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第2900号 2010年10月18日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


多飲症・水中毒
ケアと治療の新機軸

川上 宏人,松浦 好徳 編

《評 者》黒木 俊秀(肥前精神医療センター・精神科医)

優れて実践的で崇高な理念――精神科看護の最良部分

 わが国の精神科病棟において「水中毒」は厄介な症状として知られてきた。主に荒廃した慢性統合失調症の患者にみられる。「中毒」と呼ぶのは,あたかも「アルコール中毒(渇酒症)」のように,患者が水道栓の蛇口に口をつけて,あおるように水をがぶ飲みするからである。そのため,1日のうちに5-6 kgもの体重増加を生じることがある。

 患者の中には,けいれん発作や意識障害を起こす者もいる。採血すると著しい低ナトリウム血症が認められる。当然,飲水制限を行うが,患者はひどく抵抗し,隠れ飲みも減らない。仕方なしに保護室に隔離すると,患者はさらにいらだち,看護スタッフに怒りや敵意をあらわにする。保護室内のトイレの汚水まで飲もうとする患者さえおり,身体拘束まで考慮せざるを得なくなる。以上のように,「水中毒」は一見単純でありながら,ケアする側をはなはだ悩ませる。

 こうした「水中毒」に対して,山梨県立北病院の医師と看護スタッフがまことに明快な治療と管理の指針を示したのが本書である。決定版と称してよいのではないだろうか。

 第1部「多飲症・水中毒についてのQ & A」の冒頭において,著者らは「多飲症と水中毒は,はっきりと違うものとして考えるべき」とズバリ指摘する。すなわち,「多飲症=水中毒」という誤解によって,その治療法は「飲水制限」と決め込むあまり,患者の日常生活能力を過剰に管理してしまい,本来改善すべき不適切な飲水行動については無策のまま,セルフケア能力全体の劣化を招いてしまうのである。目標とすべきは,多飲症という行動の改善であり,それができれば,水中毒は起きないという。

 以下,多飲症と水中毒のそれぞれの重症度分類に応じた治療指針を示すとともに,「身体拘束は避けるべき」「多飲症患者がオープンに飲水できる環境を作ることがよい」「多飲症は飲水量のみで決めるべきではない(ベース体重の設定が重要)」等々,目から鱗が落ちるような提言が並ぶ。

 続く第2部「実践編」は,看護スタッフによる多飲症患者への「かかわり」の報告であり,その具体的なケア方法の詳細を明らかにしている。コラム欄では,たった1杯のコーヒーを飲ませるかどうかで患者も看護師もともに傷ついた心痛む経験なども語られる。「かかわり」というキーワードを通して,わが国の精神科看護の最良の部分に触れる思いがする。多飲症の心理教育と家族教育はこれまで報告が少なかったが,巻末の心理教育用テキストをすぐに活用することができよう。

 精神科医の川上宏人氏が執筆した第3部「知識編」は,多飲症・水中毒の病態と治療に関する精神医学の知見を網羅し,第1部をさらに詳しく解説したものである。結論として,多飲症の原因も治療も1つに特定することはできないが,その治療目標は,患者が「最も幸せに生活できる場所で,その人なりのケア能力に合った方法で自らの飲水行動をコントロールできれば」よしとする川上氏の臨床医としての見識に敬意を表したい。

 著者らが掲げる「開放的処遇により人間的接触を多くする」という理念は,多飲症のみならず,喫煙やメタボリック症候群などの多くの問題行動を認める今日の重症精神障害者に対する「かかわり」にも普遍化し得るのではないだろうか。その意味で,本書は優れて実践の書であるとともに,崇高な理念の書でもある。

B5・頁272 定価2,730円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01002-3


摂食障害のセルフヘルプ援助
患者の力を生かすアプローチ

西園マーハ 文 著

《評 者》武田 綾(NPO法人のびの会・心理療法士)

臨床の困惑を見事に解消してくれる至極の一冊

 摂食障害の治療は,実にさまざまな困難を伴う。その結果,専門医療機関に患者が集中することになるのだが,限られた時間とエネルギーとマンパワーで対応していくために,本書の副題の通り,患者自身にも回復への取り組みの意欲を持たせる「患者の力を生かすアプローチ」がカギを握ると痛感している。しかしそれほど重要であるにもかかわらず,どのタイミングで,どのような言葉をきっかけに,どのような形で介入すればよいのかを示す実用書には,なかなか出合えなかった。加えて摂食障害の病態は従来よりも多彩化し複雑化し,専門医以外の者が本症の患者と遭遇する機会をもたらしたが,専門医以外の医療職や健康へのサポートをしている人たちは,ガイドのない中で個人プレーをするしかなかった。本書をひと言で表現するとすれば,「その困惑を見事に解消してくれる至極の一冊」と言える。

 第1部は理論編として,診断基準が詳しく説明されている。「診断基準以外の特徴」として,診断基準には該当しないが明らかに摂食障害の症状を呈していると思われる特徴的な病的行動や心理を拾い出すための着眼点も示されている。

 本書の中心となる第2部は実践編で,会話の中に細かな心の機微まで感じられるような臨場感あふれる症例が提示されている。患者である彼女らは一見適応的な振る舞いを見せるが,常に他人の動向をうかがうあまり,実際の食事量や体重に関して大きく異なる内容を語ったり,些細な話題で傷ついたりする傾向がある。したがって,本書の中で具体的な会話のやり取りがマニュアルとして示されていることは非常に心強い。

 摂食障害が「普通の病気」(本書「序」より)となった以上,医療者以外の人がどのようなタイプの患者にも,どのような場面でも遭遇することを想定してのことであろう。患者の年齢も,面接の担当者も,患者が置かれている状況も実にバラエティに富み,それらに対するまさに実地応用のガイドラインとなっている。特に,これまではあまり対象とされなかった地域保健所での健診場面や学校での学生相談などの場面が多く取り上げられ,近年,産後メンタルヘルスケアを研究テーマに活動のエリアを地域に広げ,実際に対応してきた著者ならではの経験が生かされている。

 最後の第3部にはさまざまな資料が準備されており,第2部実践編で書かれた内容を自らの臨床に取り入れようとする読者にとっては,迅速かつ手軽なアイテムとして重宝するだろう。

 著者はこれまでの著作の中で,患者自身が日ごろから取り組めるような提案を行ってきた。本書はその患者のセルフヘルプを促す役割を担う,われわれのための実践書である。

B5・頁232 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01044-3

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