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第2901号 2010年10月25日


第58回日本心臓病学会開催

心臓血管病学の新たな息吹を感じる3日間


 第58回日本心臓病学会が9月17-19日,東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて永井良三会長(東大)のもと開催された。わが国の臨床心臓血管病学をリードしてきた本学会の今回のテーマは「社会との連携に根ざした新しい循環器診療」。各心臓疾患の予防や治療の最新知見のほか,医療経済的視点からの講演や心疾患データベースなど多岐にわたる演題が並んだ。

 本紙ではそのなかから,不整脈の非薬物治療の進歩を取り上げたシンポジウムならびに循環器疾患を医療経済の面から論じた特別企画のもようを報告する。


不整脈非薬物治療のいま

永井良三会長
 不整脈の非薬物治療をめぐっては,カテーテルアブレーションやペーシング治療,また植え込み型除細動器(ICD)などの先進的な治療法が生み出され,まさに医療技術の粋を集めた進歩を遂げてきている。シンポジウム「不整脈の非薬物療法の進歩」(座長=横浜市立みなと赤十字病院・沖重薫氏,女子医大・庄田守男氏)では,5人の演者がその最新知見を報告した。

 まず,庄田氏が本分野の総論として,各不整脈疾患の治療の歴史と将来展望を概説した。20年前は薬物治療がメインであった心室性不整脈の治療も,今日ではカテーテルアブレーションが広く行われるようになってきたという。また,ICDやCRT-D(両室ペーシング機能付き植え込み型除細動器)は現在ほぼ3か月おきに新しい機器が誕生するなど,その進歩には目を見張るものがあると強調。一方,これらのデバイス開発における今後の課題として感染対策を挙げた。

 続いて,畔上幸司氏(横浜市立みなと赤十字病院)が3次元マッピング法を用いたカテーテルアブレーションの現況を報告した。心房頻拍のような非持続性,複数起源を持つ不整脈へのアブレーションは従来困難であったが,CARTO systemやEnSite NavXTMといった新世代の3次元マッピング機器の登場により,適応症例の幅が広がりつつあると説明。一方,今後の適応拡大のためには,不整脈機序のさらなる解明が必要との見解も示した。

 植え込んだICDが頻回に作動する状態であるエレクトリカル・ストーム(ES)については,佐々木真吾氏(弘前大)が研究結果を報告した。ESが発生すると,頻回のショックにより心筋にダメージが与えられ,予後不良となることが知られている。氏らは致死性心室性不整脈でICD(CRT-D含む)を植え込んだ250例を対象にESの生命予後を研究。これまでの報告と異なり,ES群の生命予後は非ES群と有意差がなかった一方で,ESが発生すると患者QOLの低下と心不全コントロールの不安定化がもたらされたという。またESの抑制治療については,薬物治療よりもカテーテルアブレーションで,患者QOLと生命予後をより改善する可能性に言及した。

 若山裕司氏(東北大)はICD,CRT-Dによる心室性不整脈の一次予防について口演。近年,一次予防はCRT-D適応症例の増加とともに増えてきているが,除細動の作動状況の評価は不十分なのが現状だ。氏らは後向きにICDの作動状況を検討。二次予防に比べ回数は少ないものの,一次予防のCRT-D 49症例中9例でICD適正作動を認め,その有用性を示した。また,CRTの不整脈抑制効果についても発言し,収縮の同期性の改善と左室逆リモデリング効果によって心室性不整脈を減らす可能性があると分析した。

 最後に登壇した栗田隆志氏(近畿大)は,不整脈の非薬物治療の限界をテーマに議論を展開した。ICDのショックが作動した症例では,ショックの適正,不適正にかかわらず作動しない症例よりも死亡率が高いという文献を挙げ,ショック自体によって心機能がダメージを受けている可能性に言及。ショックは不整脈発生後に作動することから,不整脈の発生については無防備であるところにICDの限界があると氏は主張した。また,予後向上には血行動態などの心電現象以外の情報も用いて,ショック作動の前に致死性不整脈を鑑別することが重要であるとした。さらに心房細動に対するカテーテルアブレーションの問題点にもついても発言し,アブレーション箇所での伝導再開も生じることから,アブレーションによるリモデリングは幻想かもしれないとの懸念を示した。

重症心不全治療の費用対効果を臨床データから議論

 循環器領域では,補助人工心臓や心筋再生治療などの新技術が期待されている一方で,医療費の高騰を招くことが危惧されている。特別企画「循環器疾患の医療経済学」(座長=北里大・和泉徹氏,京大・今中雄一氏)では,1疾患当たりの医療費として最も高額な部類に属する重症心不全治療を中心に,循環器領域における経済面を5人の演者が報告した。

 まず,効果的な心疾患スクリーニングについて池田俊也氏(国際医療福祉大)が口演。心電図検査とBNP検査の組み合わせによる心疾患スクリーニングの感度・特異度を後向きに検討し,二次検査としての心エコーを心電図・BNP両者ともに異常の場合に限っても,十分な感度・特異度が得られたという。これにより,検査総費用の低減をもたらすことができると氏は主張した。

 また,心血管疾患におけるアスピリンの費用対効果については,山崎力氏(東大)が自身の考察を報告した。氏は,Anti-Thrombotic Trialists'(ATT)CollaborationやJCAD試験,またJPAD試験の結果を取り上げ,アスピリンの有用性を提示。また,長期的な状態推移モデルであるマルコフモデルを用いた低用量アスピリン一次予防について言及し,アスピリン投与により10年間で一人当たり平均202ユーロの医療費削減効果が得られたとする論文を紹介。その効果を訴えた。

 猪飼宏氏(京大)はDPCデータから解析した心不全診療における費用構造を解説した。心不全治療ではカテーテルや,カルペリチドなどの薬剤を使用するか否かで診療内容にバラつきがあり,それが損益のバラつきにつながっていることを問題視。DPCにおける適切な“値決め”に向けて,いわゆる“ドクターフィー”的な要素の導入や,包括外の項目を増やさずに診療の標準化をめざしていく必要があるとの見解を示した。

 上塚芳郎氏(女子医大)は,増分効果分析を用いたICDの費用対効果について報告。ICDに関連して行われた8つの臨床試験を分析し,米国ではICDの費用対効果が優れることを結論付けた。一方で,わが国での費用対効果は米国に劣るとの解析が得られたが,この理由として低心機能患者の予後が米国より優れること,またICDがより高額であることを挙げた。

 最後に登壇した猪又孝元氏(北里大)は,慢性心不全治療薬であるβ遮断薬カルベジロールの費用対効果について,マルコフモデルを用いた解析を紹介した。氏らはわが国で実施されたMUCHA試験を解析した結果,入院率がカルベジロール群でプラセボの10分の1となり,推定される期待総費用はカルベジロール群で1人当たり約100万円少なくなるという結果が得られたという。入院では外来治療の約100倍のコストがかかっていたことから,氏は「心不全治療では,入院をいかに回避するかが医療費軽減の最大のポイント」と訴えた。