医学界新聞

寄稿

2014.10.06



【寄稿】

主治医意見書の記載時のポイント(前編)
介護保険の基礎知識

井藤 英之(飯塚病院総合診療科)


 初期研修医・後期研修医となってから,「主治医意見書」の記載を要求されることもあるはずだ。ただ,医学生時代,この書類の記載方法に関する講義を受けた経験が,筆者にはない。さらに言うと,介護保険制度自体について,医師になった時点では正確に理解していなかったというのが本音である(講義を真剣に聞いていなかったためか……?)。若手医師たちは皆,自信を持って書けているのだろうか?

 介護保険は,患者さんやその家族の退院後の生活のサポートとなるものであり,ひいては今後の人生の質をも左右し得るものである。その認定の鍵を握るのが,この主治医意見書だ。公的な介護が必要な方に必要なぶん行き届くよう,きちんと評価される記載方法を知っておくことは重要である。不十分な書き方をしたがために,患者さんに不利益を被らせるなんてことは絶対にあってはならない。

 本稿では,主治医意見書の書き方について前後編に分けて解説していく。前編に当たる今回は,主治医意見書の記載に必要な基礎知識を取り上げたい。前提となる「介護認定」と「認定を受けるまでの流れ」について確認する。

「介護認定」には8つの分類がある

 そもそも患者さんが介護保険サービスを利用するためには,市町村へ介護認定の申請を行った上で,要支援・要介護などの認定を受ける必要がある。この介護認定は8つのレベルに分かれており,軽い順から,非該当,要支援1-2,要介護1-5に分類されている。

 認定された要介護度によって,受けられるサービス内容(施設サービス,居宅サービス,地域密着サービス,介護予防サービスなど),さらに支給限度額も変わってくる。支給限度額は市町村によって異なるが,支給限度額の目安はの通りだ。利用者はこの限度額の範囲内で,介護サービスにかかる費用の1割を自己負担してもらうことになる。なお,これとは別に,福祉用具や住宅改修費(20万円まで)なども支給されることは留意したい。

 区分支給限度額の基準1)
※市町村ごとに異なる点に留意されたい。

 患者さんやそのご家族と話していて感じるのは,「非該当」という分類が認識されていないケースがよくあるということである。患者さんやご家族によっては「申請を出せば介護保険が下りる」と思っている場合もあり,非該当と認定されたことで,トラブルが生まれる可能性もある。患者さんの家族から主治医意見書の記載を依頼された場合は,「非該当」について,事前にきちんと説明しておきたい。

要介護度はこうして決まる

 要介護度は,下記の流れを経て決定される()。

 要介護認定の流れ2)

住民から市町村へ介護保険申請
⇒(1)調査員による認定調査+主治医意見書提出
⇒(2)一次判定…(1)によるコンピュータ推定
⇒(3)二次判定…(1)+(2)+介護認定審査会
⇒(4)要介護度決定

 申請後,一次判定のために,(1)訪問調査員によって作成された書類と,医師が記載する主治医意見書が必要になる。なお,前者は市町村職員,あるいは委託を受けた事業所職員が,当該患者の自宅や入院先などを訪問し,評価項目に沿って心身の状況を聞き取り調査したもの。この2つの情報を基に,「介護にかかる時間」がコンピュータで試算され,一次判定が下される。この一次判定に,訪問調査の特記事項,主治医意見書の内容を踏まえ,市町村から委託を受けた医師・訪問看護師や社会福祉関連職種の3-5人が参加する,介護認定審査会において最終判定((4))が行われ,要介護度が決定される。

 申請から要介護度の決定までに要する時間は,4-6週間程度が一般的だ。しかし,例えば末期悪性腫瘍の患者さんで早期の介護保険サービス導入が必要となる場合など,4-6週間待つことが難しいケースもあるだろう。そうした場合は,暫定評価から暫定ケアプランが作成され,正式な認定がなされた後に金額の調整を図る……ということも可能になっている。

一次判定で要支援2以上は,主治医意見書の重要度が増す

 さて,こうした一連の流れの中で,「主治医意見書」が重視されるタイミングについて考えてみたい。まず,一次判定で「要支援1」と判定された場合だ。二次判定で要介護度が変更されることは少ないためか,こうしたケースでは主治医意見書は「参考程度」の位置付けになることが多いようだ。

 しかしながら,一次判定で「要支援2」以上であった場合,主治医意見書記載内容の重要度は一段と増す。先述したように要介護度によって受けられるサービスが変わるが,主治医意見書の記載内容によっては介護度の認定に不利益な影響を与え,患者さんが必要とするサービスの利用を阻む可能性すらある。例えば,費用の面まで考慮すると,現実的には要介護2以上でないと利用が難しくなる。こうした現状がありながら,本来ならば入所施設サービスの選択肢も考えたい患者さんに「要支援2」の判定が下されてしまうとなれば,やはり患者さんへの負担,さらには家族の負担まで大きくなる恐れがあろう。今後,在宅で医療を受ける場合であっても,訪問看護師・訪問リハの利用可能頻度という点で,要介護度の判定が与える影響は大きいのである。

 なお,(3)介護認定審査会は1回1時間程度で行われ,約30人分の判定がなされることもあるようだ。つまり,1人当たり2分程度で審査が行われる場合もあるということだ。2分間でも,審査員が患者さんのADLや生活環境を正しく想像できるような記載内容でなければならない。この点から考えても,主治医意見書の重要性,そして的確・簡潔に書く必要性はわかっていただけるのではないだろうか。

情報源は,患者ごとに異なる

 記載時のポイントの前に,患者のADLや生活環境に関する情報をどのように集めればよいかについても触れる必要があるだろう。ただ,これについて,「誰」から「何」を聞き出すかは患者ごとに異なるとしか言えない。

 一般的には,本人および家族からADL(着衣・食事・移動・入浴・排泄など)やIADL(買い物・掃除・金銭管理・食事準備・公共機関を利用しての移動など)を具体的に聞くことが多い。すでに介護保険を取得し,ケアマネジャーがかかわっているようであれば,ケアマネジャーに当たってみるのもよい。生活が破綻してしまっている患者さんなら,ケアマネジャーのほうが家族よりも日常生活を熟知している場合もある。入院中の患者さんであれば,リハ担当者と密に連絡を取って事情を聞いてみると,患者さんの自立状況は理解しやすい。あるいは,主治医として自分でも患者さんと一緒に歩き,歩容や歩行可能距離などを確認することも勧めたい。

 現場では患者さんのADL・IADLなどの情報を得るのが難しく,苦労することは非常に多い。普段から情報を蓄積していくことの重要性も痛感している。筆者は,普段からADLが完全に自立していない患者さんに関しては,転院や紹介のタイミングがあれば,後医のために診療情報提供書には必ず現在のADLや嚥下状態についても記載するよう配慮している。特に,近い将来に訪問診療が必要と思われる患者さんでは,一段と注意を払い,実践するようにしている。

 今回は主治医意見書の書き方に至る前段階の基礎知識の確認となった。しかし,ここまで踏まえることで,ようやく良い主治医意見書が書けるというもの。次回(第3099号/2014年11月3日発行)は実践編として,ピットフォールを示しつつ,主治医意見書の記載時のポイントを提示していく。

参考URL
1)厚労省.区分支給限度基準額について
2)厚労省.公的介護保険制度の現状と今後の役割.要介護認定の流れ


井藤英之氏
2010年奈良医大医学部卒。阪大病院で初期研修後,12年より現職。関西エリアの若手医師の集団,関西若手医師フェデレーション主催のショートプレゼンテーション大会(「チキチキkan-fed小ネタ集」)で扱ったことを機に,本稿のテーマに関心を持つ。将来は,日本独自の外来・病棟・救急対応ができる総合診療医をめざす。

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