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第3032号 2013年6月24日


看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第102回〉
人手不足を患者に伝えるべきか

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 「その日はとても忙しい月曜日でした。というのも,病棟は慢性的に採用者の確保困難が続いていて,看護師の4分の3しか充足されていない状況だったからです。加えて,ベテラン看護師で,自分の担当業務をこなしながら経験の少ないスタッフを手伝ってくれていたメアリー・エバンスが病欠したのです。

 リンダ・スミスさん(68歳)は股関節置換術の術後2日目でした。彼女の病室に行くと,痛み止めを頼んでから45分経っていたので,彼女はいら立っていました。前よりもいっそう眉間にしわを寄せて表情が固まっていました。数日後,調子がよかったので,彼女にスタッフ不足のことを話そうかと考えました。けれども今日の人手不足をスミスさんに開示することが正しいのだろうかと思ったのです」

 こうした書き出しで始まる論文が 「倫理的課題」として紹介された(Olsen DP. Telling patients about staffing levels. Am J Nurs. 2013 ; 113 (5) : 62-4.)。つまり,人員体制を患者に告げることは,透明性の確保なのか単なる自己満足にすぎないのか,という論点である。

情報を共有する理由/しない理由

 内容をみてみよう。前述した状況は,価値観が分かれ葛藤が生じることから,倫理的には難問である。透明性を確保することはよいことであり,患者の知る権利に応えることである反面,ケアは患者の問題に焦点化されるべきものであり,看護師の問題を論ずることではない,と筆者は指摘する。情報を共有する理由/しない理由として下記が挙げられている。

◆情報を共有する理由
・適切な情報共有は,患者にとってケアの同意もしくはケアを拒否する際に必要である。
・患者がほとんどコントロールできない状況において,治療の影響や結果を知らせることは不安を軽減させる。
・情報を持つことは,患者が経過を理解し,どのような反応が生じるかを予測させ,医療に参加していることを実感することができる。
・情報の共有は,ケアのパートナーとして患者を尊重することになる。

◆情報を共有しない理由
・ナースが知っているすべての情報を患者に説明することは不可能である。
・患者が特別な経験を持っていなければ,その説明によって現実に何が生じるかを十分に予期することができない。
・情報によっては,患者に伝えることは適切でないものがある。
・情報によっては,患者のケアに必要としないものがある。

 ナースが人手不足を患者に伝える際には,一貫して患者もしくはナースにとっての効用を考慮しなければならない。以下のような点に留意する。

・なぜ情報提供するのかという動機について正直に内省すること。
・患者にとって潜在的な効用をもたらすものであるかをアセスメントすること。
・治療の決定において情報が有益であること。
・前もって,患者に説明されること。
・より同情を買うような個人的な言い方は避けること。
・人員体制上の問題によって影響を受ける人は誰か,人手不足が患者ケアに具体的な影響をもたらすのか,あるいは単にナースの職務が苛酷になっているということなのか。もし後者ならば,情報開示はおそらく不当である。

倫理的観点からの議論の必要性

 冒頭のスミスさんの事例に戻ると,人手不足を伝えるか否かにかかわらず,次の3点を考えて対応するべきであるという。

1)対応が遅れたことへのお詫び
2)十分な謝罪
3)今後の課題について話し合う

 これを踏まえ,人手不足開示のよい例が次のように示される。

 「スミスさん,痛みが続いていたのに鎮痛剤の投与が遅れてしまいました。あなたの期待に添えなくて申し訳ありません。どうしてもやらなければならないことを済ませて,急いでスミスさんのところに来ました。勤務予定のエバンスさんが病欠し,残りの人員でやっているため,いつものようにすぐに対応できないのです。何かほかにご用はありますか。エバンスさんの欠員による影響を最小限にするようにナースマネジャーが対応しています。あなたの退院後の計画については明日話し合いを持つことになっています」

 そして,論文はこのように締めくくられる。

 「ベッドサイドで正しいことを行うには,自分自身の価値観を認識しておく必要がある。つまり倫理的にケアを行うとはどのようなことか,自身の動機を反映しているか,患者にもたらされる効用を判断しているか,そして,患者にとって最良な選択かどうかを考える必要がある」

 わが国では,入院基本料の算定要件のひとつとして,「看護職員配置の病棟内掲示」がある。この掲示を中心に患者とどのような話し合いをすべきかについて,倫理的な観点から議論する必要があることを示唆する興味深い論文であった。

つづく

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