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第2903号 2010年11月8日


それで大丈夫?
ERに潜む落とし穴

【第9回】

小児科:発熱

志賀隆
(Instructor, Harvard Medical School/MGH救急部)


前回よりつづく

 わが国の救急医学はめざましい発展を遂げてきました。しかし, まだ完全な状態には至っていません。救急車の受け入れの問題や受診行動の変容,病院勤務医の減少などからERで働く救急医が注目されています。また,臨床研修とともに救急部における臨床教育の必要性も認識されています。一見初期研修医が独立して診療可能にもみえる夜間外来にも患者の安全を脅かすさまざまな落とし穴があります。本連載では,奥深いERで注意すべき症例を紹介します。


 研修生活も半年を過ぎた。小児科ローテーションを終えたあなたは,深夜帯の救急外来で,次の患者のカルテを確認した。

■CASE

 18か月の女児。2日間続いている39.5℃の発熱にて夜間救急部を受診。咳や痰はない。来院前には非血性・非胆汁性嘔吐が数回あった。下痢はない。脈拍数150/分,呼吸数40/分,直腸温39.7℃,SpO298%(RA)。水分摂取はやや低下。保育園に通園している。親の呼びかけに反応し,視線を合わせることができる。胸部聴診上清,心音純,腹部圧痛膨満なし,四肢腫脹なし,皮膚発疹なし,項部硬直なし。

 診察を終えたあなたは「胃腸炎のシーズンではないが,発熱・嘔吐がみられる。尿路感染だろうか?」と考えた。

■Question

Q1 小児の発熱の全身状態の評価に有用なツールは何か?
A 発熱にてボーッとしている小児の全身状態の評価には,アセトアミノフェンを投与し,解熱後に再度評価を行うことが望ましい。

 小児の診察において,全身状態の把握は非常に重要である。視線が合うか,親の呼びかけに反応するか,水分の摂取はできるかなどを総合し,中毒症状か否かを判断する。最近では全身状態,呼吸状態,皮膚への循環を短い時間で評価するPediatric Assessment Triangle()を使用する医師もいる。その際,熱のコントロール後に再度診察することで最終的な診断の参考になる場合がある。

 また,脈拍数,呼吸数と発熱の程度が一致しない場合や,泣きやまない小児に頻脈がある場合などは,直腸温を測定し熱を再度評価することが勧められる(特に若年時)。小児は,解熱剤投与の前後で状態が大きく変化することがあり,救急部で継続して観察を行うことで,非常に有用な臨床情報を得られる可能性が高い。日本では,小児にイブプロフェンを投与することはあまり一般的ではないが,イブプロフェンのほうがより効果的に熱を下げることが明らかになっている1)

Q2 小児の発熱診療におけるワークアップでの日米の違いは何か?
A 予防接種。

 米国では,日本で行っている定期の予防接種に加え,日本ではようやく承認されたばかりのHibワクチンや肺炎球菌ワクチン,B型肝炎ワクチン,さらに現在も未承認のロタウイルスワクチンの予防接種が,AAP(米国小児科学会)の推奨のもと実施されている。また,ポリオはワクチンによる感染を防ぐため,不活化ワクチンが使われている(日本ではいまだに生ワクチンが使用されており,ポリオワクチン接種による麻痺症例が報告されている)。

 予防接種に関して,救急と公衆衛生の接点は一見ないように思われるかもしれない。しかし,救急医学が社会の一つの窓口として機能する以上,大きなかかわりがある。実際に,米国における小児発熱へのアプローチは予防接種によって激変している。

 例えば,ACEP(米国救急医学会)が1993年に発表した小児の発熱のワークアップには,「3か月以上3歳未満の小児で発熱が39℃以上あり,白血球数1万5000μL以上であれば潜在性菌血症(身体所見からフォーカスがはっきりしない菌血症)を考え,血液培養後に予防的抗菌薬を投与する」2)と示されている。しかし,1987に開始されたHibワクチン,2000年に開始された肺炎球菌ワクチンの予防接種によって,潜在性菌血症は激減している。そのため現在は,3か月以上の患児では,

・2歳未満で熱源がはっきりしない女児には,カテーテル採尿を行う。
・割礼のない1歳未満の熱源がはっきりしない男児には,カテーテル採尿(割礼があれば6か月)を行う。
・呼吸器症状があるが,尿検査において陰性であれば,胸部X線検査を行う。

といったアプローチが一般的になり3),「白血球が1万5000μL以上であれば,血液培養後に予防的抗菌薬を投与する」という1993年のACEPのアプローチは行われなくなっている。ただ,日本においては現在もHibワクチンと小児の肺炎球菌ワクチンは任意接種である。そのため,個別のアプローチが必要ではあるものの,1993年当時の米国と比べ大きな変化はないと考えられる。

Q3 胃腸炎と診断するには?
A 除外診断を行う。

 特に胃腸炎と診断する際には,症状として嘔吐と下痢の両方がみられる場合が多い。嘔吐は尿路感染においても起き得るし,まれではあるが若年児にも虫垂炎や腸閉塞が起こり得る。また,腸重積,精巣捻転,薬物誤用,腸管軸捻転,外傷,代謝異常など,さまざまな病因が嘔吐の原因となり得る。嘔吐のパターンや吐物の性状,腹部の所見,水分摂取の可否などを含めて総合的に判断すべきであり,発熱と嘔吐のみで胃腸炎と診断することは避けたい。

Q4 尿検査,尿培養において注意すべきことは何か?
A 尿検査を出すときに,必ず尿培養と一緒に提出すること。

 尿路感染を繰り返す場合は,膀胱尿管逆流症(VUR)も考慮しなければならない。テステープによる尿検査が陰性であっても,尿培養で陽性になることも少なくないため,尿培養の提出は不可欠である。

 また,検査に出された培養が小児外来や次のシフトの医師によってフォローされるようなシステムの構築も望ましい。ACEPのガイドラインでは,採血後に抗菌薬を投与することが勧められているが,実際のアプローチでは院内の標準化のために,小児科と協同して院内の合意を形成しておくことが望ましい。

Q5 最適な採尿の方法は?
A 検体のコンタミネーションを防ぐため,導尿,クリーンキャッチ,恥骨上穿刺のいずれかが望ましい

 小児も成人と同様に,苦痛は最小限にとどめる必要がある。しかし,採尿バッグによって汚染された検体が検出される危険性は否定できない。仮にそれが耐性菌であった場合,本来起因菌でないものを多剤の薬剤で長期間治療したり,治療中にクロストリジウム腸炎になる可能性がある。採尿によって正しく治療が行われるメリットと,採尿バッグによるコンタミネーションによって治療が長期化する可能性があるというデメリットを勘案し,施設ごとの方針を定めておくことが望ましい。

■Disposition

 解熱後,頻脈・頻呼吸も軽快。少量頻回の水分摂取可能。テステープ法による尿検査にて白血球反応陽性であったため,尿培養を提出し,抗菌薬を処方。翌日の小児科フォローとなった。

■Further reading

1)Efficacy and safety of acetaminophen vs ibuprofen for treating children’s pain or fever : a meta-analysis. Arch Pediatr Adolesc Med. 2004 ; 158(6) : 521-6.
↑アセトアミノフェンとイブプロフェンを比較した研究。イブプロフェンのほうが熱が早く下がるとの結果が報告されている。
2)Clinical policy for the initial approach to children under the age of 2 years presenting with fever. American College of Emergency Physicians. Ann Emerg Med. 1993 ; 22(3) : 628-37.
↑最近ワクチン接種の範囲が日本でも変わったが,しばらくは日本のガイドラインの状況は1993年の米国のままであろう。
3)Fever without source in children 0 to 36 months of age. Pediatr Clin North Am. 2006 ; 53(2) : 167-94.
↑予防接種が進歩した米国では,潜在性菌血症はほぼ過去の言葉になりつつある。

Watch Out

 日本の予防接種の現状から,救急医が小児を診察する場合,各施設の小児科医と合意形成した,施設ごとのガイドラインに基づいた診療が求められる。歴戦の小児科医と違い,時に救急医はACEPのガイドラインに従って採血することもあってもよいと筆者は考える。また,小児救急では経過観察にて得られる情報が多いため,保護者の理解を得て救急部内で経過観察することも時には必要である。

註)Pediatric Assessment Triangle(小児アセスメントトライアングル;PAT)は,Appearance(外観からうかがえる全身状態),Work of Breathing(呼吸状態),Circulation to Skin(皮膚への循環)の3つから小児のアセスメントを行うもので,カナダ救急医学会が2001年に発表した。特別な道具等を必要としないため,看護師や救急隊などにも活用され,普及が進んでいる。下記のURLを参照のこと。
http://www.aplsonline.com/

*本稿執筆に当たり,井上信明先生(東京都立小児総合医療センター救命救急科)にお世話になりました。御礼申し上げます。

つづく

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