医学界新聞

2015.06.15



在宅医療,次代の担い手養成を

第17回日本在宅医学会もりおか大会の話題より


 現在,日本では在宅医療の推進が叫ばれ,全国各地でその整備に動き出している。地域における在宅医療の充実は喫緊の課題であるが,持続可能な仕組みにするためには,次代の在宅医療を担う医療者の育成も欠かせない。第17回日本在宅医学会もりおか大会(大会長=もりおか往診クリニック・木村幸博氏,2015年4月25-26日,岩手県盛岡市)において企画されたシンポジウム「地域包括ケア構築に向けた在宅医療教育」(司会=いらはら診療所・和田忠志氏)では,地域における多職種連携教育や,医学生・研修医の教育活動に取り組む演者が登壇。各地で行われている在宅医療教育の実践が報告された。

地域医療や患者の生活をイメージする“引き出し”をつくる

木村幸博大会長
 初めに登壇した由井和也氏(佐久総合病院/川上村診療所)は,長野県東部に位置する佐久総合病院で行う在宅医療教育について紹介。同院で行う医師の在宅医療教育は,本院地域ケア科および南佐久にある診療所群で行う初期研修医対象の地域医療研修と,後期研修医対象の在宅医療実践研修を中心に展開される。「現場で主治医の背中を見せることが,研修医にとって貴重な学びとなる」と,氏は一連の研修の手応えを語った。また,在宅医療で求められるケアの継続性という観点を学ぶ上では,「訪問看護師の果たす役割も大きい」と指摘。訪問看護体制の充実が,在宅医療教育システムの質の担保にも資する点を強調した。

 続いて登壇したのは,東大高齢社会総合研究機構の飯島勝矢氏。同機構では,地域包括ケアシステムのモデルづくりをめざし,千葉県柏市をフィールドにした「柏プロジェクト」に取り組んでいる。その基盤を生かして開始されたのが,東大と柏市医師会が連携して行う,医学部5-6年生を対象とした「地域医療学実習」だ。地域医療の現場を知ることのできる2週間のプログラムとして,医師による訪問診療や外来診療を見学するほか,訪問看護師やケアマネジャーの仕事にも同行するなど,在宅医療に特徴的な多職種連携に触れる機会が設けられている。飯島氏は「学生の多くは病院勤務医になるだろう。しかし,在宅医療の現場を1回見ておくことで,地域の医療や患者の生活をイメージする“引き出し”が持てる」と,実習の狙いを語った。

 国立長寿医療研究センターの三浦久幸氏は,同センターが行ってきた事業を中心に,在宅医療を担う人材教育事業について振り返った。氏は近年の人材教育事業は,(1)在宅医療と多職種連携を推進するリーダーの人材育成,(2)多職種の調整役を担う人材育成,(3)他職種と協働することを目的に在宅医療への理解を促す教育,(4)在宅医療の担い手となる人材を育成する取り組み,以上の4つに類型化できると解説。現在,同センターでは,「急性期病院と在宅医療現場の連携・退院支援研修会」事業を開始し,急性期病院勤務の医療者が在宅医療現場の知見を深める機会を作ることに力を入れているという。三浦氏は「若い医療者も多い急性期病院で在宅医療を啓発する意味は大きい」と期待を述べた。

 松井善典氏(浅井東診療所)からは,地域の診療所による卒前教育の実践が報告された。氏が診療所実習で大切にしていると強調したのは,学生に対する「問い」。「何を学んだ?」「実習であなたは何が変わった?」などと省察を促すことで,「在宅医療での経験が意味付けされ,再定義される」と説明した。また,氏は,地域で行うイベント・事業に医学生を参加させることの意義を主張。大学・地域医師会主催の住民向け健康相談イベントに医学生をかかわらせたことが,住民の“生”の健康問題に触れさせる機会になったという。「『地域を診る』態度を養う機会となるイベントは,地域にまだ眠っている」と氏は語り,既存のイベントや事業は次代の担い手を育てる教育としても活用できると提案した。

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