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第3058号 2014年1月6日


2014年
新春随想


次期対がん戦略に求められるがん研究

堀田 知光(国立がん研究センター理事長・総長)


 がんは,1981年にわが国の死亡原因の第1位となって以降,その座を譲っていない。今日では二人に一人は生涯でがんにかかり,三人に一人ががんで死亡している。早期発見や治療法の進歩などにより年齢調整死亡率は1990年代から減少に転じているが,罹患率は胃がんや肝臓がんなど一部のがんを除いて上昇を続けている。人口の高齢化とともにがん患者数はさらに増加し,団塊の世代が後期高齢者層を形成する2030年代にピークを迎える。一方,がんは働き盛り世代の死因の40%を占め,休職や離職などによる労働喪失は年間に1.8兆円に相当するとの試算もある。今後予測されるがん医療への需要の量的増大に対して,病院,在宅医療や訪問看護をつなぐコミュニティで支える医療・介護体制の構築が喫緊の課題となっている。

 わが国のがん対策の根幹である第3次対がん10か年総合戦略は本年度で終了する。2014年度から始まる次期対がん戦略に向けて,厚労,文科,経産の3省合同による「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」が組織された。会議はがん研究者,患者団体や産業界の代表などで構成され,多角的な検討がなされた。昨年8月に取りまとめられた報告書は「根治,予防,共生――患者・社会と協働するがん研究」をテーマに,がん医療のあるべき姿と求められる研究課題を提示した。がんの本態解明とそれに基づく予防法や早期発見,治癒指向性の革新的な医療技術開発研究は基本であるが,高齢者や小児などライフステージの特性に適した医療のあり方やこれまで重視されてこなかった希少がんや難治性がんに対する治療開発の必要を強調した。がん体験者が急増するなかで,がんになっても安心して暮らせる社会を実現するための就労支援,生き方の追究までを含めた社会学的アプローチの重要性についても言及した。がん関係者の悲願でもある全国がん登録法の制定が目前になっている。これを機に診療記録を含めたビッグデータをがん対策に活用する研究が進むことを期待したい。


再生医療元年

岡野 光夫(東京女子医科大学副学長・教授/先端生命医科学研究所(TWIns)所長)


 医学は進歩し続けている。50年後,100年後の未来では医学が大きく発展し,多くの難病や障害の患者を見事に治していると思われる。それでも,100年後の医学は完璧でなく,依然,進化し続けるプロセスの中にいることは間違いない。各時代の医療は100点満点ではあり得ないのである。でも,たとえ60点でもその時代の病気や障害に苦しむ患者を救済すべく,医学は最善を尽くして医療を実行し続けなければならない。

 20世紀は薬物治療が大きく発展し,世界に80兆円を超える製薬産業が活動し,多くの患者の効果的な救済に大きな貢献を果たしてきた。同時に安全性を確保するための規制も整備され,安全で効果的な薬物治療の実現が達成されつつある。そして21世紀に入り,再生医学,細胞生物学,バイオマテリアルなどの急展開から人工的に培養した細胞や組織で治療する再生医療の実現に世界が注目している。対症療法的な治療が多かった従来の薬物治療に対し,難病や障害の患者の根本治療を実現する新医療である再生医療の実用化,産業化は21世紀の重大課題だ。しかし,再生医学の本質を理解することなく,この再生医療製品を従来の薬事法で規制しようとしてきたために,特に日本では適正な研究支援,体制整備が進まず,産業化への挑戦が必ずしも十分ではない。特定の病院で成功しても,それを広く普及させていくことが極めて困難になっている。

 こうした事態を打破するために,2013年4月,自民党を中心とする政治家の国民目線に立った決断で,再生医療推進法が成立した。さらに秋の臨時国会では,再生医療の実用化に向けた薬事法改正案と再生医療安全性確保法案も成立となった。これにより,再生医療製品を薬あるいは医療機器の枠組みで審査する従来の仕組みを改め,再生医療製品として独立に審査されることとなる。2014年は再生医療元年ともいうべき年となり,iPS細胞や細胞シートなどの日本の優れた新技術によって,苦しむ多くの患者が救われることに期待したい。


スポーツと医学

河野 一郎(日本スポーツ振興センター理事長)


 スポーツと医学のかかわりは多様である。最近しばしば話題となるメタボ(メタボリックシンドローム)やロコモ(ロコモティブシンドローム)を予防し,健康寿命を伸ばしていくためには,スポーツ/運動が欠かせない。

 しかし,やみくもに体を動かせばよいというわけではない。運動前のメディカルチェックや適切な運動処方が必要であり,このためにはスポーツ医学の知識が必要である。わが国では医療費の増大が社会問題となっており,スポーツ医学からのアプローチに関心が高まっている。

 トップアスリートが国際舞台でよい結果を残すため,心身へかかる負担はますます増大する傾向にあり,スポーツ医学によるサポートなしのパフォーマンスは不可能といっても過言ではない。先般のロンドンオリンピックでの好成績の舞台裏に,現地に設営されたスポーツ医科学に基づいたマルチ・サポートハウスの存在があったことはメディアでもしばしば報道された。

 市民マラソンは,ますます盛んになっている。スポーツ医学を基盤とする医療部隊の設営は,大会運営の上で重要なポイントの1つである。参加者が多くなればなるほど,アクシデントの起こる確率は高くなる。熱中症対策,そしてAEDの迅速な活用などが必須である。

 2020年東京オリンピック・パラリンピック大会の開催が決定された。選手村に設置されるメディカルクリニック,大会会場における医療体制,いずれもスポーツ医学が基盤となる。2020年は,日本のスポーツ医学の力が試されるときでもある。


地域とケア

秋山 正子((株)ケアーズ白十字訪問看護ステーション統括所長)


 地域包括ケアを推し進めていくと,まちづくり=地域づくりに必ずや行き当たると言われます。20年以上,同じ地域で,訪問看護を中心に,訪問介護も合わせたケアの実践を続けてくると,生活の場をなるべく変えない暮らしの中に,必要なときに医療が提供される仕組みが動く社会が実現されないと,これからの超高齢化社会は乗り切れないのではないかと強く感じています。

 すなわち,今度こそ本気で,かかりつけ医制度(総合診療)が機能し,そこからきちんと紹介された形で専門医のいる病院につながる仕組み。ことに超高齢者であっても,こぞって病院をめざす時代に決着をつけないといけないのではないか? そして,どのように医療を利用したら良いかの示唆も含め,予防の視点を持った地域医療を実現できるかかりつけ医が,そのまま看取りまで,担っていただければ,これほど市民にとってありがたいことはない,その時に,医師の重責を少しでも軽くする訪問看護の活用であってほしいと願います。24時間体制は当然のこと。そこを支えるには,介護・看護が連携し合い,重度化を防ぐ予測を持ったケアの組み立てが必要で,そこに生活リハビリの視点を持ったリハスタッフもどんどん地域に出てきてほしいと期待します。

 予防の視点は2011年から始めた「暮らしの保健室」という取り組みで,住民たちの受療行動,つまり何か所も受診をしながら,ちょっとした不安なことは十分に聞いてもらえず,結局のところ,必要な医療ではない医療が提供され,救急車の要請が多くなる実態を目の当たりにしています。このちょっとした不安を解消するだけで,地域に住み続けられる人が多くなる手応えがある。まさに予防の視点,そしてこれは認知症の初期対応にも通じていき,また,がん治療における患者の不安に対応する場所にもなっています。

 地域の中にこういった窓口が増え,そこに看護職がコーディネーターとして力を発揮できたら,もう少し地域が変わるのではないかと期待しています。


新春・大吉

寳金 清博(北海道大学病院病院長)


 大学病院の病院長を拝命して,しばらく,家人の機嫌が悪かった。「敵ばかり増えるに決まっているでしょうに」と,男の愚かさをたしなめるようにコメントしていたことを思い出す。

 家人の直観は見事に的中し,病院長になってから薄々感じていたことが,日々はっきりしてきた。病院長になると恨みつらみをかう人は日々うなぎ登り,逆に味方は激減。いよいよ夜道は歩けなくなってきた。

 「それはちょっとオカシクありませんか? 原資の配分からすれば,損益はバランスするはず。恨む人10人いれば,感謝する人も10人いるのが論理的」と,読者諸賢は思うかと……。しかし,「恨みは100年続き,感謝は3秒で消滅する」という大脳生理学の基本に思い至れば,結論は自明。不満の総量が膨れ上がるメカニズムが理解される。試しに病院職員アンケート箱から,一つ引いてみるといい。「感謝」の投書を引く確率は1%もないと断言できる(小職が勤務する大学病院の名誉のために誤解なきよう。アンケートは貴重なご意見・提案が詰まった宝箱である)。

 病院は,公共的な理念を持つコンパクトな共同体で,その中に多様な利害関係などあろうはずがないと思われがちであるが,このちっぽけな共同体の内部にすら,細分化された多くの共同体が存在する。意見の多くは,小さな部門(些末な話で恐縮であるが,ある医局とか,部局などなど)の個別の短期的な権利保全と拡張である。広い意味での利益相反が渦巻いて,日々,小さな衝突を繰り返す。そんな場面の連続の中で,調整を図り,病院をあるべきベクトルに向けようとすれば,病院長が不満のターゲットになるのは自然の成り行きである。

 しかし,共有された理念・ミッションのもとに,「短期的な功利ではなく,中長期的な理念の実現を!」と虚空に握りこぶしを突き上げ続けるのが,病院長の最も重要な仕事である。己を鼓舞し,眦(まなじり)を決して,新春を迎える。

 くじ運の悪さは,親譲りで,大吉のおみくじなどとは縁のないものと諦めていたのが,一昨年「大吉」,昨年「吉」ときた。運気は上昇機運である。今年も「大吉」をぐいっと引き当て,家人を驚かせてやりたい。少なくとも,投書箱から「感謝」の投書を引く確率よりは高そうである。

 新春・大吉。皆様のご多幸を。


国立大学附属病院のミッション

宮崎 勝(国立大学附属病院長会議常置委員長/(千葉大学医学部附属病院病院長)


 全国には45の国立大学附属病院が存在しており,本邦の全病院数8565(2012年調べ)のうち,0.5%にあたることになる。その他の国立系および公的医療機関が1481病院,社会保険関係団体病院が118病院でこれらを合わせて19%を占めている。

 このように日本の病院数の中で国立大学附属病院はわずか0.5%,200分の1にしかならないわけであるが,本邦の医療における国立大学病院の意義や役割は極めて大きいものであるということについては誰もが理解し得るところであろう。特定機能病院として大学病院の本院は位置付けられており,診療報酬制度上においてもその役割が本邦の医療において特定の機能を担っているものとして扱われていることからも,大学病院が他の一般病院とは極めて異なっているという姿を理解できることであろう。

 国立大学附属病院長会議において2012年に,そのあるべき姿,すなわちグランドデザインを作成して公表した。さらに2013年6月には,国立大学附属病院長会議総会において,そのグランドデザインに向かっての具体的な行動目標としての2013 Action Planを作成した。現在そのAction Planに基づいて行動を開始しているところである。その内容は従来から言われている診療,教育,研究に加えて地域医療,国際化および運営という六つの項目に分けて提言を行い,かつ行動計画も作成されている。

 その中で国際化については優秀な海外の医師(先進国からの医師を中心に)で日本の進んだ高度な医療技術を学びたいという方々に正式な病院の常勤ポジションを与えて診療に参加しながら研修を受けてもらうことを考えている。欧米を中心とした海外の優秀な臨床医師が国立大学病院に勤務して一緒に診療に従事することで,彼らも学び,またわれわれ日本の大学病院勤務医師が国際化成長することが同時にできると思っている。また大学であるため,医学生も同時にその国際化したカンファレンスや診療を実体験させることで大きな影響を与えられることは間違いないだろう。現在,日本の各大学で外国人教官の採用率アップが叫ばれて来ているが,医学部,特に医学部附属病院においては海外からの医師が診療行為を一緒にしながら国際化する上で,大きなハードルが医師法・医療法の制約だ。これをぜひ医療特区として大学病院を中心に認めていっていただければ,日本の医療の国際化のみならず,海外の医療への国際貢献にもつながり,さらには大学全体の国際化速度を一気に加速できることになるだろう。できるだけ早期のこの国際医療特区の開設を祈念して,新年のメッセージとさせていただきます。


WFOT Congress 2014横浜大会,開催に向けて

中村 春基(日本作業療法士協会 会長)


 第16回世界作業療法士連盟大会を2014年6月18日―21日にかけて,パシフィコ横浜にて開催することとなりました。本大会は1951年の第1回大会から4年ごとに開催され,アジアでの開催は初めてとなります。

 本大会は,「Sharing Traditions, Creating Futures(伝統を分かち,未来を創る)」をメインテーマに,8つのコングレステーマを設け,それぞれのテーマに沿って基調講演・シンポジウム・ワークショップ等多彩な形態のセッションが行われることになっています。世界73の国と地域から,5000人を超える作業療法士をはじめリハビリテーション従事者が横浜に集結し,各国の現状,これからの作業療法の展望について活発な論議が行われます。発表演題のエントリーも3000演題を超え,また各種のワークショップも47テーマと,充実した内容になりました。

 今回の最大の特徴は,英語と日本語のバイリンガルでの発表形態を取ったことにあります。英語での発表を推奨していますが,苦手な方は,日本語で発表していただき,英語の同時通訳がなされます。当然,英語での発表の折は,日本語通訳が付きます。

 また,展示におきましては,各国の作業療法の現状と取り組み,福祉車両をはじめとした福祉用具,介護ロボットなどの展示も予定しています。

 日本作業療法士協会主催の特別プログラムとしましては,「認知症に対する作業療法」と「大震災に対する作業療法」の二つを予定しています。認知症は国家的なテーマであり,イギリス,オランダでの認知症への取り組みをご紹介いただき,その対応について,指針を示せたらと期待しています。また,大震災につきましては,東日本大震災のその後の取り組みと現状をご紹介し,震災に対する世界規模での支援のあり方を討議する予定です。加えまして,2008年度から取り組んでいます,「生活行為向上マネジメント」について,「人は作業を行うことで健康になれる」というキャッチコピーのもと,地域包括ケアシステムの一翼を担うツールとして普及を図っているところです。世界の作業療法士にわが国の取り組みとして紹介することになっています。

 世界中の作業療法士が日本にやってくる。これを契機に,作業療法の普及,啓発が促進されることを祈念しています。ご期待ください。


帰れる場所なき,春に

大野 更紗(作家)


 新年。おみやげを買って東京駅から新幹線に乗り込み故郷に帰り,1年に一度しか会わぬ類縁親族家族皆々とおコタにうまる。コレステロールや塩分は気にせず,おせちをつつく。嚥下機能の低下などには目をつぶり,お雑煮のお餅に箸をのばす。宴席でお酒を注いでまわっては,ニコニコとふりまける限りの愛想ふりまく,ニッポンのお正月――ああ,憂鬱です。

 帰れる場所を,もたぬ人たちがいます。病室にしかいられない。あるいは,一定の環境を保った自分の居室にしかいられない。「それは,過去の遺物だ」と思われるかもしれませんが,患者にとっては直面する現実そのものです。そんな人たちにとって,年末年始はバトル・ロワイヤルです。

 大小問わずどこの医療機関も事業所も,人手不足になります。クライアントは,年末年始を「のり越える」ために準備をしなくてはなりません。休業で止まってしまう配食サービスの代わりになる食品を確保し,ヘルパーさんがお休みで何日か来られなくなる間,生存をどうやって保つか,思案めぐらせたりします。年末年始の医療機関の「当直」の先生はだいたい,見知らぬ新人の先生。いざという時,何かが起こった時,どう連絡網を作ってどう対処するのか。シミュレーションして準備しなくてはなりません。

 こうやって「21世紀的」患者となるべく,がんばって入院をしないようにすることを心掛けとしています。今年の年末年始は,自分が在宅一人で暮らしている自室で,ひたすら大学院の宿題を進めることにしました。テレビも見ないしゲームも興味なし,趣味は特にない「難病おひとりさま」です(電動車いすユーザーですが,クラシック音楽を鑑賞するのは好きで,ニューイヤーコンサートに行くかどうかちょっと迷っていますけど!)。

 これも「21世紀的」なムードにフィットするよう,自分にかかる医療費の費用対効果がよいように,効率がよくなるようにといつも考えています。医療機関や院外処方箋薬局の仕事納めの各日程を確認して,「年末年始特別対策カレンダー」を作ります。難病とともに生きると,「みんなが,休む時」が年間でいちばん大変な時期になるんだなあと,発症して初めて知りました。

 医療という営みが,患者と医療者の間に生じる「何がしかの営み」であるとして。私は22世紀の医療のことを考えなくちゃ,と最近はよく思うのです。今日きっと,人手不足の病棟で,いまだ足りぬNICUで,生まれてくる子がいるでしょう。この子たちに,いかなる社会と医療を引き渡すのか――22世紀のことを,ひとり部屋にて考え始めている,2014年の新春です。


フローレンス・ナイチンゲール記章を受章して

金 愛子(石巻赤十字病院副院長・看護部長)


 昨年,私は日本赤十字社の推薦を頂き,看護師にとり最高の栄誉である第44回フローレンス・ナイチンゲール記章を受章いたしました。授与式は日本赤十字社の名誉総裁である皇后陛下,名誉副総裁の秋篠宮妃殿下,常陸宮妃殿下,高円宮妃殿下のご臨席を賜り,国際医療福祉大学大学院副大学院長の久常節子様と共に,皇后陛下御手ずから章記を拝受し,記章を胸に付けていただきました。

 式典はナイチンゲール女史の遺沢をしのび,看護学生による幻想的なキャンドルサービスで始まりました。会場内がろうそくの明かりに優しく包まれる中で,私の緊張も和らぎ式に臨むことができました。関係各位に見守られながら滞りなく授与式は終了しました。終生忘れることのできない感動的な体験となりました。

 私が,このような身に余る栄誉に浴することができたのは,東日本大震災における災害救護活動に貢献できたことにあります。それは言うまでもなく私個人の功績ではなく,献身的な病院職員が一丸となり,全国から多くの赤十字救護班や医療チームのご支援を頂きながら,石巻赤十字病院が災害拠点病院としての使命を全うできたおかげです。当時被災地にある病院職員は自らも被災者でありながら不眠不休で一人でも多くの「命を救いたい」という一心で全力を尽くしました。その活動を認めていただきましたことに感謝申し上げます。

 今回の受章が,被災地の医療施設で懸命に救護活動を行った皆様,今現在,復興の途上にある中で日夜看護業務に従事している皆様方の励みになっていただくこと。そして,東日本大震災で被災された方,いまだ行方不明の方々のために,多くの皆様にこの震災を忘れないという機会にしていただけることを願います。

 赤十字国際委員会が創設されて150周年に当たる記念すべき年にナイチンゲール記章を受章できたことに,赤十字の組織の一員としてそのつながりを感じています。2014年も,看護の道を歩む私に託されたことに微力ながら貢献していきたいと思っております。


空間疫学と健康の地理学

中谷 友樹(立命館大学文学部地域研究学域教授)


 英国はロンドンから,新年のご挨拶を申し上げます。最近,友人を訪ねてLondon School of Hygiene and Tropical Medicineの複雑な建物に足を踏み入れ,スノウのポンプだという展示物に思いがけず対面しました。言うまでもなく,スノウは19世紀のロンドンでコレラ死亡者の分布図を描き,感染源となったポンプの存在とコレラの水系感染説を説得的に示した功績で知られています。ソーホー地区に立つ当時のポンプのレプリカで往時をしのぶこともできます。旧年はスノウの生誕200年で,記念事業も開催されました。

 私は地理学を専門として空間疫学あるいは健康地理学と呼ばれる領域を研究しています。駆け出しの時代に,スノウによる報告書の再版本を神保町にあった古本屋の棚に偶然見つけ,その内容に強く感銘を受けました。空間疫学とは疾病・健康に関する地理的な情報を利用して,疾病対策や健康増進に有益な知見を導く疫学研究を指し,スノウの試みはその嚆矢(こうし)とされています。もっとも地理的な疫学研究は,疾病の流行対策のみならず,健康の地理的格差が生まれる社会的要因をも探求する研究領域へと発展を続けています。そこでは,地理情報システム(GIS)と呼ばれる電子地図を利用する技術や地理学者の分析方法論が重要な役割を果たすようになり,英国では医学と地理学の連携もよくみられます。英国の地理学者の友人がいつのまにか医学部の教授になっていたこともありました。

 GISなどの新しい技術を用いると,例えば,健康の格差をこれまでよりも詳細に確認できるようになります。日本でも死亡率の地域差をつぶさにみると,大都市圏の中に社会的な格差と対応する健康の地理的格差がはっきりと存在することに気付かされます。また,土地利用や交通,商業環境などの地域環境が運動や食生活などの生活習慣を左右し,健康な生活と関連していることも繙かれるようになってきました。こうした研究の蓄積は健康政策に資する地域の知を形作るものと期待されます。健康統計の地理情報の利用拡大と学際的な研究連携の発展が,日本でも一層進むことを期待しています。


待合室革命!

河内 文雄(以仁会理事長)


 医療にさまざまな問題があることは,いまや国民の共通認識となっております。しかしそれを医療の中だけで解決することは,いままでもそうであったし,たぶんこれからも不可能なことに違いありません。なぜならば,医療は社会の中にあってこその医療だからです。すなわち社会が動かなければ医療は動かない,私はそう思います。

 しかしだからといって,いきなり診察室の中にさまざまな人が入り込んで改革を試みても,それはいらぬ軋轢を生むだけに終わる可能性があります。例えていうと,診察室の中は医療者にとってはホームですが,患者さんや社会のほとんどの人にとってはアウェーだからです。それは逆のケースについても言えることです。医療者が性急に社会を変えようと家庭の中に入り込んでも,そこは患者さんにとっての文字通りのホームであって,医療者にとっては完璧なアウェーに他なりません。

 ところがそうした中で,世の中の全ての人が等距離で出会い,協働し,活躍できる場があります。それが待合室です。おそらく物心がついてから,医療機関の待合室に一度も足を踏み入れたことのない日本人はいないのではないでしょうか? その事実はまた,ほとんどすべての人が待合室に対して一家言持ち得るということです。今回はそのひとつの例を紹介したいと思います。

 現在わが国の一日当たりの外来患者数は,概算で診療所430万人,病院170万人です。そのうち薬の処方箋が発行される割合は約70%で,毎日およそ420万人の患者さんが薬を受け取っています。患者さんが必要とするのは薬だけではありません。もっと重要なのは情報です。もしも薬と同じ比率で情報処方箋が発行されることになり,待合室に信頼に足る情報のデリバリーシステムが完備されれば,医療者は説明業務が軽減でき,患者さんの医療リテラシーも向上することでしょう。志のある医療ベンチャー企業が待合室ビジネスに参加してくれんことを!


「生き心地の良い町」が気づかせてくれたこと

岡 檀(まゆみ)(和歌山県立医科大学保健看護学部講師)


 年のはじめに,今年の抱負というものを語る。これが得意ではない。そもそも,自分の内に「抱負」「志」というべきものが希薄なので,いざ求められても言葉にするのが難しい。

 この点に関しては幼い頃からあまり変わっておらず,「大きくなったら何になりたいの」と尋ねられるのが苦手だった。実は自分は将来何になりたいのかがよくわからず,同年代の子どもたちが,はきはきと「パン屋さん」「プロ野球選手」などと言うのを羨ましい思いで聞いていた。ただ,私自身は将来の目標がなくても特に不都合はなかったし,毎日は楽しく,そこそこハッピーだったのであるが。

 いま私が研究者でいること,研究テーマとして自殺希少地域における自殺予防因子の探索に取り組んでいることも,思いの向くまま人生を歩んできて行き着いたところである。そして,いまやこれが,私のライフワークだと信じるようになった。

 昨年七月,自身の博士論文の内容を柔らかく書き直し,『生き心地の良い町――この自殺率の低さには理由(わけ)がある』(講談社)を上梓した。全国でも極めて自殺が少ない,徳島県旧海部町(かいふちょう)をフィールドに,インタビューやデータ解析を重ねて抽出した五つの自殺予防因子,それは,多様性の重視,人物本位評価,自己信頼感,適切な援助希求行動,そして,緊密過ぎないゆるやかな絆である。

 海部町を含む近隣三町を対象にアンケート調査を実施したところ,海部町は三町中で幸福と感じている人の比率が最も低く,他方,不幸と感じている人の比率もまた最も低かった。突出して自殺率の低いこの町では,幸福感もさぞやと思いきや,意外な結果である。

 町の人々は,「ほれが,ちょうどええんとちゃいますか」と言った。なにがなんでも幸せになろうと,上をめざそうと,そんなふうに考えなくてもいいのではないか。そう言われているようで,「抱負」や「志」を語れないというわがコンプレックスも,少し緩和された気分になったのである。


理学療法士として社会的価値を創造しよう!

斉藤 秀之(筑波記念病院リハビリテーション部部長)


 理学療法士である私は,理学療法士を,障害構造学および動作学の専門家――障害や動作負担・介護の軽減に寄与する予防・医療・介護・福祉・生活のすべてに貢献できる職種だと考えています。

 私が1998年度より勤める筑波記念病院では,急性期・回復期と生活期における理学療法・作業療法・言語聴覚療法の充実に取り組んでおり,2013年度には地域医療支援病院として214人の療法士体制となりました。つくば市と隣接する下妻市と桜川市には,訪問リハビリテーションの出張所を開設し,郡市医師会長より「今までは患者がだんだん弱くなって死んでいくところばかり見てきたけど,弱っている人が良くなるところを見ると,うれしくなるよ。声を掛けてもらってよかった。まだ何人かお願いしたい人がいるからよろしく頼みます」との励ましを受けました。また,高次脳機能障害者家族会「脳損傷友の会・いばらき」への支援も開始しました。毎月行われる役員会や家族会交流室の場として施設を提供しながら,事務局機能も支援しています。

 個人の仕事としては,昨年,つくば市障害者自立支援懇談会の座長としてつくば市の障害者自立支援事業に関与しました。「障害者基幹相談支援センター」としての役割を果たすべく,「つくば市障害福祉なんでも相談」を市役所内で月2日開催するようになりました。また,障害者相談支援事業者研修を修了した療法士とともに障害者相談支援事業所を病院内に開設し,病院がかかわるべき特定相談支援事業・障害児相談支援事業について検討を始めています。昨年4月に公益社団法人化した茨城県理学療法士会の会長としては,被災地に位置する北茨城市立総合病院内に「北茨城地域自立支援センター」を開設しました。これは,住み慣れたまちで誰もが安心して暮らし続けられるように,理学療法士がその専門知識と技術を活かして,地域にお住まいの方々の人生のあらゆる場面への支援や各種事業を行うための拠点です。つまり,理学療法士による自助・互助・共助・公助の場,プロボノの場,イノベーションの場と考えています。

 このように2013年に取り組んだことは,理学療法士としての価値観である「障害」の専門家として地域包括ケアシステムに寄与するきっかけとなる成果だと思います。新春にあたり,今後も諦めずに,焦らずに,高く強い志の力による新しい社会的価値の創造に引き続き取り組みたいと思っています。