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第3054号 2013年12月2日


【interview】

得意になるめまい診療

城倉 健氏(平塚共済病院神経内科部長/脳卒中センター長)に聞く


 めまいは原疾患を特定しにくい上に,診察も行いづらい。こうした症状のなかにも,脳の疾患や損傷が原因の危険なめまいが紛れているため,めまい診療への苦手意識や抵抗感を持つ医師は多いのではないだろうか。では,どうすれば自信を持ってめまいにアプローチできるのか。年間700人以上のめまい患者を診ている城倉健氏が考案した「誰でも簡単にできる」めまい診療のフローチャートを元に,その方法と,めまい診療に臨むに当たってのポイントを聞いた。


わかりにくい上に診察しづらい

――めまい診療を苦手とする若手医師や研修医は多いと聞きますが,なぜなのでしょうか。

城倉 めまいは1つの症状ではなく,とてもたくさんの症状を含んだ概念です。「ふわふわする」「ぐるぐる回る」などのさまざまな訴えを,すべてまとめて「めまい」と言っています。めまいという言葉を簡単に説明すると,「視覚,深部感覚,前庭感覚のミスマッチ」ということになる。この説明だけでもわかりにくいのに,それ以外にも,血圧が下がったり首が凝ったり,あるいは,単に気分が落ち込んでもめまいという訴えになります。そんなわけなので,「めまいがする」と言って受診してきた患者さんの原疾患を,問診のみから特定することは,とても難しいのです。

 また,めまいを訴えている患者さんは,診察することも困難です。めまいがひどいと,大抵の場合,患者さんはちょっと動かされただけで吐いてしまいます。したがって診察に協力してくれないばかりか,下手をすると診察を拒否されてしまう。ただでさえわかりにくい上に,ろくに診察することもできません。だから多くの医師は,めまい患者さんを診察することに苦手意識を持っており,できればめまいは診たくない。そう考えている医師すら大勢います。

――そのようななかにも,見逃してはならない危険なめまいが紛れているのですね。

城倉 ええ,危険なめまいの代表が,脳卒中による中枢性めまいです。脳卒中であった場合には,対応のタイミングが1-2時間遅れるだけで,患者さんには重大な影響が及び,場合によっては命にかかわります。

 一方,末梢性めまいの多くは,たとえ最初は嘔吐してしまうようなひどいめまいであっても,中枢の代償機構により,何もしなくても自然に良くなってしまいます。よくわからないので点滴などをしながら手をこまねいていると,そのうち自然に患者さんが回復してしまう。めまいの多くは末梢性なので,こうした診療を繰り返しているうちに,あたかも自分が正しい診療をしているかのような錯覚を起こしてしまいます。

 でもよく考えると,これでは「きちんと診察して診断をつける」という基本をまったく行っていないことになる。そんな状況で,突然脳卒中による中枢性めまいに遭遇すれば,対応が遅れてしまうことは容易に想像がつきますよね。また,たとえ末梢性めまいであっても,その場ですぐに治療が完結する良性発作性頭位めまい症に気付かないばかりに,結果的にめまいを長引かせてしまうことにもなりかねません。

プライマリ・ケアにおけるめまいの鑑別

――そんな診察しづらいめまいですが,経験の浅い研修医や若手医師のほか,めまいを専門としない医師が診る機会は多いのですね。

城倉 そうですね。急にめまいが起これば,患者さんは遠くにある耳鼻咽喉科や神経内科などの専門科を受診する余裕はないので,一番近くの医療機関に飛び込みで受診することになります。そのため,実際にめまいを診る診療科は,救急部や総合診療科,一般内科,開業医などが圧倒的に多いと言えます。

――プライマリ・ケアの場面で,危険なめまいを見逃さないためにはどうすればいいのでしょうか。

城倉 めまいを必ずしも専門としない医師が,わかりにくい上になんとなく苦手意識のあるめまいをちゃんと診療するのは大変です。ともすれば先ほど話したように,ただ点滴などしながら様子を見るだけの診療になってしまいます。

 そこで,こうした状況を改善する手っ取り早い方法があります。それが「どんな場合にも適用できる簡単な診察のアプローチ法をあらかじめ決めておく」という方法です。私が考案したフローチャートをに示しました。こうした方法をとれば,誰でも簡単に,診察に基づいた科学的なめまいの鑑別診断ができてしまうのです。

 めまい診断フローチャート(『外来で目をまわさない めまい診療シンプルアプローチ』より)

――どのようなところが特徴ですか。

城倉 「この所見があったら中枢性」,「この所見があったら末梢性」とワンポイントで判定するのではなく,「ここのポイントではこれを診る」という診察を3段階ほど行い,順番にスクリーニングしていくのが特徴です。

 フローチャートに沿って説明しますと,例えば「めまい以外の神経症候を探す」最初の段階で,めまい以外の神経症候の有無について判断をくだすことにいまひとつ自信が持てないことはしばしばあります。特に患者さんが吐いてしまい,診察に協力してくれないときなどは,麻痺や感覚障害がないと正確に言い切ることは難しいでしょう。

 そこで,このフローチャートでは,自分が診察した範囲内でめまい以外の神経症候の有無の判断に自信が持てなくても,ひとまず次のステップに進み,別の角度から診断を進めるというアプローチになっています。ちなみに,めまい以外の神経症候を探すことは,脳幹障害によるめまいと小脳の上部の障害によるめまいのスクリーニングです。

――自分が診察した範囲でめまい以外の神経症候がないと思ったら,次のステップとして「末梢性のめまいを探す」ことになるのですね。

城倉 ええ,患者さんにさらに負担をかけて中枢性めまいを一生懸命探し続けるよりは,圧倒的に多い末梢性めまいから先に鑑別するほうがスマートです。

 この段階で一番大切なのは,眼振をみようとすることです。患者さんに「フレンツェルの眼鏡」を装着し,眼振を認めれば,大抵の末梢性めまいは診断がつきます。末梢性のめまいに表れる眼振は,わかりやすいことが多いので,見逃すことはあまりありません。しかもみるべき眼振は,たった3種類しかないのです。(1)右下ないし左下懸垂頭位にしたときの「回旋性眼振」,もしくは(2)右下頭位,次いで左下頭位にしたときに方向が逆転する「方向交代性眼振」,もしくは(3)右下頭位と左下頭位で方向が逆転しない「方向固定性水平性眼振」の3種類の眼振のどれかがみられれば,末梢性めまいの診断がつきます。

――もし,眼振もよくわからなかった場合はどうすればいいのですか。

城倉 明らかな眼振がない場合,あるいは眼振があるのかないのか判定に迷う場合には,次に患者さんの起立障害や歩行障害などの体幹失調を調べます。これは,小脳下部障害のスクリーニングになっています。

 ちょっと脇道にそれますが,専門家のなかには,体幹失調だけで中枢性めまいを鑑別することを強く推奨する方もいます。たしかに,「わかりにくい中枢性めまい」の代表格ともいえる小脳下部障害では,体幹失調が前景に出るため,起立・歩行障害を調べればすぐに鑑別はついてしまいます。ところが,障害の場所によっては,体幹失調だけでは中枢性めまいの判断ができないこともあるのです。

――どのような場所の障害でしょうか。

城倉 中脳や橋などの上部脳幹の障害だと,呂律が回らなかったり,眼球運動障害があったり,麻痺や感覚障害が出ていても,しっかりと立ててしまう場合があります。脳幹の障害なので,めまい以外の神経症候が非常にわかりやすいかたちで出ているため,フローチャートに従えば真っ先に中枢性めまいと診断できるところなのですが,体幹失調だけから判断しようとすると,ややこしいことになってしまいます。

 そこで私のフローチャートでは末梢性を除外してから体幹失調を調べることになっているのです。

投薬や検査の前にやるべきは問診,そして身体診察

――CTやMRIなど,画像検査をする判断のポイントはどこですか。

城倉 めまい以外の明らかな神経症候があれば,中枢性めまいを疑い,即画像検査を行うことになります。めまい以外の神経症候がない場合には,末梢性の眼振を探します。先に述べた3種類の末梢性の眼振のいずれかが明らかにみられれば,末梢性めまいの診断はほぼ確定しますので,通常画像検査は行いません。しかし,眼振があって末梢性のようにみえても,高血圧や糖尿病,肥満,心房細動などの脳卒中のリスクを多く持っているような患者さんは,念のため起立や歩行の状態まで確認したほうが安全です。これは,極めてまれに小脳の障害で眼振が出現することがあるからです。

 ただし,いくら眼振が出ていても,小脳(虫部)障害であれば体幹失調はありますので,起立や歩行を確認すれば,眼振を伴う例外的な中枢性めまいも鑑別できます。起立や歩行がどうしてもできない場合には,中枢性めまいを疑って画像検査をすることになります。

――入院の判断はどうすればいいのでしょうか。

城倉 中枢性めまいが疑われた場合には,画像検査で所見がなくても入院になります。超急性期の梗塞だと,CTはもちろんMRIの拡散強調画像といえども描出できないからです。

 一方,末梢性と診断したときにはほぼ帰宅させています。ただし,例外的に食事が全く摂れなくなってしまった高齢者などの場合には,帰宅後に脱水症状を起こしてもいけないので,入院の上,補液を行うこともあります。

――若手医師や経験の少ない研修医が,苦手意識を持たずにめまい診療に臨む心構えをお話しください。

城倉 問診しただけで様子を見るということはせず,自分で実際に診察をすることが大事です。腹痛を訴える患者さんにお腹の診察をしないということはあり得ませんよね。なのに,めまいとなると,皆診察をしなさすぎる傾向にある。診察しようとすると患者さんは吐いてしまうし,症状の説明もわかりにくい。だから診察を避けてしまうのです。でも,いくらしっかり話を聞いても,病歴だけではめまいの確定診断はできません。

 今回紹介したフローチャートは,何となく敬遠されることの多いめまい患者さんの実際の診察を,誰でも簡単に行えるように考えたものです。このフローチャートを用いて実際に患者さんを診察すれば,実は,めまいはそれほどわかりにくいものではないことに気付くと思います。そして,脳卒中による中枢性めまいにすぐに気付けるようになり,めまいの約半数を占める良性発作性頭位めまい症を診察室でどんどん治せるようになれば,いつの間にかめまい診療は面白いものになっていると思います。

 めまいは,学問的にはまだ解決されていないことが多いので,研究すればするだけ新知見が得られます。社会的なインパクトも高いので,若手医師が臨床研究をする分野としてもうってつけといえます。めまい診療を通じてめまいに興味を持ち,そしてめまいの臨床研究を始める若手医師が増えることも期待しています。

――ありがとうございました。

(了)


城倉健氏
1990年横浜市大医学部卒。横浜市大病院や松戸市立福祉医療センター東松戸病院,横浜市大附属市民総合医療センターなどに勤務。臨床研究を行う傍ら,東京医歯大耳鼻咽喉科とともに,動物を用いた脳幹の眼球運動中枢の神経解剖学的研究に携わる(この間に日本神経眼科学会学術賞などを受賞)。2002年から平塚共済病院神経内科部長,05年から同病院脳卒中センター長を兼任。13年からは横浜市大客員教授も兼任している。専門はめまい平衡医学,眼球運動の神経学,神経症候学,脳卒中医学。現在も多数の脳卒中救急患者やめまい患者を診療しながら,専門分野での研究成果を国内外に発表し続けている。近著に『外来で目をまわさない めまい診療シンプルアプローチ』(医学書院)。