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第2944号 2011年9月12日


「本物のホスピタリスト」をめざし米国で研鑽を積む筆者が,
その役割や実際の業務を紹介します。

REAL HOSPITALIST

[Vol.9] Case Closed パート2

石山貴章
(St. Mary's Health Center, Hospital Medicine Department/ホスピタリスト)


前回よりつづく

If you really enjoyed the Japanese “Manga” or “Anime”, I would greatly recommend “Case Closed”.
(もしホントに日本の「マンガ」や「アニメ」が好きなら,「名探偵コナン」を薦めるね。)

I will try it as soon as possible.
(すぐに試してみるわ。)

 ミステリ(探偵もの)が好きだ。中でも近年,「名探偵コナン」は大好物だ。恥ずかしい話だが,最近では自分の子どもたちと一緒になって,ここアメリカでもやっているアニメを見ている次第である。自分の頭脳をフルに活用して(たいした頭脳でもないのだが),その作者の挑戦を受けることに,無類の喜びを感じる。

 ホスピタリストの仕事,というより総合内科全般の仕事だろうが,鑑別診断を挙げていくことは,まさにこの喜びに通じる。私にとっては,趣味と実益の一致である。

 さて,今回のReal Hospitalistはインターミッション(間奏曲)第二弾,「Case Closedパート2」(Case Closedとは漫画「名探偵コナン」のアメリカでの翻訳版タイトルです。念のため)。今回は苦手なHIV症例である。医師を悩ますさまざまな病態が起こり得るHIV感染。さてさて,どんな謎解きが待っていることか。

 症例は25歳の男性。HIV感染の既往でARTs(抗レトロウイルス薬)を服用しているものの,恐らくコンプライアンスが悪いと見られ,入院前のCD4値はなんと5しかない。左腹痛のためER受診となった。身体所見を取ると,脾臓が明らかに肥大しており,CTで見るとなんと脾臓が骨盤内まで入り込んでいる。血液所見上,重度貧血と血小板減少のため,Splenic Sequestrationによる溶血性貧血を疑われICUへ。そこで私のもとに入院となった。

 見るからに興味深い症例ではある。こういう謎解き症例は通常ワクワクする。だがしかし,経験数が少ないと自覚するHIV症例である。若干の苦手意識を持ちながらも検討を開始した。

 あらためて血液検査結果を見ると,白血球数も軽度に減少しており汎血球減少症を認める。血算上Tear Drop Cellも見られる。これらに加え,前述の脾腫大,さらに軽い肝腫大から,HIV/AIDSに伴うリンパ腫やカポジ肉腫を疑う一方,ここで骨髄線維症等の骨髄性疾患の可能性を疑ってしまった。左腹痛は,脾腫大からの症状と判断した。冷静になれば,25歳の若い男性にこの鑑別診断を加えたこと自体,少々恥ずかしい。もう,ここからして残念な思考結果になってしまっている。

 何はともあれ,血液内科にコンサルトを行った。無論,HIV患者ということもあり,日和見感染症も疑ってはいたが(そしてその中のひとつに正解があったのであるが),日常扱うコモンな疾患群と異なり,思考過程にキビキビした流れがない。なんというか,ありていに言って,「カンが働かない」。JAK2 Mutationのオーダーを考慮したのだが,血液内科医に一蹴されてしまった。今考えれば,まあ当然と言える。

 結論として,骨髄穿刺の結果,播種性MAIに伴う骨髄抑制,汎血球減少症と診断がついた。CD4値が極端に低かったため,既に感染症医がコンサルトされており,すぐに多剤抗菌薬による治療が始まった。

 今回のケース,反省点は大きくふたつ。まず,なんといっても経験症例の少なさ。そして,それを反映する形での,知識の不足である。単なる通り一遍の知識ではなく,染色体に染み込むまで読み込む,といった形の知識が,絶対的に不足していた。

 知識と経験は,いわば車の両輪である。どちらが欠けても,しっかりとした走行はできない。知識だけでは,頭でっかちな診療になってしまう。経験だけでは,ドグマに陥った医療になってしまう。だがしかし,奥が深い医療の世界。幅広い分野をカバーするホスピタリストには,どうしても経験が不足する分野が生じてしまう。そこはやはり,教科書を読み込み,知識を増やすことでカバーするしかないのだが,今回,この点がやはり不足していた。HIV症例に苦手意識があるのも,そのためだ。大きな反省点である。

 今回のケース,さらに続きがある。感染症医のオーダーで,播種性MAIに対する治療は既に行われていたのだが,その後,それに伴う肝不全を発症。ビリルビン値が20 mg/dL以上に達する黄疸が出現した。さらに,汎血球減少に伴うNeutropenic Feverも発症し,その鑑別にまた苦慮することになる。

 この患者,保険に加入しておらず,HIVの治療もきちんと受けていないことから,当院のレジデントクリニック()でフォローすることになった。しかし病状が改善し退院した後,彼がそのクリニックに戻ってくることは,残念ながらなかった。退院後のしっかりとしたフォロー体制を構築することもできなかった。残念でならない。

Idid watch “Case Closed”. It was very good. Now, I have a recommendation for you. It is “Darker than Black”. It is so cool!!
(「名探偵コナン」,見たわよ。すごく良かった。私もお薦めがあるの。「Darker than Black」。すごくクールよ!)

 ティーンネイジャーの女の子二人の母親である神経内科医の彼女は,大のジャパーニーズアニメファンである。母娘三人で休日には日本のアニメを見ているという彼女は,どうやら,その娘たちからいろいろと情報を仕入れるらしい。「コナン」を薦めたら,なんと日本人であるはずの私が聞いたこともない,最近の日本のアニメのDVDをわざわざ持参の上,薦めてきた。この後しばらく,帰宅後毎日,そのアニメと格闘するはめになる。

 医療の世界やミステリの世界同様,アニメの世界も,どうやら思った以上に奥は深いものらしい……。

セントルイス紹介Photoシリーズ第5弾,Anheuser-Busch Companies, Inc。バドワイザーで有名なこの会社の本拠地がセントルイスというのは,日本では意外に(?)知られていない。工場内見学ツアーもあり,ツアーの最後に出来立てのビールを一人2杯まで飲めるという,うれしいおまけも以前は付いていた。

つづく

註)レジデントクリニックとは,レジデント教育のために設けられた院内内科外来。アテンディング医の指導のもと,レジデントが主治医となり診察,フォローに当たる。主に保険のない,低所得層の人々が対象となる。

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