医学界新聞

2015.08.31



第11回ICMアジア太平洋地域会議・助産学術集会開催


 第11回ICMアジア太平洋地域会議・助産学術集会(会長=日看協・坂本すが氏)が,7月20-22日,「すべての妊産婦と赤ちゃんに助産師のケアを」をテーマに,パシフィコ横浜(横浜市)で開催された。助産師の国際的な専門団体である国際助産師連盟(International Confederation of Midwives;ICM)はアフリカ,アメリカ,ヨーロッパ,アジア太平洋の4つの地域に分けられており,日本が所属するICMアジア太平洋地域会議は,3年ごとに開催されるICM大会の中間年に開催されている。20年ぶりに日本での開催となった本会議には,37か国から3200人を超す参加者が集い,アジア太平洋地域に固有の問題や課題が議論された。本紙では,著名な3人の助産師によるワークショップ「日本の助産師の技を受け継ごう」(座長=聖路加国際大・片岡弥恵子氏,愛育病院・横山いずみ氏)の模様を報告する。

助産師の技とは何かを問う

フラッグセレモニーの模様
参加国の代表者たちが各国の国旗を持って入場し,会場を沸かせた。
 最初に登壇した山本詩子氏(山本助産院)は,近年微弱陣痛の産婦が増えているという自身の印象を語った。順調に進まない分娩には必ず理由があり,微弱陣痛では回旋異常や不正軸侵入が起きていることが多いと指摘。内診を行う際,矢状縫合・大泉門・小泉門を探り,矢状縫合が触れるべきところで触れなければ注意が必要で,子宮口が全開であっても分娩は長期化する傾向にあるという。また胎児心音が聴取しにくいのも,児背が母体の背骨側にあり,回旋が悪い証拠の一例として示した。不正軸侵入の対処法としては四つん這いの体制やバランスボールの利用などを挙げ,必ず矯正できるという方法はないものの,産婦をリラックスさせるためのあらゆる手段を講じる必要があると話した。また会陰保護・肛門保護を過度に行わない,沈黙も大切であり声掛けの際の言葉は慎重に選ぶなど,自身の経験に基づくポイントを紹介した。

 助産師としての40年の道のりを振り返ったのは,神谷整子氏(みづき助産院)。氏は病院に勤務していた時期に3人の子どもを出産し,夜間の就業が難しくなったことから,出張開業・助産院勤務を開始した。妊娠から出産,産後まで継続してかかわる中で,さまざまな思いを持つ妊婦の希望を徹底的に聞き,話し合うことの大切さを学んだと話した。氏が自宅出産にかかわるようになったきっかけは,自宅出産を希望する経産婦との出会い。助産院でも自宅でも医療行為ができない点に変わりはないこと,そして助産師とは産婦が安全かつ安心して出産を行う手助けをする者であり,本人の希望を可能な限り叶えたいとの思いが後押しになったという。これまでの経験から,妊婦検診こそが正常産の土台を築くと強調。妊婦の人生観と向き合い,そこで学んだことを次の妊婦に伝えていくことが助産師に求められる姿勢だと結んだ。

 矢島床子氏(矢島助産院)は,お産に対する新たな考え「フィーリング・バース」を紹介した。氏は自宅で第三子を出産した際の気持ち良さを今でも忘れることができず,この体験が女性として生きていくための強いパワーになったと語った。産婦が痛みや喜び,幸せを感じ,自分が産んだという実感を持てるようなお産こそ,母親として生きることや子育てへの自信につながるのではないかと提案。フィーリング・バースの三原則として,①産婦を一人にしないこと,②常に優しく触れ続けること,③何をしても否定しないことを挙げ,手技はもちろんのこと,産婦が心を開放し自分を表現できる場をつくることも助産師の技だと話した。また,産んで終わりではなく,本当に大変なのは「その後」だと強調。助産師は,女性が母親へと育っていく過程を地域で見守り,寄り添い続ける職業であると締めくくった。

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