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第3020号 2013年3月25日


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在宅ケアのはぐくむ力

秋山 正子 著

《評 者》大野 更紗(作家(『困ってるひと』)/難病当事者)

悩む人に寄り添う友人として

 秋山正子さんという人は,一見するとナースに見えない。まず白衣を着ていなくて,カジュアルでさっぱりした格好をしている。初めてお会いしたときは,多くを語らぬ物静かな佇まいであった。毎日一緒に仕事をする者でなければ,秋山さんのすごさを本当に知ることはできないのかもしれない。ナースとしての卓越した能力と,クライアント=患者から学び続けることへの忍耐強さ。そして何より,目の前の現状に対する柔軟さ。21世紀に必要な「地域ナース」とは,まさしくこの人のような人材であろう。

 本書は,秋山正子さんの実践の模索の記録であるが,これは1人のスーパーナースの特殊な物語ではない。どんな病や障害を抱えても,人は皆当たり前に,地域で生きていく。この正論に「否」を唱える人はいないが,日本社会はそれを実現するための途上にあり,産みの苦しみのなかにある。地域医療の実践に悩む人たちにとり,本書は共にたたかう仲間,寄り添う友人となるだろう。

 秋山さんは,東京・新宿区の都営住宅,戸山ハイツの一角に「暮らしの保健室」というオープンスペースを開設している。この戸山ハイツの高齢化率は,なんと45%以上。約半分が高齢者の団地であり,独居の人や要介護状態にある人も多い。その上,都会の一角なので,周りには急性期の大病院もたくさんある。まるで,超高齢化が進んだ東京の,未来の縮図のような場所だ。大都市圏,東京における大病院と地域の社会資源との連携は,率直に「ぜんぜんできていない」と言っていいと思うが,秋山さんたちは草の根からこの状況を変えようとしている。

 病院や医療を変えるのではなく,地域の人たちにかかわり,地域そのものの医療に対する意識を変えようとしているのだ。「暮らしの保健室」は,さまざまな疾患を抱える人たちのよろず相談所のようなところで,療養相談のみならず,経済的な悩みや支援者との関係性についての不安,患者ライフにかかわることはなんでもおしゃべりできる。「地域ナース」は医療者であると同時に,患者とともに暮らす「ふつうの生活者」でもある。

 医療現場のヒエラルキー的な構造のなかで患者が抑圧され無力化されてしまうことは,厳しい批判にさらされてきた。従来型のヘルスケアやケアは,「生活」という本人が日々直面し続ける経験をしたことのない人々が担ってきた。いわゆる「医学モデル」だ。医療専門職が,あらゆる物事を患者に対する医学的介入や治療という観点からのみ判断してきたことに対して,まず異議を唱えたのは患者たち自身だった。特に1970年代以降,今日に至るまで,障害当事者や患者を中心に各国で「生活モデル」の理論化がなされてきた。

 「生活モデル」はお役所言葉でも専門用語でもなく,多くの人々による,ねばり強い実践のつながりを表現している言葉でもある。本書のなかの秋山さんの言葉を借りれば,こう言い換えることもできるかもしれない――「フラットなチーム」。

 一方で,今を生きる患者として,本書から新たな課題を投げかけられもする。そのチームの中心にいるはずの「自律した患者」として,超高齢社会の世紀に,従来は受け身で良かったふつうの生活者には,どのような実践を求められているのだろうか,と。秋山さんはこうしている。「あなた」はどうする,どうしたいのか,と。

B6・頁196 定価1,470円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01710-7

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