医学界新聞

連載

2012.06.25

小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses

【第21回】入院中のADLほか(1)

川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)


前回よりつづく

 患者さんの身体は,情報の宝庫。“身体を診る能力=フィジカルアセスメント”を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
 そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている“フィジカルアセスメントの小テスト”を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。


■問題

ADL(Activities of Daily Living)

(1)主治医がもし,入院の原因疾患のみを重要視し,ADLへの認識が乏しい場合,意識してADLを把握し    する。ADLの評価スケールにはIADL(    )などさまざまなものがあるが,内科医としては
            に着目することが多い。
退院設定において問題がありそうな場合には,早期から
        に相談することも必要である。

家族の面会など

(2)面会について,誰がどれぐらいの頻度で来ているのか,   で把握できるとありがたい。
感染を引き起こす可能性がある家族や関係者の面会はお断りしているものの,制限することはできない。そうしたコンタクトがあったか否かが記録されていると参考になる場合がある。

★あなたの理解度は? RIMEモデルでチェック!
 R   +I   +M   +E   =100
 Reporter(報告できる)/Interpreter(解釈できる)/Manager(対応できる)/Educator(教育できる)

※最も習熟度が高いEの割合が増えるよう,繰り返し挑戦してみましょう。

■解説

今回から「ADL」の小テストに入ります。本連載も残すところ1領域となりましたが,あとしばらくお付き合いください。

ADL(Activities of Daily Living)

(1)「医師は病気しか見ていない」というフレーズは,残念ながら,いまだに耳にすることがあります(筆者を含め家庭医療や総合診療の背景を持つ医師にとっては,違和感がある言葉です)。比較的元気な方を扱う診療科(手術や検査が“できる”人が主対象)であればADLを意識することもそうないかもしれません。しかし今後,社会の高齢化がいっそう進むなか,ADLや患者背景を理解しないまま進めるような診療は,成り立たなくなるでしょう。また,同時に,一臓器・一疾患だけでなく,多臓器・複数疾患を評価する総合力も必要になってくると思います。

 さて,ADLの評価法は多数あり,ADL以外にもIADLと呼ばれる指標があります(:当院でのレクチャー時には,Katz のADLスケールとLawtonのIADLスケール1)を配布しています)。より総合的な評価方法としては,CGA(Comprehensive Geriatric Assessment:高齢者総合的機能評価)もあります。これに加え,認知症の評価も場合によっては要るかもしれません。

 ADLとIADL

ADL(Activities of Daily Living):日常生活動作
食事,排泄,着脱衣,入浴,移動,寝起きなど日常の生活を送るために必要な基本動作のこと。高齢者の身体活動能力や障害の程度を測る上で重要な指標の一つ。

IADL(Instrumental Activities of Daily Living):手段的日常生活動作
ADLを基本にした日常生活上の複雑な動作のこと。具体的には,買い物や洗濯,電話,薬の管理,金銭管理,乗り物等。最近では趣味活動も含めるようになっている。

 それぞれ素晴らしい方法なのですが,自施設の業務量と対象疾患,そして各評価項目とを見比べて,使いこなす自信はありますか? 使う目的(職種・立場ごとの患者さんを診る視点の違い)にもよるとは思いますが,なかなか難しいのではないでしょうか。

 ADLの情報は,可能であれば施設・地域で共有したいものです。当院でも医師・看護師・リハビリ関係職種・MSW(医療ソーシャルワーカー)が,ある程度情報を共有していると思います。互いに情報を補完して統一された文書を作成し,多忙な業務の改善につながる方法があればよいな,と考えているところです。

 比較的ADLの悪い方や高齢者をよく診ている急性期病院の内科医の立場として少なくとも気になるのは,“移動”“排泄”“食事”がどうなっているのかという点です。ベッドの上の患者さんしか診ずに「疾患を治して,はい退院」ということにはならないよう,主治医のみならずチーム全体で,問題意識を持って取り組んでいます。

 当院の総合内科では共通のフォーマットを作っています。その中には,キーパーソンとその方の居住地(近隣ですぐに来院できるかどうかは,同意書作成の際に重要です)や,状態が悪化したときの意思確認[いわゆるDNAR(心肺蘇生を行わないこと)や気管挿管などの希望の有無といった事前指示]も含めており,再入院時にもとても役立ちます。退院時,自力で自宅に帰れる人やサポートの必要な人,何らかの制約を受ける人を抽出するのにもよいかもしれません。

 診療報酬改定でも,退院設定に関する加算や退院調整看護師などが注目されています。退院調整に問題がありそうならば,医療相談室などの担当者,および家族との早めの相談が重要です。既にスクリーニング用紙を使用している施設もあるかもしれませんね。

 老老介護は地方でも都会でもあり得ます。患者本人のみならず,家族も,医師が行う説明に対して必ずしも理解が良好とは限りません。病状説明の場に来られなかった方に,本人や家族から説明内容をきちんと伝えてもらえればよいですが,なかなか難しいものです。当科では,今年度の目標として「その場にいなかった人にもわかりやすい配布資料の作成」を掲げています。

 離れた土地の医療資源に関する情報は,得にくいのが実情です。例えば全国規模で「遠くにいるお父さん・お母さんのことを考える日」を設け,両親の健康状況を把握すると同時に,介護が必要になったときの対応(地域の医療資源を含めた情報収集),急変時対応などを考えておくことも,今後は求められるのではないでしょうか。そのためには行政と住民の協力が不可欠です。文言一つにまで気を配る必要はあるものの,各世帯に往復はがきや封書を配布するといった,ちょっとしたプロジェクトで大きな効果が得られる可能性もあると思うのですが……。医療現場と医療行政が互いに協力してこそ成し遂げられる問題だと思います。

家族の面会など

(2)入院した患者さんの家族背景をとらえることも重要です。いわゆる家族図(Family Tree)は重要ですが,電子カルテでは入力しにくいかもしれません。また「面談に誰が来たか」「どれくらいの頻度で面会に来ているか」も,看護記録などに記載があると大変重宝します。観察していると,キーパーソンになるはずの人が意外と面会に来ていなかったり,普段よく来ている人に治療に関する発言権・決定権がないこともあります。

 また,週明けによくわからない発熱や感冒症状が患者さんにみられたとき,週末に小さな子どもの面会があったことがわかると,何となく合点がいく場合もあります。もちろん,誰がどのように感染症状をうつしたか証明はできませんが,そうした可能性のある面会者の制限を面会者自身のモラルに委ねざるを得ないのは,少々歯がゆさを感じます(連載第11回,2942号参照)。

 「急変時」の小テストを受けての感想がスペースの都合で前回掲載できなかったため,以下に掲載します。

 今回は解説した問題数が2問と少なめでしたが,次回は「排泄」についてまとめて掲載予定です。お楽しみに!

小テストを受けて…

 急変は,予測していない出来事であり,さらに迅速かつ的確に対応しなければ,患者さんに何らかの影響を与える可能性が高まります。最近は急変する前に,何らかの徴候があり,それに「気付く」ことが重要であると言われています。それに最も早く気付くことができるのが看護師であると思いますし,看護師であるべきと思います。

 そのために看護師は何を準備すればいいのか……。研修はもちろんですが,急変の現場に遭遇したときにできるだけ早く振り返ることで,さらに定着すると感じています。

 地域救命救急センターの指定も受け,ますます看護師の視点でのフィジカルアセスメントを強化していけるように,現在,院内・院外の看護師とともに奮闘中です。ご興味ある人はぜひ一緒にやりましょう!

市立福知山市民病院 地域救命救急センター
救急看護認定看護師 高見祥代

つづく

参考文献
1)フィジカルアセスメント――ナースに必要な診断の知識と技術 第4版.医学書院.pp224-5.

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