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第2985号 2012年7月9日


「型」が身につくカルテの書き方

【第1講】 「型なし」,あるいは「型通り」から「型破り」へ

佐藤 健太(北海道勤医協札幌病院内科)


 「型ができていない者が芝居をすると型なしになる。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる」(by立川談志)。

 本連載では,カルテ記載の「基本の型」と,シチュエーション別の「応用の型」を解説します。


入院時のカルテ記載例

【全体像(1)】コントロール不良の高血圧・糖尿病で定期通院中の82歳女性の尿蛋白・全身浮腫。ネフローゼ症候群を中心とした腎疾患を疑い,腎生検を含めた精査目的での入院。

【主訴】全身倦怠感,全身浮腫

【現病歴(2)】入院1か月前より倦怠感が出現し徐々に増悪,2週間前に足のむくみに気付き,1週間前にはいつもの靴が履けなくなり前医受診。ネフローゼ症候群疑いで○月○日当院紹介入院となった。週単位で増悪傾向の浮腫あり。圧痕性浮腫で,下肢に目立つが顔面・上肢にも見られ全身性。靴下の跡がつくがすぐに消える。皮膚の熱感や疼痛の自覚なし。心不全症状:なし。肝不全症状:なし。先行感染症状:なし。

【既往歴(3)】高血圧症(20年前に指摘され内服治療中,普段は150/80 mmHg前後),糖尿病(15年前に指摘され内服治療中,普段はHbA1c 8%前後),急性腎盂腎炎(5年前),急性虫垂炎(65年前に虫垂切除術)。輸血歴なし,アレルギー歴なし,妊娠歴:3妊2産1流。

【内服薬】エナラプリル10 mg 1×,ピオグリタゾン30 mg 1×,グリメピリド4 mg 2×。

【家族歴】腎疾患・透析歴なし,心疾患,肝疾患なし。夫が糖尿病・高血圧,娘が糖尿病。

【生活歴】飲酒なし,喫煙なし。定期的運動習慣なし。1日3食,外食せず,塩分多め。便秘あり下剤服用。頻尿あり夜間尿3回。

【身体所見(4)】肥満で全体的にボテッとした体型。つらそうな表情はなく元気そう。JCS0・GCS15,BP156/82,PR80・整,RR24,SpO2 95%(room air),BT35.6。頭頸部…,胸部…,腹部…,四肢…。

【検査所見】尿検査:尿蛋白(+++),尿潜血(+),尿白血球(++)…。血液検査:血算,凝固,肝機能,腎機能,電解質,自己抗体,他。心電図:洞調律,…。胸部Xp:CTR…。

【問題リスト(5)】#1.全身性圧痕性浮腫 #2.全身倦怠感 #3.高血圧症 #4. 糖尿病

【初期評価】

#1.全身性圧痕性浮腫…高齢で心血管リスク因子を持つ患者の,亜急性経過で進行する全身性浮腫。(6)

S/O 糖尿病性腎症または良性腎硬化症によるネフローゼ症候群(∵併存症や経過,検査結果から矛盾せず),R/O 慢性心不全,肝硬変,腎不全(∵症状・採血・胸部Xpから疑いは低いが要評価),R/O 急速進行性糸球体腎炎・血管炎症候群,感染症(感染性心内膜炎他)(∵全身状態等から可能性は低いが,診断や治療の遅れが命にかかわり要検討)(7)

まず検査を進め鑑別診断を狭めつつ,腎臓内科に早期コンサルト。診断確定までの間,食事と利尿剤増量で反応を見る。(8)

Tx:減塩6 g・蛋白制限40 g食,フロセミド40 mg 1×を追加。Dx:連日,体重・尿量・下腿周囲径とバイタルチェック。週2回,腎機能・尿検査評価。採血で○○追加。腎臓内科○○医師コンサルト。Ex:安静度と薬物変更の説明,今後の検査プランと検査結果説明日の連絡。栄養士から上記食事療法の説明。(9)

#2.…(10)


(1)全体像が一発でつかめるように。
(2)時系列で整理し,主要症状の詳細やSystem reviewも記載され,具体的に疾患を想起しやすい。
(3)現在治療中の併存症は治療状況も記載。過去の既往症は時期や病状を簡潔に記載。
(4)身体所見や検査所見はデータ量が多くなるので,順番に沿って書かないと情報が見つけにくい。
(5)ここがキモ。今後じっくり解説します。
(6)現病歴から検査所見までの情報量が多いので,考察に入る前に病態のブリーフサマリーを入れる。
(7)鑑別診断を重み付けして並べ,根拠も簡潔に説明する。S/O;suspected of(可能性の高い疾患),R/O;rule out(除外すべき疾患)。
(8)以上を踏まえて当面の「方針」を書く。
(9)プランは具体的に。Tx;治療プラン,Dx;検査プラン,Ex;教育プラン。
(10)以後,同様に各問題リストを評価し計画を立てる。


 カルテをきちんと書くことの重要性はみなさん認識しているはずですが,「どうしたらきちんと書けるようになるのか?」と聞かれると答えられないのではないでしょうか。毎日なんとなく書いては頭を悩ませているのかもしれません。

できる人はきちんと書ける

 私が「カルテの書き方」に向きあうようになって10年以上になります。始まりは医学部4年生のとき。OSCE対策として,カルテの記載法を勉強しようとしたのですが,書店では適当な書籍が見つからず,学内で配布されたOSCEのテキストで該当箇所だけを読んで済ませました。そして5年生になり臨床実習に出てみると,「達筆すぎて解読不能」「SOAPにのっとっていない」「病名も方針も書いてない」カルテばかりで良いお手本が見当たりません。また,学生にカルテ記載の権限がない科が多く,たまに書かせてもらってもフィードバックはありませんでした。

 そんなとき,大学の枠を超えて医学生が参加するメーリングリスト(college-med)を先輩に紹介されました。そこは,提示された症例に対して医学生が鑑別診断や検査・治療プランを提示し,臨床医からフィードバックがもらえるという夢のような環境でした。特に目を引く学生の投稿を読んでいると,知識量や発想がすごいだけでなく,記載様式がわかりやすく思考過程が読み取りやすいことに気付いたのです。この経験から「きちんとカルテを書くことによって論理的思考が身につき,診断能力を高められる。適切な指導を受けることもできる」という期待感と,「大学内で学べないことはWebで学べばよい」というヒントを得ました。Web検索で「内科学研鑽会」のサイトをみつけ,ここで紹介されていた「総合プロブレム方式」1)を毎晩少しずつ勉強してカルテの書き方を身につけました。

 その後実際に医師として働き始め,原則論だけでは対応できない状況もたくさん経験しました。さまざまな医師のカルテを読んだり他職種からフィードバックをもらったりしながら,家庭医療学や医学教育学のエッセンスも取り入れた,現在のカルテ記載法にたどり着きました。今はこの方法論を研修医に教えていますが,基本的なポイントを1時間ほどレクチャーするだけで,みんな劇的に成長しています。

繰り返し「基本の型」の練習を

 では,どうすればカルテの書き方が上達するのでしょうか?「すごいカルテを書きたい」という気持ちが先走りして,オリジナリティに富むものの「読むこと自体が苦痛になる」ようなカルテをたびたび目にします(私もそうでしたが……)。私が研修医に対して繰り返し強調しているのは,個性を出して創意工夫する前に,「基本的な心得」を忠実に守ることです。具体的には以下の3点です。

1)正しい日本語で書く……接続詞や「てにをは」の使い方,文の長さや配列が適切。
2)簡潔……個人的な思いや診断・方針に関連しない情報,他職種記録にある情報の重複などがなく,必要十分な長さ。
3)フォーマットに沿う……日記やメモではなく,所定の位置に適切な情報が書いてある。

 特に,フォーマットに沿う,言い換えれば「基本の型」を身につけることはとても大切です。落語家の立川談志(7代目,故人)は「型ができていない者が芝居をすると型なしになる。メチャクチャだ。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる」という言葉を残しています2)。「型」も知らずに手探りで努力する研修医は,熱意こそ伝わるものの,残念ながら大成しません。「型通り」の基礎練習を繰り返すほうが,効率良く正しい技術を習得し,最終的には個性も生きる「型破り」な能力を身につけるケースが実際に多いです。カルテ記載に限らず,少なくとも研修医のうちは「基本の型」を繰り返し練習することをお勧めします。

 今回は,「入院時のカルテ記載例」を図示します。このような「基本の型」を身につけると,以下のようなメリットがあります。

1)業務効率の改善……型通りに書けばいいので,書く前に考える必要がない。また,整理された情報は後で閲覧・検索しやすく,速やかに現状や全体像を把握できる。後日研究データなどをまとめるときにも便利。カギはSOAP形式におけるS欄・O欄の書き方。
2)診断推論能力の習得……診断推論の論理的考え方に沿って記載することによって,毎日カルテを書くだけで自然と診断能力が身につく。特に問題リストを含めたA欄をきちんと書くべし。
3)多職種連携に活きる……患者やコメディカルが読んでも現状と今後の方針を理解できるため,関係者全員が主体的に治療にかかわることができる。P欄が乏しいと,こうはいかない。
4)トラブルが減る……情報収集や計画のチェックリストにもなるため,漏れや忘れが減り,判断ミスによる患者への不利益を予防できる。万が一訴訟などに発展したときにも強力な証拠となる。

 今後の連載では,最初の数回でカルテ記載の「基本の型」を丁寧に解説し,後半ではさまざまなシチュエーション(内科病棟,内科外来,訪問診療,救急……)における「応用の型」について解説していく予定です。初期研修で身につけるべきプライマリ・ケアにおけるカルテ記載については,十分な範囲を含んでいると考えています。

 次回はSOAP形式について,少し掘り下げて解説します。

つづく

参考文献
1)栗本秀彦著『総合プロブレム方式――新時代の臨床医のための合理的診療形式』(プリメド社)
2)立川談春著『赤めだか』(扶桑社)


佐藤健太
2005年東北大医学部卒。勤医協中央病院にて初期・後期研修を受け,内科認定医・家庭医療専門医を取得。11年7月より北海道勤医協札幌病院内科医長・指導医として赴任。地域密着型の中小規模病院をベースにしながら,病棟・外来・在宅とあらゆるフィールドで活躍する医師を志している。日本プライマリ・ケア連合学会若手医師部会執行部。ブログ「病院家庭医を目指して

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