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第2997号 2012年10月8日


【寄稿】

家庭医療の歩みに学ぶ
緩和ケア医をめざす若手医師の未来

西 智弘(川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター)


 昔,私の救急指導医は言った。

「君は家庭医になりたいのか。それは大変だろう。日本の中でまだ新しい専門分野だから。そんなこと誰でもできる,と言われたり。救急も昔はそうだったんだよ。でも今では,救急が誰でもできるなんて思わないだろう?」

 そう,私は家庭医になろうと思っていた。そう思って初期研修を行っていた。しかし,研修中に出会った緩和医療にひかれてしまった。以前は「がんで苦しいのは仕方ない」と考える,今思うととんでもない医師だった。しかし,緩和医療の指導医は,そんな私から患者さんを引き継ぐと,あっという間に苦痛を取ってしまった。苦痛でベッドから動けなかった患者さんが,次の日には廊下を歩いていたりするわけだから,私が「魔法か」と思ったのも無理はない。

 それから,私は緩和医療を真剣に学び始めた。症状の取り方,精神的苦痛や社会的苦痛への対応などなど,指導医から学び,患者さん・家族から学び,本で学び……,と知識と経験を深めていった。

緩和ケア医をめざす上での不安

 そして,あるとき気付いた。「自分以外に緩和ケア医をめざしている医師って,どこにいるんだろう?」と。家庭医をめざしていたころは,先輩・後輩,学生を含めて多くの出会いがあった。日本家庭医療学会主催の夏冬のセミナーなど実際に会う機会だけでなく,メーリングリストなどで日常もつながっていた。「家庭医をめざすのはひとりじゃないよ,みんなで頑張ろう」という安心感があった。

 しかし,緩和ケア医をめざしてからは,そんな機会は皆無だった。地域の緩和医療研究会はあるが,同世代の医師はほとんどいない。学会やセミナーでも,知らない医師に突然話しかけるのもためらわれ,結局は同じ施設の医師と一緒に行動していたり。結果,「ほかの施設ではどんな研修をしているのだろう? 自分のやり方は正しいのか?」という不安が頭をもたげることになる。

 不安を抱いたのにはもうひとつ理由がある。それは「研修を受けた施設ごとに,カリキュラムが全く異なるのでは?」と感じたことだ。私は内科をベースとした研修を受けたが,「麻酔科の研修はいらないのか? 精神科は?」など,非常に悩み戸惑い,葛藤し,「私の研修は正しいのか?」と不安になっていった。「ああ,他施設の研修医と"君のところの研修,どう?"と語り合えれば,もっと楽になれるのに! これではいけない,私たちも横のつながりをもっと大事にすべきだ!」と考えたときに,思い出されたのが冒頭の指導医の言葉である。

 家庭医の世界も,以前は各地に散らばる家庭医志望の若手医師が,「どこでどのように研修すれば家庭医になれるのか?」とそれぞれが悩み,孤軍奮闘していた時代があった。「そうか,新しい分野の歴史は繰り返すのかも。そうだとしたらわれわれが学ぶべきは,日本における家庭医療の歴史かもしれない」と思ったのだ。もちろん,救急と家庭医療のたどってきた歴史も相当違うだろうし,それは緩和医療もそうではあるが,いずれにせよ現在ネットワークが充実し,多くの人材が育ってきている家庭医療分野から,学べることは多いはずだ。

若手家庭医部会を参考に若手緩和ケア医の集いを企画

 家庭医療において「若手家庭医部会」が結成されたのが2004年のことである。そこでは,同じ夢を語り合える友人が集い,悩みを共有し話し合うことで明日への研修の勇気をもらい,そして研修の現状調査や研修に対するアイディアが醸成されていく場となっていった。そして2005年には日本家庭医療学会の正式な組織として認定され,さらに多くの人数が参加し,セミナーのみならず,メーリングリストなどを利用しつながりを深め,研修の質を高めるべく努力している[家庭医療. 15(2): 79-81, 2010]。

 われわれもこのように,研修を受ける当事者同士で意見を言い合える関係作りがまず必要だ。何が問題となっているのか,何が研修に足りないのか。お互いに話し合いをする場すら持っていなかった。ようやく2012年の日本緩和医療学会学術集会において,「若手医師フォーラム」と題し,40人ほどの若手緩和ケア医が集まり,互いに意見を言い合う場を持つことができた。そこでは,全国の緩和ケア医をめざす医師たちが孤独感や不安感の中で,試行錯誤しながら研修を行っている実態が明らかになった。みんな悩んでいることは一緒なのだな,というのが私の実感である。

 しかし,これはまだスタートラインに立ったに過ぎない。実際に,自分たちがどのようなキャリアパスを経るべきか,それはこれから議論していかなければならない。「緩和医療の専門施設で研修するだけでよいのか」「腫瘍内科も研修すべきか」「いやその前に総合内科を修めるべきか」「在宅研修はどうする,精神科や麻酔科は……」と,どのようなスキルを学ぶべきかというところだけでも議論すべき点はたくさんある(個人的な意見としては,今後「早期からの緩和ケア」を実践していく中で腫瘍学の知識は絶対に必要だし,そのためにはまず腫瘍内科の土台となる総合内科医としての研修は受けるべき,と思っている)。

 緩和医療に求められる領域も変化し続けている。がんの緩和ケアのみではなく,非がん疾患の終末期にもかかわっていくことが求められている。働く場所も,緩和病棟だけではなく,化学療法センターや在宅,そして今後はそれ以上に地域に出て地域医療機関と連携をしたり,市民への教育を行ったりすることも求められる。

「場」をつくり,「システム」へとつなげる

 もちろん,このような壮大なテーマを,いかに自分たちが当事者であるとは言え,若手だけで考えるのは無理がある。偉大な先輩方が築いてきた歴史を知り,そして見つめてきた未来を知り,その中でわれわれ若手世代の思いをすり合わせていかなければならない。若手の意見を継続的に発散し,吸い上げ,学会全体として研修指針や学習環境に生かしていけるシステムが必要だ。そのあたりも,若手家庭医部会のこれまでの歩みは非常に参考になる。

 日本における緩和ケア医の専門研修は,まだ緒についたばかりである(2010年4月に緩和医療専門医一期生が誕生)。しかし,質の高い緩和ケア医を一刻も早く育てていくことが世の中から求められ,その声はどんどん大きくなっている。家庭医療も含めさまざまな分野からノウハウを学び,議論を深め,日本の実情に合った,そして地域ごとに柔軟性を出せるようなシステムを早急につくっていく必要がある。

 そのためには,まずわれわれ若手世代が声を上げていかなければならないし,声を上げる場が必要だ。「若手医師フォーラム」の活動をきっかけに,そのような場をこれからもつくっていきたいと考える。


西智弘氏
2005年北大医学部卒。室蘭日鋼記念病院で初期研修後,川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケア研修。その後09年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科医として研修。12年から現職。現在,緩和ケアチームの業務を中心に,腫瘍内科,在宅医療にもかかわる。日本緩和医療学会教育研修委員会医学生セミナーWPG員。