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第2972号 2012年4月2日


在宅医療モノ語り

第25話
語り手:人間力を鍛える罪な奴 お菓子さん

鶴岡優子
(つるかめ診療所)


前回からつづく

 在宅医療の現場にはいろいろな物語りが交錯している。患者を主人公に,同居家族や親戚,医療・介護スタッフ,近隣住民などが脇役となり,ザイタクは劇場になる。筆者もザイタク劇場の脇役のひとりであるが,往診鞄に特別な関心を持ち全国の医療機関を訪ね歩いている。往診鞄の中を覗き道具を見つめていると,道具(モノ)も何かを語っているようだ。今回の主役は「お菓子」さん。さあ,何と語っているのだろうか?


お断りするためのカード
お茶やお菓子を勧められて,お断りするのはなかなか難しい作法です。断る理由をあらかじめカードにしておくのはいかがでしょうか? 「皆さんに同じこと言っています」「すみません,マイ・ルールなので」みたいに。
 “王様のおやつ”と私の外袋には書いてあります。私は群馬県出身のラスクというお菓子です。そうそう,ハラダさんちの『グーテ・デ・ロワ』です。バターの香りと程よい甘さ,パリパリとした食感で,自分で言うのも変ですが,いわゆる大人気商品なんです。デパ地下ではよく行列になっているようですよ。名前が覚えにくい? 確かにそうですね。だったら1回「グータ・ラ・ママ」で覚えてください。リズムは同じです。あとは「プレーンのお砂糖のほう」で通じますよ。たぶん。

 在宅医療と全然関係ないじゃないか,ですか? そうです,私は医療とは全く関係ありません。この前,お茶さん(第24話)も語られたそうですが,ザイタクでは診療タイムの後に登場してくることがあるのです。ラスクの私だけでなく,お菓子全般という意味ですよ。登場するとすれば,お茶さんと一緒で,人間同士のお付き合いタイム。プロフェッショナルのお仕事として,医療者はきちんと報酬をいただいておりますので,お茶やお菓子は本来受けてはいけない接待です。医療者も「そんなお気遣いをなさらないでください」と話しますが,それでもまれに私たちが登場するのです。

 お茶さんには手や口をつけても,私のことは無視する医療者が多いかもしれません。理由はいろいろあるのでしょう。「この家には診療に来ているだけでお客さんじゃない」とか「時間がない」とか「ダイエット中」とか。お茶さんの場合は,一度ウツワに入った時点で,もう後戻りはできず,出されたヒトが飲まなければ捨てられる運命。飲んでもらうことで命が活かされます。しかし,お菓子の私は違います。個装で乾き物であればなおさら応用が利くのです。

 医療のプロと言えども,好物が出されたらきついでしょうね。ご飯を食べそびれているときや,働き過ぎてヘロヘロだったら特に。ちょっといただいちゃおうかな? でもやめとこう。私もチラチラとそんな視線を感じることがあります。この葛藤は人間力を高めているようです。大袈裟ですが,そう思ったほうがいいです。それとも,いっそ我慢も遠慮もせず,食べていただいちゃいましょうか?

 「甘いものは,人間関係を円滑にする」。そう信じている人がいます。その仮説が正しいかどうかはわかりませんが,ザイタクでの人間関係は,患者と主治医だけではありません。訪問看護師さん,ケアマネさん,ヘルパーさん,いつも担当者会議で集まるようなチームメンバーのほかに,ご家族や隣人,市民も加わり,想像以上に広いお付き合いになります。交流を深め連携が取れてこそ,在宅医療がうまくいきます。最近では,甘いスイーツをお供に,無駄話もできるようなカフェ風勉強会もあるようです。多職種連携を意識しているらしく,「顔の見える関係」からもう一歩近づいて,「お茶する関係」,そんなイメージです。

 そんなお茶会で私のようなおやつが出されても,どうか“王様”にはならないでくださいね。ましてや,裸にはならないでください。在宅業界では,医療職の王様傾向が時々指摘されています。怖くて質問できない,提案できないでは,連携になりませんもの。それから私が大好きな人,よく食べる人は体重にも気を付けてください。往診して和やかにおやつ,勉強交流会で和気あいあいとおやつ,帰宅でほっとしておやつ。これでは太るはずです。いくら頑張って自転車をこいでも間に合わないんじゃないかなあ。

つづく

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