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第2985号 2012年7月9日


診断を“構造”から問い直す

医学書院「JIMセミナー」のもようから


左から岩田健太郎氏,名郷直樹氏

 岩田健太郎(神戸大),名郷直樹(武蔵国分寺公園クリニック)の両氏を講師に迎えたJIMセミナー「Dr.岩田&Dr.名郷が語る『ゼロからの診断学』」が6月17日,医学書院(東京都文京区)にて開催された。それぞれ感染症,EBMの専門家として名高い両氏が,医学生・研修医に向け,医療に不可欠な診断を根源から問い直した。

その診断は患者のためになるのか

 まず名郷氏が,構造主義科学論からみた診断について語った。「ある100人を,胃癌を持つ人と持たない人に分けることは可能か」と参加者に問いかけ,最も現象を正確にとらえるとされる生検でさえ偽陰性・偽陽性の可能性は排除できないことから,胃癌という現象と診断名にはギャップがあると説明。胃癌の実体は「コトバ」だけでは描けないが,現在の診断は「コトバ」が独り歩きしているのではないかと問題提起した。氏は,「実体」「現象」「コトバ」「私」から成る構造主義医療の枠組み()を示し,コトバではなく実体・現象に立ち戻りながら診断を行うことが重要との考えを述べた。

 構造主義医療の枠組み

 続いて岩田氏が登壇。早期発見・早期治療が可能になった現在の医療では,疾患という現象があいまいになり,疾患を医学のコトバに落とし込むことが難しくなったという。例えば,インフルエンザではキット陽性というだけで診断が行われることもあるが,「ウイルスの存在≠インフルエンザ」と指摘。現象を適切にコードする能力がある医師こそがプロフェッショナルであると強調した。また氏は,神経梅毒患者を治療し神経症状が治まったところ性格が激変し,家族から「先生,どうしてくれるんですか」と告げられたエピソードを紹介。ただ検査結果から治療を決めるのではなく,日ごろから「何のための診断であり,治療なのか」と遠くから俯瞰することにより,診療の幅が広がると締めくくった。

診断における疑問を解決

 後半の「クロストーク 差異と同一性の診断学」では,両氏への参加者からの質問(下記参照)で議論が白熱。参加者からは「現象のとらえ方,実体とは何かがわかった気がする」「診断に関する医師個人の主体性をどう涵養すればよいか,興味が深まった」などの声が聞かれた。普段の医学・医療にはない視点から診断学に触れることで,多くの参加者にとって有意義な時間となったようだ。

質疑応答から

◆診断を正しい治療につなげていくためには,どうすればよいのでしょうか?

岩田 診断と治療は分けようがなく,診断は直接治療に向かいます。「体が痛い」と訴える不安で不眠症のおばあちゃんの「実体」に迫るならば,ただ赤沈を測ってリウマチ性多発筋痛症と診断し,ステロイド投与という治療にはならないでしょう。大事なのは,「何をめざしているか」を考え続けることです。

名郷 患者さんは患者さん自身の関心のなかで,病気や治療を考えています。医療者と患者のコミュニケーションギャップを「現象」と「コトバ」のギャップと置き換え,そのギャップにアプローチしていくような対話が,患者さんに必要な治療を見極めるには有効だと思います。