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第3047号 2013年10月14日


こんな時にはこのQを!
“問診力”で見逃さない神経症状

【第1回】
非専門医に必要な神経診察スキルとは?

黒川 勝己(川崎医科大学附属病院神経内科准教授)


 「難しい」「とっつきにくい」と言われる神経診察ですが,問診で的確な病歴聴取ができれば,一気に鑑別を絞り込めます。 この連載では,コモンな神経症状に切り込み,危険な疾患を見逃さない「Q」を示せる“問診力”を鍛えます。


非専門医でも避けて通れない神経症状の診察

 「頭痛」「めまい」「しびれ」。かかりつけ医,総合診療科や救急外来など,プライマリ・ケア医を受診する患者の主訴には,こうした神経症状が上位を占めます。その原因の多くはcommon disease(頻度の高い一般的な疾患)ですが,時にcritical disease(頻度は必ずしも高くないが,専門的治療を要する危険な疾患)が潜んでいます。

 かつて私の父親も,かかりつけ医を「頭痛」のため受診しましたが,原因は片頭痛や緊張型頭痛のようなcommon diseaseではなく,critical diseaseであるくも膜下出血でした。「頭痛」のようなコモンな症状の場合,かかりつけ医がいれば患者はまずはそちらに相談します。最初から脳外科など,専門科を受診するようなことは少ないのです。

 つまり,自分の専門にかかわらず,神経症状を訴える患者を診ることが多い現状においては,プライマリ・ケア医にはcommon diseaseを適切に診断できるとともに,critical diseaseを見逃さず,専門医につなげられる臨床力が要求されるのです。

 誤診しやすい神経症状と疾患例

苦手意識を抱く一因は,卒前教育?

 しかし,神経症状を診ることに対して苦手意識を持っているプライマリ・ケア医は少なくありません。その原因のひとつに,従来の大学での教育内容が挙げられるのではないかと私は考えています。

 神経系の授業では,外国人の名前がついた幾多の神経難病や神経診察法,それらを理解するための神経解剖など膨大な情報が詰め込まれます。その時点で「膨大な知識がなければ診断できそうにない」という印象や「神経学的所見の取り方になじめない,自信が持てない」「治療法がなく,治りにくいのでモチベーションが上がらない」といったイメージが固定し,臨床現場に出てからも苦手意識を持ったまま,という方が多いのではないでしょうか。

 確かに,神経難病などのまれな疾患を診断するには,十分な知識や正確な神経学的所見を取ることが必要になります。しかし「頭痛」や「めまい」といったコモンな症状を診るためには,そうした知識やスキルは必須というわけではないのです。

神経症状を診るために必要な2つのスキル

 では,コモンな神経症状を診る際,要求されるスキルとはどの程度のものなのでしょうか。私は,「必要最低限の神経診察力」,そして「問診力」の二つであると考えています。

 まず「必要最低限の神経診察力」。これは,「頭痛」や「めまい」を診る際には,詳細な“神経学的所見”を全てとる必要はなく,症状に関係した必要最低限の所見がとれればよいということです。しかも,所見を評価するために長年の経験を要するようなものではなくて十分です。

 例えば「めまい」症状を診る場合,critical diseaseである脳卒中を見逃さないためには嚥下障害の有無を評価する必要があります。プライマリ・ケアにおいては,実際に患者に水を飲ませてむせるかどうか(飲水テスト)の確認でよいと思います。カーテン徴候()といった専門性の高い所見を取ることは神経専門医に任せればよいのです。

 なにも“神経学的所見”をとる達人になる必要はありません。肝心なのは“どの症状にはどのような所見をとる必要があるか”を知っておくことです。

最も大切なのは「問診力」

 そして,なによりも大切なのは,詳細な“病歴”聴取の力,つまり「問診力」です。

 例えば「頭痛」を訴える患者に対して,項部硬直という“神経学的所見”をとって陰性と判断したら,くも膜下出血は否定してよいでしょうか?

 くも膜下出血初期には髄膜刺激徴候は出てきません。それよりも「突然発症した」という“病歴”をきちんと確認できるほうが診断には重要です。

 「めまい」も,一過性で症状が治まっているときに“神経学的所見”をとって問題がなかったら,心配ないと判断してよいでしょうか? 「めまいの最中に,顔がじんじんしびれていた」という“病歴”が聴取できれば,脳幹のTIAを疑うことができ,脳梗塞への予防対策も可能となります。

 また,脳幹梗塞(ワーレンベルグ症候群など)では,発症当日は頭部MRIの拡散強調画像(DWI)ですら異常をとらえることが困難な場合が多いです。画像検査で異常がないからと言って,脳梗塞ではないとは言えません。

 つまり,詳細な“病歴”聴取ができる「問診力」が最も大切なスキルであり,その“病歴”に基づいて,必要最低限の神経診察を行えることが重要なのです。これらをなくして画像検査のみで診断してしまうと,誤診の危険性を高めることが懸念されます。

症例を通して「問診力」と「必要最低限の神経診察力」を養おう

 実際のところ,「問診力」の核となる“病歴”聴取はプライマリ・ケア医の方々の得意とする分野だと思いますので,後は,何を聴けばよいのかを知るだけでよいでしょう。また「必要最低限の神経診察力」も,前述したようにどんなときにどの所見をとればよいのか,知るだけでよいわけです。

 本連載では,毎回のような症例提示を通して,コモンな神経症状を診る際に必要な「問診力」と「必要最低限の神経診察力」がつくようにしたいと考えています。神経診察への苦手意識をなくすことで,critical diseaseを見つけ出して,救える患者を一人でも増やしていただきたいと願っています。

つづく

註)発声させると,喉頭後壁がカーテンのように患側から健側に引っ張られて見える徴候。


黒川勝己氏
1989年広島大医学部卒。同大病院等を経て,2000年川崎医大神経内科講師。02年アラバマ大に留学。帰国後,広島市立安佐市民病院にて地域の神経内科医療の充実に力を注ぐ。09年より現職。日本神経学会神経内科専門医。「診断がついて患者さんから感謝されたときの喜びを,皆で味わっていきましょう!」

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