医学界新聞

2015.09.14



Medical Library 書評・新刊案内


がんエマージェンシー
化学療法の有害反応と緊急症への対応

中根 実 著

《評 者》相羽 惠介(慈恵医大病院腫瘍センター長)

「痒いところに手が届く」がん緊急症対応のポイントが過不足なくまとめられた一冊

 本書を良書と呼ばずして何を良書と呼ぶのでしょう? 秀でた書物,優れた書物であることに異論を挟む読者はいないと思います。がん薬物療法の最前線で患者ケアに携わる医療者には,ぜひ一冊お手元に置くことを万感の想いを込めて強くお薦めします。著者のシャイな気質を反映してか,一見マニュアル本的な印象を受ける書名と装丁ですが,その内容は成書以上です。すなわち,成書にありがちな総花的で,内容に濃淡もなく,やたらに詳しい余分な記述といったものが一切ありません。臨床上のポイントを的確に抽出,詳述し,そして理解を助けるために美しいイラストと表を多用しています。知っておくべきキーワードは欄外に簡潔に説明されています。またMEMO欄とNote欄も設け,前者では大切な「用語」や「コンセプト」について詳解されていますし,後者では臨床上実際の場面で「どうしたら良いのか?」について指南されています。

 本書は「がんエマージェンシー」というくくりから,15項目にわたる章立てとなっています。確かに内容は,緊急的,救急的な病態・事象についての解説となっていますが,その病態を理解するために,腎臓内科,内分泌内科といった単子眼的,臓器診療科的見地からの狭い解説ではなく,広く臓器横断的であることはもちろん,生化学,分子生物学,臨床薬理学といったように基礎・臨床の双方を背景として詳述されているため,精緻な解説書となっています。さらには,患者教育やいわゆるムンテラと言われるIC(インフォームド・コンセント)や情報提供にまで解説は及んでいます。例えば第2章「抗がん剤の血管外漏出」を見ると,通常のマニュアル書ではその対応法が形ばかり述べられる程度であるのに反し,本書では通常のマニュアル書が触れない皮静脈穿刺法を正統的に説明し,さらにはそのコツともいうべきノウハウと終了までの観察法や記録方法にまで言及しています。これは,いかに著者が臨床医として優れて稀有な存在であるかを物語ると同時に,医療者教育に対する並々ならぬ決意の表出でもあると思えます。目の前のがんエマージェンシーの患者さんをどうするか? 教科書の硬直した理屈・知識ではなく,ベッドサイド重視で実践を重んじ,柔軟でかつ即応できる医療者育成には本書のようなテキストが必要と考え,著者は執筆されたことと思います。

 とにかく常人では気付かぬ痒いところに手が届く解説書です。「必要にして十分」という言葉がありますが,本書は「必要にして十分以上」です。研修医,レジデントをはじめ若手医師,看護師,薬剤師の皆さんは,本書の知識を医療チームとして共有し,明日からのがん治療に役立てていただきたいと思います。

B5・頁320 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01960-6


脳卒中ビジュアルテキスト 第4版

荒木 信夫,高木 誠,厚東 篤生 著

《評 者》片山 泰朗(総合東京病院脳卒中センター長/日医大名誉教授)

脳卒中全般を理解するために最適なテキスト

 脳卒中はわが国では死因別死亡率において第4位の座にあり,年間12万人を超す死亡がみられている。超高齢社会を迎え年間約30万人が新たに脳卒中となり,脳卒中患者総数は300万人を超える数に達していると推定され,今後さらに増加することが予想される。このような状況下で脳卒中の予防,脳卒中急性期の治療および脳卒中後遺症の治療の重要性はますます増大するものと思われる。

 そんな中,『脳卒中ビジュアルテキスト』が7年ぶりに改訂され発刊された。この間,脳卒中治療は目覚ましい進歩がみられ,大きく変貌している。わが国では2005年10月に血栓溶解薬,組織プラスミノーゲンアクチベータ(tissue plasminogen activator:t-PA)が発症3時間以内の脳梗塞に適用となったが,これが契機となって全国の脳卒中救急診療体制が整備され,また主要機関病院では脳卒中を集中的かつ専門的に診療するストロークケアユニット(Stroke Care Unit:SCU)も設置されるようになった。

 さらに,近年,治療薬ではワルファリンに代わりNOACと呼ばれる新規抗凝固薬であるトロンビン直接阻害薬やXa阻害薬が市販されるようになり,増加している心原性脳塞栓症の予防に期待されている。

 他方,治療法では血管内治療においてSolitaireTMやTrevo®といった新たな血栓除去デバイスが出現し,血行再建によるさらなる治療成績の向上が期待されている。

 本書は表題にあるようにビジュアルテキストであり,改訂版では見出し・図・表がカラーで施されより見やすくなり解説にはMRI・MRA,CT画像などが随所に示され,疾患の症状・病因・診断を理解するために工夫が凝らされている。

 また,本書の構成は「1.脳の解剖」「2.脳卒中の診察の進め方」「3.脳卒中の主要症候」「4.脳ヘルニア」「5.脳卒中の主要疾患」「6.脳卒中の治療」「7.脳卒中の後遺症と対策」「8.脳卒中の予防」「9.脳卒中のリハビリテーション」からなり,各項目において内容の充実が図られ脳卒中診断・治療に必要な全てが網羅されている。

 本書では始めに脳の解剖,診察の進め方,主要症候が解説され,脳卒中診療の入門者にもわかりやすく書かれている。また,脳卒中の主要疾患の項では原因,症状に加えて解剖組織,MRI・MRA,脳血管撮影さらには3D-CTA,超音波所見も示され,症例検討としても勉強できるように記載されている。また,脳卒中治療では脳梗塞,脳出血,くも膜下出血の治療,さらには血管内治療についても解説され最新の治療が示されている。さらに脳卒中の予防の項では新しいガイドラインに基づいた治療指針が示され,また最新の多くの大規模臨床試験のエビデンスが紹介されている。

 脳卒中の全てが網羅され,ビジュアルに脳卒中全般を理解することができる本書を,医学生,研修医,脳卒中治療に携わる医師およびコメディカルスタッフの方々に最適なテキストとして推薦する。

A4・頁280 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02082-4

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