医学界新聞

2015.06.08



Medical Library 書評・新刊案内


「型」が身につくカルテの書き方

佐藤 健太 著

《評 者》志水 太郎(東京城東病院総合内科)

ありそうでなかった「カルテ記載のランドマーク的書籍」

 本書は,医学部を卒業して研修医となり,医師として初めて取り組む大事な仕事の一つ,カルテやその他の重要書類の書き方を示した本である。研修医がつまずきやすい箇所に関して,わかりやすい言い回しと例文を交えながら,順を追って丁寧に解説されており,著者の佐藤健太先生の指導医としてのお人柄,現場でのお仕事ぶりが透けて見えるようだ。

 内容は,「基本の型」「応用の型」「おまけの型」の3部構成となっている。

 「基本の型」の第1章「カルテ記載の心構え」では,繰り返し練習して「基本の型」を身につける重要性に話は始まり,「ダメなカルテ」と「良いカルテ」の実例を用いながら,「良いカルテ」を書く上での大切なポイントが「全体像が一発でつかめる一文を入れる」などのコツとともに説明されている。「良いカルテ」を書くことによって実際にどのように自分が成長していけるのかの道筋も示されており,カルテの書き方を習得することのゴールが見えるため,研修医のモチベーションも上がりそうである。2章からは,SOAPの各項目の解説に入る。例えば,Sの時制は過去形でOは現在形にすること,各欄に何をどのような順番で書けばよいのか,「方針(A)と計画(P)は別物」など,実際にカルテを書いていくと研修医がぶつかる壁を踏まえて解説されている。

 「応用の型」の部では,入院診療(入院初日・入院翌日以降・退院前後),外来診療(初診外来・継続外来),訪問診療,救急外来,集中治療のカルテの書き方に分かれている。それぞれのセッティングに応じた書き方や重点の置き方が記されている実践編であり,本書を一冊持っていればいつでも,より良いカルテの書き方のアドバイスを受けることができそうである。

 さらに「おまけの型」の部では,著者が普段使っているという「病棟患者管理シート」や,すべての研修医が書かなければならない「診療情報提供書」の書き方についてもヒントを得ることができる。

 カルテを書くことは医師の基本業務であり,だからこそ,その方法をしっかり学べば,医師間だけではなく,その他の医療従事者との仕事やコミュニケーションも円滑になる。俯瞰的かつ網羅的であり,ありそうでなかった「カルテ記載のランドマーク的な書籍」になると言っても過言ではない。かくいう私も研修医に勧めている,お勧めの一冊である。

B5・頁140 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02106-7


ベイツ診察法 第2版

福井 次矢,井部 俊子,山内 豊明 監修

《評 者》名郷 直樹(武蔵国分寺公園クリニック院長)

私の診察の師匠が日本語で教えてくれる

 本書を手にして,感慨深いものがあった。いろいろ思い出すことがある。今から20年以上前,2度目のへき地診療所赴任にあたって,EBMを武器に少しはまともな医療を,と意気込んでいた頃である。外部のエビデンスと患者からの情報を統合して,目の前の患者に最善の医療を提供しようというわけである。

 そこでエビデンスは重要だが,それにも増して重要なのは,目の前の患者からどう情報を得るか,ということであった。その中核になるのが病歴聴取と身体診察であるが,ろくに研修をしてこなかった私自身にとって,頼りは英語で書かれた教科書であった。エビデンスはインターネットにさえつながっていれば,大学図書館並みの情報が容易に手に入ったが,病歴聴取,診察は自分にとって相変わらず苦手分野のままであった。

 本書はその中で最もお世話になった本の一つである。当時より本書は診察法の教科書の王道であったが日本語訳はなく,原書を診察室に置いて,常に参照しながら診察していたのを思い出す。第何版だったのか記憶にないが,濃紺,ざらざらした手触りのハードカバーの本であったと記憶している。記載が簡潔で,写真や図表が豊富で,単なるお勉強にとどまらず,日々の臨床につなげることができる数少ない教科書であった。見よう見まねで診察する中でも,いろいろなことが身についた。私の診察法の師匠と言ってよい本なのである。

 当時見学に来た大学の医師に,「学生のOSCEを評価しているが,そのままの診察を現場でやっている医者を初めて見た」と言われたことがある。ベイツに書いてある通りにルーチンの診察をしていたからである。しかし今から思えば,見よう見まねの継続が,今の私の診察スタイルの中核になっている。

 その『ベイツ診察法』の日本語訳である。単なる病歴聴取,診察法だけでなく,そこから得た情報を臨床疫学的な観点でどう使うかまで言及されている。さらに小児,妊娠女性,老年という章があり,以前より網羅的な内容になっている。加えて,今回は『ベイツ診察法ポケットガイド 第3版』も同時に翻訳されており,こちらを常に携帯して参照できるようになっている。ベッドサイドでポケット版を参照し,医局に戻って本書を読み込み,もう一度患者のところへ行こう。それを繰り返すことで,自身の臨床能力は格段に進歩するだろう。

 『ベイツ診察法』が日本語訳になることで,医師のみならず,すべての医療関係者にお勧めできる一冊となった。本書により,患者からのエビデンスを,外部のエビデンスと同様に使いこなせるようになるための第一歩を踏み出そう。

A4変型・頁1016 定価:本体9,000円+税 MEDSi
http://www.medsi.co.jp

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