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第2898号 2010年10月4日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《神経心理学コレクション》
レビー小体型認知症の臨床

小阪 憲司,池田 学 著
山鳥 重,彦坂 興秀,河村 満,田邉 敬貴 シリーズ編集

《評 者》岩田 誠(女子医大名誉教授/メディカルクリニック柿の木坂院長)

偉大な観察者が示す臨床医学の方法論

 臨床家にとって最もやりがいのある仕事は,それまで誰も気付いていなかった病気や病態に世界で初めて気付き,それを世に知らしめることである。最初は,自分の小さな気付きがそれほど大きな意味を持つとも思わず,単に多少の興味を惹かれた事実を記載するだけである。それが大発見であるというようなことには,世間一般だけでなく,発見者当人もまだ気付いていない。当然のことながら,その記載は世の中に大きな反響を呼ぶほどのものにはならず,小数の臨床家の記憶の隅にしまわれるだけである。

 しかし,時間が事の重大さを明らかにしていく。世の中の人々が,同じことに気付き出すと,その最初の記載が大きくクローズアップされる。そして世間は,その発見が日常の臨床の場での,緻密ではあるがごく日常的な観察に始まったことを知る。

 臨床家が毎日飽きもせず患者に接しているその営みの中から大きな発見がなされ,医学の歴史の新しいページが開かれていくとき,いつも繰り返されるこのプロセスは,現在最も注目を浴びている変性性デメンチアの一つであるレビー小体型デメンチアにおいても然りであった。本書は,その発見者である小阪憲司先生が,後輩である池田学先生にその気付きのプロセスを語っていく書物である。これを読む人は皆,臨床家の観察というものが,いかに大きな発見につながっていくかを知り,感動を覚える。聞き手の池田先生も,臨床の場において次々と大きな発見を成し遂げてこられた方であるだけに,お二人の対談は,そういう臨床の場における発見の意義を生き生きと示す興味深い読み物となっており,ワクワクしながらこの病気の発見史をたどっていくことができる。

 真の観察者は,患者の臨床症状であれ,病理所見であれ,それらを単なるデータとして観察することはない。アルゴリズム的な考え方に従って,観察すべき所見の有無を記入したり,検査に頼ってどこそこの血流量がどのくらい減少しているかを測定したりするだけの行為は,単なるデータの収集であって観察とは言えないのである。小阪先生が大脳皮質の神経細胞の細胞体中に何か不思議な構造物を見つけても,その患者の示していた特異な臨床像を見ていなかったら,この病気の発見はもっと遅かったに違いない。臨床家としての観察力と,神経病理学者としての観察力が見事に合体した結果が,この発見につながった。

 したがって,評者はこれを,単に一つの病気の臨床像や病理像に関する最新の知見を教えてくれるだけの書物とは思わない。確かに,本書を読めば,レビー小体型デメンチアに関する知識を余すことなく知ることができるのは事実であるが,この病気の発見者が,本書を通じて読者に伝えたかった真のメッセージは,臨床医学の方法論だったのではないかと思う。小阪先生の観察方法は,決して今日的なハイテク技術を駆使したものではない。それは古典的で地味な方法論に基づくものではあるが,大発見につながったのはその徹底的な観察であった。大脳皮質の神経細胞の中にレビー小体を見いだすことは,それがあることがわかっている症例においてさえ容易ではなかったと,池田先生が述べておられるが,そのような実体験を経ることによって,小阪先生の偉業が真に理解できる。この書物は,臨床医学における観察の意味とその重要性を示す,偉大な観察者のかけがえのない言葉にあふれている。

A5・頁192 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01022-1


実践 漢方ガイド
日常診療に活かすエキス製剤の使い方

中野 哲,森 博美 監修

《評 者》岡部 哲郎(東大特任准教授・漢方生体防御機能学)

漢方診療の知恵の集積

 漢方医学が伝来して以来ほぼ1500年になる。1967年に初の漢方製剤の薬価基準収載が行われ,再び日本国民の医療の一翼を担うことになった。現在148処方の漢方薬が保険医療に組み込まれている。

 “緑茶は頭部の熱を冷まし,精神を覚醒するので夏の暑さによる口渇,頭痛に効果がある”――漢方医学はこのような健康の知恵が東洋の自然哲学に基づき医学として理論的に体系化されたものである。同じ病気でも体が冷えている患者には温める漢方薬が,体が熱い患者には冷やす作用の処方を用いる。体質や環境を考慮に入れ多次元にわたり重層的診療を行う漢方医学の病理概念を,科学教育を受けたわれわれが理解するのは容易でない。その上,古代より漢方医学は「方伎」に分類され,外科手術と同じく技術の伝承と訓練(相伝)の医学であった。漢方医学の治療効果は医師の相伝と熟練度に大きく左右される。

 漢方医学に習熟するには,漢方医学理論の習得と同時に,実践的修練が必要となる。『実践 漢方ガイド』は西洋医学各科の専門医と薬剤師が漢方医学を実践して獲得した,漢方診療の知恵の集積である。本書では,27の症状別に各専門科の医師が鑑別診断とともに漢方診療の実際を証に分類して述べている。また,内科,外科から眼科,歯科に至る16診療科ごとにそれぞれの代表的疾患について,西洋医学的診療と同時に漢方医学の証に基づいて細分類した実践的診療が網羅的に記載されている。証の診断や処方は図表をふんだんに使ってわかりやすく解説されている。

 また,本書では構成生薬の配合に基づき各処方の相互関係と対応する証に関して理論的分析がなされ,証と対応する処方生薬の薬性理論的根拠が示されている。このことにより,証候診断すなわち漢方医学の病理・病態生理と治療処方の構成の理論的対応が明らかにされている。

 本書により実践とともに漢方医学理論の理解も一段と深まり,理論に裏付けられた実践を可能にする相伝への一歩を踏み出していただきたい。本書は西洋医学の各科専門医にとって,また漢方診療を実践する臨床医にとっても有用な一書である。

B5・頁416 定価6,090円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01045-0


精神科薬物相互作用ハンドブック

Neil B. Sandson, M.D. 著
上島 国利,樋口 輝彦 監訳
山下 さおり,尾鷲 登志美,佐藤 真由美 訳

《評 者》兼子 直(弘前大大学院教授・神経精神医学)

薬物療法を行う医師必携の書

 本書では精神科,内科,神経内科,外科・麻酔科,婦人科・腫瘍科・皮膚科領域において薬物治療中に見られた症状をケーススタディとして示し,それを薬物相互作用の観点から解析している。

 薬物相互作用の理解は,患者が訴える症状を適切に診断し,対処する上で極めて重要である。つまり,薬物相互作用の理解は,薬物治療中に見られる症状を「新たな症状ととらえ不要な検査や追加処方」を避ける上で重要であり,かつ,その知識は適切に対応する上で必要不可欠なものである。関連する知識は最近の分子遺伝学の発展で大きく進歩しており,本書はかかる進歩を踏まえて,合理的に理解できるように工夫して書かれている。

 第1章の定義に関する内容では臨床家がしばしば誤解する基質,阻害薬,誘導物質などの解説が平易に記載されており,理解を助けている。

 本書の特徴の1つはケーススタディごとに考察があり,さらに解説に関連する参考文献が明記されていることである。精神科医が処方する薬剤だけでなく,他科の医師により処方される薬剤がどのような機序で相互作用を起こすかの記述は,臨床経験の深い医師でも参考となる点が少なくない。その解説は平易かつ理論的に記載されており,これは医師が自らの症例の症状を理解するために役立つだけでなく,さらにその知識を深める上でも有用である。また,引用された論文は自らが論文を書く上でも基盤となる文献である。

 第2の特徴は,P450の陰に隠れて議論されることの少ないグルクロン酸転移酵素に触れていることである。例えば,バルプロ酸のように,多くの疾患で使用される薬剤の中にはグルクロン酸転移酵素に対する作用を無視できない薬剤があるからである。

 第3の特徴は本書の最後にまとめられている4つの付録である。A)向精神薬の薬物相互作用――総論,B)P450一覧表,C)UGTまたは第二相(グルクロン酸抱合)表,D)P糖蛋白質関連の一覧表である。付録B-DではP450各分子種で代謝される薬剤,阻害薬,誘導物質が見事に整理されており,この付録だけでも本書を入手する価値は十分にある。付録Aには精神科で汎用される薬剤についての解説があり,これも若手読者の理解を高める。臨床に多忙な医師にとって,多数の原著を読み,考えをまとめることは時間的に困難さを伴うが,本書はそれを解決してくれる。

 薬物療法を行う医師にとって,本書は必須の書となった。ケーススタディで相互作用を理解するだけでなく,本書を外来,病棟に置き,処方をするとき,あるいは予期せぬ症状が現れたときには付録が大いに役立つものと考える。

A5・頁424 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00959-1


神経伝導検査と筋電図を学ぶ人のために
[DVD-ROM付] 第2版

木村 淳,幸原 伸夫 著

《評 者》有村 公良(大勝病院副院長・神経内科/前・鹿児島大准教授・神経内科学)

臨床神経生理の理解を促す要素がさらに充実

 『神経伝導検査と筋電図を学ぶ人のために』は,臨床神経生理の基礎から診断までの道筋を初心者にもわかりやすく系統的に説明した名著で,神経筋疾患の神経生理検査・診断を行う医師,検査技師にとっては文字通りバイブル的な存在である。今回待望の第2版が木村淳先生,幸原伸夫先生の多大な努力でここに出版された。この第2版は基本的な内容,骨格はもちろん初版と共通しているが,随所に新しい試みが追加されて約100ページの増ページとなり,さらに臨床に役立つ魅力的な本となっている。

 本書は初版から至る所に初学者の理解を助ける工夫がなされている。第2版にも引き継がれているが,付録のDVD-ROMに針筋電図の実際の記録を収録し,本編で説明を加えるという大胆な試みは,私の知る限り臨床神経生理の分野では本邦初である。筋電図検査の研修は何と言っても波形や発火様式の視覚的な識別と,筋電図の音による聴覚的な識別の両者の訓練ということに尽きる。DVD-ROMには,幸原先生が実際に臨床の場で経験された数多くの異常筋電図が収録されており,初学者のみならず,筋電図検査をある程度経験した医師にも貴重な記録である。

 また臨床神経生理検査をより深く理解するための基本的な解剖・生理学的知識のみならず,工学的な項目もしっかり書かれていることも本書の特徴でもある。さらに末梢神経系だけではなく,筋電図の起源である脊髄前角細胞の発火を制御している運動一次ニューロンの機能を評価する磁気刺激検査にも触れられている。このような内容に幸原先生の臨床神経生理検査を行う医師,臨床検査技師に対する強いメッセージを感じる。

 今回の第2版では,理解をさらに深めるための工夫が数多く加えられている。第1の大きな特徴は,多くの図が追加され,一見難しい病態の理解がより進むように書かれている点である。

 第2の大きな特徴として,最終目標である電気生理診断に近付くための項目の大幅な追加が目にとまる。まず巻頭に神戸市立医療センター中央市民病院で集積した日本人の神経伝導検査の正常参考値が載せられている。多忙な臨床の場で,正常参考値を収集することがいかに大変かは筆者も身に染みており,この正常参考値はこれから広く日本中で用いられよう。高齢化社会の日本において,読者はこのデータを見るとき,特に年齢との関係を見てほしい。

 その他に,検査を行う際に最も重要な末梢神経解剖の追加項目として,現在米国で活躍している野寺裕之先生によるレクチャー形式での腕神経叢の解剖の覚え方が加えられている。電気生理診断を行う際に必須となる神経筋の解剖を読むごとに自然にマスターできるように書かれていることが何より素晴らしい。読者もぜひ記憶にとどめてほしい。

 本書はこれから臨床神経生理を学ぼうとする人だけではなく,臨床神経生理の認定医,認定技術師をめざす人にとっても,神経生理検査室など臨床の傍らにぜひ置いてほしい大事な一冊である。

B5・頁440 定価9,450円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00895-2


早期精神病の診断と治療

Henry J. Jackson,Patrick D. McGorry 編
水野 雅文,鈴木 道雄,岩田 仲生 監訳

《評 者》樋口 輝彦(国立精神・神経医療研究センター総長)

臨床病期モデルを採用した早期精神病治療の良書

 本書は1999年に刊行され,わが国では2001年に『精神疾患の早期発見・早期治療』(金剛出版)として出版された書籍の改訂版『Recognition and Management of Early Psychosis: A Preventive Approach』の日本語版(邦訳タイトル「早期精神病の診断と治療」)である。

 編集は初版と同じく,Henry J. Jackson教授とPatrick D. McGorry教授によるものであるが,その執筆者はほとんど入れ替わっており,この領域の研究の進歩がいかに早いかを実感させる。

 本書は8部で構成されている。第1部(第1章,第2章)は導入部であるが,この中で早期精神病の予防と介入にとって極めて重要なモデル,すなわち「臨床病期モデル」が詳しく解説されており,まず,この部分を十分理解することが,本書全体の理解の前提になる。第2部(第3-5章)では,精神病のリスクと脆弱性に関する幅広く重要な分野が検討されている。

 第3章は精神病の遺伝研究分野の最新知見を概観し,第4章では精神病の環境的危険因子と遺伝要因の相互作用がレビューされている。また第5章では早期精神病を対象にした神経生物学的研究が概観されている。

 第3部(第6章,第7章)は第4部と並んで,いわば本書の中心的課題すなわち「予防と早期介入」を扱った中核の部である。第6章ではARMS(精神発生危険状態)の同定と治療,初回エピソード精神病(FEP)への移行の予測を扱っている。

 第7章はARMSとして同定された人たちが持つ,幅広い症状と機能的困難さを扱う介入を包括的に概観している。この章では,私がARMSに関して最も知りたい点,すなわちARMSというレッテルが生み出すかもしれないスティグマへの対処,「偽陽性」に対する不要な治療の回避,ARMSへの介入期間の問題などが取り上げられており,注目されるところである。

 第4部(第8-10章)は精神病の同定とサービスへのアクセスの改善,精神病未治療期間(DUP)と転帰の関係を論じている。第5部(第11-13章)はFEPや躁状態の患者に対する包括的な評価方法と治療の提供について,第6部,第7部では「臨界期」が扱われている。

 本書が扱う早期介入というテーマは特に新しいものではない。かつて,多くの研究者,臨床家が研究,報告し啓発もしてきた。では何がこれまでと違うのか? それが本書を読む上で最大の関心事であった。その答えは2つのキーワードにまとめることができたように思う。

 その1つは「下位診断群」の分類におけるFEPを研究対象にした点であり,2つ目は「臨床病期モデル」の導入である。特に後者については,「臨床病期モデルは早期の有効な治療は予後を改善し,疾患のより重篤な病期への進行を予防する可能性を示唆している」と編者らが本書の概観の中で述べており,この言葉で,本書を刊行した方々のこの研究に取り組む原点を理解できたように思った。

 ただ1点,私の中で解決できない疑問が残った。それはM. Bleulerの有名な経過と予後の図の中の急速荒廃型と急速欠陥型を臨床病期モデルの中でどのように位置付け,理解すればよいかという点である。

 最後に400ページにも及ぶ大著を邦訳された訳者の方々,監訳に当たられた水野雅文,鈴木道雄,岩田仲生の3名の教授に心からの敬意を表したい。

B5・頁432 定価9,450円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01059-7

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