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第3159号 2016年1月25日


Medical Library 書評・新刊案内


医療政策集中講義
医療を動かす戦略と実践

東京大学公共政策大学院 医療政策教育・研究ユニット 編

《評 者》坂本 すが(日本看護協会会長)

ここにはチーム医療の縮図がある

 そこは「ハーバード白熱教室(NHK)」さながらの熱気であった。講師も受講生も皆一緒になって議論する。若いナースもいればベテランのドクターもいる。どうやら医療職種だけというわけでもない。日本の大学の一般的な授業風景とは異なる世界がそこにあった。社会人向けの講座であるから,いろいろな人が集まっているのであろうが,年齢も職種も風貌も異なる人々が,何についてこれほど熱い議論を交わしているのだろうか。

 東大公共政策大学院の医療政策教育・研究ユニットが社会活動として実施する「医療政策実践コミュニティー」。通称H-PACは,患者支援者,政策立案者,医療提供者,メディアの4つの異なる立場の者から構成される。受講生は常にミックスチームを作って,共に政策提言や事業計画書の成果物を作り上げる。

 「医療を変えなければならない」「変えるためにアクションを起こさなければならない」「ではどうやって?」さまざまな立場の思いが合わさり気迫すら漂ってくる教室に,私は評者として参加する機会を頂いた。隣に座っていたのは,日本医師会会長の横倉義武先生と厚労省の医政局長であった。

 ここにはチーム医療の縮図がある。異なる専門性,主義・主張を持つ人々,いわゆるステークホルダーが,違いを認識し合いながら,合意形成を行っていくプロセスを再現する絶好の場である。第一線で活躍する講師陣による20本の集中講義に参加するうち,共通の課題,思いがあることに気付かされる。そして「今こそ私たちはともに行動しなければならない」と強く心を突き動かされる。

 H-PACでは,知識,マネジメント,リーダーシップの3つがそろって初めて変革ができると考えられている。まさにその通り。看護の立場から言わせていただくと,これからの看護職はこの3つを兼ね備えるべきと思う。今後,在宅・地域での看護実践がより一層期待される中で,看護職自らが判断し,自律的に活動していかなければならないからだ。

 その意味で,特に看護職の皆さんにはChapter4「成果をもたらすリーダーシップ」を参考にしていただきたい。うれしいことに,辻哲夫先生や髙本眞一先生も自律的な看護職の活動に期待を寄せている。「リーダーシップを発揮しなさい」と言われると重荷に感じる人も多いだろうが,まずは自分の考えを持つことである。現在の社会情勢から,看護職の立ち位置を認識し,「何を成すべきか」考える。自分の考えを確立し,その信念に基づいて行動を起こすことがリーダーシップの第一歩となる。

 次は協働である。国の政策をも動かす大きな変革を起こすには,多くの人と力を合わせる必要がある。自分と異なる立場の人といかにコラボレーションするか。そのヒントが本書に隠されている。本書を参考に,一人ひとりが自分の考えを確立し,協働を生み出す戦略を探ることが「医療を動かす」知の創造につながるだろう。

A5・頁328 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02164-7


看護教員に伝えたい
学校管理・運営の知恵と工夫

江川 万千代 編

《評 者》西村 由紀子(純真学園大教授・健康福祉学)

運営の指針を一つにする知恵と工夫が随所に光る一冊

 本書は,江川万千代氏の看護教育や臨床現場での実践や管理をはじめとする豊富な経験を基に記されたものである。学校管理や運営は学校長や教務主任だけの役割ではなく,看護教員も管理者の一員という自覚が必要という考えに基づき,基本的かつ具体的な内容が実例を交えて紹介されている。

 本書は7章から構成されている。1,2章には,学校経営・運営の基本的な内容が述べられているが,1章の冒頭で看護学校経営と管理・運営の関連図および学校経営のステップが示してある。これにより経営・管理・運営のめざすところや関係,その要素が多岐にわたることにあらためて気付かされる。さらに学校がその使命を果たすには,運営の目標を長期,中期,短期で立案した上で,学校長以下学校職員が組織上の役割を遂行していくことが重要であるとしている。

 3章のタイトルは「看護学校運営の中心はカリキュラム」である。文字通り教育理念を実現するためのカリキュラムについて,教育理念に始まり,教育課程の構造図から分野別の構成の考え方,さらに臨地実習の考え方,教科外活動や進度表に至る例示により,わかりやすく示されている。

 4章は学校運営を,学習への動機づけのための環境づくり,危機管理,情報管理,事務管理などの視点から述べられている。例えば図書室管理については,「図書室は学生のオアシス」というタイトルとなっている。紛失図書の対策で悩んでいる学校は少なくないと考えられるが,センサーや持ち物検査ではない方法で減少させることができることを紹介している。

 5章は「看護教員が身につけたい能力」,6章は「学習権の尊重と倫理的配慮」となっており,学校管理・運営の柱というべき教員,学生について述べられている。教員に「個性を尊重できる人間観をもとう」という呼び掛けに始まり,さまざまな理由で入学してくる学生の学習権を尊重するために,学習困難な状況に陥る要因を分析した上で,いつでもどこでも学習できる学生中心の環境整備・自己学習のできる環境づくりの重要性とそのポイントが具体的に述べられている。

 7章は「看護学校の自己点検・自己評価」である。ここでは1章で述べられている経営・管理・運営のめざすところに到達するために,いつ,何を,どのように点検・評価するかについて自己評価を機能させる組織づくりや評価の具体的なプロセスについて,課題を交えながら実例を用いて紹介されている。

 人口構造,医療環境,社会の期待や人々の認識の変化,看護基礎教育制度自体が転換期を迎えているなど,看護教育を取り巻く環境は大きく変貌している。こういった中で教育は,学習者を尊重し,自律的かつ発展的にその使命を果たしていく必要がある。本書は,組織の一員として自身の役割を再認識し,なぜ,何を,どのようにしていくかを考え,運営の指針の一つにすることができる知恵と工夫が随所に光る,身近に置いておきたい一冊である。

A5・頁144 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02199-9


吸引・排痰ができる[Web動画付]

虎の門病院看護教育部 監修
福家 幸子,山岡 麗,千﨑 陽子 著

《評 者》古田 恵香(名大大学院助教・健康発達看護学)

「吸引」は手技のみにあらず,ケアに膨らみを持たせる一冊

 「吸引」という技術は,ほぼ確実に対象に苦痛を与えると言っても過言ではないでしょう。一方で,「排痰」がうまくいけば痰による苦痛を緩和し,時に病態の改善に大きく貢献します。「苦痛」と「改善」のジレンマ――だからこそ看護師は,対象の苦痛を最小限にしながら最大のケア効果を上げられるよう,常に考えながら吸引というケアを進めています。

 著者の一人が書いたコラムの中で,新人のころ,ある患者さんの呼吸音が毎日聞いていた音とは違うことに気付き,間質性肺炎の急性増悪との診断で,すぐに治療を開始し救命し得た経験が紹介されています。そうした「気付き」を得るには,対象の「いつも」を丁寧に把握することが鍵を握っています。

 本書は,感染予防策をベースに置きながら「呼吸器の解剖」「アセスメント」「体位ドレナージ」「スクイージング」「咳嗽介助・ハフィング」「各種吸引手技」で主に構成され,シンプルで丁寧な手順と根拠,コツの解説がなされています。手技の本でありながら解剖やアセスメントから始まる点からも,「吸引・排痰」が単なる技術ではなく,対象の有している健康を維持する力を査定し,その力を活用しながら「吸引」の侵襲を抑え,効果的な「排痰」につなげるための“思考”を支えたいとする著者らの意図がうかがえます。

 私がこの本を手にしたのは,実を言うと『根拠と事故防止からみた小児看護技術』(医学書院)という書籍の改訂に携わり(近刊予定),小児の吸引の動画撮影を担当することになったからでした。小児に関する手技書は他に書籍も少なく,どのように自分の実践を落とし込みながら根拠をまとめるか,“小児らしい”手技の動画はどのように撮影したらよいものかと悩んでいました。

 発達段階を考慮しながら,吸引における本書の視点を新生児・小児分野においても検討していくことで,新たな気付きと検討課題を浮き彫りにさせてくれました。つまり,看護の「手技」というものを多角的にとらえながら,ケアに膨らみを持たせるベースとして本書が助けになってくれたのです。

 また,本書のWeb動画は,自分が行ったことのない手技においても,「行ってみよう」と思うことのできる丁寧な内容となっています。あるいは熟練ナースにとっても,「自分のやり方でいいのかな」と,所属するチームや組織での呼吸器ケアを振り返り,そのケアに膨らみを持たせる一助として活用できる一冊であると言えるでしょう。

B5・頁128 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02390-0


看護学生のための
実習の前に読む本

田中 美穂,蜂ヶ崎 令子 著

《評 者》田中 久仁子(聖マリアンナ医大看護専門学校)

実習への不安が軽くなる!「実習の手順書」

 「何のために実習へ行くの?」「入学前の一日看護体験と何が違うの?」,実習を前にして多くの学生が感じるのは,漠然とした不安である。実習がなんだか不安,でも「わからないことが何か」もわからない,何から解決すればいいかわからない,誰に聞いていいかもわからない,など。本書は,このような「わからないことがわからない」初学者にも,自分の不安や疑問が何なのか,そしてその解決策がわかる一冊である。

 技術でいうなら「技術の手順書」のような,いわば「実習全体の手順書」とも言える。

 まず,病院という場で実習をするときの心構え,実習中の生活や体調管理,患者さんとの会話,看護師への報告など,実習に必要な事柄が網羅されている。予防接種のスケジュールや実習中の一日の流れなどは,初学者にはイメージしづらい。本書では,タイムスケジュールの具体例などが挙げられているので,実際の行動をシミュレーションできる。

 また,明日から受け持ち患者さんに援助を実施するにあたり,何を準備しておけば適切な行動ができるのか,そして,「なぜそうするのか?」までを,読み手に考えさせてくれる。

 答えそのものではなく,「何をすれば答えがわかるか」を教えてくれるのが,この本の特徴でもある。例えば,受け持ち患者さんの疾患や診療科,受けている治療などを事前学習しておけば,学校での講義・演習を,実際の観察や援助につなげることができますよ,と教えてくれるのである。

 学生が実習中に右往左往するのは,看護援助の場面だけではない。看護師とのやり取りの方法に悩むことも多いのではないだろうか。

 本書は,学生の行動だけでなく,看護師サイドの状況も考えさせながら,実際のかかわりの方法を投げ掛けてくれる。看護師の都合を確認した後,まずは報告することの大まかな内容を伝え,それから本題に入るなど,臨地ならではのコミュニケーションの仕方は,学校内で学ぶ機会が少ない。だからこそ,具体的な方策がわかると心強い。他にも,患者さんが「入浴したがらない」「昼間寝てばかりいる」など,臨地でしか経験できないことにどのように立ち向かい,解決していくと良いかが簡潔に示されている。

 説明に堅苦しさはない。イラストや本の帯に印刷されているお守りなど,緊張したり落ち込んだりしているときに開くと「くすっ」と笑みがこぼれ,肩の力を抜かせてくれる。

 本のタイトルには「実習の前に」とあるが,実習が不安で仕方ない1,2年生だけでなく,実習のことが少しわかってきた2,3年生も,今すぐ経験しないようなことでも知っておけばお得感を味わえる内容になっている。さらに,実習に少し慣れてきた3,4年生が初心に帰ったり,今まで普通に実習してきたことが「あれ?」と感じられるような場面に出合ったとき,あらためて読み返して確認することもできる。

 また,学生だけでなく,臨地実習指導者や教員にもぜひ,手に取ってもらいたい。忘れかけていた「実習への不安」を思い出すことができれば,学生へのよりよいかかわり方が見えてくるのではないだろうか。

A5・頁128 定価:本体1,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02076-3


異端の看護教育
中西睦子が語る

中西 睦子 著
松澤 和正 聞き手・構成

《評 者》林 千冬(神戸市看護大教授・看護管理学)

全てのナースに向けられた壮大な遺言

 書名には「異端」とある。しかし,語られているのはいまだ達成し得ない「先端」かもしれない。あるいはこれを「主流」にと実は願っている,著者一流の逆説だろう。ことほど左様に“中西節”の読解は,なかなか一筋縄にはいかない。これを本書では,最良の聞き手である松澤和正氏の,発問と注釈が大いに助けてくれる。

 表紙を開けば,いきなり挑発的な目次の数々。看護教育と題した本書で,いきなり「ナースをダメにしたのは看護教育である」とくる。教育において,さらに外側の仕組みの中で,「看護は目覚めないように統制されてきた」と言う。教育も実践も状況に適応することを優先し,「チョイ借りのノウハウ教育」からも「パタン認識」からも抜け出せていない。だから大学教授も大学院生も,「ナースはあたかも問題がないかのように振る舞う」ように仕込まれ,例えば研究指導で「現場から問題を見つけなさい」といくら言っても出てこない。現場ではもともと問題が見つからないように先取りして動くから,そんなことはどだい無理だと言うのである。

 こうした痛烈なパンチの後にくる,本書に通底する第一の主題は,「生意気なナースを育てなさい」である。生意気なナースとは,わがままなナース。自分の権利に自覚的で,言葉だけの「厚化粧」を振り払って,患者の側に身を置きながら,成熟した「怒り」とともに,現実にある看護とその実践の姿をリアリスティックに捉えて,課題を見出し,自ら変えていこうとするナースたちのことなのだと,この部分は丁寧に語られる。

 既成の枠にはまらずに考えるということ自体がリアリズム。だから実習も,臨床の現実に合わせるようではいけない。教師は学生に権利を自覚させ,学生のアドボケイトでなければならない。教育の話題はさらに管理者教育に移る。管理者教育こそ全人教育。生意気で,新たに発信し,リーダーシップを担える層をどう作り出していくか。そこで必要なのはマネジメントだけでなく,大所高所から組織全体を俯瞰できるアドミニストレーションの力である。それはなぜか。「『敵は誰か』を見失ってはいけない」からである。このことが本書に通底する第二の主題である。

 著者は言う。ナースは制度の産物である。しかしその制度を,ナースがこれまで主体的に変えてきたことなど一度もないと。「私が敵と言っているのは,そういうどうしようもない『構造』のことよ」

 これを生意気なナースが変革できるよう,つまり「目覚めた人がものを言う態勢をどうつくるか」が重要だ。これまで私たちナースは,川下で溺れかけた人を救うために汲々としてきた。けれど今や,川上で溺れないよう,川上にある社会を,産業を,あるいは政治・政策を見据え変革していく「社会看護」にこそ,私たちの力は向けられるべきだと著者は構想する。

 書名には「看護教育」とある。しかしこの書は教育者のためだけに編まれてなどいない。本書は,教育する側,学ぶ側,すなわち全てのナースに向けられた,著者の壮大な遺言なのである。

四六版・頁240 定価:本体2,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02210-1

関連書
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