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第2969号 2012年3月12日


高齢者を包括的に診る
老年医学のエッセンス

【その15】
もうひとつの最先端医療――多職種チームアプローチ

大蔵暢(医療法人社団愛和会 馬事公苑クリニック)


前回よりつづく

 高齢化が急速に進む日本社会。慢性疾患や老年症候群が複雑に絡み合って虚弱化した高齢者の診療には,幅広い知識と臨床推論能力,患者や家族とのコミュニケーション能力,さらにはチーム医療におけるリーダーシップなど,医師としての総合力が求められます。不可逆的な「老衰」プロセスをたどる高齢者の身体を継続的・包括的に評価し,より楽しく充実した毎日を過ごせるようマネジメントする――そんな老年医学の魅力を,本連載でお伝えしていきます。


なぜチームアプローチか?

 高齢者は加齢による生理的変化だけでなく,慢性疾患や老年症候群による身体的ストレス,喪失体験や経済難などの心理社会的ストレスを日々受けることで心身の虚弱が進行する。これら多くの要因が複雑に絡み合っているため,若年者の単一疾患を薬物や手術で治療するような方法では個々の問題解決や,全体的な幸福度向上は難しい。往々にして,虚弱高齢者の問題解決には医療的介入以外に心理社会的な介入を必要とするため,他職種とのチームワークが必要になる。

 筆者は米国時代,アナーバー退役軍人病院の回復期病棟[Geriatric Evalua-tion and Management(GEM) Unit]での多職種間カンファレンスを中心としたチームアプローチに感銘を受け,帰国後,慢性期ケアの現場で同様の取り組みを行ってきた。今回は,筆者が訪問診療している介護付有料老人ホーム「トラストガーデン用賀の杜」での多職種チームアプローチの実際を紹介したい。

すべての人に定期的なカンファレンスを

 同施設ではすべての入居者に対して定期的に(週1回2ケース/1時間)多職種間チームカンファレンスを行っている。医師,看護師,ケアマネジャー,介護士,リハビリ療法士がのフォーマットに従ってそれぞれ報告し,問題点の抽出やケアゴールの設定を行う。慢性期の虚弱高齢者が対象であるため,必然的に「日々のQOLをいかに高めるか」が共通のゴールとなるのは言うまでもなく,Advance care planningの確認もその延長線上にある。問題が顕在化している困難なケースのみでなく,顕在化していない,あるいは見過ごされている問題を発見するために,一見問題のない入居者についてもフォーマットに沿って定期的な評価を行う。

 「トラストガーデン用賀の杜」で使用している多職種間チームカンファレンスのフォーマット
91歳高度虚弱女性が友人の死や家族の病気,膀胱機能低下に関連して気分や活動性が低下している症例。

 カンファレンスで発見された問題の解決やゴールの達成に向けた取り組みは,医療介入のみでなくケア方法の変更や社会資源の利用,家族への協力依頼など多岐にわたる。カンファレンスを繰り返し行うことによって,身体状況や日常生活機能の変化を再評価し,前回提起された問題の経過や取り組みの進捗状況をレビューできる。

エピソード1】 88歳の高齢女性Yさんに対し進行期肺がんの終末期ケアを行っていた。2人の娘は看病に熱心で,必ずどちらかが母親の傍に付き添っていた。病気の進行とともに呼吸苦が増強,家族を含めたカンファレンスで呼吸苦や不安緩和に対しモルヒネの持続皮下注の開始が決まった。開始後まもなく,家族はカンファレンスに参加していなかったリハビリ療法士からモルヒネに関するネガティブな話を聞き,困惑した。

ゴールの共有,そして相互の尊敬

 多職種間チームカンファレンスを効果的に行うためには,いくつかの原則や工夫がある。患者ケアにかかわるすべての人が参加し,チーム決定をすることによってエピソード1のような事態を防げるはずである。フォーマットを用いて各職種から報告してもらうことで,出席者のアクティブな参加を促し,情報を漏れなく収集し,そしてリズミカルな進行につなげる。「車椅子への移動が自分ででき自操できることが,可動性の“ゴール”」「残された時間は週単位なので,よい終末期ケアをしましょう」など,明確にケアのゴールを共有する一方で,それらの達成方法に関してはあまり踏み込まず,各職種の裁量に委ねることで自立を促し,職種間相互の尊敬を育む。

エピソード2】 ある時期,「老人ホームは介護施設なのだから,介護を行う職種が主体となってカンファレンスを行い,医療職種は必要なときだけ参加してもらえばいい」「医師の前ではコメディカルスタッフが萎縮してしまい,自由に意見を言えない」などの声が上がり,介護職だけで問題が顕在化したケースのみカンファレンスが開催されたこともあった。紆余曲折を経て「すべての入居者を対象に定期的に行う,すべての職種が参加するカンファレンス」の重要性が再認識され,従来の多職種間チームカンファレンスが再開された。

Disciplinary split

 米国カリフォルニア大ロサンゼルス校のReubenらは,高齢者医療における多職種チームアプローチ研修の最大の障壁を“Disciplinary split”という言葉を使って説明した(J Am Geriatr Soc. 2004 [PMID:15161469])。従来,看護師やソーシャルワーカー,リハビリ療法士は独立してサービスを提供することはなく,常に医師の指示の下で他職種とコラボレートしながら仕事をしてきた。一方,医学は独立した学問として発展し,医師はベッドサイド,あるいは診察室で患者のニーズに応えてきた。Reubenは,歴史的に確立された医師の独立した働き方が,コメディカルとの協調に不具合をもたらしていると主張する。エピソード2ではコメディカルが医師との働きにくさを感じており,その原因も歴史的な職種文化の違い(Disciplinary split)にあると思われるが,時間とともに薄らいでいくことを期待している。

チームアプローチの効能

 筆者が訪問診療を行う老人ホームでは,カンファレンスを中心としたチームアプローチにより,虚弱高齢者のさまざまな問題を解決してきた。対応が困難な認知症周辺症状や,家族間で意見対立がある終末期ケアなどを皆で乗り越えたときの達成感や爽快感は,外科チームが困難な手術を成功した際のそれと同じだろう。

 チームアプローチは患者の問題解決のパワフルなツールであると同時に,チームメンバーにとって非常に有効な教育ツールでもある。それまで不穏症状を見るとすぐに抗精神病薬の処方を求めていたケアスタッフが「できるだけ薬は使わずケアで対応したい」と言うようになったり,消極的だった看護師が対応に苦慮していた患者家族と積極的によい関係を築いたりといった,うれしい現象を目にするようになった。

もうひとつの最先端医療

 近年,最先端の科学的医療であるiPS細胞やES細胞を用いた再生臓器の開発が目覚ましい発展を遂げている。世界一の超高齢社会を突き進む日本において「高齢者医療における多職種チームアプローチ」を,科学的最先端医療と双璧を成す社会的な最先端医療と認識し,その発展にも相応のリソースを割り当てるべきだろう。

 また今後,さらなる多職種チームアプローチの発展の前には,個人情報保護の問題やDisciplinary split,一般企業と医療機関の関係など克服すべき問題が山積している。

 今こそ虚弱高齢者の幸福度向上をめざした,よりよい「地域における患者中心医療」を行うために,社会のカタチを変えていく時ではないだろうか。

つづく

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