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第3132号 2015年7月6日


時代に合う総合診療医の姿を求めて

第6回日本プライマリ・ケア連合学会開催


 第6回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会が,2015年6月13-14日,前野哲博大会長(筑波大)のもと,つくば国際会議場で開催された。「人びとの暮らしを支える医療人の育成」をテーマに開催された今学会では,疾患治療から,予防・健康増進,医療・介護連携,生活環境の調整まで,幅広くテーマが設定され,歴代最多となる約4600人の参加者を集めた。本紙では,病院総合医に期待される役割を考察したシンポジウムと,エンド・オブ・ライフケアに際しての意思決定支援の在り方を議論したシンポジウムの模様を紹介する。


病院全体を支える総合診療医

前野哲博大会長
 シンポジウム「ホスピタリストの役割」(座長=筑波メディカルセンター病院・鈴木將玄氏,諏訪中央病院・山中克郎氏)に最初に登壇したのは小林裕幸氏(筑波大病院水戸地域医療教育センター/水戸協同病院)。氏は,豊富な教育資源を有する筑波大と,地域に密着した診療現場を持つ水戸協同病院とが提携した同センターの例から,病院における総合診療医の育成について紹介した。同センターでは,臓器別専門科と連携した総合診療科が内科病棟(180-200床)全てを担う。また,卒後3年目以下のレジデントは全員総合診療科に所属し,各専門科のスタッフが教育を行う仕組みをとっている。この体制がうまくいくポイントの一つとして,氏は総合診療医と臓器別専門医との円滑な連携を挙げる。週に一度の「グランドカンファレンス」と,毎日行う「朝カンファレンス」が両者の顔の見える関係を築いているという。さらに氏は,日本の病院総合医と米国ホスピタリストを比較した上で,過疎地域・中小病院に限らず大病院にも病院総合医のニーズがあると語り,日本の実情に応じた「日本型病院総合医」の創出に期待を示した。

 大学病院における総合診療医の役割とは何か。自施設の取り組みから紹介したのは内藤俊夫氏(順天堂医院)。同院総合診療科は,原因不明の病態を訴え訪れる外来患者や,診断が確定しない入院患者への診断が日々の診療の中心となる。一方で,HIV感染症患者のように長期通院する患者の管理も大学病院総合診療医の重要な役割と語った。大学病院の役割の一つに研究もある。氏は,総合診療科の特徴を生かし,感染症診療や予防医療の観点から指導を行っているという。2017年度の総合診療専門医資格新設に向けて大学は,臓器別専門科出身者や女性医師の再教育,へき地医療希望者のサポートの他,国際的な研究ができる専門医プログラムを設けることが必要になると語った。

 「医師不足・医師偏在を克服する鍵は病院総合医にある」。川島篤志氏(市立福知山市民病院)は,医師が不足し疲弊した地域基幹病院では,まず臓器別専門医が働きやすい環境が必要であり,それには,内科領域の救急・入院診療を担当する総合内科医の活躍が必須と強調。新設される総合診療専門医資格を持つ若手医師を獲得することで,臓器別専門医を総合内科スタッフが支えられるとともに,自施設への定着者も増えると期待を寄せた。それには,病院総合医を養成でき,なおかつ臨床研究の実施やワークライフバランスを意識した魅力ある医療環境を提供できる中堅・ベテラン病院総合医の役割が重要になるとの見解を示した。

いのちの終わりを前に,患者・家族といかに話し合うか

 生命の危機に直面したとき,患者・家族は戸惑う状況での意思決定を迫られかねず,時として患者の希望や価値観とは食い違う医療を受けることにもなる。このような事態を防ぐためには,患者・家族と医療者が,将来起こり得る病状の変化に備え,患者の医療やケアへの希望,代理意思決定者の選定などについて,対話を通じて意識の共有を図ることが望ましい。こうしたプロセスであるアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning;ACP)は,近年,エンド・オブ・ライフ(end of life;EOL)ケアの質を高める重要な介入であるとも報告されている。シンポジウム「生命の危機に直面した患者・家族と“いのちの終わり”に関する話し合いを始める」(座長=神戸大大学院・木澤義之氏)では,ACPや意思決定支援を実践するためには,どのように話し合いのプロセスを進めていくべきかが議論された。

 初めに座長の木澤氏が,EOLにおける意思決定支援で配慮すべきことを概説。「医学的な最善」が「患者にとっての最善」とは限らない点,「医学的に無益」なことが「患者にとって無益」とは限らない点,「患者の選好」が「患者にとって最善の選択肢」とは限らない点について,例を交えて解説した。また,患者・家族が発する言葉の解釈は,医療者間でも異なる点に言及。「一人で決めない,一度に決めないがキーワード」と述べ,意思決定の手続きでは,患者・家族,関係する医療者たちが共に考える必要性を訴えた。

 では,どのような患者と,どんなタイミングで意思決定にかかわる話を進めるべきなのか。この問いに対しては,浜野淳氏(筑波大)が,欧米諸国で採用される,総合診療医がEOLに関する対話を必要とする患者を同定するための指標「Identification tool」を基に検討を試みた。英国では「Supportive & Palliative Care Indicators Tool」,オランダでは「RADboud Indicators PAlliative Care Needs」といった指標が存在し,患者の健康状態からケア・プランニングを行う契機を探るツールとして用いられているという。氏は「評価項目に照らすと,自分が診ている患者にも,思った以上に話し合いを開始すべき方が多いと気付く」と発言。日本での適応は慎重であるべきとしながらも,認知症,COPD,心不全などを持ち,体重減少,過去の緊急入院歴,介護必要度の増加が見られる高齢患者は話し合いの開始を考える必要があると考察した。

 「EOLにおける話し合いの目標は,患者・家族のEOLに関する希望が表現され,尊重されること」。冒頭にそう話した竹之内沙弥香氏(京大大学院)からは,対話に臨む医療者に求められる視点が述べられた。氏は,意思決定支援のプロセス上の重要なポイントとして,①現状と推定される予後に関する説明,必要となる医療の選択肢といった「情報の共有」,②患者の価値観をもとに表現される思いへの「傾聴」,③明らかになった患者の意向に対しててメリット・デメリットを踏まえた上での「最善策の検討」を列挙した。

 ACPへ踏み出すための話の切り出し方・進め方については,再び登壇した木澤氏が解説した。国立長寿医療研究センターで実施されている,人生の最終段階における医療体制整備事業「人生の最終段階における医療にかかる相談員の研修会」の内容を基に,具体的なコツやフレーズを披露。「病状のために身の回りのことができない状態になったときの状況を,お考えになったことはありますか?」など,相手に経験を尋ね,その回答をきっかけに話を掘り下げていくという,相手の心理的な防御機制に応じた“非侵襲”的な方法を紹介した。「きちんとトレーニングして切り出さなければ,患者の話を引き出せない」と,氏は慎重さとトレーニングの実施を会場に求めた。

 総合討論では,文化的背景が異なる欧米諸国のツールに対する否定的な印象,健康状態にある患者へのACPの実践の困難さが共有された。