医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第3147号 2015年10月26日



第3147号 2015年10月26日


【取材】

看護師のためのコミュニケーションスキル研修
患者の感情表出を促す“NURSE”


 コミュニケーションスキルは,患者のニードを理解しケアに生かすため,患者-看護師関係を発展させるために重要な看護技術である。日頃,患者や患者家族と接する際だけでなく,意思決定支援の場面でも必須であり,その重要性は増してきている。

 そのスキルのひとつに,日看協の緩和ケア研修テキスト内でも紹介されるなど,がん看護領域全体に広まりつつあるコミュニケーションスキル“NURSE”がある。本紙では国立がん研究センター東病院(以下,東病院)が行う,患者の感情表出を促進する“NURSE”を中心とした研修を取材した。

【関連記事もご参照ください】
看護現場に“NURSE”を広めていきたい


 「なぜ夫だけがこんなにつらい目にあわなければいけないのでしょう。ずっと仕事もがんばってきたのに。不公平です」。妻役の参加者が,胃がんの夫が抗がん剤治療を行えない状況であると話す。「ご主人のことを考えると悔しいお気持ちですよね」。看護師役の言葉に,妻役は涙ぐんで沈黙した。看護師役が妻役の肩に手をかける。「奥様の気持ちを話していただけますか?」「……悔しいんじゃないんです。怖いんです。夫にどんな顔をして会えばいいのか,誰にも話せませんでした」。隠れていた感情に自ら気付いた瞬間だ。

患者・家族の思いや感情を意識的に聴き,寄り添う

 看護師のためのコミュニケーションスキル“NURSE”は,「共感するスキル」の一つであり,以下の基本的なコミュニケーションスキル1,2)からさらに一歩踏み込み,患者の感情表出を促す。

1.聴くための準備をする
2.現状の理解の確認,問題点の把握
3.効果的に傾聴する
4.応答するスキル
5.共感するスキル

 具体的には,まず“Ask-Tell-Ask(患者がすでに知っていることを引き出す)”で患者が自らの問題の最新の理解を説明できるように促し,看護師が説明を加える必要がある場合は簡単な言葉で伝え,理解度を確認する。次に“Tell me more”。感情の表出を促し,批判や解釈を与えることなく傾聴し,肯定的に接する。そして,“NURSE”の中でも特に重要なのは“Respond to emotion with NURSE(感情探索の技法)”。の5つの技法を用いることで,患者が自分自身の感情と向き合うことを援助する。

 看護師のためのコミュニケーションスキル“NURSE”

患者体験を通して患者の気持ちに気付きを示す

 東病院では,参加者が体験的にスキルを身につけるために,1日がかりの研修の内,講義は1時間程度とし,残り時間全てをロールプレイに充てている。1グループ5人(患者役1人,看護師役1人,オブザーバー3人)。1グループにつきファシリテーター(進行役)とサブファシリテーター各1人がつく。

 ロールプレイは,グループ全員でシナリオを読み合わせた後,設定確認と役作りなど看護師役と患者役双方の準備が完了したら開始となる。ロールプレイの間,看護師役は各場面でどんな言葉を掛ければよいのかを考え,“NURSE”を実際に活用するとともに,自分の今までのコミュニケーションを振り返っていく。その中で,コミュニケーションが難しい点や意見を聞きたい点があれば,看護師役はいつでも「タイム」を取り,ディスカッションを行うことができる。

 ディスカッションでは,オブザーバーが重要な役割を担う。オブザーバーの意見により,看護師役は自身のコミュニケーションのスタイルに気付くとともに,新たな看護師像を作り上げていく。オブザーバーは,以下の8つのポイントに注意しながらフィードバックを行う。

1.評価や批判ではなく,説明的に
2.一般論ではなく,具体的に
3.受け手の反応に注意する
4.フィードバックの量を限定する
5.謙虚にフィードバックする
6.行動に焦点を当てる
7.受ける側の利益を考える
8.情報を共有する態度

 ディスカッション後は,元の場所からロールプレイを再開することも,少し前にさかのぼってやり直すこともできる。ディスカッションとロールプレイを時間の範囲内で繰り返した後,5人全員での振り返りをファシリテーターがまとめて一回のロールプレイが終了となる。グループの全員が看護師役・患者役を順番に行うため,一回50分のロールプレイを5回実施する。

 1日の研修を終えた参加者からは「こんなに頭を使って患者さんと話したことはなかった。意図的なかかわりによって引き出せる情報が大きく異なることに驚いた」「普段行っている声掛けの中にも“NURSE”に当てはまるものがあり,自信がついた。あまり使ったことがないスキルについても今後使えるようになっていきたい」といった声が挙がった。

多くの病院で取り入れてほしい

 東病院の“NURSE”研修は2006年から開始された。経験年数4年以上の看護師を対象とした任意参加の研修だが,受講経験者が増えてきたことで,直接は受講してはいない看護師たちの間にも自然と“NURSE”の考え方が浸透し,病棟全体の雰囲気が変わってきたという。

 組織全体がスキルアップする効果を感じている東病院では,昨年から院外に向けた研修も開始した。その研修は,“NURSE”をより多くの施設に広め,看護全体のレベルアップを狙ったもの。自施設内で研修を企画・運営できるようになることを目的とするため,認定看護師・師長といった指導者が1施設につき2人以上参加することを参加条件としている。

 研修の企画に携わってきた關本(せきもと)翌子副看護部長は「“東病院だからできる”ではなく,“どの看護師でもできる”スキルになるよう,多くの病院で取り組んでほしい」と話す。すでに北海道,山形県,静岡県,千葉県,群馬県,愛知県のがん診療連携拠点病院を中心とする複数の施設で“NURSE”研修が開催されたとの報告がある。看護全体への今後の広まりが期待される。

❶最初に基本的なコミュニケーションスキルと“NURSE”について講義を行う。講義は1時間程度と短く,事例を組み込みながら解説する。

❷研修の核はロールプレイ。ディスカッション中は,患者役は離れた場所に移動して,議論の内容を聞かないようにイヤホンをする。

❸ロールプレイの内容は,サブファシリテーターがホワイトボードに書いていく。ホワイトボードの記録も参考にしながらディスカッションを行う。

参考文献
1)Buckman著.恒藤暁,他訳.真実を伝える――コミュニケーション技術と精神的援助の指針.診断と治療社;2000.
2)Billings JA著.日野原重明,他訳.臨床面接技法――患者との出会いの技.医学書院;2001.