医学界新聞

連載

2016.12.05



めざせ!病棟リライアンス
できるレジデントになるための㊙マニュアル

ヒトはいいけど要領はイマイチな研修医1年目のへっぽこ先生は,病棟業務がちょっと苦手(汗)。でもいつかは皆に「頼られる人(reliance=リライアンス)」になるため,日々奮闘中!!……なのですが,へっぽこ先生は今日も病棟で頭を抱えています。

[第7話]
敵は病気だけにあらず!
人任せにしない! 高齢者の包括評価

安藤 大樹(岐阜市民病院総合内科・リウマチ膠原病センター)


前回よりつづく

 長期入院していた80代の患者さんに,退院の話が出てきました。急性胆嚢炎での入院でしたが,入院中ポータブルトイレに移動しようとした際に転倒し,腰椎圧迫骨折のためしばらく寝たきりに近い状態でした。「やっと自宅に帰れるんだな~」と,頑張って診てきた担当医のへっぽこ先生も感慨ひとしお,だったのですが……。同居している息子さんから「私も昼間は仕事をしていますし,このまま帰ってこられても困ります」と言われてしまいました。

(へっぽこ先生) 病気が治って家に帰れるって患者さんもせっかく喜んでいたのに,「帰ってこられたら困る」なんて,何か冷たいですよね~。自分の親なのに……。
(セワシ先生) じゃあ,君のお父さんが今寝たきりになって,誰も世話をする人がいないからって,へっぽこ先生の家に来ることになったらどう?
(へっぽこ先生) そんな,まだ父も若いから大丈夫ですよ。何より,こんな忙しい仕事をやらされて……いや,させてもらっている中で介護なんて無理です。
(セワシ先生) だよね。その息子さんも同じなんじゃない? たまたまお父さんが高齢なだけだよ。むしろ,入院中にそういった問題点を評価していないことを反省しなきゃね。


 人は誰しも年を取ります。当たり前のことなのですが,日常生活の中では気付きにくい,いや,“気付かないふり”をしてしまうものです。そこに「入院」というイベントが突然起こり,現実を突き付けられる……。入院って結構“残酷”なんです。ここで現実を受け止められない患者さんやご家族を責めるのは,プロフェッショナルな姿勢ではありませんよね。むしろ,この機会に患者さんの置かれている状況を的確に評価し,患者さんの人生を少しでも良い方向に向けることができたら――,まさにプロフェッショナルです。ぜひ研修期間中に身につけてほしいスキルです。順を追って考えていきましょう。

忙しい臨床現場の強い味方!“CGA 7”

 入院する高齢患者さん全員を評価することは,現実的に難しいでしょう。介護保険認定の要介護度は参考になるので,要支援1(介護は必要ないものの生活の一部に支援が必要な状態)以上は評価対象になります。また,日本老年医学会が提唱している“フレイル”(健常と要介護の間の状態;体重減少,易疲労感,握力低下,歩行速度低下,身体活動性低下の5項目のうち3項目以上に該当)も,対象と言えるでしょう。それ以外にも,表1の項目に当てはまる場合は,「廃用予備軍」と考えるべきです。

表1 包括的評価の対象

 実際の包括的な評価ですが,広く系統的に評価できる有用なツールとして「高齢者総合的機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment;CGA)」があります。80年ほど前に提唱された概念ではありますが,CGAを行うことで死亡率低下,在宅生活期間延長,入院率低下などに効果があるという報告もあり,ぜひ実施しておきたいところです1)。ただ,実際に行うとなると項目も多く,毎回行うのは正直大変です。最近使われている“CGA 7”は,簡単な質問で包括的な評価を過不足なく行うことができます(表2)。皆さんが一般外来をする際にも役に立ちますので,ぜひ覚えておいてください。

表2 CGA 7の確認・質問内容例(参考文献2より改変)

認知機能は“Mini-Cog”ADL/IADLは“DEATH SHAFT”で

 CGA 7で3つの単語の復唱と遅延再生(3-Itemテスト)の両方,あるいはいずれかができなかったときは,時計描画試験(Clock Drawing Test;CDT)を追加しましょう。数字と針のある時計の絵を描いてもらうことで,側頭葉(意味記憶),前頭葉(実行機能),頭頂葉(空間認知)の評価を行います。3-ItemテストにCDTを加えたものを“Mini-Cog”といい,2点以下の場合の認知症に対する感度は76~99%,特異度は83~93%と報告されています3)。ここで認知症が疑われた場合は,おなじみの長谷川式簡易知能評価スケールやMMSE(Mini-Mental State Examination)でより詳細な評価をしましょう。

 ADL(Activities of Daily Living;日常生活動作)とIADL(Instrumental Activities of Daily Living;手段的日常生活動作)の評価も可能な限り行いたい項目です。でも,いきなり「ADL/IADLの評価をしておいて!」なんて言われても困りますよね。ここで登場するのが,第4話(第3190号)でも少し触れた“DEATH SHAFT”です(表3)。DEATHはADL,SHAFTはIADLの評価項目の頭文字で,身体機能を過不足なく評価できます。ツールとしては非常に有用なのですが,患者さん本人の前で言うには少しはばかられるのが難点……。

表3 ADL/IADLの評価項目“DEATH SHAFT”

実は一番の問題!?社会的支援の問題

 今回のように,退院直前になって「帰ってこられても介護できません」といった“土俵際のどんでん返しパターン”は非常に多いですし,そう言われてしまうとわれわれはどうすることもできません。患者さんの置かれた状況も入院時の要チェックポイントです。①経済的状況(余裕があるか,援助が必要か),②婚姻状況(配偶者はいるか,いない場合は離婚・死別・未婚のどれなのか),③家族状況(子どもと同居している,あるいは近隣に住んでいるか,施設入所中か),④家族関係(親密なのか,疎遠なのか),⑤集団行動(積極的か,可能か,消極的か,拒否しないか)といった項目を確認したいところです。ただ,プライベートな質問もありますので,可能な限りの聴取にとどめておきましょう。

 こうした作業は,救急外来や集中治療,手術などと比べると,圧倒的に地味です。効果もすぐには出ないかもしれません。でも,確実に患者さんの利益につながる作業です。“地道にコツコツ”を積み上げていきましょうね。

セワシ先生の今月のひと言

フレイルなどの「廃用予備軍」の高齢者には,積極的に包括的な評価を! CGA 7でスクリーニングし,必要に応じてMini-CogやDEATH SHAFTでより深く評価しましょう。退院間際のどんでん返しに備えて,社会的支援の評価も忘れずに。

つづく

参考文献
1)Lancet. 1993[PMID:8105269]
2)日本老年医学会.健康長寿診療ハンドブック.メジカルビュー社;2011.
3)Am Geriatr Soc. 2003[PMID:14511167]

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