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第2939号 2011年8月1日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


多発性硬化症治療ガイドライン2010

日本神経学会,日本神経免疫学会,日本神経治療学会 監修
「多発性硬化症治療ガイドライン」作成委員会 編

《評 者》田代 邦雄(北大名誉教授/北祐会神経内科病院顧問)

MS治療の中心となる3学会が監修した画期的な1冊

 このたび日本神経学会,日本神経免疫学会,日本神経治療学会の3学会監修のもと,その作成委員会による『多発性硬化症治療ガイドライン2010』が刊行されたことは画期的なことである。

 今回のテーマである「多発性硬化症(multiple sclerosis; MS)」は,欧米においては患者数も多く,医学的にも社会的にも関心が高いばかりでなく,種々の治療薬の開発・治療研究への道が進んでいる代表的な神経疾患であるが,わが国においては,その有病率が欧米に比べて低く,臨床像としても欧米型のMSのほかに,"視神経脊髄型MS"("OSMS"と称される)が多い。このことは日本での特徴とまで考えられるほどである。

 そこで,これらを含めた広義のMSについて,その診断・治療・研究の中心となるべき上記3学会が,その領域でわが国において活躍している委員を配置し本格的な取り組みを行い,今回の治療ガイドラインを作成・公表したことは画期的なことと言えるのである。

 世界的にみたMSの有病率の検討については膨大な資料,文献があるが,特に1965年の初版以来,MSの世界のスタンダードとされている教科書『McAlpine's Multiple Sclerosis』(第4版,2005年発行)に収載されている最新の世界のMS有病率分布図をみても,北米,カナダ,北欧での有病率は100前後,ないしそれ以上,また南半球でのオーストラリア,ニュージーランドでも同じく70-80近くの高値,しかし赤道近くの地域,国々での有病率が低いという事実は明らかである。

 しかし,南北に長いわが国の有病率を全体として5以下(<5)と表示しているなど今日のわが国の疫学調査研究からみても事実にそぐわず,確かに有病率は同緯度の欧米と比べて低いが北国である北海道(十勝地区2008年発表,13.1)はわが国の南に比べ高値で,North-South gradientはわが国でも当てはまるのである。

 また,"OSMS"とされわが国のMSに含まれてきた病態は,東北大学を中心とするNMO-IgG,抗aquaporin-4(AQP 4)抗体のデータも含めたNeuromyelitis Optica(NMO)の研究により,これらがMSとは区別されるべき位置付けとなってきているが,"NMOとMSとは違う病気か,同じ病気か?"という活発なdebateが展開されるなかで,現時点でのMS,NMOの診断基準,治療法の選択も含めた率直,かつホットな論議が展開されており,それらを含め,広義の疾患名としての『多発性硬化症治療ガイドライン2010』として今回出版されたことの意義は限りなく大きいと考える。

 また,その記載方針としてEBMの考えに基づき,基本的にはQ & A方式での記述を採用,クリニカル・クエスチョン(CQ)形式による明解な解説,豊富な表と各章ごとの必須文献を完全収録など,それらの個々の内容については触れることはできないが,本ガイドライン作成にかかわった委員,研究協力者,外部評価委員も含めた全員の方々の熱意,努力に対し心からエールを送る次第である。

 このガイドラインを基に本疾患に対するさらなる研究,治療,そしてわが国の貢献が世界に冠たるものになることを祈願し書評とさせていただくこととする。

B5・頁168 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01166-2

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