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第3022号 2013年4月8日


座談会
真に臨床教育に資する医師国家試験をめざして

高久 史麿氏(日本医学会会長)=司会
別所 正美氏(埼玉医科大学学長/全国医学部長病院長会議会長)
北村 聖氏(東京大学医学教育国際協力研究 センター教授)
青木 茂樹氏(順天堂大学医学部教授・放射線医学/第107回医師国家試験試験委員長)


 日本における医師国家試験は,本年度で107回目を数えます(合格発表記事)。国試に関してはこれまでも,医師になるための最終関門にふさわしい試験であるよう検討と改善が重ねられてきましたが,今なお,試験形式や問いの内容,実施方式などについて議論が絶えません。そこで本座談会では,国試に関する諸課題を洗い出し,医師としての真の臨床力を問う試験とするための策を考察します。医学生・研修医の皆さんもぜひ,当事者の立場から,医師国家試験の在り方について考えてみてください。


高久 日本における医師国家試験はのような変遷をたどっており,2001年度からは3日間で500問を解く形態が定着しています。皆さんご存じのとおり,医学生は4年次の終わりから5年次初めにかけ,大学ごとに共用試験(CBT・OSCE)を受けて臨床実習に入り,その後卒業試験をパスした上で国試に臨みます。

 近年の医師国家試験の変遷(医師国家試験改善検討部会報告書より改変転載)

 私が学長を務めていた自治医大では,卒後すぐに地域医療の第一線に出る学生が多いこともあり,臨床実習を非常に重視してきました。一方,各自治体の医師の卵を預かっている立場から,彼らを確実に国試に合格させる必要もある。膨大かつ細部にわたって“知識”を問う国試対策にかなりの時間が費やされる結果,実習期間が削られてしまうこと,さらに初期研修までにブランクができ,実習で得た現場感覚が薄れてしまうことを以前から懸念してきました。このようなジレンマは,どの大学も多かれ少なかれ共通して抱えているのではないでしょうか。

別所 全国医学部長病院長会議が第102回の国試受験生に実施したアンケートでは,大学での国試対策は早ければ5年生の終わりから始まり,6年生のほとんどの時期を費やす場合もありました。卒前・卒後の臨床教育の連続性が,国試によって途切れてしまうという懸念は,もっともなことと思います。

高久 そこで本日は,臨床教育を促進するプロセスの一環に国試を組み込み,臨床現場で真に必要な力を問う試験とするために,どのような変革・改善が必要か,議論したいと考えています。

「3日間で500題」は適切なのか

高久 私がまず気にかかっているのが,500題という問題数です。外国の医師に話すとその数に驚かれることもあるのですが,学生の負担になっているのではないでしょうか。

別所 昨年,第106回国試の受験生の声としては,試験のボリュームについては「適当」と「多い」との回答が相半ばしている状態でした1)。教員の回答と比べると,受容度は意外に高い印象を受けます。

青木 500題は,確かに少なくはありません。ただ,学生側からの「医師としての体力と知力を要求している」という声もあり,ハードな試験を乗り切れるだけの力も,医師になるためには必要ではないかと感じています。

北村 Multiple choice question(多肢選択式問題)の利点は,数をこなすことで“まぐれ”での合格・不合格を減らせることですから,その点からも,ある程度の問題数は維持するべきと考えています。また国試を経験した研修医に聞くと,答えに悩む問題の比率が増えてしまうので,問題数は減らさないほうがいいという声もありました。

高久 なるほど。出題形式に関してはもう一つ,禁忌肢があることに対するプレッシャーが大きいとも言われますが,実際のところはいかがでしょうか。

青木 11年6月の医師国家試験改善検討部会による報告書2)で初めて禁忌肢による不合格者数が公表されましたが,第104回,第105回はともに0人でした。また,禁忌肢は1問選んでしまっただけで不合格になるわけではなく,ここ数年は3問より多く選んだ場合を不合格と判定しています。そうした事情を踏まえると,現状では,学生にとってそこまで恐れる対象にはならないと考えています。

■「臨床研修を始める」資格を問う試験に

高久 それでは,問題の内容について議論していきたいと思います。青木先生,現在,問題作成はどのような基準のもと行われているのでしょうか。

青木 国試の出題基準は4年に1度,医師国家試験改善検討部会による報告書に基づいて改定されます。12年5月に発表された最新の出題基準3)では,前回改定に引き続いて臨床重視の方向性が踏襲されており,実習で教わること,あるいは目にすることを盛り込んだ問題の出題が求められています。

 問題作成においてもそうした方針を反映できるよう心掛けており,例えば第107回の問題では,血管造影の手順(B-26),採血法(C-10),中心静脈カテ-テルの入れ替え時期(C-15),静脈留置針の留置手順(H-17),尿道カテ-テル留置の際の固定法(F-25)などが象徴的だと思います。第106回では点滴ラインの写真を出してその使い方を問うもの(第106回F-15)もありました4)

高久 医学部長病院長会議では,どのような見解でまとまっているのですか。

別所 本会議では,2011年「医師養成の検証と改革実現のためのグランドデザイン――地域医療崩壊と医療のグローバル化の中で」5)において「医師国家試験は『医師として具有すべき知識および技能について,これを行う』と定めた医師法第9条に立ち返り,『知識』と『技能』に対する評価としての資格試験とする。なお,評価される知識・技能・態度レベルは,医師として卒後研修を開始するのに必要な基本的な臨床能力であり,それ以上に高度である必要はない」という提言を行っています。

高久 病歴の聴取とフィジカル・イグザミネーション,そしてクリニカル・リーズニングといった基本的な診療能力がきちんと身についているか,研修に出る前に試せるような機会とするべきということですね。

別所 ええ。この提言は,昨年実施した全国の医学部・医科大学の教員へのアンケート6)でも実に98%の賛同を得ています。

北村 具体的に言えば,定型的な知識の確認はCBTに任せ,国試の出題領域も「初期臨床研修を始めるための試験」との位置づけのもとに限定すべきでしょう。研修の2年間,一度も見ないような病名ではなく,現場で即必要とされるプラクティカルな知識やcommon diseaseに絞って問う。そうすれば,実習の成果を生かせると同時に座学の負担も減りますし,なにより実習,国試,研修を通じて臨床教育の連続性を強化することができます。

 現状の500題の内訳は,一般問題が250題,臨床実地問題が250題(そのうち必修問題は100題)です。そのうち一般問題をカットして臨床実地問題のみとし,そのなかで必修問題を200題,長文の症例問題を300題としてはどうでしょうか。一般問題には誤答肢に珍しい疾患が入ることなどがあり,“重箱の隅をつつく”ような試験対策の原因となり得ます。確かに長文問題を300題にすると,単純計算で100例の症例が必要になりますが,各診療科にうまく振り分けることで,問題作成も可能になると考えています。

青木 症例問題の増問を考える際には,ぜひ同時に試験のコンピューター化も検討していただきたいと思います。紙ベースの試験だと,どうしても連続する設問からヒントが得られてしまう。例えばある症例に関する問題の1問目に患者の情報があり,診断名を問われたとします。2問目にその患者に施された治療が書いてあれば,治療から推測される診断を,1問目まで戻って解きなおすことができる。つまり3問とも読んでから,整合性が一番ある選択肢を選べばよいということになります。

高久 本来問いたい能力を,きちんと測れない可能性があると。

青木 はい。刻々と変化する臨床情報をどのように処理するかという経時的な判断を問いたいのですが,前の設問の解答を踏まえ,次に行うべき判断を問うような問題作りが現状では難しく,かなり苦労しています。

北村 確かに,コンピューター試験ならそうした対策も可能になりますね。実際,CBTでは解き直しができないので,次に出てくる問いを読めば答えがわかるような問題も多く出題されています。

 また,コンピューター化することで,画像を読み取る問題などもかなり出題しやすくなるのではないでしょうか。

高久 CBTを実施していますから,各大学の設備は整っているでしょう。会場をまとめるのは難しくとも,各大学で一斉に試験をするといったかたちで,コンピューター化も検討できるかもしれません。

公平性を担保したAdvanced OSCEの推進を

高久 さて,筆記あるいはコンピューターでの試験では,“知識”は問えても“技能”を問うには限界があるとして,国試にOSCEを導入すべきという声があります。米国では04年からUSMLE(United States Medical Licensing Examination)にOSCEが導入されており,09年からは韓国でも国試にOSCEが取り入れられました。日本におけるOSCE導入の実現可能性はあるのか,海外との比較も併せ,ここで検討してみたいと思います。

北村 USMLEのOSCEは,3段階の試験のうちSTEP 2,Clinical Skills(臨床技能)を問うものとして実施されています。スタンダードな症例について,模擬患者(SP)への問診,診察,診断までを行うものです。学生は12のステーション(部屋)を回り,電話による問診といったシチュエーションも用意されています。

高久 学生とSPは,1対1で接するのですか?

北村 ええ。評価も,SPが面接して感じたことを基準とします。SPが付ける評価表には「この学生にもう一度診てもらいたいと思いますか」という質問があり,「Yes」であれば合格ですが,「No」と付くと不合格になってしまう。かなり主観的な評価基準ではありますが,SPがよくトレーニングされているのでぶれもなく,「Pass」か「Fail」のみのシンプルな試験をうまく運用できているということです。

 ただ,科挙の文化が潜在的に生きており,試験において厳格な公平性の担保を求める日本のような国で,同じような試験方式で国試への導入を図ろうとしても,誰もが納得するような評価方法を見いだすことはなかなか難しいかもしれません。

高久 Advanced OSCEとして,各大学での積極的な取り組みを推進するほうが現実的でしょうか。

北村 そうですね。共用試験のOSCEの場合は,グループ大学から評価者を招いて,ピアレビューを行います。その手法をAdvanced OSCEにも取り入れること。また,一般の方にもっとSPとして参加していただくなど,開かれた,透明性のある試験を心掛けること。そうすることで,一組織が独善的に評価を行っているわけではないと,納得してもらいやすくなるのではないでしょうか。

別所 Advanced OSCEを実施している大学は5割,卒業判定に取り入れている大学はそのうち3割で,年々増加がみられています。実施状況の変化にも注目しつつ,研修に臨む前に一定の“技能”が担保できる策については,引き続き議論が必要だと考えています。

問題作成の負担軽減と試験の質改善のために

高久 かつて,国試は年に2回,春と秋に実施されていました。ただ,春も秋も同じだけ労力と費用がかかるにもかかわらず,秋の受験者数は非常に少なかった。そこで1984年からは試験を年1回とし,その分,試験委員のトレーニングなどに注力できるよう変革した経緯があります。

 とはいえ,国試当日たまたま風邪をひいていたり,あがってしまったりして不合格になる学生たちを目にしてきたことから,同じ年のうちに何らかのかたちで再チャレンジのチャンスがあればとも思うのです。

青木 それにはやはり,問題作成にかかる負担が軽減されることが前提となるでしょう。現状でも,新作500問近くを毎年作る作成者側の負担はかなり大きいものがあります。公募問題や既出問題も少しは使いますが,ほぼ全問を刷新するため,全国から試験委員が集まり,何日も缶詰になって問題作りをしている状況です。

高久 CBTと同様,かつては国試でもプール制への移行をめざし,試行問題の出題や問題用紙の回収が実行されましたが,第101回以降は中止されています。今後,問題作成の負担緩和といった観点から,プール制をはじめとした対策があらためて検討される可能性はないのでしょうか。

北村 プール制にするには,まずは問題数のストックを相当多く作らなくてはなりません。CBTでは現在,1万2000題以上がプールされていますが,国試ですと数万題規模でのプールが必要でしょう。そうでないと,いくら“考えさせる”試験にしようとしても過去問を丸暗記しておけばよくなりますから,試験の本来の意図が薄れてしまいます。

 また,日進月歩の医学の世界では,問題そのものも年々古くなっていきます。その妥当性をどのようにチェックするかも,課題の一つですね。

青木 解剖・生理はそれほど変わりませんが,特に診断,治療に関しては,少し年数が経つと厳しいですね。昨年の第106回国試で「採点除外等の取扱い」とされたのは1題のみでしたが,その1題というのが既出問題でした。既出問題の精査が必須であることは,試験委員の間では常識的に語られています。

別所 その点で言うと,現在の,ほぼ毎年試験委員が変わる状況を見直し,CATO(医療系大学間共用試験実施機構)のような独立・常設の第三者機関を作り,プール制も含めた問題作りを検討したり,試験の精査を行っていくことを考えるべきではないでしょうか。

 それにより,問題作成ノウハウの蓄積や,継続的に試験の質を改善できるというメリットが生まれると思うのです。同時に,国試の担当者がそれぞれの所属大学で卒業判定にもかかわっており,自身が卒業を許可した学生を,国家試験で不合格とし得る矛盾も解消しやすくなるように思います。

高久 確かに共用試験のCBTは,CATOのもとで継続的な改善を行うことができています。独立的な新しい機構を創設するか,もしくはCATOの機能を拡大するなどして,共用試験と医師国家試験との連関も考慮しつつ,問題作成や質の担保を行っていくというのは理にかなっていますね。

北村 米国ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)が2023年以降「国際的な認証を受けた医学部の卒業」を米国で臨床研修を行う要件とすることを発表しており,これを受け日本でも,国際的な教育基準に則った認証機関を作るべきという声があります。

 例えば一つの組織で,共用試験,臨床実習から国試までの質を一貫して担保できるようにして,それぞれの効果を最大限に高め合えるようなシステム作りの権限を持たせる。そうして,国際標準の臨床教育体制の構築にまでつながれば理想的ですね。

高久 本日は,“臨床教育に資する国試”の在り方について議論してきました。問題数は現状維持とするものの,定型的な知識の確認はCBTに任せ,初期研修を受けるための知識,技能に絞って問うべきこと。そして,各大学でAdvanced OSCEを積極的に実施していくこと,また今後の展望として,独立・継続的にブラッシュアップを行っていける第三者機関の設立をめざすべきことを提言したいと思います。本日はありがとうございました。 

(了)

MEMO 医師国家試験関連用語解説

一般問題
 短問で,あるキーワードについての知識を問う。配点は1題1点。合格基準は相対基準で例年65-70%。

臨床実地問題
 症例呈示を読み,所見や対応を問う。配点は1題3点。合格基準は相対基準で例年65%前後。1症例1題の問題のほか,1症例3連問の「長文問題」がある。1症例の配点が9点と高い長文問題は,例年10症例=30題出題される。

必修問題
 医師としての常識的な知識を問う。一般問題と臨床実地問題あわせて100題が出題され,合格ラインは絶対基準(平均点や順位により変動しない基準)で8割。

禁忌肢
 生命の危険や主要器官・臓器の廃絶をもたらす危険を生じたり,違法行為となるような選択肢(伴信太郎.医学教育の現状と展望.日内学誌.2007;96(12):25.)を指す。どの問題・選択肢が禁忌肢であったかは非公表。

プール制
 試験問題をあらかじめ作成・蓄積しておき,その中から出題する方式。プール制を採用している共用試験のCBTでは,320問のうち正答率など問題の特性が判明している約240問(プール問題)が採点対象となり,新規に作成した残りの約80問は採点対象とせず,次回以降のプール問題にするか否かの評価のみ行われる。

Advanced OSCE(臨床実習後OSCE,卒業時OSCE)
 臨床実習終了から医学部卒業の期間に行われるOSCE。共用試験のOSCEでは問わない臨床推論を主体とし,より難度が高まることから,日本では“Advanced”と称されている。

参考URL
1)http://www.ajmc.umin.jp/24.8.8-1.pdf
2)http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001f1cf-att/2r9852000001f1dw.pdf
3)http://www.mhlw.go.jp/topics/2012/05/tp0510-01.html
4)第106回国試の問題および正答はhttp://www.mhlw.go.jp/topics/2012/04/tp0420-01.htmlを参照。例年4月中旬-下旬にその年の問題と正答が公開される。
5)http://www.ajmc.umin.jp/23.12grand.pdf
6)http://www.ajmc.umin.jp/24.9.20-2.pdf


高久史麿氏
1954年東大医学部卒,60年医学博士号取得。群馬大,東大,シカゴ大などを経て72年より自治医大内科教授。82年東大医学部第三内科教授,88年同大医学部長。国立病院医療センター病院長,国立国際医療センター初代総長を経て,96-2012年自治医大学長。04年より現職。日本の医療・医学教育におけるパイオニアの一人として,昨年瑞宝大綬章を受章。『新臨床内科学』(医学書院)をはじめ,監修・編著書多数。

別所正美氏
1977年東京医歯大医学部卒。85年医学博士号取得。同年埼玉医大第一内科助手,97年より同大教授。同大病院副院長,副学長などを歴任し,2010年同大医学部長,大学院医学研究科長。11年より現職。01年より10年間,全国医学部長病院長会議「医師国家試験に関する専門委員会」委員長を務め,12年より会長職に。専門は血液内科学。

北村聖氏
1978年東大医学部卒,同大にて内科研修。同大第三内科,免疫学教室を経て,84年米スタンフォード大医学部腫瘍学教室に留学。86年東大助手,90年講師,95年助教授。2002年より同大医学教育国際協力研究センター教授,03年より同大病院総合研修センターセンター長,11年より総センター長を併任している。日本医学教育学会副理事長。

青木茂樹氏
1984年東大医学部卒。87年米UCSF神経放射線部門に留学。95年山梨医大放射線部助教授, 2000年東大放射線科助教授を経て,08年より現職。神経放射線学,MRIを専門とする。第104回以降医師国家試験試験委員を務め,第106回副委員長,第107回(2013年2月実施)委員長。