医学界新聞

2014.10.13



医療ビッグデータの活用に向けて


 これまで集積されてきた,医療行為や健康状態に関する膨大なデータ=「医療ビッグデータ」を分析し,医療費削減や健康課題の解決に利用する動きが活発化している。厚労省も今年度から,全ての健康保険組合などが「データヘルス計画」を策定し,レセプトや特定健診等のデータを利用してより費用対効果の高い保険事業を展開するよう求めるなど,データの活用を国を挙げて推進するかまえだ。第52回日本医療・病院管理学会(9月13-14日,於:TOC有明コンベンションホール,学術総会長=国際医療福祉大・池田俊也氏)にて開かれたシンポジウム「医療・病院管理におけるビッグデータの利用」(オーガナイザー兼座長=東京医歯大・伏見清秀氏,座長=京大大学院・今中雄一氏)では,医療ビッグデータの概要やその活用のための具体的な方策が検討された。

ビッグデータがかなえる,医療の質向上

シンポジウムの模様
 医療機能の分化・連携を推進すべく,今年度から始まる病床機能報告制度とそれに基づく地域医療ビジョン策定。ここに活用が期待されるのが,急性期の入院医療を対象とするDPCデータと,全医療領域をカバーするレセプト情報・特定健診等情報データベース(ナショナルデータベース;NDB)だ。取り組みに携わる藤森研司氏(東北大大学院)は「レセプトはDPCと比べ主たる傷病名の特定が難しいこと,患者所在地等の情報の欠如などの課題はあるものの,電子化率も96%を超えており,活用すれば日本の医療の現状をほぼ把握可能」と,その悉皆性を高く評価。両データベースの活用で,急性期から回復期までの必要病床数を的確に推計,実効性の高い地域医療計画を作りたいと意気込んだ。

 猪飼宏氏(京大大学院)は,医療の質向上へのビッグデータの活用を検討した。氏は,DPCデータから患者別原価や診療領域ごとの利益率が算定でき,コストダウンに資すること,レセプトデータの分析により,医療資源の集約による質の向上と,医療へのアクセスの公平性とを両立させるシミュレーションが行えることなどを例示。また,臨床指標の多施設間での比較・公表,医療政策の導入効果の測定などもビッグデータ解析により可能となり,医療の質改善につながると主張した。その上で,現場の医療者や国民がそうしたデータのもたらすメリットを実感することが,国を挙げたデータベースの整備・充実には不可欠と結んだ。

 伊藤弘人氏(国立精神・神経医療研究センター)は,精神医療分野におけるビッグデータの活用例を紹介。昨年,NDBを用いた大規模処方調査により,統合失調症に対する向精神薬の多剤大量処方の実態が明らかになった[奥村泰之,他.臨床精神薬理.2013:16(8);1201-15]。この結果は一般メディアでも大きく報道され,本年度からの診療報酬改定に多剤処方制限が追加される原動力となったという。氏は,今後は非精神科領域における身体疾患と精神疾患の関連や,向精神薬の副作用等の臨床疑問を研究ターゲットにすべきとし,コホートデータベース構築の必要性に言及した。

 本年より本格稼働した国保データベース(KDB)を概説したのは今井博久氏(国立保健医療科学院)。KDBは,国保連合会が管理する給付情報などから「統計情報」と「個人の健康に関するデータ」を提供するもので,従来保健師らが手作業で行っていたデータ作成を効率化,地域の現状を把握し“健康づくり”を支援するのが目的だ。健診・医療・介護の情報が結び付いており,細分化された帳票で個人の履歴から地域医療の全体像まで把握可能な上,1クリックで種々のデータを表示できる利便性も備える。氏は,これら保健医療ビッグデータの活用には,明確な目的を持った解析と,解析結果に基づいた予防的介入の実行が肝要と指摘。データヘルス計画が始まる本年から来年を“医療ビッグデータ時代の幕開け”と称し,研究・実践の進展に期待を寄せた。

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