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第3143号 2015年9月28日


Medical Library 書評・新刊案内


《シリーズ ケアをひらく》
漢方水先案内
医学の東へ

津田 篤太郎 著

《評 者》山田 雅子(聖路加国際大教授・在宅看護学)

今こそ,東洋的価値で看護したい!

 津田先生の謙虚なところが良い。というのは,今年に入って初めて津田先生にお会いした際の私の第一印象です。何が,ということではないのですが,その存在から醸し出される雰囲気全体についてそう感じたように思います。

 縁あって,津田先生と一緒に仕事をすることになりました。と思っていたら,さらなる縁を頂戴し,この書評を書いているわけです。人生は出会いだと申しますが,行先が定まらない人生の船をこいでいると,出会うものが不思議とその水先案内をしてくれたりするものです。この本は本当にそうした感じの出会いとなった一冊です。

漢方は日本の伝統医学だった
 古く江戸時代の日本の医学は,古方(こほう)派と呼ばれる,今で言う基礎医学よりも臨床を重んじた一派によって発展したのだそうです。そして,その一派によって編まれた医学体系が「漢方医学」であり,それは日本で発展したので「日本漢方」とも呼ばれるのだそうです。

 私はこれまで,漢方医学は中国の医学を学ぶのだと思っていましたが,それは間違いで,漢方を学ぶとは,日本の伝統的な医学を学ぶことだったのかと気付かされました。そういう意味で,この本は漢方医学の解説本であり,日本医学の歴史書でもあるわけです。

東の「気のせい」には意味がある
 さて,西洋医学と対比する中で,私が「なるほど!」と思ったことを二つ挙げてみます。

 まずは,西洋医学的な「気のせい」と東洋医学的な「気のせい」とは全く異なる意味であることです。「西洋の気」は実体のないものであり,「東洋の気」は生きるためのエネルギーという実体を持つといいます。ですから西洋的には「気にするな」が治療になり,東洋的には「気の巡りを良くする」ことが治療であって,そこから漢方薬とかツボの話につながるのですね。

 もう一つは,目が痛いと訴えてきた患者さんにもお腹に触れて診察する「腹診」を行うのが東洋的ということです。体全体が疲れていれば,目の具合も悪くなるのはよくあることで,本人が目の痛みだけを訴えたとして,目薬だけを処方されても根本的な解決にはならないのですね。

人間を置き去りにしない医学へ
 考えてみれば当たり前かもしれませんが,臓器別,疾患別,術式別に患者を区別して,その一側面からしか看なくなってしまった今の看護は,効率性は達成したかもしれませんが,人間個々の体や心は置き去りにされています。そう感じている私にとってこの本は,もう一度,日本医学の祖が築いたことに回帰すべきだという道を示してくれたように思います。この本の副題は「医学東へ」とありますが,「医学東へ」としてもよいのではないかと極東日本人の一人として思いました。

 人体を成す臓器はみな似通っていますが,それが統合されて,さまざまな環境の影響を受けながら一人の人間として生きています。そう考えると,多くの人に効果があったとか,繰り返し同じ結果となったという「エビデンス」という文脈では語り尽くせない神秘性を否定することはできません。

 西洋医学では解決しきれない「かゆみ」「冷え」「痛み」といった症状に根気よく付き合い,あの手この手を模索する漢方医学では,謙虚であることが基本姿勢なのだということがよくわかりました。

A5・頁238 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02124-1


病を引き受けられない人々のケア
「聴く力」「続ける力」「待つ力」

石井 均 著

《評 者》数間恵子(前・東大大学院教授・成人看護学)

慢性疾患と生きる人の心と行動を理解し,支援する

 本書は,『糖尿病診療マスター』誌に2004-2013年にわたって掲載された石井均氏による各界泰斗との対談から,特に氏の心に残るものが取り上げられ,まとめられたものである。対談は糖尿病とその治療あるいは関連領域にとどまらず,他領域の先達とも行われ,河合隼雄氏,養老孟司氏,北山修氏,中井久夫氏,中村桂子氏,門脇孝氏,鷲田清一氏,西村周三氏,皆藤章氏の面々が登場する。

 対談では,各氏がどのようにしてそれぞれの領域を拓いてこられたかのライフヒストリーが語られる中で,ヒトや社会をどう見ているかが示され,そこから,共通する糖尿病の人々への支援の核心に迫り,支援に求められる基本的態勢が浮かび上がってくることに気付く。糖尿病の人々,特に症状もなく,いわゆる古典的な苦痛症状を体験していない人々が糖尿病を自分のものとして「引き受けて」生きていくことを支えるには,外的基準(検査結果の数値)による糖尿病学ではなく,「糖尿病医療学」が必要であり,その領域を拓き,確立することが急務であると説かれている。

 「糖尿病医療学」の基盤になるのは,療養を要する人々がそれぞれ生きて創ってきた心,すなわちそれぞれにとっての意味を支えることにあり,その要諦は本書の副題が示す通り,「聴く力,続ける力,待つ力」であるとされている。話すあるいは語ることが保証され,他者とつながり,その人の糖尿病と必要な療養行動についてのオーダーメードの情報が伝えられることによって,意味の変化とともに必要な行動につながってゆくのだと納得される。糖尿病の人々に限らず,難治性の慢性疾患と生きる人々の心や行動を理解し,支援する上での基本的態勢として身につけるべきものであることが示されている。本書が最初と最後を心理臨床家との対談で構成されていることは,実際の順序以上に,その重要性を強調したものとも読み取れる。

 石井氏がその穏やかで相手がほっとする表情で各氏との対談に臨まれている様子が彷彿としてくるとともに,糖尿病の人々にも同様に接し,支えておられることが想像される一冊である。

A5・頁252 定価:本体2,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02091-6


糖尿病に強くなる!
療養指導のエキスパートを目指して

桝田 出 編

《評 者》鞍田 三貴(武庫川女子大准教授・食物栄養学)

糖尿病を取り巻く環境の変化に素早く順応する力を養う

 私が管理栄養士として病院に勤務し,糖尿病教室や栄養食事指導を始めたのは1990年頃です。当時の糖尿病教育入院は,40-50歳代の肥満を伴う糖尿病患者さんが多く,食品交換表の勉強などが組み込まれていました。糖尿病療養指導は,多職種によるチームで行われておらず,栄養・食事指導は食物栄養のみに着目した指導型教育であったように思います。

 しかし時が流れて今,わが国は世界に類を見ないスピードで高齢化が進行し,超高齢社会に突入しました。その中で,医療においては,単に長く生きるのではなく,健康を維持・増進しつつ寿命を延ばす取り組みがなされています。これを実現するために,医療従事者には,指導教育型から脱却し,セルフエフィカシィ(自己効力感)を高める技術が求められます。本書は,そんな社会のニーズに合わせて,糖尿病の基本から,ライフステージごとの生活指導にとどまらず,心理面とそのケア,行動変容を促すアプローチなどについても述べられています。また,災害時の対策と対応から服薬アドヒアランス,糖尿病とがんなど,教科書にはみられないコラム記事がとても新鮮です。

 本書は,食事・運動療法の実践,薬物療法などの糖尿病自己管理に必要な事柄に加え,要所に挙げられた事例では高齢者特有の問題にも着目しています。私は今,地域医療を担う開業医院と連携し,地域の糖尿病患者さんへの栄養支援を行っていますが,老老介護,独居高齢者の増加により,今までの食事指導では通用しない難しさを感じています。糖尿病のより良い治療のためには,患者自身が自己管理を継続することが必要ですが,高齢者にみられる認知機能障害は糖尿病治療を妨げる最大の要因です。

 われわれ療養指導者は,糖尿病を取り巻く環境の変化に素早く順応する力を養うことと,「糖尿病に強くなる」ことが必要です。本書はそれに大いに役立つ参考書であると思います。

B5・頁224 定価:本体2,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02102-9


がんエマージェンシー
化学療法の有害反応と緊急症への対応

中根 実 著

《評 者》冨永 知恵子(福井赤十字病院・がん化学療法認定看護師)

理解を助ける図表が満載 この一冊でがん緊急症に強くなれる

 「がんエマージェンシー」「がん緊急症」というと聞きなじみのない方もいると思いますが,これらを「血管外漏出」や「過敏反応」「発熱性好中球減少症」「上大静脈(SVC)症候群」「播種性血管内凝固症候群(DIC)」などに言い換えると,臨床でよく耳にする言葉となるのではないでしょうか。

 看護師はがん化学療法の治療管理に直接かかわります。がん治療によって急性反応として現れる緊急度の高い有害事象に,迅速で適切な対応を求められます。また,がんの進行によって出現する「SVC症候群」や「DIC」などの理解も大切です。がん診療・がん化学療法に携わる看護師にとって,がん緊急症の知識を持って患者の病態をアセスメントできることや,がん緊急症への対応を考えていくことは必要不可欠ですので,本書はその理解を助けてくれる一冊となります。

 本書はまず「がん緊急症」を「がんの進行」と「がんの治療」に伴うものとして分類,整理しながら論を進め,さらにがん緊急症の重症度,緊急度を評価するためのCTCAEやJTASの説明も行っています。有害事象をCTCAEのGrade,治療時期と時間経過の関係で表した「有害事象の経時的変化」の図では,有害事象にはさまざまなパターンがあると視覚で理解できます。続く各章では,病態,症候のメカニズムや治療,マネジメントなどを丁寧に解説しています。この「病態生理」が理解しやすく,がん治療にかかわる看護師だけでなく,一般臨床に携わる看護師の頭の整理や実践にも十分に役立つ情報となっています。

 著者は看護師向けの雑誌や書籍の監修に携わることが多く,看護の視点も大切にまとめてくれています。何と言っても,他にはないオリジナルのカラーの図表が多く用いられており,視覚的な理解を促してくれます。よく,「図表の意味・解説をもっと詳しく知りたい!」と感じることがあると思いますが,本書は図表の解説が詳しく,初心者でも理解できるように文章でも説明が加えられています。

 さらに,著者は認定看護師教育課程の講義でもとても人気のあった講師で,“なぜこうするのか”“なぜこう考えられるのか”など最新の根拠を用いて疑問を解決に導いてくれる記載が本書でも随所にちりばめられています。その一つとして,各章内には「Note」や「MEMO」の記載があり,より専門的な解説や実践につなげる内容も多く含まれています。

 このように本書は,今からがん化学療法やがん看護を深めようと思っている方から,がん化学療法分野を専門としてきたベテランの方まで幅広く活用できる内容が満載となっています。ぜひ,手にしていただきたい一冊です。

B5・頁320 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01960-6


がん看護実践ガイド
がん患者のQOLを高めるための
骨転移の知識とケア

一般社団法人日本がん看護学会 監修
梅田 恵・樋口 比登実 編

《評 者》別府 千恵(北里大病院看護部長/副院長)

臨床で骨転移のケアに悩む看護師にとって価値ある一冊

 日常のがん看護の現場では,骨転移に苦しんでいる患者は多い。

 患者は骨転移という病態が現れると,死への恐怖,耐え難い痛み,骨折や可動域の制限によるQOLの低下など全人的な苦痛にさらされる。また看護師も,骨転移を起こした患者の身の周りの世話や症状緩和のために四苦八苦しているのが現状である。それでも,「できるだけ最後まで自分で自立した生活を送りたい」と考えていた骨転移の患者が転倒して骨折し,その後の痛みとQOLの低下に苦しんでいる姿を見ると,何か手立てはなかったかと罪悪感に駆られたことのある看護師はたくさんいる。また,痛みが強い患者の背中をさすりながら,この患者の苦しみが少しでも癒やされる方法はないかと考えていた看護師も多いのではないだろうか。

 このように,骨転移が発症した患者のケアは困難な場合が多い。しかしながら,これまで骨転移は基本的な病態生理や各原発がんの教科書に補足的に触れられることはあったものの,骨転移に集約して病態生理や症状マネジメント,ケアに触れた教科書やガイドブックは存在しなかった。本書はがん看護の中でも最も対応に苦慮する骨転移について,診断・治療・看護にわたり詳細に記述してあり,臨床で骨転移の患者のケアに悩む多くの看護師に役立つ良書である。

 第1章「骨転移を理解しよう」では,正常な骨の代謝,骨転移の分類や症状,骨転移が起こる仕組み,特に進行にかかわるリモデリングとの関係,診断基準などが詳しく書かれ,これまで集約して触れることのなかった基本的な知識を得ることができる。第2章「骨転移の治療法」では薬物療法,進行を抑える骨吸収抑制薬の作用機序や段階的な鎮痛薬の使い方,副作用への対処,放射線療法,手術,神経ブロックについて書かれている。第3章「骨転移とQOLを高めるケア」では,患者のQOLの視点から身体的,精神的,社会的,さらにスピリチュアルな面から,ケアのポイントを症状の進行に伴い解説している。特に,骨格系であるために荷重骨と非荷重骨に分けて考えるケアのポイントは,目からうろこであった。第4章「がん種からみる骨転移の経過とケア」では,原発がんの種類によって異なる治療とケアのポイントが事例を用いて記述してあり,わかりやすい。

 骨転移そのもので患者が生命を落とすことはない。しかし,骨転移によりQOLを大きく落とす可能性は高い。骨転移に真摯に向き合い,患者の苦痛を取り除き,QOLを高い状態で保つことは看護師にとって大きな課題であり,使命でもある。臨床の現場で,骨転移の患者に何かできることがないかと模索する看護師にとって,価値のある一冊である。

B5・頁208 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02083-1

関連書
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