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第2928号 2011年5月16日


連載
臨床医学航海術

第64回

英語力-外国語力(4)

田中和豊(済生会福岡総合病院臨床教育部部長)


前回よりつづく

臨床医学は疾風怒濤の海。この大海原を安全に航海するためには卓越した航海術が必要となる。本連載では,この臨床医学航海術の土台となる「人間としての基礎的技能」を示すことにする。もっとも,これらの技能は,臨床医学に限らず人生という大海原の航海術なのかもしれないが……。


 第6263回は,英語学習の秘訣について考えた。今回,「英語力-外国語力」の最後として,関連するテーマでいくつか述べていきたい。

抄読会(ショウドクカイ)

 医師の勉強会に「抄読会」というものがある。一体「抄読会」とは何なのだろうか? ちなみに「抄読」という言葉は,「広辞苑」には載っていない。そこで文字から意味を推測してみると,「抄」という字に「古典などの難解な語句を抜き出して注釈すること」という意味があるので,おそらく「抄読」とは「難解な語句を抜き出して注釈しながら読む」ことと考えられる。

 では,実際の「抄読会」ではどんなことを行っているかというと,各回の担当者が論文(通常は英語で書かれたもの)を紹介し,他の出席者はそれに基づいて議論をする。

 担当者は,論文のタイトルや図表を一枚の紙に張り付け,全員に配布し,その論文の要旨を説明するのだが,中にはご丁寧にその論文を一字一句日本語に翻訳し,最初から最後まで読み上げる者がいる。だが,それを聞いても,「○○は,○○を○○したところのものであって,○○だ」と直訳調の言葉が続き,詰まるところ何を言っているのかが全然わからない,ということが多い。

 このような人は,「英文読解→日本語翻訳→内容の理解→日本語で議論」という思考回路でしか英語を理解できていない。つまり,日本語翻訳を通さなければ,内容の理解までには行きつくことができないのである。

 しかし,本当に英語を理解しようと思ったら,この「日本語翻訳」の段階を省き,「英語読解→内容の理解→日本語で議論」という段階にまで到達しなければならない。だから,もし「抄読会」を英語の上達の機会として用いたいのであれば,論文全文を日本語に翻訳することは禁止すべきである。

エスペラント語

 エスペラント語とは,ポーランド系ユダヤ人眼科医ラザロ・ルドヴィコ・ザメンホフによって1887年に発表された人工言語である。ザメンホフ医師は,このエスペラント語という言語をラテン語から派生したロマンス語を基に,誰もが簡単に習得できるような文法を用いて,世界の人々が母国語以外でコミュニケーションするための第2言語として作り上げた。

 習得が最も簡単な言語であるエスペラント語が世界中に普及すれば,理論的には,世界の人々とのコミュニケーションはもっと楽になるはずであった。

 しかし,実際にはそのようなことは起こらなかった。筆者の幼少期,街角には「エスペラント語教室」と書かれた看板もあったが,現在ではほとんど見ることがなくなった。エスペラント語の学会自体は現在も存続しているらしいが,筆者は実際にこの言語を使用する方を見たことがない。

 エスペラント語が普及しない最大の理由には,人工言語であるエスペラント語には固有の「文化」がないからだとされている。人は外国の文化や生活に憧れ,その国の言語を学ぼうと思うものだ。例えば,あの小説を原語で読みたい,あの国の映画を原語で理解したい,そして,あの国で暮らしたいと思うように。このような欲求が原動力となって,人は難しい外国語でも一生懸命に学ぶ。ところが,エスペラント語にはその言語を学ぶ究極的な目標がないのである。

 この人工言語エスペラント語に関連し,臨床医学の診療プロトコールを考えてみたい。現在,さまざまな書籍で診療プロトコールがフローチャートで示されるようになった。この診療プロトコールは,臨床医学の「文法」のようなものであるといえる。

 ところが,これら診療プロトコールを見てみると,実際には役立たないものも多い。「普段から患者を診ている人が作ったのだろうか?」「いろいろな本を寄せ集めて作っただけではないのか?」と思ってしまうようなプロトコールばかりだ。実際に臨床を行っている人が作ったものは,非常に実践的であり,それを見ると臨床現場での苦悩も伝わってくるものだ。

 「人工的」に,書物だけから作られたような診療プロトコールは,臨床現場からかけ離れたものであり,エスペラント語と同様に絶対に普及はしないはずである。

外国コンプレックス

 日本人はどうして外国語ができもしないのに,外国語を使いたがるのであろうか? ちまたには英語があふれている。例えば,歌謡曲などの歌詞にも英語が頻用されている。だが,それらの歌詞の英語の中にはどんな意味なのかがわからないものもある。

 また,医師が使う代表的な外国語として,英語のほかにドイツ語がある。しかし,その中には和製ドイツ語も多い。ドイツ語ができないならば,わざわざ見栄でドイツ語を使わずに素直に英語か日本語で話せばよいものを……。

 アパートやマンションの名前にはどうして横文字が多いのだろう。例えば,「リバー・サイド」という名前のアパート。横に川がなければ,「なぜリバー・サイドなのか」と思ってしまう。マンションにもどうしてフランス語のような名前をつけるのだろうか? イメージだけでも,フランス貴族のような華やかな印象を与えたいのだろうか?

 テレビコマーシャルでも,日本人あるいは日本の製品が外国人から拍手されたりしている場面を使ったものが多い。このようなコマーシャルを見ると,「そんなに外国人(特に白人)から称賛されたいのか?」と思ってしまう。

 そして,医学界もまた,多分にもれず外国の権威がお好きである。講演などの際に,ハーバード大など超一流大学出身の外国人医師を招待することが多い。確かに欧米諸国が医学の分野で先行しているので,これらの諸国を見習うことは非常に重要である。しかし,もう第2次世界大戦が終わり65年以上も経過したのだ。いつまでも外国コンプレックスを抱き続けていないで,外国が評価しようがしまいが,そろそろ日本独自の独立した医療文化を創造しようと思ってもよいのではなかろうか……?

 本連載第63回に,「英語を習得するために必要な時間などに関する研究はおそらくないであろう」と書いた。これについて,関根郁夫先生(国立がん研究センター中央病院呼吸器腫瘍科呼吸器内科)から下記の参考文献を頂戴したので,ここで紹介させていただく。

 この論文は,英語を勉強する上で指標となる数値をさまざまな文献から関根先生ご自身がまとめられたものである。この論文によると,「英語を支障なく使えるようになるまでの勉強時間:4000時間,楽しくスラスラ読めるまでに必要な多読量:100万語,日本人小学校低学年生がアメリカに移住して英語が(聞いて)わかるようになるまでの時間:1000時間」(括弧内は筆者挿入)であるという。このような数値目標が具体的に示されていると,英語を学習する上で非常に効果的なはずである。

参考文献
関根郁夫.医師の英語-目的の設定と目標の数値化.千葉医学.2005;81(2) : 75-80.

つづく

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