医学界新聞

2014.01.20

Medical Library 書評・新刊案内


認知症ハンドブック

中島 健二,天野 直二,下濱 俊,冨本 秀和,三村 將 編

《評 者》東海林 幹夫(弘大大学院脳研教授・脳神経内科学/附属病院神経内科)

新しく詳しく実践的な認知症ハンドブック

 認知症患者が増加している。2012年の筑波大の発表では既に460万人に達し,その予備軍と言われる軽度認知障害は400万人と発表された。2010年の厚生労働省統計でも認知症高齢者は440万人(日常生活自立度I, II),軽度認知障害の人は380万人で,合計すると65歳以上の高齢人口2874万人の実に約29%を占めている。この病気には介護する人が少なくとも1人以上は必要であることを考えると,既に高齢人口の2人に1人は認知症とかかわりを有していることが推定できる。このようなわが国の認知症診療の劇的な変貌は,かかりつけ医,一般内科や整形外科などの従来専門ではなかった医師,介護,行政,家族会などそれぞれにかかわる膨大な人々の参入を引き起こしており,この流れは世界各国でも同様である。

 このような状況において,早期診断,適正な薬物治療と長期的な対応と介護の重要性が広く認識されてきており,支援のための法的整備も整いつつある。2010年には日本神経学会と関連5学会による「認知症疾患治療ガイドライン2010」が公表され,その後,日常臨床のためのコンパクト版2012も出版された。編者らはこのガイドラインの主要作成委員でもあり,本著はガイドライン2010やコンパクト版2012で簡潔に提示されたエビデンスに加えて,実際の日常診療に即した諸問題に対してより実践的な解答を提示している。この特徴から,本著は認知症診療の具体的指針の新しい辞書として仕上がっている。

 内容を詳しく見ていくと,診断と疫学,症候などの総論は簡潔にまとめ,第4章からの「認知症の治療と管理」,第5章「認知症をめぐるその他の諸問題,地域連携,支援」の記載に重点が置かれている。ここでは,治療,リハビリ,介護,地域ネットワークや法的整備などの急展開する新たな分野の確実な情報が盛り込まれており,日常臨床に必要な最新知識を網羅的に参照できる。特に,BPSDへの対応の原則,合併症の予防と対策の基本,認知症をめぐる諸問題については一読の価値がある。

 著者はいずれもそれぞれの分野で際立っている若手で,それぞれの記述は最新で具体的である。編者の狙いもこの2点にあったのではないかと推察している。これ以後は軽度認知障害,アルツハイマー型認知症,レビー小体型認知症,前頭側頭葉変性症,進行性核上性麻痺,大脳基底核変性症,ハンチントン病,嗜銀顆粒性認知症などの超高齢期認知症,血管性認知症,プリオン病と正常圧水頭症などの各論のup-to-dateが示されている。

 従来,スタンダードとされてきたさまざまなテキストブックやガイドライン2010とコンパクト版2012と比較すると,新しく,詳しく,より実践的なハンドブックであり,もの忘れ外来ばかりではなく一般外来にも常備すると,とても便利な一冊としてお薦めできる。

A5・頁936 定価:本体10,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01849-4


中耳手術アトラス

Mario Sanna,Hiroshi Sunose,Fernando Mancini,Alessandra Russo,
Abdelkader Taibah,Maurizio Falcioni 原著
須納瀬 弘 訳

《評 者》池園 哲郎(埼玉医科大教授・耳鼻咽喉科学)

耳科手術を実践する全ての術者にとっての座右の書

 訳者の須納瀬弘氏は,耳科学の世界的な権威であるイタリアのMario Sanna教授が率いる耳科学専門の病院Guruppo Otologico(以下,Guruppo)に留学した。氏の留学中に本書の原書初版『Middle Ear and Mastoid Microsurgery』が出版され,氏は共著者となっているが,実はその大部分を須納瀬氏本人が執筆したそうだ。Guruppoには常に何人もの医師が世界各国から留学しているが,その中で須納瀬氏がSanna教授より本書の執筆を託されたのである。原書初版の執筆は2000年1月に開始され,3年後に完成をみた。その後原書は執筆体制をほぼ踏襲する形で2012年に改訂され,その改訂第2版を和訳したのが本書である。

 Sanna教授の考えと手術法を優れた写真と詳細な解説とともに提示する本書は,初学者からベテラン医師までどの段階の医師にとっても大いに勉強になる優れた大著として完成している。当時留学していた同僚たちは一様に須納瀬氏の集中力と執筆にかける情熱,その仕事量に驚かされ,「Sunoseはいつ寝ているのか?」と口々に驚嘆の言葉を語っていたそうだ。

 本書はどのページを開いても魅力に充ち満ちている。イラストと写真が随所に使われており,大変わかりやすい。解剖と画像診断から始まり,患者の体位から手術器具の使い方,手術テクニックの考察(骨削除,ドリルの使い方,吸引と洗浄,止血,剥離),治療方針の決定(唯一聴耳,段階手術,再手術)など,これから中耳手術を始める医師にとって最初に学ぶべきことがくまなく網羅されている。さらに,外耳道の手術,鼓膜形成,耳小骨形成,乳突洞削開術などの手術を具体的な症例を用いて解説している。後壁保存か削除かといった永遠に続くテーマにもGuruppoの基本的な見解を提示している。また,グロムス腫瘍に対しては410例の膨大な経験をもとに作成されたSanna分類に基づき,各タイプの治療法が極めて詳細に記載されている。そして,迷路瘻孔や天蓋の破壊,顔面神経麻痺などについては疾病の合併症としてのみならず医原性症例についてもその対処法,術後の対応までが細かく記載されている。さらにアブミ骨手術,人工内耳手術といった耳科外科医が憧れる手術についても,もちろん網羅されている。

 本書を読んでひしひしと伝わってくるのは,須納瀬氏の教育にかける情熱である。自分が得た技術と知識を惜しみなく後輩に伝えて,より良い医療を実現したいという彼の意志を強く感じる。医療においては実地経験を積んだ人物からの直接指導が大きな意味をもってくる。国際的な病院で経験を積み,世界中の医師とディスカッションを重ねた氏が,まさに直々に手を取って教えてくれるように感じられる本書は,ぜひ手元に置いて何度も読み返したい良書である。耳科手術を実践する全ての方に本書を座右の書として利用されることをお薦めする。

A4・頁616 定価:本体27,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01778-7


SHDインターベンション
コンプリートテキスト

ジョン D. キャロル,ジョン G. ウェブ 編
ストラクチャークラブ・ジャパン 監訳

《評 者》新井 英和(鹿屋ハートセンター院長)

このテキストを持つ循環器医は幸せである

 1977年にGrüntzigによって始められた冠動脈インターベンションは,彼の情熱的な活動によって一気に世界に普及し循環器診療を一変させた。1980年代初めから冠動脈インターベンションに携わってきた私は,幸せであったとしみじみと感じる昨今である。バルーンやワイヤーの進歩,アテレクトミーデバイスの開発,ステントや薬剤溶出性ステントの登場,また血管内エコー(IVUS)や光干渉断層法(OCT)の登場によって,日々改善される治療成績の目撃者として現場に立てたからである。

 しかし,その冠動脈インターベンションの成熟に至る過程は平坦ではなかったとも思える。冠動脈CTによるインターベンション前の評価もなくIVUSもない状況で,手さぐりの治療を行ってきたからである。それ以前に冠動脈インターベンションを目的として設計されていないカテラボやアンギオ装置は,必ずしも冠動脈インターベンションにふさわしいものではなかったからである。

 本書『SHDインターベンション コンプリートテキスト』を一読しての感想は,「このようなテキストの存在する時代にインターベンションを始めたかった」というものである。どのようなカテラボやハイブリッド手術室を構築すべきか,SHDインターベンション治療医が知っておくべき解剖や,術前に行っておくべき検査(エコー・CT・MRI),カテラボに備えておくべきデバイス,血管アクセスと止血など,SHDインターベンションが成熟した暁には常識となってしまい,テキストには記載されないかもしれない機微が満載である。5年後,10年後により進歩したSHDインターベンションに携わる医師も,本書に記載された土台なしにインターベンションに携われないだろうと想像する。賞味期限の長いテキストになることを確信する。

 当然のことながら,冠動脈疾患は循環器病の一部にすぎない。循環器病学の土台の上に成り立っていると考えてきた冠動脈インターベンションの基盤は,循環器病総体ではなかったのである。真に循環器病の広範な知識と過去のインターベンションで構築されたテクニックを,すべて駆使してなされるSHDインターベンションこそがKing of Interventionと呼ぶにふさわしい。そのKing of Interventionに欠かせない道筋を決定づける本書を,すべてのインターベンション医にとどまらず,多くの循環器医に勧めたいと思う。またこの分野にかかわるコメディカル,診断機器メーカー,病院設計者にとっても必携のテキストとなるに違いない。

 暗闇の中で始まった心血管インターベンションが,本書を灯台としてより高みに完成されることを期待したい。本書で学び実践するインターベンション医は幸せである。

B5・頁448 定価:本体14,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01789-3


脳血管障害と神経心理学
第2版

平山 惠造,田川 皓一 編

《評 者》峰松 一夫(国立循環器病研究センター副院長)

「脳血管障害と神経心理学」という不思議の世界へ

 35年以上前,新米医の私は,受け持ち脳梗塞患者の症状に驚いた。左側にある物品,自身の左半身に全く無頓着で,本の左半分を読み飛ばし,日記帳の左半分は空白,描画は左側が欠け落ちていた。「左半側空間無視」である。「なぜ,こんな奇妙な症状が起こるの?」と,この病気の不思議さに強烈な印象を抱いた。指導医の勧めもあり,地元の脳卒中勉強会で,この患者のことを発表した。私にとって,初めての脳卒中(脳血管障害)患者,初めての神経心理学,そして初めての研究発表であった。

 当時は,頭部CTやMRIが爆発的に普及し始め,脳血管障害の診断,病態や神経心理学に関する臨床研究が大変盛んであった。この雰囲気に触発された私も,研修終了後に国立循環器病センター(当時,以下国循と略す)内科脳血管部門でのレジデント研修に身を投じた。同じ時期に国循に着任された田川皓一先生から,神経心理学の面白さをずいぶんと教えていただいた。

 神経心理学的症候の最大の原因は脳血管障害である。だが,「失語・失行・失認」「神経心理学」「Neurospychology」「Aphasiology」などと銘打った書籍,「脳卒中」「Stroke」などをタイトルとした教科書はあっても,両者の関係を追究したものはまれであった。Kertesz教授の"Localization in Neuropsychology(Academic Press, 1983)",Bogousslavsky,Caplan両教授の"Stroke Syndromes(Cambridge University Press, 1995)"くらいだろうか? Kertesz教授は第一章「(神経心理学的)機能局在」で,「病変(傷害)の原因によって症候の内容や経過(回復,悪化)が規定されている」とし,「原因疾患を厳密にコントロールして大脳機能を研究する」ことの重要性を指摘していた。

 1995年,平山惠造,田川皓一両先生の編集で,医学書院から『脳卒中と神経心理学』が刊行された。私も,そのうちの一項を執筆させていただいた。本書は,脳血管障害診療・研究において神経心理学的問題に取り組んでいる若い医師,研究者にとって,バイブルとも言える教科書,名著になった。それから18年,待ちに待った第2版が刊行された。

 時代は大きく変わった。診断・治療技術のさらなる進歩により,t-PAをはじめとする超急性期治療,診療機能の分化(急性期病院,回復期リハビリテーション病院,維持期の在宅・施設)が主流となった。脳卒中患者は,詳細な症候学ではなく,各種スケールの点数で論じられるようになった。患者の症候に対して目をつぶっているがごとくである。また同じ診療者が同じ患者を継続的に診ることが難しくなった。患者がいかに回復能力を持っているかを,急性期診療を行っている医療者が実感できなくなっている。悲劇である。これらの問題点については,新たに書き足された「総論」の中で,田川皓一先生が力説されているのでご一読いただきたい。

 脳血管障害の勉強,診療,研究に励む多くの学生,医師,医療従事者,研究者が本書を手に取り,「脳血管障害と神経心理学」という不思議の世界,ワンダーランドのとりこになっていただきたい。35年以上前の私のように……。

B5・頁560 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01230-0


がん疼痛緩和の薬がわかる本

余宮 きのみ 著

《評 者》丹田 滋(東北労災病院腫瘍内科)

腕利きの臨床医が語るがん疼痛薬物療法の現在

 本書のタイトル『がん疼痛緩和の薬がわかる本』から私が連想したのは,2010年に日本緩和医療学会が発表した「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」である。著者の余宮きのみ先生が同ガイドライン作成に大きな貢献をされ,また同ガイドラインの改訂実務者グループ(WPG)のリーダーであることを知るからであろう。本書の章立ても「がんの痛みとがん疼痛治療の基本がわかる」「非オピオイド鎮痛薬がわかる」「オピオイドがわかる」「鎮痛補助薬がわかる」とすすみ,ガイドラインの「背景知識」を下書きにしたような構成である。とはいえ,本書はガイドラインの「背景知識」や「推奨」を単になぞって解説するような軟弱やわな内容ではなく,著者の深い知識と数多くの経験に裏打ちされた歯ごたえのある一冊である。

 例えば著者の十八番(おはこ)の一つである鎮痛補助薬の項では,効果判定について,「どんな内服薬も大雑把にいって3-5回程度飲んだところを1つの目安にしています。3-5回服用すると,薬の濃度がだいたい一定になるからです。(中略)効果がなかったときには,どれくらい待てばいいのでしょうか。薬の効果が一定になるのが5回程度飲んだ時点とすると,1日1回の薬でも1週間以内には効果が判定できることになります。"早く薬を使って痛みを和らげて欲しい"という希望を患者がもっている場合には1-2日みて,"次の一手を打ったほうがよい"と思われる場合は,増量または変更,追加をします」と具体的で説得力がある記述がされている。また,「CASE」として紹介されている実例はケアの成功例だけでなく,著者の反省譚(かの名医でも!)が惜しげもなく紹介されていて大変参考になる。

 本書の「序」には,「医師から処方されている薬のことがよくわからない,薬を飲んでも痛みが十分和らいでいない,どうしたらよいのだろう――そんな悩みをもった看護師を想像しながら,筆を執った」と記されているが,看護師だけでなく,読みやすさの点では患者さん・ご家族にも,読み物としての面白さと臨床で役立つ点で医師や薬剤師など薬物に詳しい医療スタッフにも自信をもって薦めることができる一冊である。索引も充実しており,関心がある薬物について調べる辞書的な読み方もよし,通読もよしである(医療あるいは介護スタッフの勉強会には格好な教材ではないか)。

 注文がないわけではない。薬物の吸収,分布,代謝や排泄を含めた薬動力学的な知識,あるいは薬物相互作用についてもNOTE(解説コラム)で整理されていたら,「薬がわかる」ことを期待して本書を手にした読者が知識をさらに深める機会になったと思う。また,「疼痛緩和の薬」の発展は日進月歩である。本書では簡単に触れられているメサドンやタペンタドールを使用しての余宮流解説や実例も伺いたいところである。またフェンタニル口腔粘膜吸収剤としてバッカル錠は解説されているが,本書では触れられていない舌下錠,最近市販されたアセトアミノフェン静注液と新薬が尽きることはない。ガイドラインの改訂とともに,本書の改訂もどうか準備されますように著者にはお願いしたい。

A5・頁248 定価:本体2,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01859-3

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