医学界新聞

2014.04.21

Medical Library 書評・新刊案内


看護教員ハンドブック

古橋 洋子 編

《評 者》里光 やよい(自治医大准教授・基礎看護学)

ポイントをギュッと凝縮!看護教員必携の一冊

 今や,4年制の看護大学は210校を超え,短期大学,専修学校を合わせると759という数の看護基礎教育機関があり,4年制大学の新設も続くことが予想されます。年度末から新年度にかけてのこの時期には,あちこちで教員の確保について頭を痛めているという話が流れてきます。「新任教員が定着しない,教員の教育方法がわからない,看護教員としての自分の目標がわからない,他の学校ではどうなのだろうか」などの悩み,そしてなんと言っても,臨床実習指導に悩みを抱えている方に読んでいただきたい本です。何らかのヒントが必ずつかめることと思います。

 冒頭は,看護教員として最低限わかっておきたい仕事内容を,その根拠となる法律や指定規則,設置基準などを引用し示してあります。この部分だけでも新任教員向けのオリエンテーションに有効です。担当されている方は,こんな一冊がほしかった! と実感されることでしょう。

 構成を紹介しますと,1章:教員の組織と役割,2章:カリキュラムから授業の実施まで,3章:看護学実習を指導するための基礎知識,4章:看護教員にとっての研究,5章:押さえておきたいコミュニケーションの技法となっています。

 いい学生を育てるにはいい教員が必要ですが,いい教員とは学生の力を認め伸ばせる教員であると思います。とりわけ臨床実習の場での教育力は重要ですが,教員の醍醐味でもあり悩みどころでもあります。その実習指導についてのさまざまな工夫から学生とのコミュニケーション,臨床とのコミュニケーション,カンファレンス,時に起こるクレームやヒヤリハット時の対応やコミュニケーションの取り方に至るまで,ページを割いて幅広い角度から記しています。

 対応の少しの差が大きな影響となって表れることもあるのが臨床現場の特徴です。微妙なコミュニケーションについてもポイントを押さえて簡潔に書かれてあります。本書は,編者の古橋洋子先生の長年の教育経験からあぶり出された臨床実習成功の鍵となるエッセンスがギュッと詰まった良書であると思いました。

 このように臨床実習のみならず日常の講義演習の準備実施から研究への取り組みに至るまでを網羅していますので,これから教育に入ろうと思っている方や教育経験の少ない方にとっても,活用できる情報が満載の書です。看護教員としてある程度の経験を積まれた方には,自分の足元の確認や後輩の指導に役立つことでしょう。

 とにかく要点がコンパクトにまとまっています。読みやすく,手に取りやすいサイズです。ぜひ,ご一読ください。

A5・頁152 定価:本体2,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01894-4


質的研究のための現象学入門
対人支援の「意味」をわかりたい人へ
第2版

佐久川 肇 編著
植田 嘉好子,山本 玲菜 著

《評 者》佐藤 泰子(京大医学部非常勤講師/京大大学院人間・環境学研究科研究員)

現象学の豊かな解釈と支援につながる研究方法への挑戦

 現象学を用いて質的研究を試みたいと願う看護・福祉関係の研究者が,具体的に研究方法を説明したものを手にし,それにのっとって研究を進めることが思うほどスムーズにはいかないという現実があることは否めない。「現象学的研究」と冠された論文に素晴らしい発表が確かに存在するが,管見の限りではあるがその多くは職人技の手さばきを感じるような論考も多く,誰でもがそれを参考に,あるいはまねをして研究を進めることは困難であるという印象を持つ。そのような事情を鑑みると具体的な方法論に言及した本書は,現象学的研究をしたい研究者にとっては福音であろう。

 本書は初版を改訂した第2版となるわけだが,双方に通底しているのは,具体的に方法論を示す態度である。そのためには,現象学とは何か,現象学を質的研究に使うとはどういうことか,についての説明が必要になる。本書のなかでは,そのような問いへの応答を繰り返し丁寧に述べていく。とりわけ「支援につながるように」という著者の思いを背景に懸命な説明がなされているのが印象的である。どんな優れた研究でも援助につながらないというのではもったいない。しかし,本書では徹頭徹尾「実存的支援」のための研究であることをめざす。

 また,大きなテーマに「実存の究明」がある。実存は実体ではないので,そのアプローチ,そしてその分析結果を読者に納得してもらえるように発信するには鏤骨を極める。実体のない実存を究明しようとする佐久川肇氏らは客観的状況,語られたテクストなどについて実存的視点からみることで,その実存的意味に迫ろうとする。その方法として解釈学的現象学を駆使しテクストを厳しく吟味しようとする。さらに解釈したことについて読み手が納得できるようにするにはどのようにすればいいのかについても説明されている。

 現象学を用いた質的研究のために「還元」「本質観取」「客観」「判断保留」「自然的態度」などの現象学のテクニカルタームを説明し,それらを分析の手続きに押し上げていく。本書を読み始めたころは,浅学で不知案内の私自身の現象学理解の未熟さを棚上げにして「このようなテクニカルタームの調達法もあるのだなあ」といった心隈と共に内容に分け入っていたが,はたとその心隈を横断してくる私自身への批判を私は見逃さなかった。それは「ある学問や言葉についてのわれわれの理解は己の解釈の内を出ることは困難で,己の解釈が的中しているかどうかはわからない」ということだ。研究者が,現象学やその領域の難解な言葉そのものの「解釈」を持ち寄って不断の自明を振り切りながら議論する場があるのはそのためである。言い換えれば現象学理解が世に豊作であるのは,現象学そのものがさまざまに「現れる」からなのである。そのような状況に切り込み,現象学を研究に使うための方法論構築のために心を砕き具体的でわかりやすい説明を試みた佐久川氏らの苦衷を了察し感謝したい。

 初版への論難に対し従容たる態度で潔く丁寧に応答している佐久川氏の人柄が行間に現われているのも心地よい。

 ここから何かが始まるかもしれない新しい足音が聞こえた気がする1冊である。

B5・頁176 定価:本体2,600円+税 医学書院
[ISBN978-4-260-01880-7]

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