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第3137号 2015年8月10日


Medical Library 書評・新刊案内


画像からみた 脳梗塞と神経心理学

田川 皓一 著

《評 者》山鳥 重(前・東北大大学院教授・高次機能障害学)

「わかりにくい」領域を「わかりやすく」解説する目的を見事に達成した書

 本書は280ページもの大著で,それもなんと全編書き下ろしである。

 著者の田川皓一先生は誰もがご存じの脳卒中学と神経心理学の権威である。医師・研究者としての全てのエネルギーをこの分野の知見の深化と発展のためにささげてこられた。脳卒中症例に関する臨床経験の豊富さにおいて,先生の右に出る人はおそらくいないのではなかろうか。

 脳卒中の症候学で最も厄介なのは認知・行動能力の異常,いわゆる神経心理学的症候である。単純で比較的わかりやすい症候もあるにはあるが,複数の認知的要因が重なり合い,わかりにくい臨床像を呈することのほうがむしろ普通と言っても良いくらいで,多くの医師から「わかりにくい」領域として敬遠される原因の一つにもなってきた。

 本書は,この「わかりにくい」神経心理学的症候群を「わかりやすく」解説することをめざされたもので,その目的は見事に達成されている。

 本書が,なぜわかりやすいかというと,著者が問題の範囲を「血管閉塞症候群(脳梗塞)」に絞っているからである。もともと神経心理学は脳梗塞の症候学として始まった。例えば,ブローカの発表した失語症候群(いわゆるブローカ失語)がたちまちの間に当時の臨床家に受け入れられたのは,その原因疾患が彼らがよく遭遇する脳卒中(左中大脳動脈梗塞)であり,その症候になじみがあったからであろう。

 神経心理学的症候群それ自体から勉強を始めると,敵が心理症候だけに,わかったようなわからないような,なんだか雲の中にいるような気持ちになってしまうが,病巣から勉強を始めると,敵は極めて具体的なものとなり,格段にわかりやすく,頭に残りやすい。膨大な自験症例から選び抜かれたMRI画像がふんだんに提示されており,一層理解を助けてくれる。

 本書のわかりやすさは文体にもある。全編,講演口調なのだ。田川先生の語り口は滑らかで,しかも自信に満ちている。思わず引き込まれてしまう。通常の教科書なら事実が羅列してあるだけだから,ついつい注意が散り,気が付いたら他のことを考えているのだが,本書は違う。集中して読み進むことができた。

 読んでいてうれしいことは他にもある。随所で,病巣との関係があいまいな症候や,定義のあいまいな症候群について,はっきりと,ここはよくわかっていないようだとか,私はそうは思わないなどと,実に率直にご自身の意見が述べられているのである。読者は,あ,この問題ははっきりしていないのだ,とか,あ,この問題はやっぱりおかしいのだ,などと大いに納得されるのではなかろうか。

 本書は,ぜひ読み通されることをお勧めする。読み通せるように実にうまく企んである。この企みに乗せられて,ずいずいと読み通せば,これ一冊で,脳卒中臨床で遭遇する多様な神経心理学的症候群の全体像が把握できるようになっている自分を発見するであろう。そういう素晴らしい本である。

B5・頁280 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02196-8


実践! 皮膚病理道場
バーチャルスライドでみる皮膚腫瘍
[Web付録付]

日本皮膚科学会 編

《評 者》田中 勝(東女医大東医療センター教授・皮膚科部長)

今までになかった画期的な皮膚病理入門書!

 日本皮膚科学会の編集による,まったく新しいタイプの皮膚病理入門のための貴重な一冊がついに出た!

 各章の執筆者が,現在,皮膚病理診断の中心で活躍している経験豊富な6人,最も頼れる皮膚病理指導医たちである。したがって,全ての章が必要最小限の簡潔で明快な記述で構成されており,病理診断のポイントがとてもわかりやすい。なんとぜいたくな本であろうか。

1.バーチャルスライドがWebで見られる点が画期的!
 この本は間違いなく,今までにないタイプの本である。すなわち,掲載されている病理画像を全て,Web上で,バーチャルスライドとして確認できるのである。したがって,本書を見ながら,日本皮膚科学会総会の教育講演「実践! 皮膚病理道場」で習ったことの復習もできるし,参加できなかった人でも,まるでその場にいて質問したことを教えてくれるかのような,丁寧な解説を読みながらバーチャルスライドを見ることが可能になっているのだ。

2.日本皮膚科学会総会の教育講演「実践! 皮膚病理道場」と密接にリンクしている!
 2013年の日本皮膚科学会総会から始まった「実践! 皮膚病理道場」(以下,「道場」)は,今までにない画期的な皮膚病理入門の場であった。今までは教育講演を聞いて受動的に学ぶことが多かったのが,「道場」では,自らPCのバーチャルスライドを見て能動的に学び,わからない点があればチューターに聞くことができるという,まさに両方向性の学習が可能になったのである。それが,本書の登場でさらに素晴らしい皮膚病理入門の場となったと言えよう。本書を開けば一見してわかる美しい写真と矢印や丸囲みを使った明快な解説が示されている。さらに,「写真が小さくて見えない!」という場合でも,Web上に用意されたバーチャル画像にアクセスすることで解決できるのである。

3.腫瘍ごとに学ぶべきポイントが明確に示されている!
 本書がこれまでの教科書と異なる点はもう一つ。皮膚病理所見のみを扱っている点である。臨床情報もなければ文献もない。だからこそ,病理所見にスッと入っていけるのである。先頭に病理診断のポイントが箇条書きに示されており,これから学ぼうとしているポイントが明解である。しかも,皮膚科における日常的な臨床病理カンファレンスで扱われる皮膚腫瘍をほぼ網羅しているのがありがたい。

4.指導医にも薦めたい!
 本書はこれから皮膚病理に入門する研修医のみならず,指導医層にも薦めたいと思う。なぜなら,教育する側の立場で考えても,教えるべきポイントがはっきりと示されているのだから。というわけで,私も医局員に皮膚病理ティーチングする際に,本書を100%利用したい! と思った。

A4・頁200 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02118-0


ナラティブホームの物語
終末期医療をささえる地域包括ケアのしかけ

佐藤 伸彦 著

《評 者》松村 真司(松村医院院長)

「愛がなければ無にひとしい」――希望の物語を胸に

 その薄桃色に装丁された書籍が届いたのは,残寒の中にも春の気配が感じられ始めた2月末だった。実家の戸棚の奥のアルバムにあるような写真たちをまとった表紙に誘われるように,少しずつ読み始めた。

 第I部「家庭のような病院を」。かわいらしいカバーとは裏腹に,のっけから筆者の経験した重いエピソードから始まる。筆者は問う。「私が『治した』『救った』と思っていたものは何だったのだろう」――真摯な問いは続く。いのちとは何か。科学とは何か。医学とは,看護とは,介護とは。主治医としてかかわりながらさらに問う。やさしさとは,人間の尊厳とは,死とは。そして,生きるとは。

 そして,第II部「ナラティブホームの風景」が始まる。ここでは,これらの問いの末,筆者たちが「ナラティブホーム」という地域の施設へと結実させていくさまが描かれる。ここで第二章に入ると,途端に問いは少なくなる。支援者を見つけ,構想を練り,開設に至るまでの具体的な過程が記される。最後に,そこで過ごした人々をめぐる四つの小さな物語が始まり,筆者がこれからめざす医療の形を描く短いエピローグで終わる。見返しに貼られた,ナラティブホームをめぐる美しい写真たちが,静かにアウトロを奏でる。

 本書に貫かれているテーマの一つは,「いのちが最期に向かうとき,医療には,医療者には何ができるのか」というものである。

 医療は医学という科学を基盤に成立している。もちろん科学の視点から見なければ医師の仕事は成り立たない。しかし,言うまでもないが医療が人生の全てではない。全ての人にはそれぞれの生き方がある。そして,いのちが最後に向かうとき,医療には何ができるのか。そもそも,いったい医療は何のためにあるのか。

 筆者とその仲間たちは,この普遍的な問いに対して物語と関係性という二つのキーワードを用いた挑戦を行い,富山で始まったその活動は次第に全国へと広がりを見せていっている。

 もちろん多くの医療者は,今日もそれぞれのやり方でいのちと向き合っている。そのやり方は,根底のところは筆者とそう大きな違いはないのであろう。しかし,とりわけ地域医療,終末期医療という,科学が効果を発しにくい場面において,私たちは今のやり方ではしばしば行き詰まる。それを克服するために,さまざまな人たちがさまざま方法を模索している。どの方法も完全ではなく,今もあちこちで試行錯誤が繰り返されている。

 しかし,いかなる方法をとったにせよ,古の書にあるように,全ては「愛がなければ無にひとしい」のである。では,愛とはいったい何か。そして,どうすれば愛は手に入るのか。その答えは本書の中にはない。また,簡単に見つかるものでもない。本書で筆者が自らに問うように,私も自分に問い掛ける。私自身が愛する者を失い,そして自分もいずれ失われる存在である以上,問いを続けること自体が苦しみを伴う。しかし私たちは,それでも人々と向き合い続けなければならない。そのために,私たちには物語が必要になるのである。

 本書の中に収められている筆者と筆者の仲間たちが紡ぎ出す希望の物語を胸に,私も地域の人々の傍にこれからも立ち続けていきたい。

A5・頁272 定価:本体1,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02098-5


基礎からわかる軽度認知障害(MCI)
効果的な認知症予防を目指して

鈴木 隆雄 監修
島田 裕之 編

《評 者》山口 晴保(群馬大大学院教授・リハビリテーション医学)

一冊でMCIの全てがわかる,認知症に携わる人必携の書

 認知症の前段階としての新しい概念である軽度認知障害(mild cognitive impairment ; MCI)に関して,スクリーニングから診断・治療・予防介入まで,一冊で全てがわかる本はこれまでなかったので,本書は必携の書と言えます。まずはMCIの解説から始まり,MCIを検出する方法や必要な認知テストが紹介され,診断方法が続き,MCI・認知症のリスクファクターが解説され,MCIへの治療介入だけでなく,高齢者の認知機能低下予防をめざした地域保健事業としてのさまざまな予防介入の実践例(ランダム化比較試験を含む)に至るまで,全て網羅されています。よって,MCIの概念整理と新しい情報の入手にうってつけです。

 副題にある「効果的な認知症予防を目指して」は,まさに今の日本の社会的ニーズに合致した,タイムリーな出版です。この副題が示すように,「認知症になってからでは手遅れ! だからMCIで予防介入する」という基本スタンスが本書で貫かれています。

 内容は,系列的かつ網羅的に細かく項目立てされていて,しかもそれぞれの項目が完結しているので,初めから全部を読み通そうとするだけでなく,辞書的に使うことができます。そして,MCIの背景の説明にあるように,MCIは認知症予備軍というだけでなく,広く老年症候群の一つであることが明確に示されています。MCIで歩行が遅いと認知症になりやすい,COPD(慢性閉塞性肺疾患)やCKD(慢性腎臓病)など高齢者特有の病態とMCIが関連することなど,MCIを広く老年学の立場から解説しています。

 本書はMCIの最新知識を網羅しているので,これ一冊で,認知症の診療にも,地域での認知症予防事業にも,病診連携にも役立ちます。MCIの研究者には必携の書であるだけでなく,認知症の専門医,認知症診療に携わるかかりつけ医,看護師や保健師,理学療法士・作業療法士・言語聴覚士,臨床心理士,介護福祉士などに読んでいただきたいMCIのバイブルですが,特に,介護予防事業に取り組む市町村の保健師やリハビリテーション職,地域包括支援センターのスタッフ,通所リハビリテーション(デイケア)や通所介護(デイサービス)のスタッフなどには,ぜひとも読んで参考にしていただきたい本です。

 本書から,鈴木隆雄元研究所長をはじめとする国立長寿医療研究センターの方々が,地域活動に真剣に取り組んできたことが読み取れ,あらためて「すごいな!」と感じました。

B5・頁344 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02080-0


呼吸器診療 ここが「分かれ道」

倉原 優 著

《評 者》長野 宏昭(沖縄県立中部病院呼吸器内科)

患者の目線に立った診療を意識できる良書

 本書は,呼吸器分野の診療で遭遇する,素朴ではあるがよくある疑問に対して,エビデンスやガイドラインを紹介しながら,それらに対する筆者の見解を交えつつわかりやすく解説している。

 私たち臨床医は患者の診療を行うに当たって,さまざまな臨床データを参考にしながら行っている。いわゆるエビデンスに基づいた医療が現代医学の基本であることは言うまでもない。しかし,どのようなエビデンスを基に診療を行えば良いのか,あるいはエビデンスを目の前の患者にどの程度適応すれば良いのか,ふと立ち止まってしまう場面も多いのが現実である。

 例えば,中等症以上の気管支喘息と診断された患者に対して,ほとんどの内科医はコントローラーとして吸入ステロイドを処方することができるであろう。しかし,数ある多くの吸入デバイスの中からどの吸入器を選択すれば良いのか,LABAとの合剤にすべきかどうか,ステップダウンをどのようなタイミングで行うべきか,などに関しては,喘息診療を始めたばかりの研修医や呼吸器を専門にしていない内科医にとっては,ふと立ち止まって考えてしまう場面かもしれない。

 著者の倉原先生はこのような場面を「分かれ道」と表現し,道しるべとなるエビデンスやガイドラインを紹介した上で,そのエビデンスを実際の日常臨床にどのように適用していくのか,その思考過程を明確に,わかりやすく示している。単に文献を紹介するだけではなく,患者の目線に立ち,サイエンスを「血の通った人間」に対して有機的に用いていく思考過程に好感が持てる。エビデンスを重視しながらも患者の心や個性を大切にしたいと願う,著者の内に秘めたる熱い想いがうかがえる。図表が多く用いられており,知識も整理しやすくなっている。

 あえて注文を付けるとすれば,肺がんと呼吸器感染症の分野が少なく,やや物足りなさを感じた程度である。

 本書は呼吸器診療に携わる多くの研修医,プライマリ・ケア医,内科医,専門医にとって,今すぐ参考となる良書と言える。ひたむきに日々の診療に携わる多くの医師に一読していただきたいと願う。

A5・頁260 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02135-7


糖尿病 作って食べて学べるレシピ
療養指導にすぐに使える糖尿病食レシピ集&資料集

NPO法人西東京臨床糖尿病研究会,植木彬夫 監修
髙村 宏,飯塚 理恵,髙井 尚美,土屋 倫子,中野 貴世 編

《評 者》平尾 紘一(HECサイエンスクリニック理事長)

管理栄養士らによる糖尿病レシピ・資料の集大成

 このたび,NPO法人西東京臨床糖尿病研究会に所属する管理栄養士さんが「糖尿病 作って食べて学べるレシピ」という本を出版しました。この管理栄養士さんたちは59施設の医療機関に出向いて,9916件の栄養指導を行い,その活動の一環として,「糖尿病では美味しいものが食べられない」「食事療法はつらい」という考えを払拭しようと,2004年に「糖尿病食を作って食べて学ぶ会」(調理実習)を開始しました。そのメニューの中からいくつかを選び,集大成したものです。

 本を開くと,まずは春夏秋冬のメニューがそれぞれ6つ程度載せられていて,普通血糖が上昇して敬遠しがちなカレーライス,チャーハン,豚カツ,ドリアなどがたくさん載っています。それにチヂミなどの韓国料理,中華料理,西洋料理や正月料理がレシピの中にちりばめられています。デザートも豊富で(別項を設けてまとめて記載もしている),また野菜の不足しがちなうどんや魚料理にうまく野菜をマッチさせているなど感心します。また別項の中には副菜レシピがまとめられ,ほうれん草の和え物,キャベツの和え物など,極めて豊富なレシピが収載されています。しかも,だれでも簡単にまねできるように工夫されているのにも感心します。また,レシピに続く資料のページがとても大切で,糖尿病の食事の基本から,バランスのよい食事の考え方,血糖を上げる栄養素の違い,食べ方の工夫,肉や魚料理の工夫,見えない油脂,食物繊維のこと,塩分のこと,外食・中食のこと,お弁当の工夫,あると便利な食材,電子レンジの使い方など,資料のページだけでも圧巻な内容です。ぜひぜひご一読を勧めます。

 この本を見ると,今は亡き髙村香代子先生のめざした方向が見事に実ったなと感慨深いものがあります。何回か髙村香代子先生に講演をお願いしたとき,高飛車ではない,穏やかなのに凛として一本芯の通った内容で,何回でも講演をお願いしたい方でした。きっと天国で喜んでおられると思います。

B5・頁192 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02107-4


感染症疫学ハンドブック

谷口 清州 監修
吉田 眞紀子,堀 成美 編

《評 者》青木 眞(感染症コンサルタント)

「半年 vs. 3日」のギャップを埋める,日本の医療現場で渇望されていた書籍

はじめに
 筆者の勝手な感覚で言わせてもらえば,日本の医療現場で数十年前から必要とされていた本が,今年(2015年)になってようやく上梓された。本書『感染症疫学ハンドブック』である。

 なぜ,この種の本の出版が数十年遅れたのか。それは,この疫学という領域が感染症に限らず,医療・医学に必須であるという認識が国内のさまざまなレベル・領域で遅れたからである(そして今も遅れ,冷遇されている)。その問題が現れた実例を示す。

 1996年,大阪は堺市で数千人の患者を生み出した腸管出血性大腸菌O157 : H7の集団発生は「半年」近く続いていた。本書の第1章を執筆されたJohn Kobayashi先生(以下,敬意と愛着を込めてJohnと略)に,「あなたが指揮を執れば集団発生を終息させるまで,どのくらいの時間が必要ですか」と聞くと,「3日……長引くと1週間かな……」。「!!」(参考までにJohnとの付き合いは10数年に及ぶが,彼に「はったり」という概念は存在しない)。

 この「半年vs. 3日」のギャップを埋めるべく,このJohnをはじめ関係の先生方の支援を受けて設立された実地疫学の拠点が「国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP-J;Field Epidemiology Training Program Japan)」であり,本書は,このコースの卒業生の共同執筆により完成された。

本書の紹介
 疫学というと「10万人当たり……」といった退屈な世界,「数式が並ぶ」難解な世界を想像される向きも多いと思うが,本書は「実地」と名前が付いているように現場が舞台であり,良い意味で現場で「実地」に作業することを意識したノウハウ本となっている。初心者は,第1部の1章から3章を読み具体的な実地疫学の手法を概観し,その手法が実際例ではどのように用いられるかを第2部のケーススタディで学ばれると良い。恐らく,これだけで,この領域の面白さのとりこになる人が出る。実地疫学には「現場が好き,臨床が好き」な医療従事者をとりこにするものが充溢している。

 すでに何らかの形で本書が扱う領域におられる方,具体的には保健行政,マスコミ関係の方は,第7章「疫学調査に必要な検査の基礎知識」,第9章「情報の収集と活用」,第11章「報告書の書き方,プレゼンテーションのまとめ方」,第13章「リスクコミュニケーションの実際」が特にお勧めである。

 「『検査が陽性』であることと『患者』であることの距離」を理解した役所からの通達がはるかに実用的になり,「『感染症による健康リスクが個人や社会に与える影響を最小限にする』ことを意識し共有する必要」を理解したマスコミはパラボラアンテナ付きの車で患者・家族を追い回すことをやめるだろう(多分やめないけど……)。

おわりに
 MERS以前からエボラ,デング,鳥インフルエンザ,HIV……,新しい微生物が出るたびに日本の関係機関(行政,マスコミ,医療機関)が示す「右往左往」は「金太郎あめ」のようにまったく同様であり,既得権益を享受する人々の焼け太りを含めて今後も変化の兆しがない。

 日本のFETPがそのモデルとした米国のEIS(Epidemic Intelligence Service)およびそれにならって運営されている各国のFETPは,研修生は有給であり,研修終了後は実地疫学のノウハウを活用し地域を守るポジションに就く人が多いが,日本では必ずしもそのような生かされ方はしていない。

 それでも,この絶望的な状況にわずかではあるが新しい光を投げかける本書が多くの読者を得ること,特に日本の保健行政の要路を決める方の目に留まることを切望します。

A5・頁320 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02073-2

関連書
    関連書はありません