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第2899号 2010年10月11日


在宅医療モノ語り

第7話
語り手: 私もハイブリッドです 電動アシスト自転車さん

鶴岡優子
(つるかめ診療所)


前回からつづく

 在宅医療の現場にはいろいろな物語りが交錯している。患者を主人公に,同居家族や親戚,医療・介護スタッフ,近隣住民などが脇役となり,ザイタクは劇場になる。筆者もザイタク劇場の脇役のひとりであるが,往診鞄に特別な関心を持ち全国の医療機関を訪ね歩いている。往診鞄の中を覗き道具を見つめていると,道具(モノ)も何かを語っているようだ。今回の主役は「電動アシスト自転車」さん。さあ,何と語っているのだろうか?


荷物を載せたアシスト自転車
デザインというよりも,1回の充電で長い距離を走れるというスタミナで選ばれました。お値段は3年前の購入で10万円前後。決して安い道具ではありませんが,近距離の訪問では大活躍です。急な雨に備えて,大きなビニール袋を常備し,人間はともかく荷物だけでも水から守ります。
 補助金まもなく終了。エコカー買うならお早めに。そんなテレビコマーシャルに乗せられて車屋さんに行ってみると,がっくり。納車待ちのお客さんでお店はパンク寸前。その挙げ句に補助金の早期打ち切りが発表されました。うちの主人もそうでしたが,駆け込み需要の渦中に巻き込まれた皆さま,本当にお疲れさまでした。

 在宅医療業界でも,移動の手段としてハイブリッドさんが人気です。燃費の良さや減税が魅力で,地球にも財布にも優しいエコカーが支持されています。自動車であれば,医師や看護師,見学の学生が同時に移動でき,車内で時間と空間を共有できます。専属の運転手さんがいる医療機関も多いですね。都会などでは道路も狭く,渋滞や一方通行も多くなります。加えて診療中の駐車場の確保も大きな問題となるので,運転手さんがいれば安心。移動の時間を利用してカルテを記録したり,携帯電話で関係者と連絡をとったりすることも可能になります。

 こんなに便利な車があるのに意外かもしれませんが,実は自転車族も訪問診療で活躍しているんですよ。なかでも私たちのような電動アシストタイプが幅を利かせています。私たちのアピールポイントは,バッテリーで稼動する電気モーター。普通の自転車に比べ,安定感があり,運搬能力に優れています。ただし,リチウムイオン電池などのバッテリーを携帯しながらの走行ですので,重量感はあります。乗り心地は個人差があるでしょうが,なかなか評判はいいですよ。乗り始めの加速のところで,運転者自身にナイスアシスト!を実感してもらうことができます。上り坂などもラークラク。しかし万が一,充電が切れたりすると悲劇です。走行中に「やばいな,充電切れるかな?」と心配になったら,エコモードに切り替えてアシストを制限しながら走ってください。

 残念なのは自転車では道具や薬品の保管ができないこと。日常診療の中で使用頻度は高くないけど,いざというときに使いたいモノってありますよね。例えば,点滴セットとか予備のカテーテル類,血糖測定器,外傷処置の道具やエンゼルケアのセットなど。車のトランクに保管できれば,身軽に患者さんのお部屋に入り,必要なときだけ車まで取りに帰ればよいのですが,自転車だとそうはいきません。あとやはり,スピードという点では自動車に負けてしまいますね。定期的な訪問は自転車でも,緊急往診の場合は自動車で駆けつけることが多いのではないでしょうか? ただし,患者さんのお宅までの距離が近いと,エンジンかけて出発,到着して駐車の時間を考えると,いい勝負になるかもしれません。

 天候の影響を受けやすいのも私たち自転車の特徴。雨の日,寒い日,暑い日はこたえますね。雨ニモマケズ合羽を着て訪問診療に出掛ける人,紫外線ニモマケズ厚塗りで出掛ける人,本当に頭が下がります。さわやかな日のサイクリングは本当に爽快ですよ。かなり健康的です。そういえば,自転車訪問をしている医療者に極端な肥満の方はいらっしゃいませんね。丈夫ナカラダヲモチ,慾ハナク,決シテ怒ラズ,イツモシヅカ二ワラッテイル。そんな賢治風の方が多い気がします。自然に抗わず溶け込むような。うちの主人ですか? あの人はだめです。私という自転車がありながら,あちらのハイブリッドさんのパンフレットを捨てられず,「補助金なくても減税あるし」と未練たっぷり。そうかと思うと,「やっぱり人力に勝るものなし」と,おしゃれバイクのカタログを見たり。単なる浮気者です。

つづく


鶴岡優子
1993年順大医学部卒。旭中央病院を経て,95年自治医大地域医療学に入局。96年藤沢町民病院,2001年米国ケース・ウエスタン・リザーブ大家庭医療学を経て,08年よりつるかめ診療所(栃木県下野市)で極めて小さな在宅医療を展開。エコとダイエットの両立をめざし訪問診療には自転車を愛用。自治医大非常勤講師。日本内科学会認定総合内科専門医。

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