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第3205号 2017年1月2日


Medical Library 書評・新刊案内


死にゆく患者(ひと)と,どう話すか

明智 龍男 監修
國頭 英夫 著

《評 者》垣添 忠生(日本対がん協会会長/元国立がんセンター総長)

「人が生きること,死ぬこと」に深く思いをはせる

 本書は,「人間國頭英夫」の全てをさらけだした書物といえよう。これだけ重く,困難で複雑なテーマをこれほど多面的に,かつ毒舌とユーモアを交えながら論じ尽くした書物を私は知らない。

 これは國頭先生の30年余にわたる日々の臨床の積み重ねに加え,多くの書物や音楽,知的関心事に継続的に目配りしてきた人生経験と思索の豊かさから来たものであることを忘れるわけにはいかない。

 そう,このように難しいテーマに真正面から向き合うと,その人の人間性と頭脳の明晰性が如実にあぶり出されてくる。國頭先生は長年にわたる国立がんセンター時代の同僚であり,現在は私がEditor in Chiefを務めるJapanese Journal of Clinical Oncology(JJCO)の編集上のキーパーソンである。加えて,國頭先生は私の妻の母の肺がんを,先生がまだ若かりしころ,東大分院から国立がんセンターに研修に来ていたときに看取ってくれた。あろうことか,その娘,つまり私の妻が小細胞肺がんになり,国立がんセンターで1年半にわたり闘病したときの担当医でもあった。つまり親子二代にわたる担当医だったわけである。それに妻の希望で私が家で妻を看取った際の,死亡診断してくれた医師も國頭先生だった。

 そうした個人的な関係で本書を薦めるのでは毛頭ない。この関係性から以後親しく國頭と言わせてもらうが,例えばp.176~180の「大きな希望,小さな希望」についての議論で,パスカル,カントからヴォルテール,仁義なき戦い,曽野綾子,親鸞,細胞増殖メカニズムなど,多岐にわたる引用と思索の縦横に展開する様子一つとってみても國頭君の該博な知識と,明晰な思考力の一端がうかがわれる。

 けだし,この世の中で最も困難で深淵な課題に向き合うには,自らの人間性をここまで高める必要があるのだ。誠に,臨床とは人間性の極限を問われる行為の一つと思う。

 同時に國頭君の挑発や恫喝を交えた講義に臆せずついてきた,13人の日赤看護大の1年後期の諸君の,真摯で熱心で誠実な対応は誠に瞠目すべきである。國頭君も「あとがき」の中で,彼女たちを見ていると「この国もまだ捨てたものじゃない」との感想があった。それは正しく,私の感想でもある。これは國頭君対彼女たちのバトルの軌跡ともいえる書物である。

 本書は全ての医学生,看護学生,医師(老若を問わず),看護師(老若を問わず)の必読書といえる。この内容で2100円はいかにも安い。数日かけて読み通し,「人が生きること,死ぬこと」に深く思いを致すことは,皆さまのその後の人生に多大なインパクトを与えることは必定,と私は思う。

A5・頁306 定価:本体2,100円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02857-8


看護のアジェンダ

井部 俊子 著

《評 者》山口 俊晴(がん研有明病院長)

読みやすく面白く,ためになる。実用・啓発書であり,文学作品。

 通勤電車に乗っている13分間できっちり読めるこのエッセイは,いろいろな角度から私を啓発・教育する教科書でもあった。「週刊医学界新聞」看護号に連載が開始されたときから私はこのエッセイのファンであったので,本書について少しは語る資格があるかもしれない。

 著者は看護系学会等社会保険連合の代表でもあり,外科系学会社会保険委員会連合,内科系学会社会保険連合との3保連合同シンポジウムの開催を契機として,交誼を得ていた。その経歴や役職から想像される印象とは大きく異なり,どのように議論を持ちかけても,著者は決して声を荒げることもなく,常に穏やかで冷静であった。著者の温かい人間性のおかげで,少なくとも3保連の中では医師と看護師の相互理解が大いに深まったと確信している。ある時,私が連載を愛読していることをお伝えすると,あたかも少女のようにはにかんだような表情を見せたのが強く印象に残っている。そのころから,この連載が書籍として発行され,広く読んでもらえればよいと強く思っていたので,今回の本書の刊行はファンのひとりとしても大変喜ばしい。

 本書では,医療界に内在する複雑でナイーブな問題が,あたかもそれがあぶり出されるように,平明な言葉で書かれている。博識な著者の豊かな経験と感性から紡がれた文章は,今までにない極めて新鮮な切り口で書かれており,「ああそうだったのか」とか「そのような見方もあるのか」と感じるばかりでなく,時に大きな衝撃や感動をもたらすものであった。話の糸口は,参加した委員会であったり,最近読んだ新聞・書籍・映画であったりと多様である。しかし,なんといっても現場の何気ない風景や会話から,看護界・医療界に潜む問題点を浮き彫りにする巧みな筆力には非凡なものがある。穏やかな書きぶりではあるが,その文脈の中には強いメッセージが隠されており,読み終わったときにしばしば深い余韻を残す。それは読者のものの見方や感じ方を,時にはすっかり変えてしまうことさえあるほどインパクトの強いものである。

 今回再読してみて,私にとって特に印象深かったのは,『44.母の最後の日』(2008年9月22日)と『88.論考「迷惑な夫たち」』(2012年8月27日)であった。『44.母の最後の日』は,私も今春母を喪ったばかりなので,著者の悲しみがよりいっそう心にしみた。また『88.論考「迷惑な夫たち」』は,現場で起きている事象に対する著者の切り口と考察が読後にいろいろなことを考えさせて,ある意味で本書の特徴が最もよく表れている作品のひとつである。

 エッセイの多くは2ページほどで,どこから読み始めても,おそらく読者はその全てのページに目を通さずにはいられなくなるだろう。まさに読みやすくて,面白く,しかもためになる本である。本書の取り扱っているテーマが多様であると同時に,そのテーマへの迫り方が実に多様であることも,その魅力を大きなものとしている。実用書であり,啓発書であり,時に立派な文学作品でもあるのである。看護師だけでなく,医師・薬剤師など多くの医療関係者はもちろん,一般の方にもぜひ読んでいただきたい。

 最後に,連載中の「看護のアジェンダ」を電車の中で読み終えた後,電車を降りるときにはあふれ出る涙を他の乗客に気付かれぬようにそっとぬぐったこともしばしばあったことを告白しておく。今後も連載が続き,続巻としてまた取りまとめられることを期待している。

A5・頁372 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02816-5

関連書
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