医学界新聞

2014.11.03



Medical Library 書評・新刊案内


《精神科臨床エキスパート》
重症化させないための
精神疾患の診方と対応

野村 総一郎,中村 純,青木 省三,朝田 隆,水野 雅文 シリーズ編集
水野 雅文 編

《評 者》樋口 輝彦(国立精神・神経医療研究センター理事長)

精神疾患の「予防・早期発見・早期治療」を学ぶ

 国は「健康寿命の延伸」を健康日本21の目的の一つとし,さまざまな施策を展開している。健康長寿を実現するために最も大切なことは「病気の予防」であり「早期発見・早期治療」であろう。これは身体疾患だけでなく精神疾患にも当てはまる。病気の予防がいかに重要かについては,これまでにも保健の観点からさまざまなメッセージが発信されてきた。しかし,メンタルヘルスの領域では,予防医学は概念的には受け入れられても,具体的に何をどうすれば予防につながるのか,早期発見に至るのか,その道筋が見えないところがあった。最近,早期介入をすることが病気の予後を改善すること,治療に至るまでの時間が短ければ短いほど治療効果が高いことなどに関するエビデンスが集積されてきたことから,漠然としていた「予防」が中身を伴って語られるようになってきた。

 本書は以上のような今日的時代背景の中でまとめられた時宜にかなった書籍である。病気は突然始まるいわゆる急性の疾患(代表例は感染症)と,発症する前一定期間,前駆状態と呼ばれる非特異的な症状を示し,そのうちその疾患の本来の症状を呈する疾患に分かれるが,精神疾患の多くは後者に属する。この前駆状態は疾患特異的でないため,注意が向きにくく早期介入が困難であった。しかし,本書ではこの時期(前駆期)に焦点を絞り,これまで積み重ねられてきたエビデンスを総説することで早期介入のプロセスを明示した。

 本書は4部で構成されている。すなわち,第1部「早期段階の主訴・症候の診方と鑑別」,第2部「疾患別の早期段階における徴候,治療,対応」,第3部「精神科未受診例の早期発見と支援」,第4部「早期治療をめぐるトピックス」である。第1部は前駆状態の非特異的症状の代表とも言うべき「不安」「抑うつ」「思考障害と減弱精神病症状」「不眠」「不登校とひきこもり」「希死念慮と自傷」を取り上げ,それぞれの臨床的位置付けと実際の診断・治療の流れが要領よくまとめられている。第2部は逆に疾患ごとの早期徴候,早期段階の治療がまとめられており,中でも臨床ケースの項は解説も含めて読むと早期徴候の内容がよく把握できる。第3部は医療の現場にまだ登場しない,学校や産業現場などに隠れている未受診例の早期発見と支援を扱っている。第4部は統合失調症の早期治療を指示するエビデンス,早期精神病治療の国際的ガイドラインの紹介,日本と海外の具体的取り組みの紹介,早期治療における臨床倫理の問題,早期介入のリスクとベネフィット,将来の研究の方向性など多岐にわたるトピックスを扱うが,この本の神髄ともいえる内容で満たされている。

 最後に編集を担当された水野雅文先生の序論の最後の言葉が大変重要と思われるので引用させていただく。

 「早期介入の目的は健康人の医療化ではない。重症化させないアプローチをしっかり身につけ,自信をもって早期段階の精神疾患に向き合いたい」。

B5・頁304 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01974-3


神経症状の診かた・考えかた
General Neurologyのすすめ

福武 敏夫 著

《評 者》岩田 充永(藤田保衛大教授・救急総合内科)

神経内科プロフェッショナルの思考過程を学べる一冊

 私はこれまで,walk-inから救急車までいろいろな経路でERを受診した方の救急診療を研修医と共に行ってきました。神経疾患の比率としては脳血管障害,つまり画像で“答え合わせ”ができる疾患に非常に多く遭遇します。救急医を志した当初は,時間があるかぎり自分で診察して,病歴をとって,「この部位に病変があるのかな」と考えてから画像を撮り,神経内科医を呼んだときに,自分が行った診察と彼らがとりたい所見とがどう違うのかを見ながら勉強するように,心掛けてきたつもりです。

 しかし,神経内科医によっても所見のとり方が微妙に異なっていたり,神経内科の先生に笑われないように勉強しようと思って本を買っても,まるで所見のカタログではないかと思うくらいたくさんの所見が載っていて,「神経診察を勉強するのも難しいものだなあ……」と途方に暮れ,いつしか「患者多数でER混雑」を言い訳に,ついつい「画像検査を行って,必要があれば髄液検査を行って……,(結果がどうであっても)神経内科医に相談して……」という流れ作業のような診療になってきたことに気付きます。

 そんな中で,福武敏夫先生が記された『神経症状の診かた・考えかた-General Neurologyのすすめ』に出合い目次を見たところで,かつて,米国で神経内科専門医としてご活躍の先生に,「神経内科の専門医は,どのように考えて診察を行っているのか?」と思考過程を伺ったところ,「神経内科専門医の資格をとるための神経診察の仕方のスタンダードが,ある程度決まっていて,訴えからどのセットを出してくるかということなんですよね。Parkinson病セットとか,錐体外路セットとか,運動異常症セットみたいな感じで,所見のとり方を考えるのが面白い」と教えていただいたことを思い出しました。

 読んだ後の感想は……。

 「そうそう,この症状からどの診察セットを出すか,専門医の思考過程を知りたかったんだよね!!」と本当に得をした気分になりました。

 日常診療でよく遭遇する症状(ERではwalk-in受診に該当するものと感じました)から救急車で受診するような緊急性の高い症状まで「神経内科のプロフェッショナルはこんな風に考えていたんだ」と思考過程を学ぶことができます。第I編 第7章「『奇妙』な症状」を読んで,かつて「最近,うちのおじいさん,首が下がって元気がない」という受診にどうしたものか頭を抱えていたところ,たまたま通りかかった神経内科医が「これは典型的なアミトロ(amyotrophic lateral sclerosis ; ALS,筋萎縮性側索硬化症)ですね」と瞬時に診断した衝撃を思い出しました。また,第III編 第2章「画像診断のピットフォール」を読んで,「とりあえず画像検査」という安易な診療になっていた自分を反省する機会となったことは個人的には大きな収穫です。

 世の中に優れた臨床家はたくさんいると思いますが,彼らの頭の中(思考過程)をわかりやすく説明してくれる優れた書き手は多くいません。福武先生は,優れた臨床家と書き手の両方の能力を備えられた先生なのだと思います。今後も「臨床医の匠の技」をぜひ,私たち(出来の悪い)後輩医師に伝えていただきたいと心から願っています。

B5・頁360 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01941-5


レジデントのための血液診療の鉄則

岡田 定 編著
樋口 敬和,森 慎一郎 著

《評 者》大屋敷 一馬(東医大主任教授・血液内科)

血液診療の楽しさを味わえ段階的に理解できる書

 血液と聞くと,初めから苦手意識を持ち,すぐに血液専門医を探すか,総合病院にと思っている医師も多い。これは半分は正しいが,半分はとにかくわからないという気持ちが働いているからではないだろうか。本書は,そんなとっつき難いと思われがちな血液疾患について段階的に理解できるように工夫されている。章立てとして,病棟編,一般外来編,救急外来編に分けられているが,対応の異なる状況における血液診療がうまく分類され,興味を継続させてくれる。一般外来編では主に鑑別診断を含む見逃さない診断に重きが置かれている。救急外来編ではしばしば経験するような緊急対応についてうまくまとめられている。また,それぞれの項目は常に全身的なアプローチから見て,血液疾患を俯瞰的に把握するという内科の鉄則にのっとっている。

 個々の疾患にはポイントとも呼ばれるような小見出しが鉄則としてまとめられ,実際の症例提示へとつながり,POSから診断・検査,治療と説明,副作用と有効性などまでQ and Aの形で書き進められている。本書では2色刷であることに加え,拡大文字やボールドをうまく使って重要な点を見落とさないような工夫が随所にみられるのもありがたい。

 「もっと知りたい」や「教訓」もあり,ちょっとした読みもの風になっており,それぞれの筆者のあるいは編者のこだわりが垣間見えるのも成書にはない楽しさかもしれない。「最終チェック」で頭の整理ができ,本書は血液専門医をめざす医師にとってもまさに有用な一冊といえる。

 内科研修で血液疾患に遭遇し,苦手意識を持ったかもしれない若手医師にとっても,本書『レジデントのための血液診療の鉄則』は頭の整理になるとともに,経験していなかったさまざまなことを楽しく読み解いてくれる。

 ぜひ,手に取って本書の素晴らしさ,血液診療の楽しさを味わってほしいと切に願う。

B5・頁336 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01966-8


標準生理学 第8版

小澤 瀞司,福田 康一郎 監修
本間 研一,大森 治紀,大橋 俊夫,河合 康明,黒澤 美枝子,鯉淵 典之,
伊佐 正 編

《評 者》永井 良三(自治医大学長)

基礎医学を学ぶ基盤として全ての医学生に通読をお薦めしたい教科書

 今日,生理学は基礎医学の一科目とされているが,臨床医学を含め,全ての生命科学の基盤は生理学である。しかしながら,これは比較的近年のことであり,19世紀中期に始まる。当時,若い生理学者や医学者が,「物理学や化学に基づく生理学」,さらに「生理学に基づく臨床医学」の必要性を唱えた。これにより生理学は,物質に還元しつつ生体システムの解明をめざすようになった。近代生理学の影響力は極めて大きく,社会学や自然主義文学の成立にも影響を与えた。生理学は,複雑なシステムの理解に威力を発揮するからである。その学習は医学の基本であり,王道でもある。

 しかしながら,最近は分子生物学の進歩が目覚ましく,生理学においても専門分化が進んだ。分子レベルの理解の重要性は紛れもない事実であるが,分子レベルだけでは生理学を理解できない。特に医学生には,分子機能についての最新の知見を基に,器官や個体の機能と制御機構について,全体像を把握することが何よりも必要である。

 本書は,医学生が生理学を学ぶ上で,出色の教科書である。1985年に初版が上梓され,長く全国の医学生に愛用されてきた。今回改訂された第8版においては,全体が16編に分割された。各編の下には合計80章が置かれ,1178ページの構成となった。また,巻末には医師国家試験や医学教育のコアカリキュラムと関連する項目が挙げられ,それらと関連するページが一覧表としてまとめられている。どの章の記載も簡潔明瞭であり,論理的に記載されているために読みやすい。鍵となる生理学的概念については多くの図が提示され,理解を容易にしている。また,各項目にはAdvanced Studiesの欄が設けられ,関連する最新の知見が紹介されている。より深い学習を望む学生には,英語と日本語の文献が参考となるはずである。執筆陣はわが国の生理学の第一人者たちである。また,解剖学,薬理学,内科学,外科学などの関連領域の教育・研究者も参加しており,文字通りわが国の精鋭による陣容である。

 最近は,最新の知識をインターネットなどから容易に入手することができるようになった。しかしながら,系統的に書かれた教科書を通読し,全体を俯瞰することは,いつの時代でも学習の基本である。本書はどこからでも読むことができ,図表と文字数のバランスも適切である。医学生の学習する科目は多く,各科目の情報量も膨大であるが,まず生理学によって全体像を理解するのが賢明である。そのための最適の教科書として,本書の通読を全ての医学生にお薦めする。

B5・頁1178 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01781-7

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