸器専門医,専門/認定看護師,理学療法士などによって,それぞれ外来,在宅,入院という患者の生活場面,言い換えるとケアを提供する場に沿っての内容構成がなされている点がある。これら別個の専門職による「団体戦のみの精神的総合格闘技」(p.27)と本書で表現されるCOPDのチーム医療の神髄が,ユニークでわかりやすい表現を随所に交えながら記されている。例えば評者の目を引いたものの一つに,慢性呼吸器疾患看護認定看護師の上田真弓さんが,患者に生体の難解なしくみを説明するため,肺胞でのガス交換を一目でイメージできるようにと作成されたイラストがある。患者教育はCOPDの包括的リハビリテーションの中でも重視されているが,労作性呼吸困難を経験している患者の肺の奥で何が起こっているのかをわかりやすく説明することは現場ではなかなか難しい。本書では,いかに患者自身が理解できるように説明するか,患者をケアの中心に置くかという「患者ファースト」の視点が貫かれているように思う。

 また,COPDの診断にまつわる章では,検査値という数値だけが診断基準とされることへの警鐘が医師サイドから鳴らされている(p.36)。一つの定規による一律の長さでの「線引き」だけでなく,患者の自覚症状こそ重視するという医療の本分の「復権」について,ここでは,「穴のあいた定規」も時として必要であると説かれていることが,評者自身も忘れかけていた“呼吸の状態を一番よく知っているのは患者自身である”というケアの原点を思い起こさせてくれた。

 事例を用いて紹介しているケア展開の章では,診察室やベッドサイド,呼吸ケアチームとしてのラウンド,また訪問看護などの場で対峙した例がリアリティに富んで解説されている。所々に挿入されているコラムでは,日常の診療室で生じているさまざまな出来事の単なる紹介にとどまらず,心を打たれる医療者と患者とのやり取りが描かれていて,患者から学ぶことの大切さがここでも強調されている。

 地域包括ケアの時代である現在,COPDを伴う高齢者が住み慣れた地域・家庭で最期まで暮らすことを支えるため,家庭医,専門医,医療機関の看護師や訪問看護師,理学療法士,栄養士,薬剤師などによる,患者と家族を中心に置いた切れ目のない専門性の高いケアこそが,本書のうたう「一歩先」のチーム医療なのではないだろうか。

 実践・実用の書として示唆に富み,手元に置きたい一冊である。

B5・頁240 定価:本体2,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02839-4


アクティブラーニングをこえた看護教育を実現する
与えられた学びから意志ある学びへ

鈴木 敏恵 著

《評 者》新道 幸恵(NPO法人看護アカデメイア幸理事長/京都橘大特任教授)

「創造的に思考し,行動する」看護師育成の考え方・方法論

 看護学生が卒業後就職する保健医療福祉の場は変革が著しく,極端なことを言えば,看護学生時代に学んだ知識のみでは対応できない現象が少なからず存在している場です。また,それらの場は非常に多忙なために,新卒看護師にはできるだけ早く一人前になってほしいと期待される場でもあります。そのことにより,看護基礎教育において,実践力のある看護師の育成が求められることになります。看護実践力の育成には演習や実習が不可欠ですが,学生が学ばなければならない知識は医学・医療の高度化,看護学の進歩,看護の対象となる人々の多様性などから増大しており,演習や実習時間の確保にも限界があります。

 以上のような看護基礎教育にかかわる問題への解決には学生を「創造的に思考し,行動する」ことを習慣にする人として成長させることが重要であると思われます。そのような看護教育を模索している人々にとっては,鈴木敏恵氏の近刊書『アクティブラーニングをこえた看護教育を実現する』が大変有用です。本書には,看護学生の意志ある学びのための基本的な考え方や方法論,ひいてはカリキュラム構築に関するアイデアが詳細な実例とともに紹介されています。

 鈴木氏の人材育成に関する基本的な考えは「知識を与えない教育へ:未来教育――4つの修得知モデル」に示されています。A;体系化された知識の集合体としての知,B;一人ひとりの心・精神・魂にある人間として生きる上での拠点となる知,C;物事を成し遂げる能力を構成する知,D;課題発見・課題解決をもたらす知という4つの知は「自らの成長を求め続ける人」,すなわち未来を創造する人の育成に基本的なものとして位置付けられています。この21世紀の人材育成論を看護人材育成論として具体化したものが本書です。本書全体に鈴木氏の,患者へ温かいまなざしを持って看護の理想像を描きその実現に向かって前向きに頑張る看護学生への愛,またそのような学生を育てようとする看護教師への愛がちりばめられています。この背景には,看護教育の場に飛び込んで看護学生や教員とプロジェクト学習を実践してこられた鈴木氏の価値ある経験があることが本書から読み取れます。

 ここ数年,鈴木氏の「評価は価値を見いだすこと」という考えを大切にしながら新卒者教育責任者や担当者教育にかかわっている私の経験から,本書は看護の卒後教育の担当者にとっても有用であると思います。

B5・頁248 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02385-6

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