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第2974号 2012年4月16日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野》
運動学

奈良 勲,鎌倉 矩子 シリーズ監修
伊東 元,高橋 正明 編

《評 者》中 徹(鈴鹿医療科学大・理学療法学科長)

セラピストによるセラピストのための運動学の教科書

 「運動学」の存在感や響きは,理学療法・作業療法を学ぶ初学者にとって,今なおそのインパクトを失ってはいないだろう。それはその学問の重要性・基幹性に加えて,外国語の教科書が多数を占めていた数十年前から,運動学には定評のある日本語の教科書が存在していたことがその大きな要因であろう。初学者は自らの希望と使命感を持ってその教科書を読み始め,繰り返し読むことで多くのセラピストの底力を形成することに大きな役割を果たしてきた。これまで運動学の教科書は外国語の書籍や,医師や研究者が執筆したものが多かったが,セラピストの人数が指数関数的に増加するという歴史の中で,セラピストがセラピストの養成課程のために書いた定本となるような教科書が現れてもよい時期が到来している。

 ここに,素晴らしい運動学の教科書が生まれた。セラピストによるセラピストのための運動学の教科書の誕生である。著者陣は日本のリハビリテーション教育や臨床で長く運動学の歴史と付き合ってきた運動学のスペシャリストの方々である。安心して,しかし少し興奮して学習できるテキストがこのサイズで世に出ること自体が素晴らしいことである。

 本書は,運動学の歴史的記述は省かれてはいるが,バランスよく力学・運動機能解剖学・動作分析学・発達学が配置されていることが特徴である。運動生理学の領域は章が起こされておらず,ほかの分野で部分的に解説されていることに若干の意見もあるかもしれないが,従来よりも運動学習の領域が意欲的に拡張されていることで全く遜色を感じない。リハビリテーションはよくよく考えれば運動学習の理論によって構成される部分もあり,そこから介入方法の多様性も発展すると考えるのは,至極当然である。とてもよく編まれた教科書であり,初学者には負担なく運動学の基本的な内容の全貌が見渡せるものとなっている。

 最後に本教科書が行った「チャレンジ」と思われる点についてお伝えしたい。学生諸君が苦手であろう運動学において必要な数式や理論式が多く提示されており,その文化への融和と理解を求めている点が第一の点である。第二はAdvanced Studiesの存在である。そこには仮説も含めた斬新的な解釈や問題提起,さらには少々難解な論理も展開されている。これらはある意味では学生諸君への挑戦であるし,著者からのメッセージでもあろう。

 コンパクトに「スタンダード」が無理なくバランスよく整理されていることに加えて,一歩踏み込んだ「チャレンジ」な記述が効果を発揮し,無難にではなく,よく思案されて編まれたチャレンジの教科書である。携帯性もいい書籍でもあるので,多くの学生諸君にぜひ使い込んでいただきたい。

B5・頁328 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00020-8


WHOをゆく
感染症との闘いを超えて

尾身 茂 著

《評 者》堀田 力(弁護士/さわやか福祉財団理事長)

 読みはじめたら止まらなくなった。そこらの小説より,ずっと面白い。

 「医学」という言葉の人間味にひかれて医学を志した筆者は,「地域医療」という言葉にひかれて自治医科大学に進み,離島勤務を経て,WHO(世界保健機関)に飛び込む。

 最初の担当が,西太平洋地域におけるポリオの根絶。この途方もない難題に真正面から取り組んだ筆者は,アジア諸国を駆け回り,専門家を集めて大がかりな戦略を立て,ワクチン購入の資金を集め,諸国の政治家を説得し,ついに中国全土の第2子以降を含む子ども8000人にポリオワクチンを投与するに至る。着任後4年目。そして目標どおり,10年にしてポリオを根絶する。

 その功あってWHO西太平洋地域事務局長に選ばれた筆者を迎えるのは,結核,そして2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)。その制圧の物語は,壮大な政治・外交の物語であり,志を抱く医師の国際協力の物語であり,そして世界中の人々が,新しく出現した強力な感染症のおそれから救い出される感動の物語である。フィクションをまったく交えない挑戦の過程が,淡々と描き出される。

 局長としての10年を含む20年間,WHOで力量を存分に発揮した筆者を,社会が手離すはずはない。帰国した筆者を待つのは,鳥インフルエンザ。

 筆者の識見も生かされ,これも治まるが,筆者は考える。「毎年出現する新しいウイルス。これは,文明病だ」と。

 そういう発想から,筆者は,日本の医療問題に突き当たる。「医療が,医療だけの世界に閉じこもっていたのでは,新しく発生している諸問題を解決できない」。心を含めた患者の全体像をとらえ,福祉などと連携し,まず地域において患者を受け止める。その精神で,東日本大震災の被災地の医療にも取り組む,行動力あふれる筆者。その体験からあふれ出る「総合医」など「21世紀の医学・医療」に関する提言は,医療関係者だけでなく,すべての人が受け止めて,みんなのために,みんなで実現していきたい,「地域医療」への道を示してくれている。

A5・頁176 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01427-4


摂食障害治療ガイドライン

日本摂食障害学会 監修
「摂食障害治療ガイドライン」作成委員会 編

《評 者》野村総一郎(防衛医大病院病院長/防衛医大教授・精神科学)

 摂食障害の患者数は著しく増大し,しかも治療に困惑するようなケースも少なくない。心療内科や精神科の現場では,これに対応するための方法論を確立することが喫緊の課題といえよう。このタイミングで本書が出版されたことは,まさに渡りに船,しかもかゆい所に手が届くような内容である。臨床家が知りたい情報がうまく整理され,網羅的にわかりやすく記述されている。それもそのはず,本書は日本摂食障害学会の主要メンバーにより企画されており,現時点での到達点を示し,今後の展開も見据えた心意気も感じられる完成度の高いガイドラインである。

 本書には多くの特徴があるが,エビデンスレベル付きで391編もの論文がリストアップされていることは,学会が作成した本書の立ち位置を明確に示している。摂食障害についてこのようなエビデンスが示されたことはこれまでなかったのではないか? ただ,ガイドラインというと,えてして機械的,マニュアル的な記述に陥りがちだが,本書は決してそうではない。摂食障害について知識の薄い初学者にとっての読み物という色彩も十分に感じられる。特に,摂食障害医療では併発症の扱いが非常に重要であるが,うつ病,不安障害,発達障害,アルコール依存など各障害の項目別に解説されているのもありがたい。

 本書は「治療ガイドライン」であるから,当然力点は具体的な治療に置かれている。実は摂食障害に関する生物学的なアプローチも結構盛んであり,神経内分泌学や,画像研究など,少なくとも研究レベルでは成果が上がっているかと思われるが,本書ではそのあたりについてはごくあっさりとした記述にとどまっている。やや物足りないと感じる読者もいるかもしれないが,これも治療ガイドラインとして,当然のスタンスであろう。特に「治療選択の基準」から入り,救急対応や各論的な治療に進んでいるのはガイドラインとして適切であろう。薬物療法についての記載は少なく,セルフヘルプを含めた精神療法的な方法,退院後のマネジメントに多くのページが割かれているのは,摂食障害医療の現状を反映している。精神療法の各論については,本書の白眉である。実にわかりやすく多くの治療技法が示され,摂食障害を抜きにしても,おのおのの精神療法の考え方を知る上にも役立つと感じられた。

 以上,本書は摂食障害医療の現時点での到達点を示した,現場にとって有用な一冊であり,研修医,プライマリ・ケア医,心療内科医,精神科医,看護師,臨床心理士など,多くの現場人に薦めたいと思う。

B5・頁320 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01443-4


めまいの診かた・考えかた

二木 隆 著

《評 者》田久保 秀樹(荏原病院神経内科部長)

 めまいはプライマリ・ケアの重要な症状の一つである。突然のめまいを発症した患者は嘔吐し,起立困難であれば車で連れてこられ,救急車を要請されることも少なくない。耳鼻咽喉科に限らず,かかりつけ医,内科,脳神経外科,神経内科に救急受診することが多く,患者は脳卒中などを心配して画像検査を希望することも少なからずある。また,慢性のめまい,ふらつきを主訴に受診する中高年の患者も多い。血液検査や画像検査をして異常がなければ対症療法で帰宅することになる。しかし,患者自身はめまいの原因がわからずに不安を抱えて生活している。自称メニエール病の何と多いことか。これらはめまいの診療では日常茶飯事である。

 めまいはありふれた症状ではあるが,めまいで発症して小脳出血であった症例,軽いめまいの2日後に重篤な脳幹梗塞を来した症例,ふらつきの原因が多発性脳梗塞・慢性硬膜下血腫であった症例,徐々に進行して脊髄小脳変性症であることが判明した症例など非特異的な症例も多々あり,小生は神経内科医であるが,めまいの診断は必ずしも容易ではないと常々考えている。本書ではその注意ポイントが平易に示されている。

 著者はめまいを専門として研究を積み重ね,近年は地域医療の中で実地医家としてめまい診療をしている。本書は著者がまとめ上げた珠玉のエッセンスである。第1章では緊急時と日常診療でのめまい診療を図解で大変わかりやすく解説している。問診の重要性と鑑別に必要な診察方法を述べ,二次・三次救急への搬送が必要なチェックポイントについて,めまいを専門としない医師のために詳細が示されている。プライマリ・ケア医はぜひご一読いただきたい。第2章はめまいの病態を理解する上での基礎事項が歴史的背景を踏まえて解説されている。第3章ではめまいを来す代表的な疾患について専門家でなくとも理解できるように説明されている。良性発作性頭位めまい症の項では運動療法についても図解で説明されている。メニエール病の項では突発性難聴からメニエール病に「化ける」症例が少なくないことを知って目からウロコであった。さらに第2-3章にある17のコラムは一息つきながら興味深く読めて,めまいを理解する上で優れた内容である。

 本書はめまいを診療するすべての医師に必要な事項をわかりやすく記載した著作であり,耳鼻咽喉科医はもちろん,めまいを専門とはしないが日常診療でめまいの診療をする機会の多い研修医,家庭医,総合診療医,内科医,脳神経外科医,神経内科医をはじめとするすべての医師に推奨するものであり,実践的な良書である。ぜひご一読の上,日常診療でご活用いただきたい。

B5・頁178 定価4,725円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01124-2


臨床疫学
臨床研究の原理・方法・応用
Clinical Epidemiology : Principles, Methods, and Applications for Clinical Research

Diederick E. Grobbee,Arno W. Hoes 著
福井 次矢 監訳

《評 者》新保 卓郎(国立国際医療研究センター 医療情報解析研究部部長)

経験や情報を「研究」の形に整理する方法論を詳解

 臨床疫学は診療上の問題に疫学的な方法を適用し,回答を見いだそうとするものである。不確実性に満ちた診療現場での,最善の診療行為や判断を支えるツールである。そして臨床研究やEBMの源流である。従来から知られている優れた臨床疫学の入門的バイブルといえるのはFletcherの『Clinical Epidemiology』(訳書『臨床疫学――EBM実践のための必須知識』,MEDSi)やHulleyの『Designing Clinical Research』(訳書『医学的研究のデザイン――研究の質を高める疫学的アプローチ』,MEDSi)であろう。しかしながらこの領域で,多少中級的な教科書や,日本語で記載された系統的な教科書はなお少ない。

 本書はオランダ・ユトレヒト大学メディカルセンターにあるジュリアスセンター臨床疫学分野のGrobbeeとHoesによる『Clinical Epidemiology : Principles, Methods, and Applications for Clinical Research』の翻訳である。ジュリアスセンターは疫学・公衆衛生・臨床疫学とプライマリ・ケアが統合され,相互に協調的に研究,教育,診療がなされている。このような背景の中で,診療に立脚した研究,研究に裏打ちされた診療がつくられてきた成果を垣間見るようである。大部の書であるが,手軽に目を通せる日本語で紹介されたことはありがたい。

 症例対照研究,メタ分析など詳細に記述され,わかりやすい。診断研究における予測モデルや症例コホート研究など,新しい考え方についても多く記載されている。また引用文献が豊富で,興味を持った記載事項には容易に追加情報にアクセスできる。因果関係を検討する研究と,予測を主目的とする研究が明瞭に区別されつつ記載されている。このような区別が交絡因子の調整など,解析の考え方にも影響することが示されている。

 臨床研究の方法論は,少しずつだが継続的に進歩しているように見える。論文を読み理解したり解釈するためにも研究の方法論に関する基本的な知識が必要で,これもアップデートされなければならない。そのような知識は,新しいエビデンスを解釈するためにも重要であろう。

 また研究を自ら行おうとすれば,どのようにすれば研究という形で経験や情報を整理し得るか,方法論についての知識が同様に前提となる。そのような知識を得るためにも,本書は良いテキストであろう。研究に関するスキルをあらかじめ蓄積し準備をしておくことで,時々訪れる機会を見逃さずにとらえることができるようになる。

A5・頁504 定価4,935円(税5%込)インターメディカ
http://www.intermedica.co.jp/index.html

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