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第2919号 2011年3月7日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


標準外科学 第12版

北島 政樹 監修
加藤 治文,畠山 勝義,北野 正剛 編

《評 者》稲田 英一(順大主任教授・麻酔科学)

外科学における学生教育の現在のスタンダード

 最近は外科志望の医師が減少していると言われている。外科医を増やすためには,まず実技教育を含めた生き生きとした充実した学生教育を行う必要がある。ひと口に外科と言っても,消化器外科,呼吸器外科,心臓外科,乳腺外科,小児外科などその領域は広い。外科領域の臨床だけでなく,外科学に関係する遺伝子学や免疫学などを含めた基礎教育など幅広い教育も必要となってくる。さらに,臓器移植,遺伝子治療,新薬による治療などに関する倫理的な教育も必要となってくるだろう。

 このような幅広い要請に十分に応える外科の優れた学生向け教科書が必要なことは言うまでもない。『標準外科学』は今回で第12版となり,1976年の初版発行から30余年が過ぎた「標準」と付いていることに恥じないロングセラーである。現在,外科学の一線で活躍されている先生方の多くも使用された教科書であると思う。本書はその表紙から紙面まで大きく変貌を遂げた。真っ白な表紙は,刷新された本書の意気込みや潔さが象徴されている気がする。

 評者は麻酔科医であり,外科医ではない。良書であることを知っているので気軽に書評を引き受けたものの,麻酔科医である私が適任かどうかについて悩むこととなった。そこで,学生になった気持ちで本書を読むこととした。

 教科書はまず読み応えがなくてはならない。単に調べるため,あるいは記憶するためだけの本は,教科書とは呼べないであろう。ざっと章立てを眺めてみると,総論には,歴史と医療への貢献,外科的侵襲の病態生理,ショック,外科的診断法,無菌法,基本的外科手術手技や処置,出血・止血・輸血,救急外科,急性腹症,損傷,外科的感染症,腫瘍といった章が並んでいる。さらに,近年学問的進歩が著しく,臨床的にも応用が進んでいる免疫,分子生物学,臓器移植,人工臓器,再生医学,リスクマネジメントといった章が続く。次に各論では,顔面,口腔,頸部,乳腺,心臓,血管,消化管,肝臓といった部位別,臓器別の章が続いている。老人外科,小児外科は別立ての章となっている。

 「外科の歴史と外科医の医療への貢献」の章では,外科専門医制度にも触れられており,学生の将来への指針となるだろう。「外科的侵襲の病態生理」では神経内分泌反応に加え,免疫系の変化や炎症,遺伝子多型にも触れられている。「ショック」の章では,液性因子に対する対策について述べられており,前章との基礎知識と結び付く。「外科的診断法」や「基本的外科手術手技」は図や写真も多く実践的となっており,OSCE対策としても役立つであろう。

 各論においては,解剖,生理,検査を含む診断法,病態,診断,治療,予後というように順序立てて述べられている。このように基礎から書き起こすことにより,相互に結びついた系統的な知識体系となり,それに基づいた理論的思考を促すことになる。

 本文は重要事項を赤文字ゴチックとしたり,アンダーラインを付けるなどわかりやすくなっている。とかく平板になりがちな教科書の記述がこれらの工夫により,読みやすく,また記憶しやすいものになっている。試験前の学習にも便利であろう。図表や写真も多く,理解や知識の整理を促進するようになっている。写真も白黒のものは鮮明であり,カラー写真のものも実際に近い色となっており,臨場感がある。心臓手術のところでは,QRコードを用いて術中映像が閲覧できるようになっている。本文695ページという中に,これらの事項を含めた監修者と編者の努力に敬服する。

 本書は,外科学の学生教育の現在のスタンダードを示すと同時に,未来への展望も示すものである。本書は医学部学生を主たる対象としたものであるが,実地医家にとっても,外科学全般を今一度振り返りリフレッシュするのに有用な書と考えられる。

B5・頁784 定価8,925円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00865-5


医学生の基本薬

渡邉 裕司 編

《評 者》植田 真一郎(琉球大大学院教授・臨床薬理学)

臨床現場で必要な感覚も身につくコンパクトな薬の本

 医学生としてベッドサイドで薬のことを勉強するのは大変である。そもそも病態生理が中心の教科書には治療学に関する記載はあまりないのに,診断が確定したあとは,診療録の記載の中心は治療に関することである。医師となればその日から担当の患者さんの処方を理解しなければならない。承認されている薬を羅列している本はあるものの,これを全て記憶することは不可能である。筆者が研修医となった頃は紙の処方箋だったが,処方をしてサインをする時は緊張した。実習では薬のことを調べたが,不思議なことに薬理学で頻出した薬剤はあまり使用されていないし,膨大な記載に劣等生だった私は,国家試験に合格した医師はなんてすごいのだろう,きっと全部覚えているのだろう,自分は駄目だと驚愕した覚えがある。しかし実は薬物療法に関してその本質的なところを理解し,患者さんに生かすためにはそう多くの薬に関する「知識」を要しないと思う。基本的な薬剤に関して,なぜその薬剤なのか,薬理作用と実際の患者さんのアウトカム改善,という2点から考える癖をつけることが必要である。そして内科系の実習の時にはこれを是非身につけてほしい。

 この本は上記のような,医学生のときに将来適切な薬物療法を行うためにまず知るべきこと,考えるべきことを丁寧に教えてくれる。なによりも薬を厳選していること,薬理作用は簡潔にまとめられ,読み易いこと,なぜその薬剤をそのように使うのか,という点が要諦としてわかりやすく記載されている。暗記を強要するものではなく,臨床の現場で必要な感覚を身につけられると思う。従って医学生のみならず初期研修医にとっても有益である。本書を編集された渡邉裕司教授は浜松医科大学で臨床薬理内科を立ち上げられたが,本書は内科医として,そして臨床薬理医としての医学生教育のあり方を示唆するものであると思う。

B6変型・頁344 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00834-1


標準組織学 各論 第4版

藤田 尚男,藤田 恒夫 著
岩永 敏彦,石村 和敬 改訂協力

《評 者》佐藤 洋一(岩手医大教授・解剖学)

ゆとり世代の学生にはもったいない骨太の教科書

 藤田・藤田の標準組織学が改訂された。この本は,手垢の付いた表現ではあるが「深い教養と該博な知識に裏打ちされた組織学の教科書」として,初版以来,多くの解剖学・組織学の教員から絶大な支持を得てきた。その特徴は,生理学や細胞生物学の知見を織り交ぜながら生命形態を美しい写真とわかりやすい図で表していることに加え,研究のプロセスを感じさせるエピソードがここかしこにちりばめられている点にあったと言える。とりわけ日本人学者の業績を紹介している項は,われわれの励みになってきた。とはいえ,発展が目ざましい分子生物学の新知見を盛り込むために,趣味的記載は減らされたのではなかろうか,そんな不安を抱きつつ,改訂版をひもといた。

 杞憂であった。例えば,ランゲルハンスの写真は彼が最も充実していた若いときのものに入れ替えられ,伝記的記述も増えている。知見の追加は,主に「成り立ち」と「機能」を重視したものであり,読んでいて目から鱗が落ちる思いをすることがしばしばであった。

 「……新説によってすっきり説明できる」「……であれば,当然のことである」「……この発生過程から納得できる」等の表現は,一般的な教科書では目にしないが,これこそが本書の真骨頂であり,科学的思考方法を読者に教えてくれるのである。改訂協力者の岩永敏彦教授と石村和敬教授は,それぞれ藤田恒夫教授と藤田尚男教授の愛弟子であり,本書の特質を失うことのないように改訂作業が進められたのであろう。

 神経系の章は序に記されているように,寺島俊雄教授により大改訂された。新知見が過不足なく収められており,不勉強な私にとっては,今後ともかなり助けていただくことになるだろう。それ以外の個所でも,改訂に当たっては,全国の解剖学者が協力しており,日本の解剖学者のアクティビティーの高さを伺わせるとともに,いかにこの本が好まれているのかがわかる。そのせいか,いささか文献が多いような気がするが,本書を一種の総説と見なせば,文献欄の充実とも言えるだろう。

 ゆとり教育のおかげか,あるいは社会環境の変化によるものなのかわからないが,医学生の気質は最近になって急激に変わっており,試験に出ないことを教えるのは悪であるかのように言ってくる学生が増えている。そんな彼らにとって,逸話はいらないし,「……についてよくわかっていないが,……という人もいる」という記述は煩わしい。それらはCBTや国家試験に出されないからである。

 一方では,教科書の隅から隅まで覚えなければいけないと思い込んでいるような,極めてまじめな学生(言い換えれば,要領の悪い学生)も増えている。全体を俯瞰して軽重をつけた勉学ができない学生にとって,「ぶらぶらと散歩しながら,横道に入ってみる楽しさ」は実感できない。

 そこで改訂版では,組織学の教科書としての記述と,研究者向けあるいは趣味的な記載とが,フォントサイズの違いによって示されている。ただし,教科書としての記載はもう少し簡潔に記載するか,あるいは章ごとに「まとめ」の項があれば良かったように思われる。もっとも,将来は電子書籍化することで,ジャンルやレベルを分けて呈示することが容易になるであろう。

 さて,私はこの教科書を以下の方々に強く勧める。まず,既に旧版の標準組織学を買っている方である。改訂版を購入して失望することはない。また,解剖学教室はもちろん,すべての基礎医学系の若手教員には本書を通読してもらいたい。多細胞生物の生命現象は,培養皿の中ではなく,組織という場でなされていることを認識した上で,教育と研究に当たってもらいたいと強く願うからである。

 さて,学生に対してであるが,これを組織学の教科書として指定したくない誘惑に駆られてしまう。こんな楽しい読み物は,学生にはもったいない。われわれ教員が密かに読んでおいて,授業や実習中に学生にさりげなく披瀝し,「教養有る学者」と学生に思い込ませるためには最適な本なのである。

B5・頁616 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00302-5


プロメテウス解剖学 コア アトラス

坂井 建雄 監訳
市村 浩一郎,澤井 直 訳

《評 者》中田 隆夫(東京医歯大大学院教授・細胞生物学)

21世紀の解剖学アトラス

 私事で恐縮であるが,外科医であった父の本棚には,父の学生時代の教科書が幾つかあった。当然その内容は古く,私が医学生になってから見てみると,内容が使えそうなのは解剖学(マクロ)だけであった。それも日本が貧しい時代の印刷の悪いものであった。私の学生時代,良いアトラスといえばPernkopfかSobottaかであった。父にPernkopf 2巻を買ってもらった。 十分使いこなせたとは言えないが,図の精緻さ,美しさは素晴らしく,今も職場の本棚にある。

 時代の趨勢もあり,今後,これらを超えるようなアトラスが作られることはないだろうと思っていた。実際,学習に便利であったり,安価であったりする良いアトラスは出版されても,うなるような素晴らしいアトラスは見ることはなかった。

 しかし,プロメテウスの第1巻を見たとき,解剖学のアトラスにこのような進化の方向があったのかと感動した。CGを使っているからであろうか,精緻だが生臭さを感じないドライな図柄,鮮やかだが上品な色合い。洗練されたレイアウト。一見するだけで,著者やブックメーカーの意気込みを感じた。

 今回刊行されたコア アトラスは,プロメテウス全3巻の中から図版を精選し,人体の全部位を1巻にまとめるため,新たに編集し直したものである。全体は背部,胸部など7章に分かれ,各章は,骨,筋,臓器,血管,リンパ,神経の順に系統解剖学的,局所解剖学的な図がそれぞれバランス良く並んでいる。引き出し線とnominaは英語(と日本語訳)で,各図の意図に沿う最小限のものに絞られている。できるだけ多くの図を掲載するためであろうか,総論はカットされている。神経解剖の端折り方も清々しい。

 美麗な解剖図で有名な本書であるが,意外にシェーマや表が多く,知識の整理に役に立つ。また,臨床についてのコラムも学生の興味を引くかもしれない。コンピューターを使うと縮尺も自在になるためなのか,かなり縮小された図も見られるが,1冊に情報を盛り込むためには致し方ないのかもしれない。

 プロメテウスはこの時代を代表するアトラスである。それを凝縮したコアアトラスは,1万円を切り,コストパフォーマンスが高い。医学生だけでなく,コメディカルの方々にも勧めたい。合格すれば終わりの受験勉強の参考書と違い,医療にかかわる仕事をする限り,解剖学アトラスは辞書のように長く使える。もちろん,ブレインマシンインターフェースが進んで,解剖学のチップを脳に差し込むだけで済むようになったら本も試験も必要なくなるでしょうが。

A4変型・頁704 定価9,975円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00746-7


《脳とソシアル》
ノンバーバルコミュニケーションと脳
自己と他者をつなぐもの

岩田 誠,河村 満 編

《評 者》津本 忠治(理研脳科学総合研究センター)

文字情報に依存するコミュニケーションへの警鐘

 のっけから個人的な話であるが,小生,朝起きて真っ先にすることは,以前はテレビのスイッチを入れることだったが,最近はまず電子メールを見ることとなっている。また,世の中では,すぐ隣の部屋の同僚に用件を伝えるのに,ドアを開けて顔を見ずに電子メールを使う人が多いという。

 ことほどさように高度情報化時代では,人と人とのコミュニケーションは主に言語,特に文字情報によって行われるようになった。しかし,日本語でも「顔色をうかがう」「顔が広い」「目顔で知らす」等々多くの言い回しがあるように,表情,アイコンタクト,身ぶり等はコミュニケーションの重要な手段である。その重要性は,大脳皮質の中でも,顔や視線に関与する領域が広いことからも推測されよう。

 上述のように,現代社会において高度情報化が進み,文字情報に依存し,ノンバーバルコミュニケーション能力を使わなくなったことは人の脳のでき方からみて大変不自然であり,今後,子どもの脳発達や,ひいては人格形成にいかなる影響を及ぼすか深刻に考えるべき点と思える。その意味で,自己と他者をつなぐノンバーバルコミュニケーションとその脳メカニズムを詳述した本書の出版は,大変タイムリーであると言えよう。

 本書は計15篇の総説のいわばアンソロジー,あるいは総説集であるが,神経内科学や神経心理学における碩学である岩田誠先生と河村満先生が優れた見識に基づいて編集されたものであり,その編集の観点は,序とあとがきに対談として語られている。この対談は単なる序文と後記ではなく,それ自身が非常に興味深い読み物となっている。

 したがって,各総説ではそれぞれの領域において気鋭の専門家が研究の現状をわかりやすく解説されているが,全体としては一本筋の通った読み応えのある本となっている。

 上述したように,顔,あるいは表情によるコミュニケーションが人においては特に重要であるが,その意味でこの問題に関する7篇の総説が第1章にきているのは大変良い企画と思われる。特に,この章は,fMRI,脳磁図や近赤外分光法といった最新の手法を使った脳科学的研究のみならず,発達心理学や精神医学までカバーした総合的な観点から編集されている点も特記すべきであろう。

 第2章は主に身体の動きの解析から,扁桃体の機能,さらには他者の動作や意図の推測に関与するとされるミラーニューロンまで最近のホットなトピックスがわかりやすく述べられている。

 第3章では,報酬系や意志決定の問題,さらには統合失調症,ピック病,心的外傷後ストレス障害などの臨床に関する問題が,社会性の障害という観点から紹介されている。最後に脳科学と社会との関係について,特に脳神経倫理についてこの分野の第一人者による解説がついている点は本書をユニークなものとしている。

 以上,神経内科,神経心理,精神科,脳外科の関係者,あるいは高次脳機能研究者のみならず神経科学をめざす大学院生や学部生を含めて多くの人に本書を推薦したい。

A5・頁240 定価3,780円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00996-6


IBDがわかる60例
炎症性腸疾患の経過と鑑別

中野 浩 著

《評 者》高添 正和(社会保険中央総合病院炎症性腸疾患センター副院長)

形態診断が鍵を握る

 「形態診断が鍵を握る」というのが,本書のめざすところであろう。

 本書をひもとけば,著者が大事に長年の臨床で培ってきた,全体像を見据えた診断のコツが示されている。本書で扱っている炎症性腸疾患は,とらえどころのない慢性の難治性疾患であるため,その病態の理解には,得られた医療情報を判断する明確な手段が必要となる。

 この腸管の造影という場は,医学の論理的透明性が勝利を収めるには,目立たないものである。それは数量化された判断が優先される現今の医療場面からはかけ離れた場所に押しやられてしまっている。

 医療の最前線にいる医療者として,IBDの患者のための治療への〈備えはいつでもできている〉をスローガンにして,意気盛んでありたいと願っている。慢性疾患であれば,徐々に病態が変化していくため,経過を把握することも必要である。また予測し難い状態に陥った際,事態に即応するためには,fluctuateする血液データではなく,ぶれることのない形態情報こそが,方向性を指し示すものとなる。

 天気予報に際して毎日のように雲や空の乱気流の観測が行われているのと同じように,IBDの診療では,その炎症病変部の範囲と,その腸管壁の性状に関する情報を得るためには,小腸や大腸全域で偵察的検索が定期的に行われてしかるべきである。実際のところ,簡便な臨床指標である血液データ,例えばCRP値からは,過去の病態を反映するものではなく,あくまでも採血時点での情報しか得られない。

 一方,形態検査,例えば造影検査は現在の腸管の状態ばかりか,過去の腸管の病態の痕跡をもたどることが可能である。さらに申し添えれば,形態検査のうちで,内視鏡検査はあくまでも粘膜病変の評価にしか使えないが,腸管造影はクローン病における壁全層性変化をもとらえることが可能で,手術範囲の決定や狭窄や瘻孔性病変と,その評価の幅は広く,注腸造影や小腸造影の検査に長けておくことが,IBD診療には重要である。

 思うに,著者の使い古した臨床日記のページも一章ずつ書き上げていくにつれ,その内容を読み進めていく間に,臨床という大海原に靄のなかからIBD臨床の真髄がぼんやりと姿を現してくる。

B5・頁256 定価8,400円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01168-6


診療情報学

日本診療情報管理学会 編

《評 者》岩﨑 榮(NPO法人卒後臨床研修評価機構専務理事)

診療情報のすべてを懇切丁寧に解説

 医療情報に関する待望の書が刊行されたと言っても過言でない。わが国にはこれまで医療情報,とりわけ診療情報の体系的な学問の書はなかったと言ってもよい。

 いまわれわれ医療界,いや医療界だけではないすべてが情報の渦のなかにいる。とりわけ病院はそうである。今回の本書の出版に当たって,多大な貢献をした編集責任者の大井利夫氏は,その序論の中で,「ともすると,データは多いが,真に伝えるべき情報の少ないDRIP Syndrome(Data-Rich-Information-Poor Syndrome)に陥っていることはないだろうか」と言っている。その上で,「患者の医療への有用性とデータベース化された情報の活用は,診療情報の必要性を表しているとまとめることができるであろう。(中略)『診療情報』の諸問題について現時点における統一した見解をまとめることは意義深いことであり,長年の念願でもあった。その意味では,本書は日本診療情報管理学会にとって夢の実現といえなくもない」と感慨深げに述べている。本書は,まさに夢の実現にふさわしいものとなっていて絶賛に値する。

 この日本診療情報管理学会の生みの親でもある日本病院会からは,数多くの診療録についての専門学校や短大等の病歴管理コースで用いるテキスト的なものが出版されており,その多くは病歴室で用いられる実用性の高いハウツーものであった。また,医学書院からは古くは『診療録管理の実際』(津田豊和氏,1966)があり,『診療情報の管理』(拙著;監修,1988)がある。診療録の書き方,POSに関することは本書でも取り上げられているが,同じく医学書院からの日野原重明氏による名著といわれ今日においても読み継がれている『POS――医療と医学教育の革新のための新しいシステム』(1973),それに続く,『POSの基礎と実践』(1980)は今回の本書の出版に,そして今日の各病院で活躍している診療情報管理士に多大の影響を与えているに違いない。

 本書は「I・診療情報学総論」から始まり,「II・診療情報の価値を高めるためのシステムと評価(診療情報学と応用)」,「III・診療記録の種類と記載法」の3編から成り,全編を通してよく整理されていて読者(医療情報を学ぶ者)にとって利便性の高いものとなっている。またどこから読んでも読みやすく"学"という堅苦しさがなく,その意味では,読み手,ことに診療情報を学ぶ人の立場に立った編集であり,執筆となっている。このことから,一般の人からも近づきやすい読み物となっている。ことに医療についての情報を提供するマスメディアの方々にも目にしてもらい,正しい医療に関する情報を流してほしいものである。

 これほどまでに幅広い医療情報を解説した本はこれまでに知らない。"診療情報のすべて"が懇切丁寧に述べられているが,診療の域を超え医療全般の情報が章ごとに簡潔でわかりやすい文章で記述されている。そのことがまた本書の売りでもある。そういう意味からは改訂されるときには,ぜひ,「医療情報学」という書になることを希望しておきたい。

 ともあれ,医療人すべてのための必携の書であるばかりか,すべての医療系の大学,情報系の学校において教科書として使用されて初めて本書が生かされるものとして強く推挙する次第である。

B5・頁456 定価8,400円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01083-2


てんかん治療ガイドライン2010

日本神経学会 監修
「てんかん治療ガイドライン」作成委員会 編

《評 者》渡辺 雅子(国立精神・神経医療研究センター病院精神科)

集学的治療ネットワークの地図となる書

 本書は下記の2点で歴史に残る画期的な本である。その1点は日本神経学会が複数の学会へ協力を呼びかけ作成したという発行の特異な経緯であり,もう1点はその姿勢と内容の先進性にある。

 まず第1の点について,発行に至る過程を関連学会(日本てんかん学会)の事務担当理事として拝見してきたので,述べさせていただく。本書は,関連する複数の学会(日本てんかん学会,日本神経治療学会,日本小児神経学会)へ協力が呼びかけられ,これらの学会の会員を含む合同委員会で作成された。具体的には神経内科医のみならず,小児科,小児神経科,精神科,脳神経外科の医師が内容作成に直接かかわった。

 この過程で,委員同士の直接の討議を介して,各専門分野のてんかん診療の現状,てんかん学の知識の多彩さを委員同士が認識した結果,項目立てが充実して真に包括的となった。具体的には「自動車運転免許についてアドバイスする点はなにか」というクリニカル・クエスチョンや「てんかんと女性(妊娠)」の章などを設けたのはまさしくその成果である。想像であるがおそらく委員同士でも,それぞれほかの学会が持つ専門文化(一流企業の持つ企業文化のようなもの)を知るよい機会となったことと思われる。

 第2の点については,クリニカル・クエスチョンに対する回答という形式で作られており,必要なときに必要な情報が短時間で得られる点がその一例である。さらにそれには,エビデンスレベル,推奨グレード,および検索式・参考にした二次資料がついており,初学者に誠に親切な構成である。日本で発売されていない抗てんかん薬治療や利益相反に関しても配慮され,公正で客観的な記載内容であることも特筆に値する。

 以上の経緯と内容から,本書の作成には委員間の意見のすり合わせに多大なご苦労があったことが想像され,それを乗り越えて短期間で完成された辻貞俊委員長および委員の方々の熱意に敬服する。葛原茂樹前代表理事,水澤英洋代表理事をはじめとする日本神経学会理事会のバックアップも強い推進力となったことであろう。今後はわれわれ一人ひとりがこれを臨床に生かして,よりよいてんかん診療を行うことが肝要である。

 てんかんは脳内ネットワークの障害であるが,それを克服するのも医師・家族ら関連する人々のネットワークである。そのときに本書はネットワーク連携の中の時刻表や地図のような存在として頼られることであろう。

B5・頁168 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01122-8


ティアニー先生の臨床入門

ローレンス・ティアニー,松村 正巳 著

《評 者》山中 克郎(藤田保衛大教授・総合救急内科)

患者さんと真摯に向き合うことで導かれる診断

 大好評だった前著『ティアニー先生の診断入門』に続いて本書が世に出た。「名匠に学ぶに勝るものなし!!」のキャッチフレーズに思わず読書欲がかき立てられる。

 第1部「臨床入門」では,豊富な臨床経験をもとに,ティアニー先生が,医学の神髄をわかりやすく解説している。「より多くの時間を患者とともに過ごした医学生・研修医こそが優れた臨床医として成長していく」「同僚が主治医である患者をも観察できる機会にできるだけ参加し,病棟・外来・救命救急室で最大限時間を過ごすべき」……これらの姿勢は,臨床能力を極めようとする者の不易の姿である。職人の年季奉公と同じく,良き指導医から導きを受け,額に汗し,貪欲に患者さんから直接学ぶことの重要性が強調されている。

 さらに,指導医の心得に対しては,「最良の教育者のゴールは,生徒が教育者よりも,より良き医師に成長すること。教育者は常に,生徒の知識欲,より経験しようとする意欲を刺激しなければならない」と述べられている。心深くに楔を打ち込まれた,そんな強い印象を受けた。

 研修医は,第2部「症例呈示のスキル」を読み,実践すれば,指導医から必ずや賞賛の嵐を受けることだろう。

 第3部では,12の症例を用いながら診断を導くためのポイントが解説されている。キーワードの適切な抽出と,重要キーワードからの鑑別診断の展開が見事である。ここでは時に厳しく親愛の情を胸に,きらめくパールとともに医学の深淵が描かれている。医学教育におけるパールは「ある疾患の1つの側面を短く,明快に表現し,さらにユーモアをも加味されたもの」である。「50歳以上の患者で多発性硬化症を診断したら,真の診断はほかにある(If you diagnose multiple sclerosis over age 50, diagnose something else.)」 臨床経験が増すほど,パールが語りかける真理がわかってくる。

 ティアニー先生,松村先生の共著による本書を読み終えて,私は利休の言葉「茶はさびて心はあつくもてなせよ」を思い出した。すべての過飾をそぎ落とし,シンプルな中に真理を見つけようとした日本の「わび」「さび」の精神と診断学は通じるものがある。診断では目くらましとなる雑多の情報の中から重要なキーワードだけを抽出しなければならないのである。パールには「美意識」が見事に集約され,厳しさと深さ,さらにはユーモアが同居し,われわれに医学の崇高さと学ぶ楽しさを語りかける。

 私がカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)で初めてティアニー先生にお会いし,教えを乞うたのは,10年前のことである。「各科の専門医と堂々わたりあうほど医学知識が豊富で,病歴と基本的身体所見だけから,これほど正確に診断を導く医師がアメリカにはいるのか!」と初対面から圧倒された。

 本書を読み,優れた内科医の芸術的思考プロセスを多くの医学生や研修医の皆さんに肌で感じてほしい。高価な画像に頼るのではなく,患者さんとの「一期一会」を大切にし,診断への熱い情熱と研ぎ澄ました精神を持てば,シンプルな情報にも診断を導くヒントがたくさん隠されている。本書はこのようなことをわれわれに語りかける名著である。これは決して天才のひらめきではなく,たくさんの患者さんと真摯に向かい合った医師だけが体得できる境地なのである。

A5・頁164 定価3,150円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01177-8

関連書
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