医学界新聞

寄稿

2015.06.08



【寄稿】

医学生のためのマッチング対策講座

横林 賢一(広島大学病院 総合内科・総合診療科 診療講師)


 6年生の皆さん,マッチングの季節になりましたね! マッチングを一言で言うと「お見合い」です。多くの学生にとって,初めて自分の意思で働く場所を選択し,また選択されることになります。最愛の職場で働くためには,それなりの準備が必要です。ここでは,出願先の選び方,面接対策などについて紹介したいと思います。

出願先は「なんとなく」決めれば良い!?

 長い医師人生のスタートとなる研修病院ですから,その選択には慎重になる必要があると多くの方が思うでしょう。もちろん,十分な下調べ・準備は重要です。ですが,第1志望の出願先は「なんとなく」決めて良いと私は思います。なんとなく決める,とはつまり,「直感で決める」ということです。後から付け加えた高尚な理由のみならず「理由はよくわからないけど,ここで働きたい!」というあなたの直感も大切にしてください。

選ぶポイントは?
 研修病院は「(あなたから見て)研修医が生き生き働いている病院」を選ぶと良いと思います。時々,「あの有名指導医がいるから」という理由で研修病院を選ぶ方がいます。良い選択方法ではありますが,あなたが働き始めてすぐその指導医が異動する可能性もあります。より良い研修病院の選択方法は「ここの研修医になりたい!」と思う場所を選ぶことです。研修医の研修環境は「文化」ですから,急激な変化は滅多に起きないものです。

大学病院? 市中病院?
 私は飯塚病院(福岡県)という,豊富な症例を経験できる(≒とても忙しい)病院で研修を行いました。大変でしたが,たくさんの貴重な症例に加え,熱心な指導医,一生の仲間である同期という素晴らしいプレゼントをいただきました。そんなポジティブな思いのほうが強かったため,かつては市中病院のほうが良いと思っていました。

 一方,大学病院の教員として働くようになり,大学での研修もいいなと思うようになりました。大学病院で研修する最大のメリットは「たくさんの知り合い」を作れることです。医療は一人では限界があります。そのような中,研修中もその後も,多くの診療科の先生や多職種の知り合いがいることは,確実にあなたの診療の助けになります。

 要は自分次第なので,大学病院でも市中病院でもOKだと個人的には考えます。

それでも出願順位に迷いがあれば?
 直感を大切にし,理由を複数挙げても(理由は紙に書き出すことをオススメします),どの病院を第1志望にするか悩むと思います。そんなときは「(1)ちょっとだけ背伸びできる病院はどこか」「(2)2年間,生き延びることができそうな病院はどこか」という視点でも考えてみると良いでしょう。

 まず(1)について。ほとんどの人が「あんな有名病院にはマッチしない」「こんなに忙しそうな病院は無理」と感じるものです。その結果,知らず知らずのうちに,“楽(らく)そうな病院”の順位を上にしてしまうこともあるでしょう(実際はどの病院も“楽”ということは決してないのですが)。ただ,社会人になるにあたっての初めての選択で「挑戦」しなければ,挑戦しない人生が始まってしまうかもしれません。ぜひとも医師としてのスタートを「挑戦」で始めてください。

 (2)について。研修医がうつ状態になる率は他職種よりも高いという報告があり,自ら命を落としてしまう方もいます。「ここなら2年間生き延びることができそう」という視点で病院を選ぶことも大切です。勘違いしないでほしいのは“楽(らく)そうな病院”を選べばよい,というわけではありません。研修医の勤務状況や思いを大切にしている病院を選んでください。そういった病院は,概して“楽(らく)そう”ではなく“楽しそう”な病院です。

面接対策は十分な事前準備を

 マッチングにおいて,面接は大変重要です。ぶっつけ本番ではなく,十分な準備をして臨みましょう。

どんなところが評価されるの?
 自分が志望する病院の院長になったつもりで,どういう人を採用したいと思うか考えてみてください。そうすることでおのずと評価ポイントが見えてきます。私なら(1)社会性のある人,(2)病院を「元気」にしてくれる人,を採用すると思います。

どうやって社会性をアピールする?
 研修医とはいえ病院の看板を背負って働くため,社会人として相手(≒患者さん,ご家族,スタッフ)に良い印象を与える人が採用されやすくなります。では,どうすれば社会性(相手への好印象)をアピールできるでしょう。

 まず誰でもできるのは「身だしなみを整える」ことです。面接の格好を少なくとも5人に見せて,不快感を与えないかチェックしてもらいましょう。「あいさつができる」ことも重要です。面接対策のみならず,普段から「気持ちの良いあいさつ」を心掛けてください。面接時のあいさつから普段の習慣が垣間見えるものです。次に重要なのは相手の目を見て話すこと。目を見て話すことに抵抗があれば,鼻あたりを見るのでも構いません。うつむかず,正面を向いて思いを伝えましょう。

 ここまで読んで「なんだ,そんなことでいいのか」と思った方,「そういうのは苦手だから自分はいいや」と感じた方などさまざまでしょう。後者の場合,トレーニングしなければ第1志望の病院へのマッチは困難と考えてください。苦手であっても,身だしなみを整え,あいさつをし,相手の目を見て話す練習を数週間続けることで劇的に印象が良くなった学生を何人も見てきました。見た目の印象が悪い医師に診てもらいたい患者さんはいません。未来の患者さんを思い,学生気分とはサヨナラして自分を磨いてください。

どうやって病院を「元気」にする?
 自分の長所,今までの活動や経験してきたことを,働こうと思う医療現場や患者さんにどう還元できるかについて,具体的で短いエピソードを交えてプレゼンすることで,「あなたがどうやって志望する病院を元気にするか」を面接官に伝えることができます。周囲の人からのあなたの評価も入れるとなお良いでしょう。面接・小論文の準備を機に,あなたをよく知る人からあなたの長所・短所とそう思う理由を聞いてみることをオススメします。また,志望先の病院の理念を確認しておくことも大切です。病院の理念とあなたの長所・経験・思いがマッチしていれば,高い確率で「お見合い成立」です。

練習相手と練習方法
 1人よりも数人で実戦形式の練習をするほうが本番でもうまくいきます。恥ずかしいかもしれませんが,友達と一緒に面接対策を行ってください。また,親御さんに頼むのもオススメです。社会の荒波にもまれ,あなたという手のかかる(笑)子どもをここまで育てあげ,人生の酸いも甘いも知ったご両親の助言は絶大です。

 友達と行う場合は3人1組で行います。受験者役,面接官役,観察者に分かれた後,受験者は以下の項目から1つを選び,面接官役に2分間でプレゼンしてください。観察者はスマートフォン等でその様子を動画で撮影してください。

・ あなたの長所は何ですか?
・ あなたの短所は何ですか? 改善点は?
・ なぜこの病院で研修したいと思ったのですか?
・ あなたは自分が社会に役立つ人材だと思いますか?

 プレゼン後,受験者役は1分で自分の感想を述べてください。次に,撮影した動画を3人で閲覧します。受験者役は良い点と改善点を1分で述べた後,面接官役・観察者はそれぞれ2分ほどでフィードバックを行ってください。フィードバックでは,なるべく具体的な良い点,改善点を伝えることを心掛けましょう。

面接でよく聞かれる質問

 うつ状態になり研修継続が困難になる研修医が少なからずいることもあり,「つらい出来事があってひどく落ち込んだときやストレスがたまったとき,あなたはどうやって解消しますか?」という質問をされることが多いようです。実際,私自身も聞かれました。ここでは,普段のストレス解消法を素直にさらっと話すのが良いと思います。なければ,今から面接日までに探してください。当日の返答時は「う~ん」と悩まないほうが良いでしょう。

第1志望にマッチしなかったら?

 マッチングはお見合いですから,第1志望にマッチしないこともしばしばあります。本気であればあるほど,当然落ち込むでしょう。そのときは「選ばれなかったということは,他に選ばれた」と考えると良いと思います。今後の人生においても,あなたが挑戦する限り,選ばれないというつらい経験をたくさんすることになります。ですが,それらの全てには意味があり,必ず次の新たな道が開けます(他の道に選ばれます)。ただこれは,十分な準備をし,本気で取り組んだ方にしか言えない言葉です。だからこそ,社会人としての第一歩となるマッチングという挑戦に全力を注いでもらいたいのです。

 マッチングおよびその準備は,いわば「人生の棚卸し」です。これまでの自分を振り返り,頑張ってきた自分自身と向き合い,尋常じゃないサポートをもらい続けている事実を知ってください。社会人として医師として世に出るにあたり,「自分が何をしたいのか」「どうやって今まで受けた恩を社会に還元するか」を考えてみてください。じっくり考え行動した結果は,きっとマッチングのみならず今後のあなたの道に生かされると思います。


よこばやし・けんいち氏
2003年広島大医学部卒。飯塚病院で初期研修後,家庭医療学開発センター(CFMD)で家庭医療後期研修,在宅医療フェローシップを修了。10年より広島大病院家庭医療専門医養成コースを立ち上げ同責任者に就任。初期研修時代,飯塚病院の“Doctor of Distinction 2004”を受賞。臨床・教育に加え研究にも力を入れており,15年9月よりHarvard School of Public Healthに留学し,健康の社会的決定要因等に関する研究を行う。家庭医療専門医,在宅医療専門医,医学博士。

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