医学界新聞

寄稿

2014.06.09

【投稿】

国際学会への参加を通して,成長の機会を

安藤 尚克(自治医科大学附属病院・総合診療内科)


 皆さん,米国総合内科学会(Society of General Internal Medicine;SGIM)という学会をご存じでしょうか。私は,2014年4月23-26日にかけてカリフォルニア州のサンディエゴで開催された,第37回SGIMの年次総会でポスター発表を行ってきました。 国内の学会発表とは違った部分で大変有益な経験ができたと思いますので,その内容について報告させていただきます。

教育活動に力を入れるSGIM

 最初に,SGIMについて説明します。米国の医学部や主要な教育病院に所属するプライマリ・ケアを専門とした内科医3000人ほどから成る団体です。医学生,レジデント,フェローに対する教育や,プライマリ・ケアの改善,予防医学,治療に関する研究を行っています。

 今年の年次総会は “BUILDING THE BRIDGES OF GENERALISM ”というテーマでした。これは近年SGIMが,さまざまな学会との連携を進めていることと関係しているのだと思います。例えば,米国内科学会(American College of Physicians;ACP)とのパートナーシップはSGIMにとって最も重要な連携の一つに位置付けられており,定期的な交流が行われています。本年4月,ACPから発表されたHigh Value Care Coordination(HVCC)Toolkitにも,SGIMは大きく貢献しています。これはプライマリ・ケア医と専門医の間で効果的な連携を行うために作られたもので,コンサルト時に必要な情報のチェックリストなどが盛り込まれています。今回の学会ではこのチェックリストが有効かどうかを論じる発表も行われていました。

 今学会の規模は,採択演題数が1861題とかなり大きなものとなっています。学会期間中は,朝8時から20時ごろまでさまざまなセッションが複数の部屋で同時に行われています。今回から新たに開始されたセッションの中には,5-8年目あたりの医師を対象とした,教育やリーダシップのスキルを磨くための「LEAD Core Session」という約1日がかりのセッションもありました。

 学会の中で私が面白いと思ったセッションは,「Clinical Vignette Session」という実際の症例を持ち寄って臨床推論を行うセッションです。このセッションの最後の症例はUnknown Vignetteとして,会場の参加者とdiscussantの医師に対して,フェロークラスの医師が情報を提示していく形式で進められます。事前の情報提供がない中,その場で提示される現病歴・身体所見・検査データを基に語られる,discussantの医師の思考過程や教育的なポイントの解説は刺激的で大変勉強になりました。

年代を問わず交わされる活発な議論

 私がポスター発表をしたセッションは「Clinical Vignette Poster Session」というもので,学会期間中に3回行われました。毎回,異なる180-190のポスターが一つの部屋に展示され,各発表者はポスターの前に立って1時間ほど閲覧者と議論ができます。私は「Pseudorenal failure caused by spontaneous repture of the urinary bladder」という題名で発表しました。膀胱に基礎疾患を有する患者に一過性の膀胱壁の損傷が起こり,膀胱内の尿が腹腔内に漏れ出ます。すると腹膜から尿中の溶質が吸収され,本来の腎機能は保たれているにもかかわらず,急性腎障害のような所見を示すという症例の発表でした。まれな病態ですが,知っていると早期の診断が可能になると思い,この症例を選択しました。会場では,この病態の臨床経験はないけれども知っているという閲覧者の方とも議論することができました。

ポスター前での記念写真。多くの人と議論を交わすことができました。
 「Clinical Vignette Poster Session」のポスターは臨床症例が中心でしたが,医学生からベテラン医師までかなり幅広い層の発表者・閲覧者がおり,活発に議論が行われていたように思います。また,教育的な症例のポスターが多く,見ていて大変勉強になりました。中には自分のプレゼンを聞いてくれとアピールしてくる人もいて,気軽で話しやすい雰囲気もありました。なお,時間や形式は同じですが,ポスター発表には「Scientific Abstract Poster Session」という別のセッションもあり,こちらの内容は教育・健康・予防医学などの研究に関するものを中心としていたようです。

 ユニークだったのは,積極的な質疑応答を促すための取り組みです。発表者は事前に配布用のシールを持たされており,自身の発表に関して議論を交わした閲覧者にはそのシールを渡します。そして各セッション終了時点でシールを多く集めた上位数人は,スターバックスのフリーギフトカードがもらえる,というものでした。今回から始まった試みとのことでしたが,シールを集めている人をたびたび見かけたので,議論の活発化に少なからず良い影響を与えたのかもしれません。

伝えたいことはシンプルに

 今回のポスター発表までの流れを参考として説明します。まず,発表する症例選択の一番大事なポイントは,その症例がどのような教育的側面を持っているかだと思います。発表に適した症例が見つかれば,Abstractを「Learning Objects」「Case」「 Discussion」の3つの構成で3000字内にまとめ,SGIMに提出します。Learning Objectsではなぜその症例を選んだのか,もしくはその症例を通して何を学ぶべきかというポイントを書きます。Caseで選んだ症例の説明をし,Discussionでは,その症例の問題点などを議論します。約1か月で結果の通知があり,採択されればポスター作製にとりかかります。私は症例を決めてAbstractを作成した後,当科の松村正巳教授と,松村教授と親交のあるGurpreet Dhaliwal先生(カリフォルニア大サンフランシスコ校)に内容や英語表現の指導をしていただきました。

 ポスター作製に関しては見やすいことが何よりも大事だと思います。そのためには文字を多くしすぎず,なるべくシンプルにすることが閲覧者にとって最も読みやすくなる,押さえておくべきポイントの一つではないでしょうか。

 最後に英語力についてです。もちろん英語力は,あればあるほど良いに越したことはありません。しかし,ポスター発表に関していえば最低限ポスターの前で質疑応答ができる英語力があれば十分です。ちなみに私は学生時代に海外で病院実習を行った経験はありますが,決して帰国子女のように流暢には話せません。「やってみたい」と思う気持ちが大切だと思います。

 今回のSGIMへの参加は,私にとって大変貴重な経験になりました。国際的な視点を養い,幅広い交流もできるという点で国内の学会と異なる有益な機会であり,臨床能力の幅を広げる意味でも大いに役に立つと思います。将来留学を考えている方にとっても経験を積み,交流を深める良い場となるのではないでしょうか。ポスター発表は,他の形式と比べて比較的参加しやすいため,興味がある方がいればぜひ挑戦してみてください。


安藤尚克氏
2012年東海大医学部卒。同年より自治医大病院にて初期研修を経て,14年から同院総合診療内科勤務。「学生時代に抗菌薬の本を読んでから総合診療,感染症に興味を持ちました。現在は幅広く勉強したいと思い,内科全般のトレーニングを行っています。将来はそれぞれの患者さんに合わせた診療を行い,かつ自分が学んだ知識,経験を後輩や周囲の人と共有するような医師になりたいと考えています」。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook