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第3009号 2013年1月7日


【INTERVIEW】

大島伸一氏(国立長寿医療研究センター総長)に聞く
「生活のための」医療へ


 日本は今,高齢化と少子化が同時に進行し,人口構造が変容するステージを迎えています。これはすなわち,これまでの人口構造に基づいて設定されたあらゆるシステムが限界に近づいていると言えるでしょう。高齢者の増加により,病床の不足や医療費の急増が懸念されていますが,問題はそれだけにはとどまらないのです。人口構造が変われば疾病構造も当然変わる。そのときに,医療の在り方はそのままでいいのか。今一度問い直す必要があるのです。

 『広辞苑』で「医療」の項目を引くと,「医術で病気を治すこと」とあります。単一臓器・単一疾患を診ることを前提とした医療の在り方を,この短いフレーズで見事に言い尽くしていますね。では,高齢社会における医療が「医術で病気を治すこと」だけで本当にいいのでしょうか。もちろん,「治るものならきちんと治してほしい」のは誰もが願うことであり,治すことの重要性は今後も変わらないでしょう。その一方,複数の慢性疾患を抱える高齢者が一日がかりで病院の各科専門医を受診し,たくさんの薬を処方されて自宅に帰ることが,本人の幸せにつながるのでしょうか。

 高齢社会における医療提供体制の在り方を考えたときに,「医療のために生活がある」のではなく,「生活のために医療がある」状態が望ましいはずです。そのためには在宅医療の充実が不可欠であり,厚労省が推進する在宅医療連携拠点事業(グラフ解説図9)はその一方策と言えます。

 また,在宅チーム医療を担う人材育成も始まっています。国立長寿医療研究センターは国からの委託事業として,2012年10月に「都道府県リーダー研修」を実施しました。受講した都道府県リーダーが,他の地域の先駆的取り組み例も参考にしながら,各都道府県で「地域リーダー研修」の担い手となってくれることをねらいとしています。さらに,地域リーダーが各地域の多職種に対する研修を行うことで,在宅医療が「点から面へ」と広がっていくはずです。

 世界に目を転じると,他の先進国も同様に高齢化が進展しており,日本はそのフロントランナーであると言えます。国立長寿医療研究センターとしては,日本国内における政策展開に協力するとともに,世界にそのエビデンスを発信することが責務となります。例えば,患者が入院から在宅医療に移行することにより,生命予後やQOLは本当に改善するのか。単なる症例報告にとどめずに研究として推進していくことが,世界の高齢化対策に貢献する上で不可欠であると考えています。