医学界新聞

2016.11.21



Medical Library 書評・新刊案内


がん化学療法 レジメン管理マニュアル 第2版

濱 敏弘 監修
青山 剛,東 加奈子,池末 裕明,川上 和宜,佐藤 淳也,橋本 浩伸 編

《評 者》堀 里子(東大大学院特任准教授・育薬学)

より充実した薬学的ケアを実践する上での心強い味方

 本書は,薬学的ケアに欠かせない「がん化学療法レジメンの知識を整理して身につけたい!」「最新の情報をアップデートしたい!」とお思いの方にうってつけの良書です。何より,それらの知識を目前の患者の治療やQOLの維持向上にどう生かせばよいかも同時に学べる工夫が随所にみられます。

 本書では,レジメンごとに抗がん薬の処方鑑査のポイントや減量基準,調剤のポイント,抗がん薬投与時の注意点といった「安全な治療」のための情報が簡潔でわかりやすく解説されています。患者のQOL維持向上に欠かせない「副作用マネジメント」のための情報も豊富です。レジメンと副作用は時系列に表形式でもまとめられており,支持療法を含む治療計画と副作用の発現時期や対策のポイントが一目でわかり,大変便利です。さらに,抗がん薬の相互作用や腎機能低下時の考え方,支持療法(副作用対策)や栄養管理のポイントといった,薬学的ケアを実践する上で習得しておきたいトピックも総論で学べる構成になっています。

 そして,CASEで学べる「薬学的ケアの実践」の項目は,本書の最大の魅力だと思います。臨場感ある個々のCASEを通して,抗がん薬の処方鑑査や投与時の注意点,副作用マネジメントのための知識をどのように“よりよい治療”と“QOLの維持向上”に結び付ければよいか,具体的なイメージが湧くので,理解がぐっと深まります。本書は,現場で手の届くところに置いておき,さっと調べられる手軽さもありますが,腰を落ち着けてCASEを軸に読み進めながら,レジメンへの知識を深めていくという楽しみ方もあると思います。

 長期にわたるがん化学療法では,在宅での患者の生活やその家族・介護者に寄り添った薬学的ケアがますます求められます。本書は,病院薬剤師にとっても,薬局薬剤師にとっても,相互連携のもと,より充実した薬学的ケアを実践する上での心強い味方となるでしょう。さらに,薬剤師ならではの視点で,よりよいがん化学療法を実現するノウハウが詰まっていますので,抗がん薬治療にかかわる医療・福祉専門職の方々にとっても広く役立つものと思います。

 臨床現場で活躍されている薬剤師の方々が,それぞれの熱い思いも込めて生きた情報を共有し,わかりやすく実践的なマニュアルとして本書を作り上げてくださったことに心より敬意を表したいと思います。本書を多くの方に手に取っていただき,それぞれの現場で,薬学的ケアを実践していただけることを願っています。

B6変型・頁506 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02536-2


肺癌診療ポケットガイド

大江 裕一郎,渡辺 俊一,伊藤 芳紀,出雲 雄大 編

《評 者》平井 みどり(神戸大病院教授・薬剤部長)

医師のみならず薬剤師にとっても極めて有用

 コンパクトなサイズの250ページ余りの中に,肺癌に関する疫学から診断,治療,緊急対応,薬物治療に関する副作用対策や合併症対策,緩和など,ざっと全領域をカバーしているポケットガイドである。本書は著者が全員国立がん研究センター中央病院の所属であり,当該病院のレジデント教育テキスト,といった趣きであるが,医師だけにとどまらず,薬剤師にとっても極めて有用な書籍である。

 肺癌治療は進歩し続けており,その結果が本書の3ページにある部位別年齢調整死亡率に示された,肺癌死亡率の低下となってはいるが,実際は男性の癌死亡では最も例数が多く,対応の余地がまだまだ存在する。診断と治療の最新の状況が記載された本書は,多くの臨床試験の成果によって支えられており,項目ごとにそれら臨床試験の報告が文献として記載されている。エビデンスに基づく推奨度も示されているため,困ったときに開けばヒントがきっと得られるだろう。大規模臨床試験に関する説明は,基本的なことから現在の世界的潮流に至るまで書かれており,その一方でマーカーや遺伝子変異など,個別化医療に関する視点も忘れてはいない。

 治療の進歩は,癌サバイバーを増やすことであり,その人たちの生活をどう支えるか,家族へのケアも含めて大きな問題となっている。本書には「社会資源」(p.191)という章立てで,介護保険あるいは障害年金の説明があり,精神的・心理的サポートも「緩和医療」の項目(p.144)に含まれている。加えて,チーム医療についても上野直人氏の「チームオンコロジーABC」の考え方と,チームのメンバーについての説明にページが割かれており(p.198),それぞれの職種の専門性について他の職種が理解を深め,チームの結束を強めるのに貢献するだろうと期待できる。

 随所に「Nurse’s Eye」,すなわち看護師の視点というコラムが挟まれており,面白く読ませていただいた。本コラムは,セルフケアのポイントや患者の不安にどう対処するか,といった患者目線に添ったテーマで書かれており,エビデンスの並ぶ医療者視点一色になりがちな本文に,アクセントを与えている。薬剤師の立場からの希望を言えば,「Pharmacist’s Eye」もあったらなあと思った次第である。

 以上,本書は肺癌の専門家のみならず,がん治療および臨床試験に携わる医療者の手元にあれば,大変役に立つ一冊であることは間違いない。

B6変型・頁256 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02506-5


《眼科臨床エキスパート》
角結膜疾患の治療戦略
薬物治療と手術の最前線

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信 シリーズ編集
島﨑 潤 編

《評 者》白石 敦(愛媛大教授・眼科学)

治療戦略を立てるまでのプロセスを詳しく解説

 眼表面は細隙灯顕微鏡で最初に観察する部位であるため,誰でも眼表面疾患の異常所見は目にしているはずである。典型的な所見・疾患は,自信を持って診断・治療ができるものの,実際には確定診断に至らない症例も多いのではないだろうか? 眼表面疾患は角膜・結膜という二つの組織の異常状態ではあるものの,その原因はさまざまである。眼表面を覆っている涙液の異常,外界にさらされているための外的要因,感染症,免疫異常,変性症,眼瞼異常など眼表面疾患に影響を及ぼす因子は多岐にわたり,それらが単独または複合的に影響して病態を形成している。眼表面疾患診療の醍醐味は,所見からどのような因子が影響しているか推測しながら治療戦略を立てることにある。

 このたび発刊された,島﨑潤先生編集の《眼科臨床エキスパート》『角結膜疾患の治療戦略――薬物治療と手術の最前線』は,治療戦略との題名があるが,正しい診断をした上で,治療戦略を立てるといったコンセプトで構成されており,治療戦略を立てるまでのプロセスが詳しく解説されている。

 第1章の総説では,角結膜組織の機能についての基本的な説明がなされ,その機能が破綻した場合の病態,そしてその治療概念について解説がなされ,第2章以降がスムーズに理解できる序章となっている。

 第2章は,診断に必要となる検査方法が取り上げられている。近年,眼表面検査機器の発達は目覚ましく,診断能力も飛躍的に向上してきた。本章では各検査のスペシャリストが最新の検査機器,コンセプトを多くの図説を交えて詳しく紹介しており,本書を片手に自らが検査を行い,検査結果が判定できる流れにまとまっている。

 そして第3章では結膜疾患,第4章では角膜疾患を病態別に専門家がその概念を説明し,薬物治療,外科治療についてなぜその治療が必要か,効果があるのか詳細な解説を行っている。日常診療で遭遇する症例に対して,どのような治療戦略を立てればよいか導き出せる構成となっている。項目間には最新の話題が盛り込まれており,新たな疾患概念や治療方法がアップデートできるよう工夫がされている。

 また,手術手技についてはWeb動画が閲覧可能であり,基本的な手術手技から最新の手術手技まで23の動画が掲載されている。そのどれもが手技のポイントが簡潔にまとめられた動画であり,本書を購入すると付いてくる一度で二度おいしい付録となっている。

 編者が「序」で書かれているように,本書は「角結膜疾患を一から学びたい」「治療に困っている角結膜疾患がある」「角結膜疾患の知識をアップデートしたい」と思っている人に最適の書籍ではないだろうか。本書を手にすると,診察台から手放せない一冊になるはずである。

B5・頁424 定価:本体17,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02504-1


《眼科臨床エキスパート》
知っておきたい神経眼科診療

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信 シリーズ編集
三村 治,谷原 秀信 編

《評 者》池田 恒彦(阪医大教授・眼科学)

神経眼科領域が身近になる一冊

 このたび,医学書院から《眼科臨床エキスパート》『知っておきたい神経眼科診療』が上梓された。本書の特徴としては以下の四つが挙げられる。

 第一に,一般の眼科臨床医がやや難解と感じ敬遠しがちな「神経眼科」という領域を,非常にわかりやすく,しかも興味深く読めるように企画されている点である。編集を担当された三村治教授,谷原秀信教授の企画力の素晴らしさは言うまでもないが,実際に執筆されている先生方は,現在の各領域で最もアクティブに活躍されている先生方であり,全員が編者の意図をよく理解し,同じコンセプトを共有しながら熱意を持って執筆されていることが,ひしひしと伝わってくる。各論では,われわれが日常臨床でしばしば遭遇する疾患から,比較的まれだが重要な疾患まで,神経眼科領域におけるほぼ全ての疾患が網羅されている。

 第二に,画像をふんだんに使用して,視覚的に印象に残りやすい構成になっている点である。最近の日本神経眼科学会誌の論文や同学会の演題を見ていても感じることだが,従来のMRIやCTといった画像以外に,最近は光干渉断層計(OCT)を日常臨床で使用する頻度が激増している。その影響もあり,神経眼科と緑内障や網膜疾患との垣根も従来に比較して格段に低くなってきており,その他いろいろな領域とオーバーラップする内容も多くなってきている。神経眼科を専門にしていない眼科医でも,とっつきやすい書き方がされているので,読者にとっては非常にありがたい教科書と言える。また,各画像のクオリティが非常に高いのも特筆すべき点である。

 第三に各論では,「一般眼科医へのアドバイス」という項目を設けて,一般眼科医が日常臨床において潜在的な神経眼科疾患を見逃さないポイントを明記している点である。この内容はどれも非常に重要で,日常臨床に役立つこと請け合いである。このコーナーを読むことで,日常臨床で何気なく通りすぎていく症例の中から,重要な神経眼科疾患が数多く見つかることを期待したい。

 最後に,「Topics」という項目で,最新のホットな話題を提供している点である。これらの内容も非常に興味深く,学会のシンポジウムに出てくるような内容を教科書で学べることは非常にありがたい。今まで治療法がなかった疾患に対する新治療の可能性や,新たな診断法などが,コンパクトにまとめられているので,とても勉強になる。

 上記のように本書を読むことで,一般眼科医が神経眼科疾患をより身近に感じられるようになることは間違いなく,その結果日本の眼科臨床レベルが向上するものと確信している。特に若い世代の先生方にはぜひ本書を活用していただき,今後,神経眼科を専門にする先生がどんどん出てきてほしいと願っている。現在のわが国の眼科はやや領域に偏りが見られるのも事実であり,本書がその突破口となるものと期待される。最後に本書を企画,執筆された多くの先生方の熱意に心から敬意を表したい。

B5・頁400 定価:本体17,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02518-8


DSM時代における精神療法のエッセンス
こころと生活をみつめる視点と臨床モデルの確立に向けて

広沢 正孝 著

《評 者》阿部 隆明(自治医大教授・精神医学/自治医大とちぎ子ども医療センター子どもの心の診療科科長)

真の臨床家による精神療法への導きの糸

 最近は,精神科治療の標準化が進められ,うつ病をはじめとして,治療アルゴリズムが作成されている。これによって,マニュアルさえあれば非専門医でもそれなりの治療ができる時代になった。その前提となっているのが,DSMをはじめとした操作的診断である。学生からは,精神医学は他の身体医学に比してとらえどころがないという評価を受けてきたが,このDSMは評判が悪くない。ある意味で非常にわかりやすいのである。とはいえ,操作的診断とは,基本的に症状の数と持続期間で定義されるものであり,その背景病理は問われない。同じく「うつ病」と診断されても,神経症性のうつ病とメランコリアの特徴を持つうつ病では,最初のアプローチが異なってしかるべきであり,従来は病態の質や患者の病前性格,発病状況,発症機制などが重視されていた。一昔前の精神科研修の目標は,さまざまな観点から微細な病像の差異を的確に評価し,最適の治療を行う術を身につけることにあったのである。他方,治療アルゴリズムとは,操作的に診断された精神障害に対する各治療法の効果の統計的有意差から導き出されたものであり,個々の患者にどの治療が最適かを判断するきめ細かな基準はない。本書はこうした「DSM時代」の憂慮すべき精神科臨床の現状に応えようとするものである。

 本書は2部構成で,第I部は基礎編として,自閉スペクトラム症,統合失調症,うつ病の基本的な精神病理を論じている。特に自閉スペクトラム症の心の構造論は著者の十八番で,6年前の著書から一貫して提唱されている格子型人間の心の特徴が解説されている。統合失調症とうつ病に関しては歴史的な研究を踏まえて,そのそれぞれの病態に関する精神病理学の知見が手際よくまとめられている。さらに,この3大精神障害に関しては,症例を呈示した上で,精神療法のポイントについても触れている。第II部は,応用編として,幻覚・妄想,うつ,不安という症状ごとに,症例を挙げて背景疾患の鑑別や精神療法のポイントについて述べている。実際の臨床では,むしろこちらの説明がより有用であるが,第I部の知識を踏まえて,理解しやすいように構成されている。

 通読して感じるのは,全体に病態把握と精神療法がバランスよく配置されていることである。精神病理学者の解説書は,理論に走るあまり,精神療法がおろそかになってしまうこともまれではないが,本書を見る限り,著者が真の臨床家であることは明らかである。また,DSMや治療アルゴリズムの利点も十分評価した上で,それを補う意味で精神科臨床に必要なノウハウを簡潔に提示している。実際には,研修医が机上の知識だけでひとりの患者の診立てをして,精神療法を行うことは難しい。可能であれば,臨床経験の豊富な上級医に付いて,症例に即して病態や精神療法を学ぶことが最善であるが,それがかなわぬ医療環境もある。その際には,本書が格好の導きの糸となろう。臨床にかかわる全ての精神科医ならびに臨床心理士に一読をお薦めしたい。

B5・頁160 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02485-3

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