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第3095号 2014年10月6日


診断推論
キーワードからの攻略

広く,奥深い診断推論の世界。臨床現場で光る「キーワード」を活かすことができるか,否か。それが診断における分かれ道。

■第10回……お腹が痛くてズル休み!?

山中 克郎(藤田保健衛生大学救急総合内科教授)=監修
安藤 大樹(藤田保健衛生大学救急総合内科)=執筆


3091号よりつづく

【症例】

 16歳,高校1年生の女性。1年3か月前から37℃台前半の発熱あり。1年2か月前から1日数回の少量粘液の混ざった軟便と腹部全体の軽度間欠痛出現。近医総合病院で大腸内視鏡検査を施行され,びらん様の変化が見られたものの,好中球浸潤は目立たずPAS染色でもアメーバ陰性。細菌性腸炎,あるいはクラミジア卵管炎を疑われ,アザクタム®とセフトリアキソンを処方され,症状は軽快していた。

 しかし1年前に症状再燃。胃酸の込み上げや,時々38℃台の発熱や便中に血液が混入するようになり,学校も休みがちになった。再び前医を受診し,大腸内視鏡検査再検。アフタ様変化が散在していたものの,2週間後の再検では所見が改善しており,「アフタ性大腸炎」の診断となった。その他,腹部CT,上部消化管内視鏡が行われたが明らかな異常は指摘されず,「過敏性腸症候群」としての経過観察を勧められたが,さらなる原因精査を希望し,当院初診外来紹介受診となった。

[既往歴]軽度貧血の指摘のみ
[内服薬]トリメブチン(セレキノン®),酪酸菌(ビオスリー®),メペンゾラート(トランコロン®
[生活歴]海外渡航歴なし,性交渉歴なし,動物との濃厚な接触歴なし
[来院時バイタルサイン]体温37.1℃,血圧108/56 mmHg,心拍数68回/分,呼吸数12回/分
[その他]全身リンパ節に腫脹なし,皮疹なし,関節の腫脹・圧痛なし,腹部は平坦・軟,臍周囲に圧痛を認めるが反張痛なし,筋性防御なし,腸蠕動音はやや亢進

……………{可能性の高い鑑別診断は何だろうか?}……………


キーワードの発見⇒キーワードからの展開

 ある程度精査が行われているにもかかわらず,診断には至っていない若年女性の慢性的な腹痛症例である。「腹痛」というキーワードで鑑別を進めると,消化管・肝胆道系疾患以外にも,

・腎泌尿器系疾患(結石,腎盂腎炎)
・生殖器系疾患(子宮外妊娠,付属器炎,子宮筋腫,卵巣茎捻転)
・心血管系疾患(心筋梗塞,心膜炎,上腸間膜動脈症候群)
・胸腔内疾患(うっ血性心不全,肺炎,肺塞栓,気胸,膿胸,胸膜炎)
・神経根疾患(帯状疱疹,椎間板ヘルニア,カウザルギー,脊髄瘻)
・代謝性疾患(尿毒症,糖尿病,糖尿病性ケトアシドーシス,急性副腎不全,副甲状腺機能亢進症,急性間欠性ポルフィリン症,鉛中毒)

と,鑑別疾患が多岐にわたってしまう“大きなカード”(第6回,第3079号参照)である。さらに小児心身症領域では機能性胃腸症,呑気症,びまん性食道痙攣,過敏性腸症候群,反復性腹痛といった腹痛を来す疾患も多く,本症例を「腹痛」をキーワードにして攻めるのは得策ではない。

 今回は,キーワードとしてもう一つ挙げられる「不明熱」を基に鑑別を進める。不明熱へのアプローチ法は多岐にわたるが,忙しい外来などでは,汎用性の高い以下のアプローチを押さえておくと便利である(表11)

表1 「不明熱」から導くべき鑑別診断リスト
◆“the big three”&“the little six”で不明熱の原因をとらえる   

・the big three……感染症,悪性腫瘍, 自己免疫疾患   
・the little six……肉芽腫性疾患,限局性腸炎,家族性地中海熱,薬剤性,肺塞栓症,詐熱

 初診時の医療面接で具体的な疾患は想起できなかったものの,重篤な印象は受けなかったため血液検査を提出するとともに,腹部CT検査,上部・下部消化管内視鏡の予約を行った。腹部CT検査・上部消化管内視鏡検査は異常なかったが,下部消化管内視鏡検査はアフタ様変化が前医で認められたものよりやや増加しており,“the little six”の中の肉芽腫性疾患,限局性腸炎(潰瘍性大腸炎,クローン病)の可能性が示唆された。筆者が「おや!?」と思ったのは,血液検査の結果である。

Hb:9.4 g/dL,Ht:31%,MCV:106 fl,Na:133 mEq/L,K:3.2 mEq/L
補正Ca:7.6 mg/dL,Mg:1.6 mg/dL,Fe:58μg/dL,フェリチン:104 ng/mL,葉酸:2.3 ng/mL,ビタミンB12:177 pg/mL

 以前から貧血の指摘があり,ヘモグロビン値が低値であることは予測範囲内であったが,MCVの値は意外であった。確かに急性出血などの際にMCVが反応性に上昇することはあり,106 fl程度の数値が問題になることはあまりない。ただ,本症例は慢性経過であり,若年女性であることを考えると,正球性-大球性貧血になっている点に違和感を覚える。そこで追加検査した電解質(Ca,Mg),ビタミン(葉酸,ビタミンB12)を見ると,いずれもやや低値。つまり,MCVの値は,もともとあった小球性貧血がビタミン欠乏に伴う大球性貧血で修飾されていたのである。慢性的な軟便はあるものの,経口摂取をしており,しかも上部消化管内視鏡では異常を指摘されていないにもかかわらずビタミン欠乏――。障害部位はあそこしかない!

最終診断と+αの学び

 追加検査として行った小腸造影所見で小腸全域に潰瘍瘢痕と,回腸に広範な縦走潰瘍を認めた。消化器内科転科の上でカプセル内視鏡,多列検出器型CT-MPRが施行され,回腸を中心とした縦走潰瘍,敷石像やアフタが確認された。

[最終診断]小腸型クローン病

◆忘れられがちな小腸病変
 「若年者」「不明熱」「長引く大腸炎」といったキーワードがあり,一見すると炎症性腸疾患を疑いやすい状況である。が,前医で精査された上で過敏性腸症候群の診断名がついていたため,臨床現場ではunder triageになりそうな経過である。特に過敏性腸症候群によく見られる腹痛,腹部膨満感,粘液排出などの症状は,炎症性腸疾患でもよく見られる所見であり,なかば“ゴミ箱診断”として扱われがちである。表2に炎症性腸疾患の鑑別に有用な所見を挙げる2)

表2 炎症性腸疾患の診断に有用な所見2)

 今回追加したもう一つのカードは,「説明のつかないミネラル・ビタミン欠乏」である。小腸は障害部位によって発生する異常が異なっている。Fe,Ca,Mgの他,脂溶性ビタミン(ビタミンA・D),水溶性ビタミン(ビタミンB1・B2・B6・C・葉酸)は十二指腸と上部空腸で吸収される。一方,胆汁酸やビタミンB12の吸収は回腸末端で行われる。また,直接の障害でなくても,回腸末端が障害されると,胆汁酸の吸収が低下し,胆汁酸プールが減少することにより二次的に胆汁酸と脂肪,脂肪酸の混合ミセルの形成が不十分になって,主に空腸で吸収される脂肪や脂溶性ビタミンの欠乏症も生じる。さらに,吸収されない脂肪や脂肪酸がカルシウムと結合してしまうために,経口摂取されたシュウ酸がシュウ酸カルシウムとして沈降できず,尿路結石や胆石症が多くなる。

 下記に示す症状がそろえば,ミネラル欠乏・ビタミン欠乏を疑うことも容易である。

・慢性の水様性下痢と吸収不良による低栄養
・原因不明の低血糖
・ビタミン欠乏に伴う諸症状(ビタミンA欠乏による皮膚・眼球乾燥/ビタミンB12・葉酸欠乏性貧血/ビタミンB1欠乏によるしびれ)
・電解質異常による倦怠感・筋力低下・不整脈
・腎結石や胆石の増加

 ただし,発症初期の場合,「倦怠感」「皮膚の乾燥」「しびれ」といった,不定愁訴ととられかねない症状を訴えることがある。特に,Mgは代謝に関与する多くの酵素のco-factorとして作用し,エネルギー産生,貯蔵,利用,蛋白合成などに重要な役割を果たしているにもかかわらず,血管内には1%程度しか存在しない。そのため,血液検査で正常であってもMg欠乏の否定はできない。小腸病変は“不定愁訴もどき”の宝庫なのである。

 「不明熱+腹痛+慢性的な水様性下痢」で炎症性腸疾患を疑うことはもちろんだが,「説明のつかないミネラル・ビタミン欠乏」を見たら,小腸病変の可能性を考える必要がある。さらには,内視鏡検査で異常が指摘されず,機能性胃腸症や過敏性腸症候群など心身症領域の診断名がついている場合も,一度は小腸障害の可能性を考え,ミネラル・ビタミンの確認をお勧めする。

Take Home Message

 ・小腸は“地味に”頑張っている! 診断に悩んだとき,一度は思い出してあげよう。

つづく

参考文献
1)Southwick FS.INFECTIOUS DISEASES IN 30 DAYS.McGraw Hill Professional;2003.90-106.
⇒かなりのボリュームだが,非常に読みやすい。感染症を学ぶ全ての人にお勧め(日本語訳もあります)。
2)Schumacher G,et al.A prospective study of first attacks of inflammatory bowel disease and infectious colitis.Clinical findings and early diagnosis.Scand J Gastroenterol.1994;29(3):265-74.
⇒105人の大腸炎患者で,炎症性腸疾患の診断に有用な所見を検討した前向き試験。

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