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第3163号 2016年2月22日


【インタビュー】

混合研究法で看護研究が深くなる
ミクロとマクロの視点から現象を立体的に理解する方法論

抱井 尚子氏(青山学院大学国際政治経済学部 国際コミュニケーション学科教授/日本混合研究法学会理事長)
亀井 智子氏(聖路加国際大学看護学部教授/同大学研究センターPCC実践開発研究部長/同大学WHOプライマリーヘルスケア 看護開発協力センター/日本混合研究法学会理事)


 医療,教育,そして看護といった実践研究分野において近年注目を集める混合研究法。看護が研究対象とする人間を取り巻く現象は複雑であり,質的・量的いずれか単一の研究手法では,とらえられる現象は一側面にとどまる。混合研究法では,質的・量的研究を体系的に統合することで,現象を立体的に見ることが可能になる。

 本インタビューでは,『混合研究法入門』(医学書院)の著者である抱井尚子氏と,混合研究法を用いた看護研究に取り組む亀井智子氏に,どのような看護研究に混合研究法が適しているのか,活用する際のポイントや注意点を聞いた。


――なぜ今,看護研究において混合研究法(Mixed Methods Research;MMR)が注目されているのでしょうか。

抱井 看護研究の対象となる現象は何層ものレベルの事象が絡み合っているため,その複雑な現象を理解し,問題の解決策を探るには,単一メソッドによるアプローチでは限界があるからだと思います。MMRでは,質的・量的アプローチを体系的に組み合わせることで,どちらか一方のみの研究アプローチを使用したときよりも現象を立体的に見ることができ,研究課題に関するよりよい理解が得られます。看護以外でも,教育,社会福祉,経済,経営,コミュニケーションといった,課題解決型の社会科学の諸領域においてもMMRに関心を示す研究者が増えています。

質的・量的データの混合が新たな理解を生む

――亀井先生は実際に看護研究にMMRを活用されていますね。

亀井 看護研究で初めてMMRを用いたのは,世代間交流による高齢者の心の健康や子どもの高齢者観の変化を調査する実践的な研究1)です。最近では,地域在住高齢者の転倒予防に関するランダム化比較試験にフォーカスグループインタビューを組み合わせた研究2,3)を行いました。

――MMRを用いることで,結果をより深く理解できるようになったというような手応えはあったでしょうか。

亀井 はい。長年1つの研究目的を達成するためには1つの方法論しか用いてこなかったため,異なる2つの方法論を混合することでより深い理解が生まれるということは大きな驚きでした。

 ただ,もともと質問紙を用いた大規模調査などの量的研究の中で,統計学的分析や検定だけでは設定した仮説の検証が困難なことがあるとも感じていました。そこで実際に量的研究の中にケーススタディを取り入れ,特徴的な事例を描写して結果を組み合わせてみたところ,量的には意味がないように思えた結果でも,質的に意味が見いだせることがあるとわかったのです。また,質問紙調査でも自由記述の部分を内容分析するなど,一つの調査の中で質と量両方のデータを見るということはもともと行っていました。

抱井 量的研究では説明できない意外性のあるケースや仮説に合わない外れ値を対象にして考察を深めることもできるのがMMRの魅力ですね。

亀井 看護研究の対象は,一家族・一個人ごとに個性や特性があるので,数や点数といった量的データだけでは説明しきれない部分が出てきますよね。そこを質的データで補足することで,現象をリアルに表現できるようになります。また,質的データは量的データで補足することで,個人の経験がどの程度一般化できるものなのかを判断できるようになります。

 質的・量的それぞれのデータをブレンドすることで,数値データに意味や解釈を与えるとともに,対象者の語りや行動に数的な理解を与えるのがMMRなのだと感じています。

あなたが取り組んでいる研究もMMRかもしれない!?

抱井 看護師の方々は気付かぬうちに,実はMMRを用いた研究を行っているだろうと思います。昨年3月の日本看護科学学会のセミナーでは,宮下光令先生(東北大教授・緩和ケア看護学)が地域緩和ケア提供体制の確立に向けた研究の成果を発表されました。先生は,明らかにしたい内容に合わせて研究を行っていたら,その方法がMMRだったと後から知ったとおっしゃっていました。

亀井 博士論文の研究計画書でも,質的・量的両方のデータ収集が入っているケースがしばしば見受けられます。「混合研究法」というかたちは知らなくても,看護におけるさまざまな現象を明らかにするためには単一のメソッドだけでは足りない部分があることに研究者は気付いているのだと思います。

――そういった方々がMMRの理論を体系的に学べば,よりスムーズに,かつ戦略的に研究が進められるようになりそうですね。

抱井 MMRは研究アプローチとしてはそう難しくありません。興味を持ったらぜひ実際に取り組んでみてほしいと思います。

質的・量的データの統合によるシナジー効果を意識した計画を

――MMR実施前の注意点はありますか。

抱井 まず,研究に取り掛かる前に,①自身の哲学的・理論的立ち位置,②時間的・金銭的・知識的・技術的リソース,③MMRを用いる理由(研究の目的)を確認してください。

 特に①は重要です。一つの研究手法を用いているときにはあまり意識されないかもしれませんが,「現象を“記述”すること」を目的とする質的研究と「相関関係,因果関係や有効性などの“検証”」を目的とする量的研究では,サンプル数の違いなどにも表れているように理論的・哲学的立ち位置が異なります。それらを効果的に組み合わせるには,理論的・哲学的立ち位置の理解と,研究者のクリエイティビティが必要とされます。

亀井 「統合」や「ジョイント・ディスプレイ」を行う際に,その重要性を強く意識するところですね。

抱井 はい。「統合」は,2つの異なるデータセットの分析結果をまとめることで,一方のデータセットの分析結果のみからは得ることのできない新たな知見が何かを検討することです。「ジョイント・ディスプレイ」は質的・量的データを組み合わせ,統合結果を視覚的に提示する手法を指します。どちらも,質的・量的研究にはないMMRならではの部分です。ただ漠然と質的データ・量的データを集めるだけではMMRにはなりません。研究計画の段階から,最終的にどのように「統合」するかを意識することが重要です。

 また,MMRでは質的・量的データの両方を必要とするので,時間もコストも労力もかかります。MMRを用いる理由にもつながりますが,比較的単純な現象の解明であれば,単一の手法のほうが効率的です。両者を組み合わせることで得られるシナジー効果をよく考えて計画してほしいと思います。

博士課程の研究で取り組んでほしい

――学部や修士課程では論文作成期間が短いので難しいでしょうか。

抱井 そうですね。学部や修士課程では,単一の手法で一つの論文をまとめることをまずは経験してください。

 博士課程であれば,難易度の高い研究を時間をかけて行うことになるので,ぜひ挑戦してほしいと思います。「研究のための研究」ではなく「実践に貢献する知見を見いだすための研究」としては,MMRはベストのアプローチだと私は思っています。

――それまで質的・量的どちらかの研究手法しか経験したことがなくても取り組めますか。

抱井 保健医療の研究においては,多くの研究者が各研究手法の専門家によるチームを組んでアプローチしています。質的・量的研究どちらか一方だけでも熟達するのは大変ですからね。

亀井 私の場合,質的データの分析は研究室の他のメンバーにお願いしています。各分析はチームで分担して行うとしても,相手のロジックがわからなければ結果を理解できませんので最低限の基礎知識は必要ですが,方法論については看護の基礎教育で両方とも学びます。博士課程レベルであれば十分可能だと思います。

――MMRに熟達した指導者が周囲にいない場合にはどうすればよいでしょうか。

抱井 博士課程レベルの方であれば,参考となる書籍さえあれば取り組めると思います。私が初めてMMRに触れたのはハワイ大附属がん研究センターで研究助手をしていた1990年代半ばですが,MMRの研究者たちから直接講義を受ける機会を得たのは,2005年以降になってからです。それまでは半ば独学で進めてきました。

亀井 私もセミナーや講義を受けたのは最近になってからです。それまではMMRの第一人者であるJohn W. Creswell先生の著書『研究デザイン――質的・量的・そしてミックス法』(日本看護協会出版会)や『人間科学のための混合研究法――質的・量的アプローチをつなぐ研究デザイン』(北大路書房)を参考に取り組んできました。

――大学ではどのようにMMRを教えているのでしょうか。

抱井 私の研究室では,院生にはMMRの書籍を一冊読むよう義務付けています。各自で読んで,内容をまとめて発表し,レジュメを基に議論する。ゼミでは,2-3人のチームで実際にプロジェクトに取り組んでもらいます。

亀井 本学大学院では,看護学研究法という科目が必修科目にありますが,授業時間を考えるとMMRまでカリキュラムに入れるのは難しいのではないかと思います。しかし,興味を持った院生が取り組めるように,研究計画の中にMMR的要素があれば書籍を紹介することや,指導教員として院生の研究枠組みを一緒に考えるなど,個別に相談に応じています。また,研究室では折に触れ勉強会を行っています。

――MMRではどのように質的研究と量的研究を組み合わせるのですか。

抱井 質的・量的データを組み合わせたものは全てMMRと言えるので,質的・量的データの比重,データを集める手順,まとめ方もさまざまです。大きく分けると図1に示した3つの原型があります。

図1 MMRデザインの三つの原型(文献4より一部改変)(クリックで拡大)

亀井 私が冒頭に挙げた研究は収斂的デザインですね。

――MMRにはさまざまな研究デザインがありますが,初学者でも比較的取り組みやすい研究デザインはありますか。

抱井 順次的デザイン(図2)は,先に一方の研究を行ってからもう一方に取り組めばよいので,時間はかかりますが比較的簡単に実施できると思います。まずは一方の方法の論文で学位を取得しておいて,後からもう片方のデータに取り組んで深めるという方法も,順次的デザインであれば可能です。

図2 説明的順次的デザインの一例(文献5より抱井作成)
ミシガン大附属ウィメンズ・ホスピタルで行われたFettersらによる研究の例。本研究の主要なデザインは説明的順次的デザイン(量→質)。同院で出産した日本人女性を対象に,出生前健診における麻酔分娩の事前同意のプロセスに対しどのような態度を取ったかを質問紙により数量的に調査し,そのプロセスにおいて何を経験したかを半構造化インタビューでフォローアップしている。さらに,収斂的デザイン(量+質)を補足的に組み込み,医療関係者に対して数量的回答と自由記述の質問項目を併用した質問紙調査を行っている。

 初心者のうちはシンプルな基本型を基に実践し,慣れてきたら自分の研究目的に合わせてより複雑なデザインへと発展させるなど,類型にとらわれず,流動的にデザインできるようになるといいですね。

亀井 最初はあれもこれもと欲張らず,リソースの限界から現実的に考えて実行可能な計画を立てることが大切だと思います。

MMR研究をどう発表すべきか

――今後の展望や課題を教えてください。

抱井 昨年9月に開催した第1回日本混合研究法学会では,レベルの高いMMR研究が多数発表されました。現在,看護系大学を中心に講演依頼を多数受けているので,MMRに取り組む方が今後ますます増えると期待しています。

 そのような中,現在課題となっているのは,研究成果の投稿先です。方法論についての議論であれば,私が常任査読委員を務めるJournal of Mixed Methods Research誌に投稿していただきたいのですが,MMRにより明らかになった事象について深く議論したいのであれば,看護の各専門領域の雑誌に投稿したほうがよいでしょう。しかしMMRはまだ新しい研究法であるため,各専門領域の雑誌だとMMRをどのように評価すればよいかわからない査読者も多いと予想されます。

亀井 私は国内外両方の雑誌に投稿し,それぞれ1誌に論文掲載となった経験がありますが,いずれの雑誌でも質的研究と量的研究に分けて,2つの論文として投稿したほうがよいのではないかという査読コメントを受けました。

抱井 その点に関しては,MMR研究者の中でも意見が統一されていません。MMRとしてのシナジーを論文に示すことが重要なので分割すべきでないという考えもありますし,2つの手法を1つの論文の中でまとめるには分量制限の壁もあるので,質的研究・量的研究・統合という3つの論文に分ける形でよいという考えもあります。

亀井 MMRはどうあるべきか,自分自身の考えと合う雑誌を選ばないといけませんね。

抱井 査読者の方々の参考となるよう,今年8月27-28日に東邦大(大会長:野崎真奈美氏)で 開催予定の第2回日本混合研究法学会では,現在Journal of Mixed Methods Researchの共同編集委員長を務めておられるFetters先生をお招きして,MMR論文の査読方法についてのセミナーを企画しています。より多くの方にMMRを知っていただけるよう,さまざまな層に向けて啓発していきたいと考えています。

――ありがとうございました。

(了)

参考文献
1)亀井智子.特集 混合研究法が創る未来――第1回日本混合研究法学会学術大会より <基調講演3>看護における混合研究法の活用――世代間交流看護支援の研究を例に.看護研究.2016;49(1):16-24.
2)Kamei T, et al. Effectiveness of a home hazard modification program for reducing falls in urban community-dwelling older adults : A randomized controlled trial. Jpn J Nurs Sci. 2015 ; 12(3) : 184-97. [PMID : 25212766]
3)亀井智子,他.地域高齢者のための包括的転倒予防SAFETY on!プログラムの開発と効果の検証,2012年度-2014年度科研挑戦的萌芽研究課題番号24660058 (2014年度最終年度報告書は2016.2.5現在,KAKENデータベース上未公開)
4)坂下玲子.連載 看護研究の基礎――意義ある研究のためのヒント・第12回Mixed Methods研究.看護研究.2012;45(7):712-20.
5)Fetters MD, et al.Advance consent in Japanese during prenatal care for epidural anesthesia during childbirth. JMMR. 2007 ; 1(4), 333-65.
6)抱井尚子.混合研究法入門――質と量による統合のアート.医学書院;2015.


かかい・ひさこ氏
青山学院大国際政治経済学部国際経済学科卒。サン・ディエゴ大大学院修士課程(教育カウンセリング学)修了,ハワイ大大学院博士課程(教育心理学)修了。ハワイ大附属がん研究センター研究員として,質的・量的および混合研究アプローチを用いた大規模調査を経験。がん患者の補完代替医療の使用,高齢がん患者に対するがん告知の文化比較,統合がん医療,批判的思考態度の形成における文化の影響など,健康科学・教育関連の研究を行う。2002年より現職。著書(編著)に『混合研究法入門――質と量による統合のアート』(医学書院),『コミュニケーション研究法』(ナカニシヤ出版)など。Journal of Mixed Methods Research常任査読委員,日本混合研究法学会理事長など役職多数。

かめい・ともこ氏
聖路加看護大(現・聖路加国際大)卒。同大大学院修士課程修了,昭和大医学部公衆衛生学教室特別研究生修了。医学博士。保健所保健師,自治体立病院看護師等を経験後,東医歯大保健衛生学科助手・講師,聖路加看護大助教授を経て,2007年より現職。高齢者の転倒予防やテレナーシング(遠隔看護),世代間交流などに取り組む。著書(編著)に『根拠と事故防止からみた老年看護技術』(医学書院),『これからの在宅看護論』(ミネルヴァ書房)など。日本在宅ケア学会理事長,日本老年看護学会理事,日本混合研究法学会理事など役職多数。